星のデータを音楽に...豪華アーティストによる前代未聞のCD制作プロジェクトに参加、音楽家・蓮沼執太さんインタビュー

史上最大規模の高性能電波望遠鏡「アルマ」が観測した、ある星が発するデータから、アーティストの手で音楽を生み出すプロジェクトが進行中だ。

史上最大規模の高性能電波望遠鏡「アルマ」が観測した、ある星が発するデータから、アーティストの手で音楽を生み出すプロジェクトが進行中だ。もうすぐ寿命を迎える「ちょうこくしつ座R星」は、宇宙空間にガスを吹き出しながら、その命を終えようとしている。そのガスの観測データをオルゴール盤に置き換え、悲しげにも聞こえる旋律が生まれた。その旋律を各アーティストがアレンジしたCDアルバムの制作を目指し、クラウドファンディング「A-port」で制作資金を募っている。

「星のデータから音楽を生み出す」という前代未聞のプロジェクトの行方に注目が集まる。豪華なアーティスト陣が1人1トラックずつ制作し、CDアルバムを創りあげる。無事目標調達額を達成し、CD制作に着手できるのか。支援者は完成したCDやオリジナルグッズを先行入手できるとあって、5月12日時点で160人あまりが資金提供し、目標調達額の200万円まであと数%に迫る。

アートプロデューサーの林口砂里、国立天文台助教の平松正顕、クリエイター集団「PARTY」の川村真司、「Qosmo」の澤井妙治が立ち上げたプロジェクトに、国内外で活躍するアーティストが手を挙げた。蓮沼執太▽湯川潮音▽伊藤ゴロー▽milk(梅林太郎)▽Throwing a Spoon(トウヤマタケオ×徳澤青弦)▽mito(クラムボン)▽滞空時間▽Christian Fennesz▽Steve Jansenが参加。(いずれも敬称略)

この「ALMA MUSIC BOX」プロジェクトの魅力について、参加メンバーの音楽家・蓮沼執太さん(31)にインタビューした。蓮沼さんは「蓮沼執太フィル」を組織し、国内外で公演、音楽プロデュースや映画、舞台芸術など多様な作品を手がける。昨年はアジアン・カルチュラル・カウンシル の招聘でニューヨークに滞在していた、気鋭の若手アーティストだ。

――この企画に参加したきっかけは?

僕、アルマ望遠鏡のこと全然知らなかったんです。昨年、(プロジェクトを提案した)「PARTY」の川村さんとニューヨークでご飯を食べていたんですけど、たまたま「こういうプロジェクトがあるんだ」とアルマのオルゴール盤の話を聞いて、一緒に「何かできたらいいな」と話していました。「CDとか一緒につくれたらいいね。乾杯!」と盛り上がったのを覚えています。日本に帰って来たら、改めてプロジェクトに参加しないか、と打診がありました。

――オルゴール盤の音源を聴いて、どう思いました?

音源を聴いた時に、「いろんな価値観が詰まってそう」と思いました。星からガスが吹き出すという現象を音楽に変換するというものですけど、ランダムなように見えて変換するときにある種ルールがあるというか、たまたまリズムを発見しちゃうというか、人それぞれ、感じ方が変わる。強いメロディではないですけど、断片的に、「ここのメロディはいい」とか「このイメージは好き」とか思いましたね。

音源を聴いて今回参加するミュージシャンの方々が思い浮かんで、それぞれ、音楽に対する向き合い方が全く違う方々なので、この素材が広がりを持つんだろうな、と思いました。音がどうだというよりは、これは広がりを持つサンプルだなぁと。贅沢なアルバムになりそうです。誰の曲が楽しみか?そんなの選べないですよ。ほぼ全員先輩で、皆さん素晴らしいアーティストです。全員好きです。楽しみです。

――蓮沼さんは環境の中にある音を演奏に取り入れられることもありますが、宇宙から生まれた音、素材としてどうとらえていますか

以前、物理学の数式を使ってアルゴリズムで音を生成したことがあるんです。テクノロジーを使って、宇宙っぽい作り方をしてみました。

映画とかで、僕たちがイメージするステレオタイプな宇宙っぽい音ってありますよね。ポヨンポヨン、とかSF的な。今回はそういった既成概念を更新するようなプロジェクトになると思います。みんながイメージとして持っている「宇宙観」を更新したい。そういう思いがありますね。

――蓮沼さんの紡ぎ出す音楽が楽しみですね

そもそも音源のもとになっているものは、アルマ望遠鏡のデータですよね。星のデータをもらう、という。データ、数学、計算ですよね。オルゴール盤に置き換えるのもアルゴリズム。僕は、もうちょっとロマンチックにしたいんですよ。計算で音楽を作るのではなく、エモーショナルな。「エモい」感じに向き合った方がたぶん面白くなる。有機的にとらえて、キラキラしたものというよりは、割とハートフルな制作をしたいと思っています。

そうですね。なんか勘違いしたいです。説明しづらいけど、「こうなんだ」って思わないようなものになればいい。勘違いしていくっていうのが、作曲の仕方としてはロマンがあると思う。即興とまではいかないですが、偶然性というよりはむしろ、勘違い。

――ファンディングは残り数日。プロジェクトの魅力について、改めて教えてください

このプロジェクトはすごくロマンチックなきっかけで始まりました。「アルマ」の研究者の方々が、未知なることを知るために人生を賭けている。そういうロマンチックなことに何十年を賭けるわけですよね。研究者の愛情を受けて、何かソウルフルな熱いものができないかと思っています。

参加アーティストの皆さんはオリジナリティのかたまりのような方々だから、いろんな切り口で面白いと思う。こんなに面白いことなんだから、ぜひみんなで共有しませんか?

アルマ望遠鏡自体は身近なものではないじゃないですか。僕自身もアルマについて勉強中。みんながアルマについて知る、とっかかりになったらいいですよね。新しい音楽の作り方のメソッド、卵のようなものが生まれたらいいかな。

――いま資金調達中の、「クラウドファンディング」のしくみについてはどうとらえていますか?

個人的にはやったことはないんです。今まで人のお金に頼らずやってきたので......。こういうことをするときに、いつもぶち当たりますよね、いわばお金問題。そんなときに、良い方法の一つなんだと思います。今回の挑戦で勉強させてもらっています。機会があれば挑戦したい。

僕が偉そうなこといえる立場ではないんですけど、音楽はまずお金ありきではなくて。メジャーとかインディーズではなく、システムとしては常に変わっていくと思うので、いろんな人がいろんな方法で音楽を生み出せたらいいと思います。まずは音が生まれないと音楽自体廃れていってしまうので、本当に多様な音楽があった方がいい。そういう意味ではクラウドファンディングを活用するのはいいんじゃないでしょうか。

――CD制作後の展開は考えていますか?「蓮沼執太フィル」などを率いる蓮沼さんですから、リアルな場でも「アルマ」から生まれた蓮沼さんの音楽を聴きたいですね

このプロジェクト全体にいえることですが、なんだか未来を見ている気がしています。次があるのかな、みたいな。やりたい。やりましょうよ。CDができたから終わりではなくて、それで何か発見があって、次につなげる。ご支援いただいた方には、参加アーティストの今後の活動にも注目していってほしいです。

プロジェクトへの支援は朝日新聞社のクラウドファンディングサイト「A-port」で受け付けている。

蓮沼さんは5月30日~6月28日、青森公立大学国際芸術センター青森で個展「作曲的|compositions: space, time and architecture」を開く。入場無料、無休。

また6月10日(水)、東京・渋谷WWWで「蓮沼執太シングス2」と題してグランドピアノでの弾き語りソロ公演を開く。170人限定。ローソンチケットで発売。

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