PRESENTED BY AQUA SOCIAL FES!!

四国遍路を世界遺産に きっかけは一通の投書

「四国の人は、やさしい"おせったいの心"があるのに、なぜ自然には冷酷なのか」――その一通の投書が人を動かした。

地元の人は、意外と地元の良さを知らない

今年78歳になるNPO法人徳島共生塾一歩会 理事長 新開善二さんは、愛知県三河の出身。営業職として全国を転々とした後、妻の出身地である徳島に終の住処に選んだ。徳島に住んでみると、人情豊かな人達や、素晴らしい文化や歴史がたくさんあることに気付く。阿波踊りや鳴門の渦潮、四国遍路のある徳島を心から誇りに思ったそうだ。

新開善二さん

海外に行くと、日本の素晴らしさを改めて感じることはないだろうか? 美しい風景、繊細な心遣い......ある程度距離を置くことで見える魅力がある。新開さんも同じ感覚だった。県外出身で日本各地を見てきたからこそ、徳島の素晴らしさに気付いたのかもしれない。

新開さんは現役引退後、徳島県の事業"環境ボランティアリーダー養成講座"に参加。修了後、仲間と一緒に環境団体一歩会を結成。1997年のことだった。2001年に法人格を取得し、「NPO法人徳島共生塾一歩会」と命名。新開さんは2代目代表に就任した。一歩会は、環境にやさしいまちづくりを目的とし、阿波踊りのゴミゼロ活動など、地域の環境問題にかかわる活動を続けてきた。

胸に突き刺さった一通の投書

2004年、全長1400キロに及ぶ歩き遍路を経験した県外の男性から、遍路道沿いに大量に捨てられていたゴミの醜さを切々と訴える投書が地元新聞に掲載された。「四国の人は、やさしい"おせったいの心"があるのに、なぜ自然には冷酷なのか」。これが、遍路道沿いに不法投棄されたゴミの撤去作業を始めるきっかけとなった。

しかし、不法投棄場所の多くは私有の山林だった。当初、行政にゴミ撤去の話しをしても「私有地なので、行政は管轄外です」と一蹴。いざ作業を始めようとするにも所有者への許可など、問題解決の難しさが浮き彫りになったという。

地元住民に話をしても「なぜ、そんな事せなあかんのじゃ。ほんなん、でけんわ(なぜ、そんなことしなくてはならないのか。そんなこと、できない)」などと言われたそうだ。「無理かもしれない......」。そう思った時もあった。

しかし、新開さんをはじめとする一歩会のメンバーは、自分たちの誇りである四国遍路道が、ゴミで汚されている現状をどうしても見過ごすことが出来なかった。行政や地域の人たち、重機を所有している企業の元に何度も足を運び、「遍路道は、地域の誇りであり、遺産ではないか。地域の遺産を守るのは、地域の方たちの役割ではないか」と説得を続けた。

ついに情熱が人を動かす

徳島県阿南市でのゴミ撤去作業(2007年)

2004年、大きな一歩に踏み出すことになる。阿南市福井町の遍路道のゴミ撤去作業が行われたのだ。活動を始めた当初は協力を仰ぐことができなかった地域住民、産廃業者と手を取り合うことで実現することができたという。350人で撤去したゴミの量は実に80トン。この活動を皮切りに、徳島市のシンボル「眉山」、「第21番札所 太龍寺」周辺のゴミ撤去作業を実施した。

そして、この活動がマスコミで大きく取り上げられると、巡礼している遍路から四国4県の不法投棄情報が一歩会に集まるようになった。この情報を元に遍路道ゴミ地図を完成させると、活動の輪は一気に四国内に広がっていった。

あの投書が地元新聞に掲載されてから約10年、現在は重機を使った大がかりな撤去作業をする必要が無くなるまでに、遍路道の環境は改善されている。

壮大な夢への次なる一歩へ

現在一歩会は、四国遍路の世界遺産登録を目指し、「遍路文化を外国人に伝える活動」や「外国人を迎えるおもてなし講座」、「世界遺産の先進地に学ぶ講演会」などを実施し啓発を続けている。

2014年11月、5番札所地蔵寺で実施された「遍路文化を外国人に伝えるイベント」

また、遍路道をきれいにし、世界文化遺産化を啓蒙するため、鮎喰川河川敷で「AQUA SOCIAL FES!! In 徳島」(主催:徳島新聞社、共催:一歩会)を第1回目平成27年9月26日、第2回目平成27年10月31日(土)開催予定。参加希望の方は、公式サイト http://aquafes.jp/projects/186/へ(各定員100人)。

2014年に実施された「AQUA SOCIAL FES!! In 徳島」(吉野川河川敷)

新開さんは「四国八十八カ所遍路道は地域の宝であり誇り。世界遺産登録への道のりは遠いかも知れない。しかし、一歩一歩少しでも歩みを続ければ、いつか大きな成果に繋がります。これからも遍路道を地域の住民で守り、次世代に引き継いでいきたい」と78歳とは思えない若々しい口調で壮大な夢を語ってくれた。

(取材・執筆:徳島新聞社 新井 秀明)

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