北野武絶賛の映画監督が待望の長編 テーマは「沖縄」と「辺野古」

昨年、大学進学を機に上京して驚いた。70年前に沖縄戦が終わった6月23日の「慰霊の日」が東京の大学生や若者の間ではあまり知られていない。映画を作って、沖縄の今の姿を知ってもらおうと思い立った。

世の中には、ややこしい問題があふれている。できれば「考えたくない」とすら思ってしまう。

たとえば、今の日本にとって、沖縄の「辺野古」がそうだ。住宅や大学が近くにある米軍の普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)が危ないから、政府はもっと北にある辺野古(沖縄県名護市)に移そうとしている。でも、沖縄の翁長雄志(おなが・たけし)知事が反対し、国と戦っている。

問題は、単純ではない。沖縄に基地があるから、米軍が日本やアジアの平和を守ってくれているという考えもある。アメリカ兵と仲良く暮らしている沖縄の人も多い。その一方で、1995年のアメリカ兵による少女暴行事件など怒りがおさまらない犯罪もあった。沖縄のどこに基地を動かしても米軍機の騒音や事故の心配、自然破壊の懸念はつきまとう。

翁長知事は、元々は那覇市長で保守派のエース。基地が果たしている安全保障の役割を認めつつ、沖縄ばかりが大きなコストを払っていることに疑問を投げかけた。翁長知事に賛成する人も反対する人も沖縄にいるが、多くの人が沖縄や日本を守ること、その将来のことを真剣に考えているのは確かだ。

戦後まもなくは全国のあちこちに米軍基地はあったが、1950年以降、沖縄など一部地域に集中していった。いつの間にか、基地の問題は、「本土」の人にとって、関係のない、ややっこしい、あまり考えたくないテーマになった。「沖縄といえば青い海とサンゴ礁」、ということに、している。

誰が負担をするべきか。どうすれば解決するのか。単純な賛成や反対ではなく、沖縄の人は混乱し、迷っている。慶応大学2年生の映画監督、仲村颯悟(なかむら・りゅうご)さん(19)=上の写真の男性=の映画「人魚に会える日。」は、そんな沖縄を、高校生の目線を通したファンタジーで描く。深夜から、大学に行く直前の早朝のぎりぎりの時間まで沖縄料理屋でアルバイトをしてお金をため、貯金100万円を使って撮影した自主制作映画だ。思いに共感し、歌手のCoccoさんも出てくれた。

来年2月以降に全国で上映するつもりだ。協賛をお願いするため、数え切れないほどの地元企業を回ったが「基地の映画はちょっと」と作品を見る前から敬遠され、宣伝費や配給費に困っている。

「個人としてなら、応援したいのだが・・・」と胸の内を明かす企業担当者もいた。最後の頼みの綱として、クラウドファンディングでお金を募り始めた。とてつもない勢いで、支援が集まっている。支援がもっと集まり、余裕ができたら海外上映もぜひやりたいという。英語字幕も準備した。

「見てもらえれば、ユーモアもある映画だと分かってもらえるはず。みんなの力で映画を広めてもらって、これまで話したことのない人と作品の感想を語り合いたい」と仲村監督は話す。

架空の土地、沖縄の「辺野座」で、基地建設が計画されているという設定で物語が始まる。工事予定地には、人魚にもなぞられる希少生物のジュゴンが住んでいるかもしれない。ジュゴンの生態が脅かされることに心を痛めた、男子高校生がショックを受けて不登校になってしまう。彼の心を少しでも理解しようと、友人たちが「辺野座」のことを学び、土地の人と関わるようになって、ある奇妙な事件に巻き込まれていく。

仲村監督は基地移設に反対や賛成をとなえるつもりはまったくないという。「基地で働いている家族を持つ友達もいるし、歴史を勉強すれば、沖縄と基地は、とても複雑な問題を抱えていることは分かる。でも『ややっこしい問題』だからと言って無視せず、答えが分からないからこそ、もがいている若者のありのままの姿を描こうと思った」

映画はイデオロギー色がなく、とてもフェアだ。不登校の高校生の同級生の少女は、基地の上空を飛ぶ米軍機の騒音に悩まされている。幼児の頃、目の前で米軍ヘリが墜落したことがトラウマになっているからだ。

基地はどこかに行って欲しいが、同じ沖縄の「辺野座」に行けば、そこの土地の人が同じようにつらい思いをし、自然が壊される。どちらに転んでも誰かが傷ついてしまう問題の複雑さにめまいが起き、やがてある民間信仰に影響されて、「自分が生け贄になれば問題が解決するのではないか」とまで思ってしまう。

「あなたたちのようなすごく若い世代まで苦しめてしまっている。私たちの世代が問題を解決できなかったからだね」。沖縄で試写を見た30代~40代ぐらいの女性は、仲村監督にそう感想を漏らした。

仲村監督は小学校3年生から、見よう見まねで30本以上の映画をとってきた。観光団体が主催したコンテンストの応募がきっかけとなり、2010年に「やぎの冒険」という映画で本格デビュー。映画監督の北野武さんをはじめ国内や海外でも絶賛され、「天才中学生」と騒がれた。

昨年、大学進学を機に上京して驚いた。70年前に沖縄戦が終わった6月23日の「慰霊の日」が東京の大学生や若者の間ではあまり知られていない。映画を作って、沖縄の今の姿を知ってもらおうと思い立った。

歌手のCoccoさんら有名人や俳優ら10人以上が無償で映画に出てくれた。十数人の友人を集め、予算もないので約2週間で撮影をし、黙々と約半年間、編集をした。

映画の、あるシーン。「辺野座」のことを調べていた若手教師に、かりゆしウェア姿の男性がこう言う。「あまり(調査を)がんばらないでくださいね。放っておいてもらいたいんですよ」。この教師は生徒思いで、正義感もあるのだが、問題の複雑さを最後まで理解できぬまま、悲劇を見逃してしまう。

もしかしたら、この教師は、私たち自身の姿かも知れない。沖縄の基地移設問題について、聞かれれば「賛成」や「反対」、あるいは「もっと議論が必要ではないか」と一応の答えは用意するが、「最後まで頑張らず」、本当の複雑さや苦しみに触れてこなかった。あるいは「サヨク」とか「ウヨク」とかレッテルを貼ってしまっていた。映画を見れば、細かく割れたガラスのヒビのような、絡み合った沖縄の人の心や歴史の複雑さの一端が見えてくる。

◇仲村監督の映画を支援する方法など詳細はクラウドファンディングのサイト「A-port」へ。

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