モンゴル遊牧民の「羊毛フェルト」青年海外協力隊OGが商品化し販売

羊毛フェルトはモンゴル人の生活の隅々で使われている。

象の柔らかい輪郭が浮き上がる鍋敷き、優しくたたずむ羊のぬいぐるみ、赤ちゃんの室内履き。モンゴルの伝統的な羊毛フェルトで作られたものだ。

かつて青年海外協力隊員としてモンゴルに派遣された佐屋眸(ひとみ)さん(33)=愛知県稲沢市=は、羊毛フェルトの雑貨をモンゴルの工房で作り、日本で販売している。ゲルをはじめとしてモンゴルの生活の至る所に使われるフェルトと、佐屋さんのグラフィックデザインの技術を生かした製品だ。

羊毛フェルトは、羊毛の繊維をからませて圧縮した不織布。「モンゴルのフェルトは、日本のお米みたいです」と佐屋さんは話す。日本が主食のお米を大事にするように、モンゴルの人は、肉も乳製品を生み出す羊の血や羊毛も無駄にしない。羊毛フェルトはモンゴル人の生活の隅々で使われている。

例えば、フェルトは、ゲルの内側にかけられ、その上に布がかけられている。冬、日中でもマイナス30-40℃まで下がるモンゴルの厳しい生活を支える。

佐屋さんは、2008年から2年間、青年海外協力隊でモンゴルに派遣された。ウランバートルの大学でグラフィックデザインを教える合間に、学生や他の協力隊員らとともに、車で国内を旅して回った。

ウランバートルから離れると、数時間に1回ほど、大平原の中に集落が現れる。遊牧民は来客を歓待してくれた。食事時には、ご飯をごちそうし、部屋に泊まっていけと言ってくれることもあったという。

そこにあるのは、物は少ないが、豊かな時間を送っている遊牧民の姿だった。

ピクニックに行くと、羊一頭をさばいて焼き、ブルーシートを皿代わりに盛られる。

佐屋さんが青年海外協力隊に参加したのは、「日本はものがあふれて大切なものが見えにくくいし、本当に大切なものを知りたいと思っていた」からだ。行ってみて分かった。「発展途上国は『我々よりも弱者』という意識になりがちだが、支援の目だけで見てはいけない。こんなに魅力があるのだから」。

青年海外協力隊の任期が終わる直前に、佐屋さんはモンゴル内の工房を回って、フェルト雑貨の制作を依頼し、2010年ごろから生産を始めた。以来、毎年一回、モンゴルに出向き行き、シングルマザーらが仕事をできるように配慮もしている。

ただ、少し困っていることがある。フェルトの鍋敷きの動物の目が、佐屋さんの注文通りに丸い目で刺繡されないことだ。鍋敷きの象もラクダも目がつり目。発注通りに刺繡して欲しいとお願いしても、どこかモンゴルの人形や美女を思い出す風貌に仕上がってくる。佐屋さんは「モンゴルの女性は強く、強い感じが美学なのでしょうね」と笑う。

今年は青年海外協力隊の創立50周年の節目。佐屋さんの製品を含め、青年海外協力隊のOB、OGらが協力隊の経験を生かして作った商品の販売カタログについて、クラウドファンディングサイトA-portで資金を募っている。支援はこちら。

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