PRESENTED BY AQUA SOCIAL FES!!

阪神大震災がもたらした意外な変化 大阪で息を吹き返しつつある自然の一端

環境省から絶滅危惧種に指定されている「ハクセンシオマネキ」。一度は大阪湾から姿を消したのだが......

みなさんは「ハクセンシオマネキ」を知っているだろうか。

ハクセンシオマネキとは、漢字で白扇潮招と書き、河口域の干潟に生息する小さなカニのこと。雄が大きな白いハサミを振って雌を招く姿が、白い扇を振るように見えることから、その名が付けられたという。環境省から絶滅危惧種に指定されており、大阪湾からも一時は消えたと考えられていた。

そんなハクセンシオマネキをはじめ、水辺の観察と保全活動をしているのが、「西淀自然文化協会」の村瀬りい子さんだ。

一度姿を消した貴重なカニが、15年前に淀川の河口にある矢倉海岸で見つかったときのことを、村瀬さんは声を弾ませながら振り返る。

矢倉海岸でハクセンシオマネキが発見された

1995年に発生した阪神・淡路大震災の影響で、大阪市西淀川区の矢倉海岸一帯は5~10メートルほど、地盤が沈下した。コンクリートの護岸が失われたが、その代わりに干潟ができあがったという。

その話を聞いた村瀬さんは、「何かいるかも......」という予感をもとに、地元の子供たちをと共に新しく出現した「干潟」へ足を踏み入れた。するとそこには...。「カニがわんさか」。子供たちが目を輝かせながら、バケツいっぱいになるまで、カニをつかまえた姿を忘れられなかった。

震災は河口の姿を変えただけでなく、村瀬さんの人生も変えた。自身の生き方を見つめ直す機会になり、大好きな自然や子供と接しながら、社会貢献活動をすると決めた。矢倉海岸の生き物などを調べて、記録、伝える組織として西淀自然文化協会を設立。1998年に生まれた同協会は、現在では主に30人が活躍する場となった。30代〜80代という幅広い年齢層で構成されるメンバーは、子供たちを対象に自然の観察や生き物の調査など、体験会や講習会を続けている。

「調査の主役は子供たち。本当に子供たちを褒めてあげたい」。

1996年の調査で確認されたカニは2種類だったが、今や15種類に。ハゼなどの魚も増え、海浜植物も群生。渡り鳥が飛来するようになり、ガンやカモの越冬地になった。

ハクセンシオマネキが確認されたのは、海岸の一部が矢倉緑地として整備された2000年頃だった。それは水辺の自然が戻ってきた目安にもなった。

大阪湾にも多くの生き物が戻ってきた

矢倉海岸は地の利が悪く、当初は地図にさえ名前が載っていなかった場所だった。調査に参加してくれるのは、元気で自然が大好きな子供たちばかりだった。子供たちとの活動を続けながら「矢倉干潟」と呼びまわっているうちに、いつしか、まわりの人たちも矢倉干潟と呼んでくれるようになったという。

自然の再生は早かったが、干潟にごみがたまるのも速かった。自然観察や調査に参加している子供たちから声があがり、ごみ拾いも活動に加わった。

村瀬さん達の調査活動は、2008年から始まった「大阪湾生き物一斉調査」という取り組みにつながり、大阪湾全体に広がった。協会の活動にも淀川の環境保全が加わり、企業とも連携して活動を行うようにもなった。

「主役は子供」と村瀬りい子さん。干潟で自然の観察や生き物の調査を続けている

より幅広い活動をするため「河川レンジャー」に

活動を続けるうちに、身近な川と地元の行政をつなぐ橋渡しの難しさにも直面するようになった。これまでにも「近畿子どもの水辺ネットワーク」の役員を務めるなど、さまざまな方面とも交流を続けていた。そんな中、より幅広い活動をしたいという気持ちは増すばかりだった。そこで、地域住民と行政との橋渡し役である「淀川管内河川レンジャー」を目指すことを決意した。

レンジャーに任命された2012年。それ以降、国土交通省淀川河川事務所の支援も受けながら、水辺の保全活動を行うため、地域の人とともに生きもの調査や自然体験活動に取り組む「西淀川水辺の楽校」を定期的に開催。地域の活性化や水辺の環境整備などにつながることを目指している。

干潟の生きもの観察会にとどまらず、無人島体験、源流体験、漁業体験と、アイデアは尽きない。元気な子供たちと一緒になって、へとへとになりながらも、今日も精力的に動き回り、さまざまな形で子供たちに水辺や自然と触れ合う場を提供している。

「子供たちが夢中になって、水辺の生き物を探す場を提供できるのは本当に喜ばしいことです。水辺に近づかなければ見えないものがある、もっと水辺を知ってほしいとも思っています」

西淀自然文化協会が主催する「AQUA SOCIAL FES!!~淀川干潟ウオッチング」は9月12日(土)に淀川花川干潟で開催。淀川でのしじみ狩り体験や淀川の歴史を学ぶプログラムです。徐々にきれいになってきた淀川に帰って来た生きものと触れ合ってください。詳細は公式ホームページをご覧ください。

(取材・執筆:産経新聞社 西出陽輝)

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