BLOG
2018年06月26日 17時54分 JST | 更新 2018年06月27日 12時33分 JST

アンジェリーナ・ジョリーより、モスルからの手紙

彼らは、テロで満ち溢れたこの3年間を克服できると私は確信している。

UNITED NATIONS HIGH COMMISSIONER FOR REFUGEES
解放から一年経ったが、モスル西部の大半はまだ荒廃した状態が続いている。


IS(イスラム国)からイラク北部の都市モスルを奪還するために、第二次世界大戦以降、世界中で起きた市街戦の中でも最大規模、最長の市街戦が繰り広げられた。この地は自由を勝ち取るために、大きな代償を伴ったーー多くの市民が殺され、この街の大部分は瓦礫と化した。

モスル東部の大半は解放されたが、西部は戦闘から1年経った今も荒廃したままだ。私がこの地に立った時、まるで昨日銃声が鳴り止んだかのように感じた。

中東とアフガニスタンのこの10年から学べることがあるとしたら、軍事的に「勝利」しても安定を確保する効果はない、ということ。ただ、暴力の連鎖が続くだけだ。

だから現状、みなさんはこう思うだろう。モスルに暴力的な過激主義が戻ることができないようにするが何より重要だと。みなさんはこう期待するだろう。多様性、平和共存、文化遺産の象徴だった街の復興を最優先すべきだと。みなさんはこう想像しているだろう。モスル西部の街には、再建のための機器、地雷除去の作業員、建築家、プランナー、政府機関、NGO、世界遺産の専門家たちが街を復興させるための基本計画のために集まり、イラクに専門的な支援をしていると。

しかし解放から1年経過しても、モスル西部は見捨てられ、荒廃し、破滅した状態のままだ。かろうじて立っている壁も、迫撃砲や弾丸で穴だらけだ。通りは不気味なほど静まり返っている。この街に住んでいた多くの住民は今、キャンプや近隣の地域で暮らしている。彼らが戻るための手立てが何もないからだ。今もなお悪臭を放つ遺体が散乱し、回収待ちの状態だ。

私たちが結集して道徳的な優先順位をつけるーーいつ、どこで、どのぐらい、どの程度まで人権を守るかという選択基準をつくるのは罪なのだろうか?

住めそうにもない街で、戦争に疲れ切った少数の住民たちは、残された仕掛け爆弾をものともせず、素手で自宅の瓦礫を片付けている。先週、ある家が爆発し、27人が死傷した。

物理的に街が荒廃している以上に深刻なのは、住民たちの心が目に見えないダメージを受けていることだ。戻ってきた住民たちは、何世代も前から一族で暮らしてきた家、財産、貯金、そして身分を証明する書類を失った。 隣り合って暮らしてきた異なる宗教のコミュニティが強制的に切り離され、今は分断されている。

ある男性は私に近づき、泣きながら武装集団に鞭で打たれた話をした。ある子どもは、目の前で男性が殺されるのを通りで見たと言った。ある両親は、10代の娘がある朝、迫撃砲で脚を撃たれ、粉々になった骨が露出したと語った。両親は娘を病院に搬送し、治療してほしいと求めた。しかし彼らは追い返され、娘は両親の腕の中で息を引き取った。

このように深刻な不正義、苦痛は枚挙にいとまがない。こうした経験をした人は孤独で、善悪の判断や、不安といった感情を失っている。彼らが本来手に入れるはずのものを得られていないのに、世界は急速に彼らの存在を忘れている。そのギャップは衝撃的だ。

もし時代が違えば、私たちはモスルで起きたことに違った反応をしただろうか? 第二次世界大戦後ヨーロッパが解放されたように、大挙して復興に協力するような反応をしただろうか?

化学兵器の攻撃や、病院への空爆、組織的なレイプ、計画的な飢餓を生き延びた人たちについても、私は思いを馳せている。これらはすべて現代的な紛争の特徴だ。そして私は、人間の苦痛に対して無感覚になっているのではないかと自問した。最近の状況を見ると、私たちは海外で効果的な活動をする自信がないから、許容できないものも黙認し始めているのだろうか? 私たちが結集して道徳的な優先順位をつけるーーいつ、どこで、どのぐらい、どの程度まで人権を守るかという選択基準をつくるのは罪なのだろうか?

モスルにいると、私はこの10年間の外交政策が失敗した、まさにその中心地に立っているような気がした。しかしこの地は、生き抜いたり再生したりする能力、そして強い忍耐力といった、人間個人の心の中にある普遍的な価値を象徴する場所でもある。

ある父親は、2人の幼い娘がまた学校に通えるようになったと喜んでいた。お金はまったくないし、屋根のない家での暮らしだが、話を聞いていると、父親にとって一番大切なのは娘の成績表のようだった。モスルの女の子が全員ふたたび学校に通い、優秀な成績を収める。これこそが勝利の象徴と言えるのではないだろうか。

モスル西部で私が出会った家族たちは、誰一人として私に何も要求しなかった。彼らは私たちの支援をあてにしていない。モスルの歴史は3000年前にさかのぼる。彼らは、テロで満ち溢れたこの3年間を克服できると私は確信している。しかし、IS打倒が私たちの連帯責任だと認識したのと同じように、彼らの回復は私たちが一致して取り組まなければいけないことだと認識できたら、どんなにいいことだろう。

アンジェリーナ・ジョリー/国連難民高等弁務官事務所特使、性暴力防止イニシアティブの共同創設者、映画監督



ハフポストUS版より翻訳しました。