アフターピル(緊急避妊薬)のオンライン処方を医師が開始 厚労省は「不適切」と警告するが...

「必要とする人は多く、オンライン処方はもっと普及してほしい」(NPO法人「ピルコン」理事長の染矢明日香さん)
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アフターピル「ella」の欧州販売版「ellaone」
BSIP via Getty Images

性交後に飲む緊急避妊薬「アフターピル」をオンライン処方する医療機関がある。医師は「産婦人科に行けない女性たちのために」と意義を語るが、厚生労働省は「不適切」という立場だ。

一方、欧米では市販薬として薬局で買えるのが一般的。望まない妊娠・中絶を防ごうと活動する団体の代表者は「必要とする人は多く、オンライン処方はもっと普及してほしい」と指摘している。

「アフターピル、入手できない人も大勢」と医師

アフターピルとは、妊娠を回避するため女性が性交後に服用する飲み薬。避妊に失敗したり、性暴力の被害を受けた場合など、緊急時に一定時間内に服用することで、望まない妊娠を高い割合で防ぐことができる最後の手段だ。

9月1日、ナビタスクリニック新宿(医療法人社団・鉄医会)は、アフターピルをオンライン診療のみで処方する窓口を開設した。9月12日時点では、まだ処方実績はないという。

アフターピルは2011年に日本で承認・販売が認可された。しかし、医師の処方せんがなければ買うことができないため「アフターピルの入手のハードルはまだ高い」と理事長の久住英二医師は語る。

「アフターピルはすべての産婦人科で処方されているわけではない。例えば地方の女性や若い女性など、簡単にはアフターピルを入手できない人々も大勢いる。対面でしか処方できなければ、こうした緊急事態には対処できない」

オンライン処方では薬を宅急便で届ける必要がある。そのため同クリニックでは、性交後120時間(丸5日間)以内の服用で効果がある「ella(エラ)」を処方する予定だという。日本では未承認だが、欧米などではすでに承認され、薬局でも入手できる(欧州版の商品名は「ellaone」)。

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久住医師提供

厚労省は「不適切な事例の可能性」

しかし、こうしたオンライン処方について、厚労省医事課の担当者はハフポストの取材に対して「不適切な事例の可能性もある」と説明する。

医師法で「無診察治療」は禁じられている。一方で、厚労省は医師不足への対処や働き方改革への対応に有用との立場で、オンライン診療を推進。違反とならない診療方法を通知などで示してきたが、さらなる普及を見据えて2018年3月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を作成、一部の診療は保険適用となった。

ガイドラインの目的は、安全なオンライン診療を普及させることなど。基本理念などでは、「原則として初診は対面診療で行い、その後も同一の医師による対面診療を適切に組み合わせて行うことが求められる」と記載されている。

一方で「例外として患者がすぐに適切な医療を受けられない状況にある場合など」に限っては「許容され得る」とも書かれており、久住医師はアフターピルの処方は「例外にあたると判断した」という。

厚労省医事課の担当者は、同様の例がいくつか厚労省に寄せられているとし、「ガイドラインでは『原則として初診は対面』と定めており、アフターピルの処方は『例外』にも当たらないと考えている。不適切な事例である可能性があるため、発見次第、都道府県を通じて調査する予定」としている。

久住医師は、厚労省の見解に対して「アフターピルの処方で、対面診療とオンライン診療で得られる情報に差は無い。そもそも、海外では薬局で買える市販薬となっており、安全性すら問題にならない。重要なことは、望まない妊娠を防ぐため、いかに迅速に必要な薬を届けるかだろう。入手にハードルが高い状態を解決する他の方法を提示すべきだ」と反論。オンライン処方は続行する予定だとしている。

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イメージ写真
Sergey Tinyakov via Getty Images

日本でアフターピルの市販化は実現せず

そもそも、日本でのアフターピルの入手は他の先進国と比較して難しいという特殊事情が、今回久住医師がオンライン処方を開始した背景になっている。

一般の人々や性暴力の被害者を支援する団体などから、アフターピルを市販化してほしいという要望は大きい。こうした要望を受けて、厚労省は2017年にもアフターピルについて市販化に向けた検討を行った。

しかし、日本産科婦人科学会などから選出された検討委員のメンバーは「薬局で薬剤師が説明するのが困難」や、「安易な使用が広がる」などの懸念を表明して反対し、通常行われるパブリックコメントを募集する以前の段階で、市販化は全会一致で否決された。

一方、アメリカEU圏内の23カ国で、アフターピルは既に安全性が確認されたとして市販化されている。

海外で市販薬化が進んでいることは検討会でも報告されたが、参考人として出席した矢野哲・国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院副院長は「欧米では20代以上の90%が経口避妊薬(ここでは定期的に服用する低用量ピル)を使用している。避妊薬に慣れているのです」と指摘。

普及が進んでいない日本では、避妊に失敗する可能性があるという薬についての知識や、性教育が遅れていることから「悪用・濫用の懸念がある」として反対の意見でまとまった

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厚生労働省

「オンライン処方には大きな意義」

日本家族計画協会がまとめた2011年度の人工妊娠中絶の実施件数は20万件。1955年の117万件に比べれば大幅に減少しているが、いまだに数は多い。

望まない妊娠・中絶を防ごうと、性の健康教育を進めているNPO法人「ピルコン」理事長の染矢明日香さんはオンライン処方には賛成との立場だ。ハフポストの取材に以下のように答えた。

「私たちに届く相談のメールでは『避妊を失敗してどうしたらいいかわからない。どこの病院に行けばいいのかわからない』といった悩みが多く寄せられます。地方の女性から『人目があるから病院に行きづらい』という相談も。また、『輸入品をネット販売で買って飲んだけれど避妊の成功をどう確かめたらいいかわからない』『服用後に嘔吐してしまい効果があるのか不安』といった声もありました。緊急避妊は効果が期待される時間が限られる中、アクセスしやすく、アフターフォローを含めてきちんと相談ができる医療者とつながれる、オンライン処方には大きな意義があると思います」