「マリメッコ」らしさは、フリーランスのデザイナーたちが生み出していた。デザインをより豊かにする、自由な働き方とは

マリメッコが、ただ「特別」な訳ではない。

世界16カ国の若手ジャーナリストがフィンランドに集まり、この国をあらゆる視点で学ぶフィンランド外務省のプログラムに参加している。

8月10日、日本にもファンが多いファッションブランド企業「マリメッコ」と、それから日用品ブランド「イッタラ」を展開するデザイン企業「フィスカース」社を訪問した。

マリメッコ本社
マリメッコ本社
ARISA IDO
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マリメッコは、1951年にアルミ・ラティアさんが創業。ニューヨーク、東京、香港をはじめとして、約40カ国で販売されている。

パエヴィ・ロンカ営業部長によると、「マリ」は、一般的な女性の名前、「メッコ」はフィンランド語で「ドレス」という意味なのだという。「マリのドレス」という名前からもわかるように、女性向けの商品が多い。

パエヴィ・ロンカ営業部長
パエヴィ・ロンカ営業部長
marimekko

創業者のラティアさんは、女性が最大限に自分を表現できるように、という思いを込めて派手な柄や色のデザインが施された服、カバンやインテリア用品を展開した。

工場も含めて従業員の約94%は女性だ。そして、最も驚いたことはマリメッコのデザイナーのほとんどがフリーランスということだった。

派手な柄が生地にプリントされる工場も見学した
派手な柄が生地にプリントされる工場も見学した
arisa ido

会社で抱えるデザイナーは、商品開発やパターン(形状)を主に担当し、柄や色を考えるのはフリーランスの仕事だという。マリメッコらしさを体現している、あの華やかな柄はフリーランスのデザイナーたちが考え出していたのだ。

なぜ、こんなにフリーランスばかりで作っているのか。

ロンカさんに理由を聞くと、会社とより対等な関係を保つことで、デザイナーの意思を最大限に活かせるようにしていると語った。

組織の上の役職の指示で何を作るか決めるのではなく、最前線で働く従業員たち自身が編み出したデザインを取り入れることは、創業者の思いである「最大限に自分を表現できるように」と通じているのだという。

デザイナーが組織に拘束されず、フリーランスとして働けば、別の企業とのコラボレーションの機会も増え、違う文化や考えに触れる機会が増える。そうした外との接触から、より良いデザインにつながっていると信じているのだ、という。

この考えは、もう一つの企業、フィスカース社でも実践されていた。フィスカース社は、「イッタラ」「アラビア」を始めとする数多くの、優れたデザインの日用品ブランドを持っている。

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ブランドマネージャーのトゥイハ・アールトセタラさんによれば、フィスカース本社には、主に陶器ブランド「アラビア」のデザインを手がけているアーティスト9人によるチームがあるという。名前は、ARABIA ART DEPARTMENT SOCIETY」(アラビア・アート・デパートメント・ソサエティ)という。

このチームは2003年に発足し、9人の所属アーティストは、全員フリーランサー。フィスカース本社の9階には、この9人がそれぞれデザインやアートを表現できる部屋が用意されており、自由に出入りできる。

9人のアーティストのうちの1人、ヘイニ・リータフッタさんに話を聞いた。

リータフッタさんと彼女の作品
リータフッタさんと彼女の作品
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リータフッタさんは、1999年からアラビア社とともに働いてきた。代表作の陶器デザインは「ルノ」シリーズで、植物をモチーフに4つの季節を皿やカップといった食器に描いている。

「ルノ」シリーズ
「ルノ」シリーズ
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アラビア社のほかにも日本の伊勢丹や、京都の風呂敷専門店「コトノワ」などの日本企業とも働いている。

会社組織に所属せず、収入や身分が不安定なフリーランスとして働くことに不安はないのだろうか。

リータフッタさんにそう聞くと、「あまり不安には思いません」という。

20年近くアラビア社と一緒に仕事をしてきたので、信頼関係が確立していること、組織に縛られない分、自由時間で自分の芸術作品を作ることーーなどができるという自由さがあるという。

彼女の自信たっぷりの口調から、アラビア社が彼女を1人のアーティストとしてどれだけ大切にしているかがうかがえた。

彼女専用の作業部屋
彼女専用の作業部屋
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ただ、フリーランスとして自分らしい働き方を追求するには、制度的な支えも無視できない。

リッターフッタさんによると、フリーランスでも、育児休業や保育園入園、失業後の生活手当などが、企業の社員と同等に制度で保障されているのだという。収入が「不安定」な面もあるフリーランスが、何かあったときのサポートは、政府が保証しているのだ。

マリメッコで働くフリーランスのデザイナーは年間15人程度で、アラビア・アート・デパートメント・ソサエティは9人。リッターフッタさんのように、すばらしい環境で、自分らしい働き方を追求できるのは少数のフリーランスだけかもしれない。

しかし、企業が個人を拘束せず、クリエイティビティを最大限に発揮する環境を整えた上で、成果を企業活動に還元することは、今後生き残る上でも大切だと感じた。

時代の変化とともに、人々の要求することもどんどん変わっていく。企業も新しい空気を常に入れる必要がある。

それを会社内で人を入れ替えることで解決するのではなく、会社と対等な個人が自由に動くことで実現していくのは、両者にとって大切なことだと感じた。

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2018年8月、フィンランド外務省が主催する「若手ジャーナリストプログラム」に選ばれ、16カ国から集まった若い記者たちと約3週間、この国を知るプログラムに参加します。

2018年、世界一「幸せ」な国として選ばれたこの場所で、人々はどんな景色を見ているのか。出会った人々、思わず驚いてしまった習慣、ふっと笑えるようなエピソードなどをブログや記事で、紹介します。

#幸せの国のそのさき で皆様からの質問や意見も募ります。

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