貧困の連鎖を断つには、子どものうちからお金について学ぶことが必要だ。公認会計士が取り組む「お金の教科書」プロジェクト

お金は「怖いもの」なのか
「お金の教科書」プロジェクトに取り組む眞山徳人さん
「お金の教科書」プロジェクトに取り組む眞山徳人さん
Asahi

今の日本は、経済格差が広がり、お金を取り巻く環境が急速に変化している。そんな中、子どもたちが「お金」についてきちんと学ぶことで、貧困の連鎖を断ち切ろうというのが、「お金の教科書」プロジェクトだ。

1000冊の本の製作資金50万円をクラウドファウンディングで募ったところ、2日で目標金額を達成。現在、さらに追加支援150万円を新たな目標として設定し、「お金の林間学校」開催を計画している。

子どもたちにお金や経営の仕組みについて話す眞山さん
子どもたちにお金や経営の仕組みについて話す眞山さん
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「お金の教科書」は小学校中学年から中学生を対象に、お小遣いから起業まで、お金やビジネスにまつわる内容を網羅。プロジェクト起案者の眞山徳人さん(37)は、「お金を使う、貯める、集めるということを通して、"自分の思いをビジネスの形にする"ことを伝えていきたい」という。

お金持ちになるには、どうしたらいいの?

本の編集を担当するのは、編集者であり、「BOOK&BARフォルケ」(東京都品川区)で個人のプロジェクト立ち上げの支援を行う、小林こず恵さん(35)。

「ストーリー仕立てで、ゲームをクリアする感覚で楽しめる内容にしたい。大人にも面白く読んでもらえるようにして、親子で一緒に読んでもらえたらと思います」(小林さん)と語る。

「子どもがワクワクとした気持ちで手に取れるような本にしたい」と小林さん
「子どもがワクワクとした気持ちで手に取れるような本にしたい」と小林さん
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子どもが興味・関心を持てるよう、イラストやワークをふんだんに盛り込むなど、編集にも工夫を凝らした。最後には修了テストを用意し、提出してもらったものを採点。認定書も発行する。

さらに、お金やビジネスの知識だけでなく、プレゼンテーション能力を育てるという側面も重視。「ビジネスで周囲を幸せにしながらお金を稼ぐにはどうしたらいいか」というスキームを自分で作れるようになることを目指すという。

お金は「怖いもの」なのか

公認会計士というお金の専門家である眞山さんが、「子どもとお金の関係」に関心を持つようになったのは、自身の経験が大きく影響している。

「18歳のときに、父の勤務先が倒産。学費のために新聞配達をしながら奨学金をもらったり、深夜アルバイトをしたりして大学に通いました。そのときの経験から、 "お金を稼ぐのは大変"" "お金は怖いものだ"という思いが、自分の中にはあったんです」(眞山さん)

本の企画について打合せをする眞山さん(右)と小林さん
本の企画について打合せをする眞山さん(右)と小林さん
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大学卒業後、公認会計士となった眞山さんは、再び「お金の怖さ」を目の当たりにする。

「会計事務所時代、大学の会計監査を担当していたときのことです。そこでは、"学費の支払いを待ってほしい"という保護者からの書類を何通も目にしました。文面からは、苦しい生活の中でも子どもを大学に通わせたいという親心や、支払えないことへの惨めさや辛さが感じられ、とても切なかったです」(眞山さん)

子どもたちを貧困の連鎖から救うには、お金について学ぶことが必要
子どもたちを貧困の連鎖から救うには、お金について学ぶことが必要
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貧困のつらさや苦しみをただ傍観するのではなく、なんとか断ち切ることはできないのだろうか。その答えが、子どものうちからお金について学ぶということだった。

これから必要になるのは「投資思考」

日本社会では、「お金を儲けたい」という考え方には、眉をひそめる人がまだまだ多い。しかし、これまでのように決まった給与だけで生活が成立するシステムは、近い将来、限界を迎えるともいわれている。「お金を稼いだり、儲けたりすることは正しいことだ」という意識改革が求められるはずだ。

特に不確かな将来を生き抜く子どもたちには、決まった金額でやりくりする予算思考だけでなく、お金を増やす投資思考が必要不可欠に。その延長線には、起業家精神やビジネスの仕組みを知っておくということもある。

お金の仕組みをしることは将来のビジョンを考えることにもつながる
お金の仕組みをしることは将来のビジョンを考えることにもつながる
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それらを実現していくために、眞山さんが目標とするのが、トータルでお金について学べる「子ども版ビジネススクール」だ。

「"経営"というと難しいイメージですが、実際は自分たちの身の回りで日常的に行われていること。それを子どもたちにかみ砕いて教えることで、社会の仕組みを知ったり、自分の将来を見据えた学びができたりする場をつくりたい」(眞山さん)という。

今回の「お金の教科書」は、そのための第一歩といえるだろう。

「貧困の連鎖」から「豊かさの連鎖」へ

「子どもにお金について学んでほしい」「お金の教育が貧困を断ち切る原動力になる」という思いには、多くの人が賛同。お金の教科書をつくる資金は確保できた。

追加支援の呼びかけで計画する、2泊3日の「お金の林間学校」では、児童養護施設の子どもやひとり親家庭の子どもたちも招待する予定だ。

また、今回取材を行った、「BOOK&BAR フォルケ」でも、「お金の教科書」を用いた、セミナーの実施を予定している。

「学校や家では教えてくれないお金の話を子どもたちにきちんと伝えていきたい」と眞山さん
「学校や家では教えてくれないお金の話を子どもたちにきちんと伝えていきたい」と眞山さん
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「お金の教科書」や「お金の林間学校」、さらにその先にある「子ども向けビジネススクール」や奨学金など、今後もチャレンジは続いていく。

「子どもたちの教育や起業の機会が、経済的理由で奪われることがない社会をつくりたい。お金の教科書をきっかけに、"貧困の連鎖"を"豊かさの連鎖"へと変えていけたら」と、眞山さんは語る。

その向こうに待っているのは、子どもたちの笑顔にあふれた明るい未来かもしれない。(工藤千秋)

クラウドファンディングは6月15日まで。プロジェクトのページは、https://a-port.asahi.com/projects/okane_text/

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