中央アフリカの人びとを救えない国際援助

中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)がこの数ヵ月、武装勢力の対立による暴力の激化に苦しんでいる。しかし被害者に向けられた国連の人道援助はあまりにも少なく、あまりにも遅いと言わざるを得ない。

中央アフリカ共和国(以下、中央アフリカ)がこの数ヵ月、武装勢力の対立による暴力の激化に苦しんでいる。しかし被害者に向けられた国連の人道援助はあまりにも少なく、あまりにも遅いと言わざるを得ない。

11月中旬、私は首都バンギから北に300キロ離れたボサンゴアで活動中の国境なき医師団(MSF)の拠点を訪ねた。そこでは戦闘に巻き込まれ、死の恐怖におびえる3万人もの人びとがカトリック教会に避難していた。前触れもなく讃美歌が始まり、皆が加わると、4時間にわたって歌い続け、暴力からの加護を神に祈る。私が目にし、大いに心を揺さぶられたその光景は、人びとの無力さの象徴に見えた。ただその時点では、この国の状況はこれ以上悪くならないだろうと思っていた。

しかし12月5日より起きている一連の武力衝突で、私の見通しの甘さが証明されてしまった。言葉では表せないほど残虐な暴力行為と混乱が国中を席巻し、一般市民を恐怖に陥れている。ほぼすべての国民が被害を受け、宗教対立による憎悪、恐怖、復讐の空気がかつてないほど漂っている。全人口の1割以上が避難を強いられ、病気がひろがり、公共サービスも崩壊したことで、何百万人もの国民の生活が立ち行かなくなった。

MSFは、ルワンダ虐殺のような極端な例を除けば、軍事介入を支持しない。この立場の原点は、人道主義的理念だけでなく、一般的に暴力は暴力を生むという我々の経験則にある。そのため中央アフリカでも、軍事介入を求める声には加わらなかった。

ただMSFも、この国には自らを助ける力がほとんど残っていないことには気づいており、さらなる暴力で深刻な人道危機が生じることを危ぶんでいた。そしてフランス軍がバンギに到着し、国内各地に展開を始めたとき、我々の海外派遣・現地スタッフも、(疑念と危惧が入り混じってはいるものの)一定の希望を見出していた。しかしながら、どんなに優秀な軍隊であっても、暴力の活性ではなく鎮静を目指すには、明確な戦略が必要だし、また結局のところ、実力行使は、数十年にわたってこの国を覆ってきた政治・安全上の恒常的危機に対する万能薬にはならない。

軍事介入の結果として期待できることがあるとすれば、それは、見せかけの平常化と安全が国連とNGOにバンギ市外での介入と人道援助活動の拡大を促すことだろう。2013年7月にこの国の状況が暗転して以来、MSFは国際社会による人道援助の不足にいら立ちを募らせてきた。確かに、国連やNGOのスタッフが自らの身の安全に用心するのも無理はない。2013年3月のクーデターの際、MSFも含め、多くの人が騒乱や略奪の被害に遭ったからだ。

しかしその一方で、この危機的事態と人びとのニーズには、もっと早く有効な手を打つ必要があった。しかし、人道援助は、届けるべき人びとに届かず、その状況は今も続いている。MSFやいくつかの例外はあるものの、国際人道援助の大部分はあまりにも不足し、対応は遅れている。

あまりにも長い間、世界は中央アフリカの苦難に関心を寄せず、国民は容赦のない運命に身を委ねるほかなかった。今後何週間かのうちに人道援助が拡大されたとしても、過去数ヵ月の対応の遅れをなかったことにはできない。私が特に失望させられたのは国連だ。緊急支援を担当するバレリー・アモス人道問題担当事務次長は、現在の危機の初期にあたる7月、自ら中央アフリカを訪問し、その姿勢を示すと、10月には、異例の合同ミッション展開のため、緊急対応責任者8人を派遣した。彼らの現地入りは、積極的な介入を約束するものと理解されたが、その後の国連およびNGOの対応は、期待されていた水準に遠く及ばず、必要な人命救助が提供されない状況が続いている。

MSFは、人道団体のなせること、なそうとすべきことには限界があるという事実を全面的に受け入れている。先ごろも、長年にわたり、繰り返し暴力行為の標的となった末の決断として、ソマリアから撤退した。しかし、中央アフリカはソマリアとは異なる。この国の現状は確かに厳しいものだが、人道援助活動の実践は可能だったし、今でも可能だ。MSFは海外派遣スタッフの現地駐在を危機が最悪だった時も維持しただけでなく、暴力の被害を受けた特に無力な6地域でも活動を拡大させてきた。

国連主導の国際援助も徐々に始まっているが、これまでのところ、大幅な不足は否めない。国連主導の援助体制が、その意義と妥当性、そして今後の人道危機への対応力を維持していこうというのであれば、中央アフリカでの活動を速やかに改善するとともに、他の国や地域で同じ過ちを犯さぬような努力が求められる。

国境なき医師団(MSF)は、紛争や災害、貧困などによって命の危機に直面している人びとに医療を届ける国際的な民間の医療・人道援助団体。「独立・中立・公平」を原則とし、人種や政治、宗教にかかわらず援助を提供する。医師や看護師をはじめとする海外派遣スタッフと現地スタッフの合計約3万6000人が、世界の約70ヵ国・地域で活動している。1999年、ノーベル平和賞受賞。

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