クラウドファンディングA-portのプロジェクトのトップ写真の猫は保護後、ここまで美しくなった
猫や犬の殺処分をゼロにするため、無料で不妊・去勢手術をする動物病院を作る。その全国初といわれる挑戦に、東京都練馬区にあるNPO法人「ねこけん」代表理事の溝上奈緒子さん(41)は立ち上がった。
「ねこけん」に、その連絡が入ったのは今年1月。高齢の男性が入院し、留守宅から猫49匹が見つかった。「多頭飼育崩壊」だ。
家には強烈な臭いがたちこめ、押し入れや屋根裏など、いたる所に猫がいた。みなやせ細り、大半が片目がないなど障害のある猫だった。近親交配が起きている様子がうかがわれた。
飼い主の男性は3匹は不妊・去勢手術をしていたが、費用が1万~3・5万円かかるため、全てに手術はできなかったのだという。
溝上さんは「飼い主や保護した人が緊急時、頼れる状況を作る必要がある」と力説する。
飼育放棄や野良猫の繁殖などで自治体に引き取られ、一昨年度、殺処分された猫は全国で7万9745匹。犬と合わせると、10万1338匹にのぼる。
そんな猫や犬を救いたいと、溝上さんが保護活動を始めたのは8年ほど前。自宅近くに猫が集団で暮らす所があった。ある日、カラスに襲われたのか、子猫が消えてしまった。残った9匹を動物愛護団体とともに捕獲したのが最初だった。
保護するだけでは、根本的な解決にはならない。そのため、捕獲し(Trap)、不妊・去勢手術を受けさせ(Neuter)、元の場所に戻す(Return)、「TNR」の取り組みが大事だと痛感した。
2011年に「ねこけん」を設立。けがをした猫がいれば治療し、捨て猫がいれば不妊・去勢手術をして、新しい飼い主を探す。活動の輪は広がり、猫を一時的に預かる協力者が増え、月2回の譲渡会には会場いっぱいの人が集まる。
TNRとしては、これまで野良猫約2千匹に不妊・去勢手術を施し、地域に戻したり新しい飼い主を見つけたりしたという。
不妊・去勢手術が無料の動物病院には、杉並区にある動物病院の分院に場所を提供してもらい、医療設備などの資金をクラウドファンディングで募る。診療にあたる獣医師2人の人件費は、溝上さんが経営するペット用品の会員制ネットショップでまかなう予定だ。
「殺処分ゼロの国に変えてみせる」。熱意は周囲に伝わり、早々と当初目標の500万円が集まった。より良い病院とするため、さらなる資金をクラウドファンディングサイトA-portで求めている。プロジェクト終了まで残り数日だ。
「ねこけん」代表理事の溝上奈緒子さん。月二回開かれる譲渡会で。
譲渡会に集まった人の声
・竹下祐子さん(52) 「本当だったらなくなっていた命かもしれなかった。譲渡会という場にいられるこの猫たちは幸運を持っていたということですね」
・許軒豪さん(23) 「ネットで譲渡会のことを知りました。野生なので元気な子が多いですね」
・渥美樹さん(30)=ねこけんスタッフ 「最初は猫アレルギーでしたが、今は7匹家で保護しています」