「娘を殺した人間になぜ向き合うのか。」 加害者の死刑を止めようとする母親を、若手監督が描く

「被害者遺族の立場」から、死刑制度と向き合う映画の制作を決意した若手監督がいる。

■あえて「被害者遺族の立場」から考える

死刑制度について議論をすることは難しい。罪や罰のとらえ方は、事例の背景や個人の価値観によって大きく異なるからだ。そして何よりも「被害者遺族の立場」に立って考えた場合、多くの人が思考停止に陥ってしまう。

あえて、その「被害者遺族の立場」から、死刑制度と向き合う映画の制作を決意した若手監督がいる。佐藤慶紀さんだ。本業は、フリーランスのテレビディレクター。10年程前、テレビ番組の企画のリサーチを行っている際、加害者と和解しようとする被害者遺族がいることを知り、驚いた。調べていくと、加害者の死刑を止めようとする人すらいた。

佐藤慶紀さん=朝日新聞社撮影

「宗教、思想・信条的理由から決断する方もいましたし、そうした価値観とは関係なく行動している方もいました。被害者遺族から加害者に対し、和解へ向けた行動をとるのは、一般的には考えられないことではないでしょうか。かけがえのない家族を殺した人間のことは許しがたいでしょうし、復讐心を消すことも簡単なことではない。でも、そういったすべてを乗り越えて、加害者への死刑を止めようとした人がいた。こうした、言ってみれば『人と違う行動をとる人』に、強く興味を引かれたんです」

■説得はしたくない

映画「MOTHER(仮)」は、娘を殺害された母の物語だ。2年前に結婚した一人娘が、その夫に殺されてしまう。夫は死刑判決を受ける。当初は死刑判決を当然のことと考えていた母親だったが、ある時から彼の死刑を止めようと思い始める。そこには、母親しか知らない娘のある秘密があった――。

不可能とも思える決断をするのは、どういうことなのか。それを自分自身で深く考えてみたいと思い、自ら脚本も手がけた。

「母親であり、女性である主人公は、僕には理解が難しい存在。その母親の立場を通して死刑制度に向き合っていくのは、非常に大変な作業でした。また、法律や裁判のことなど、調べなくてはいけないことがたくさんあり、苦労の連続でした。でも、最終的には観てくださる方に母親の決断を受け入れてもらえる脚本に仕上がったと確信しています」

映画の中で、現在の死刑制度が抱える問題点も浮き彫りにした。裁判はどうしても「国対加害者」という構図になってしまい、被害者遺族が蚊帳の外に置かれてしまうこと。自分がいつ死刑になるのか何も知らされない死刑囚の苦悩。そして、その死刑囚をめぐる人々の葛藤。

映像の力は強い。しかし、「説得はしたくない」という。「僕自身は死刑制度に反対ですが、賛成の人を否定することはできませんから」。この映画をきっかけに、死刑制度の問題をオープンな議論の場に持っていきたいと願っている。

■クラウドファウンディングに初挑戦

佐藤さんはこれまで自主映画を作り続け、2014年に発表した「BAD CHILD」は第29回ロサンゼルス・アジア太平洋映画祭に公式出品され、国の内外から高い評価を得た。今回「MOTHER(仮)」で、初めてクラウドファンディングに挑戦した。

「クラウドファンディングで制作資金を募集する過程で、皆さんがどのくらい作品に関心を持っていただけるのか、知ることができる。そして、皆さんと意見交換をすることができる。支援していただくということは、テーマに対して、何かしら意見があるということだと思うんです。多くの方々に様々な意見をいただき、一緒に考えていきたいと思っています。個人的なプロジェクトですが、皆さんと少しでも共有できる作品にしたいです」

来年春の公開をめざし、クラウドファンディングサイト「A-port」で制作資金を募集中で支援を求めている。

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