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2015年08月05日 17時01分 JST | 更新 2016年08月03日 18時12分 JST

六本木アートナイト2015

発祥は1940年代のイギリスと言われ、今では世界各地で設置されている「アーツカウンシル」。アーツカウンシル東京は、日本初の本格的なアーツカウンシルとして、東京の魅力を高め、そして国内外へ発信するため様々な事業を展開しています。

アートと社会を繋ぐシステムづくりやその支援、人材の育成、また、地域と協働するアートプロジェクトや大規模フェスティバルの開催など、活動の範囲も多種多様。また、2020年東京オリンピック・パラリンピックでの文化プログラムに向けたプロジェクトも推進していきます。

伝統文化から現代アートまで、新旧問わず多様な文化や歴史が共存する都市・東京の魅力をさらに高め、芸術文化の創造・発信を促し、ドキドキ・ワクワクする街づくりを目指しています。このブログを通じて、そんな「アーツカウンシル東京」の姿をお届けしていきます。まずは今年4月に開催された、東京都、アーツカウンシル東京、そして六本木アートナイト実行委員会主催の「六本木アートナイト2015」のレポートをご紹介します。

(以下、2015年6月11日アーツカウンシル東京ブログ「見聞日常」より転載)

「ハルはアケボノ」

NHKの「ドキュメント72時間」という番組を毎週楽しみに見ている。先日の放送は、東京・六本木にある人気ケバブ屋の72時間。六本木らしく、お店にやって来るお客さんは多国籍で、人間模様も実にさまざまなのだが、撮影開始から14時間が経過した深夜2時半、ある人がケバブを頬ばりながら言った。「六本木で一番いいのは朝。人が混じり合うから」──そう、夜の街六本木は、夜が明けていくさまもまた魅力なのだ。

そんな六本木の明け方の魅力を「ハルはアケボノ ひかルつながルさんかすル」というテーマに込めて、今年も春の恒例イベント「六本木アートナイト2015」が4月25日(土)、26日(日)の2日間開催された。"アートの夜"というだけあって、たくさんのイベントが集中するのは、日没(25日18:22)から日の出(26日4:56)までの時間帯。果たして夜通しの取材を乗り切ることができるかかなり心配だったが、あっという間の10時間半だった。

一夜限りのアートの饗宴

六本木アートナイトは、六本木の街全体を美術館に見立て、夜を徹してアートを楽しむ一夜限りのイベント。「生活のなかでアートを楽しむ」というライフスタイルの提案と、大都市東京における街づくりの先駆的なモデルの創出を目的に2009年にスタートし、今年6回目の開催となった(2011年は東日本大震災で開催を見合わせた)。

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「リトル・サン・ガーデン」 約1700個の太陽電池式ライトで光る花畑。詳細

東京・港区に位置する六本木(六本木アートナイト2015 全体マップ)は、六本木ヒルズや東京ミッドタウンに代表される商業施設や、美術館等(国立新美術館、森美術館、サントリー美術館、森アーツセンターギャラリー、21_21 DESIGN SIGHT、東京ミッドタウン・デザインハブ、フジフイルムスクエア、AXIS他)や、ホール等(サントリーホール、俳優座劇場、EX THEATER ROPPONGI、六本木ブルーシアター他)の文化施設が集積する一大繁華街。大使館や高級マンション、企業のオフィスも多数所在し、昔からの地元商店街や大学、テレビ局もある。

こうしたさまざまな顔を持つ六本木の街なかに、アート作品やデザイン、音楽、映像、パフォーマンス、ワークショップ、トークイベントなどを同時多発に点在させて、凝縮した非日常的な体験を提供するのがアートナイトである。訪れる人々が街を回遊することで、自然にアートに触れ、親しんでもらうという仕掛けだ。この時期は、六本木のいたるところにアートナイトのバナーが提げられ、地域をあげての催しとなっている。

今回2日間で展開されたプログラム数は約100。第1回は約50件だったので約2倍に増加した。一部のプログラムおよび美術館の企画展以外は基本的に無料で、のべ鑑賞者数は毎回70万~80万人にのぼる。

日本で一番終電を気にするのが東京人だが、いったいこの日はどうやって帰るのかと思う人もいるだろう。そこは行き届いていて、来場者の利便性を考え、都内9カ所に向けて深夜時間帯(23時~早朝)に無料のシャトルバスが運行される。開催日近くなると、公共交通機関に六本木アートナイトの深夜バス運行の告知が多数掲出される。

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無料シャトルバス

回を重ね、アートナイトは着々と進化している。たとえば今年は、新しい取り組みとしてコンピューターやテクノロジーを駆使した「メディアアート」を導入。この分野の最先端を走るライゾマティクス代表の齋藤精一さんをメディアアートディレクターに迎えて、これまでとはまた少し違う趣向で街なかにアートを展開し、観客とアートとの新たな出会いを探った。これは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて準備が進む「オリンピック文化プログラム」のコンテンツの実験という側面もあったようだ。また、六本木のいたるところで上演された「六本木アートナイトスイッチ」や、アートナイト初のガイドツアー「六本木アートナイトをもっと楽しむガイドツアー」(所要時間45分)など、これまで以上に"街なか展開"を意識したプログラムが増えたこともよかった。

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同時開催プログラム「イングレス 六本木アートナイト・スペシャル」 詳細

なぜ1夜限り?

そういえば、なぜ「一夜限り」のオールナイト・アートイベントなのだろう?

オールナイトのアートイベントといえば、フランスの首都パリで開催されている「ニュイ・ブランシュ(Nuit Blanche)※1」が思い出されるが、日本でも昔から全国各地で、夜を徹してのお祭や伝統行事が行われてきた。連日連夜続く祭りもたくさんあるので、オールナイトの文化催事はそれほど突飛な発想というわけでもない。しかし、大都会の街なかを広域に使った現代アートの祭となると、やはり話は別で、企画当初はかなりの挑戦だったはずだ。

※1:パリで毎年10月最初の土・日曜日にかけて開催される現代アートの祭典。街中でアート作品の展示やコンサート等のイベントをオールナイトで行う。市庁舎や広場、美術館、博物館、学校、歴史的建造物など公的な場所が、日没と同時に一般公開され、多くの美術館・博物館も無料で入場できる。2002年にパリ市長の提案でスタート。午前2時ごろまでは地下鉄全線が利用可能。夜通し利用できる路線もある。ニュイ・ブランシュは「徹夜をする、眠れない夜」の意。詳細(パリ市公式ウェブサイト

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コアタイムキックオフセレモニー

六本木アートナイト特別顧問・安藤忠雄さんは、初期の頃、「アートは眠らない。人間の感性も眠らない。日没から日の出まで、それは刺激を求め続けている。六本木アートナイトは、新しい文化を発信する試みである。このイベントは、きっと新たなる地平を切り拓くと信じている」と開催意義を表現した。夜だからこそ発揮される人間の感性、夜に花開くアート、というのは確かにありそうだ。

2013年からアートナイトのアーティスティックディレクターを務める日比野克彦さんは、J-WAVEラジオの番組(Arts Council Tokyo Creative File)でこう語っている。

「ここ15年くらい、瀬戸内の島々を巡りながら作品を観るとか、新潟の棚田の多い地域で古民家をステージに作品を鑑賞するというように、場所の持っている力、土地の魅力をアートで発信していこうという動きがある。では、東京の魅力って何? 六本木の魅力って何? と考えると、六本木はやっぱり夜の魔力、魅力、パワーだろうと。それとアートをつなげていこうというのが六本木アートナイト。多くの芸術祭は短くても1週間、長いと3カ月も開催している。でもアートナイトは一晩だけ。特に日の入りから日の出までという短い時間に、本当に一晩だけしかやらないの? というような贅沢なコンテンツがぎゅうっと濃縮されている。情報がカオスのように錯綜するなか、自分で取捨選択して、自分なりに街を編集して歩いて発信していく。それが都会の六本木ならではの魅せ方、アートナイトの一番の魅力ですね」

アーツカウンシル東京で広報を担当する森隆一郎さんは、「あれだけつくりこんで一晩で撤収する贅沢さと、それでも人が大勢集まって作品がしっかり鑑賞されるところは、東京だから成立することなのかもしれないですね。連日数えきれない数の催しがある東京では、観る側にとっても、一晩に集中しているほうが一度に体験できてかえってありがたいという側面もあるかと。そういう意味では"東京らしさ"の詰まった催しなのだなと再認識しました」と、"東京"をキーワードに、一夜限りであることの意味を分析してくれた。

一夜限りだからこそ、普段は無理だと思うようなことも可能になっている。深夜バスの運行、美術館の深夜開館、周辺商業施設や店舗の延長営業や各種サービス、膨大な数にのぼる関係者間の連携など。難しいことにも挑戦してよく運営しているなあと、素直に感心してしまう。

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六本木アートナイト2015オリジナルエコバッグ

十人十色のプログラム体験

10時間半の取材で大半のプログラムを体験したが、その多くに感じたのは、十人十色の鑑賞体験を提供するものだったこと。感じ方は参加者次第、きわめて自由だった。たとえば、今回初めて導入されたメディアアートは、コンピューターやテクノロジーを駆使して、観客が参加できる仕組み、人がつながるような仕組みを、できるだけ多く取り入れたという。確かにスマホなどを介して作品とつながることができるおもしろさを感じたが、そうして個々の参加性が高まっていくほどに、参加者の体験も個別化、多様化すると感じた。一つの芝居や映画を皆で同じ時に観るのとは、体験の質が違うはずだ。参加者からは、きっとさまざまなアートナイトの感想を聞くことができるだろう。

もちろん、六本木の深夜を堂々と楽しむ非日常感や、普段は味わえないであろう何かを期待しながら、春の夜風に吹かれてそぞろ歩くという、ごくベーシックな楽しみ方も味わうことができた。

いくつかのプログラムを写真で紹介したい。

アートトラックプロジェクト ハル号 アケボノ号

巨大ミラーボールを搭載して六本木の街を移動するアケボノ号(1枚目)と、来場者の投稿で反応する、人格を持ったハル号(2枚目)。特設サイトから投稿してみると、自分の言葉がハル号のディスプレイに流れていった。詳細

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リライトプロジェクト 

東日本大震災後に消灯した、六本木けやき坂に設置された宮島達男さんの作品「Counter Void」の再点灯を目指す。アートナイトでは、「3.11が ■■■■ ている」の■部分を鑑賞者に問う企画を実施。宮島さん自ら説明。詳細

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ズンマチャンゴのかけら箱(ズンマチャンゴ)

スピーディーな展開で"ごっこ遊び"の世界を繰り広げる、子供にも大人にも大人気のパフォーマンス。衣裳、セット、小物すべてがポップで、「カワイイ!」を連発して写メを撮る女子多数。詳細

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ダンス・トラック・プロジェクト

六本木ヒルズの広場に置かれたトラックでパフォーマンス。写真は鈴木ユキオさん。コンテンポラリーダンスを初めて観ていると思われる人たちの、ストレートで新鮮な感想が、あちこちから聞こえてきた。詳細

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六本木アートナイトスイッチ(スイッチ総研)

何気なく街中いたるところに置かれた仕掛け=スイッチを押すと、突然パフォーマンス=物語が始まり、30秒ほどすると何事もなかったかのような静寂が戻る。道行く人に大人気。土鍋の蓋を開けると始まるスイッチ(1枚目)、斧を手に取ると始まるスイッチ(2枚目)など。詳細

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武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ企画 山田太郎プロジェクト~六本木アートナイトスペシャル~

出会った人の顔を自分の顔にしてしまうパフォーマー"山田太郎"。仕掛けはシンプルで顔写真を撮ってタブレットに映す。あちこちに出没するたくさんの山田太郎は、ノンバーバルで外国人にも大人気。詳細

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六本木未来かるた大会 by 六本木未来会議

WEBマガジン「六本木未来会議」が作ったオリジナルかるたの配布と、かるた大会。終了時間の23時になっても順番待ちの長い列。詳細

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六本木アンビエント

電子音とダンスが重なり合う、アンビエント・アンサンブル。深夜1時の空気感になじんでいく。詳細

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Hello Lamp Post Tokyo(PAN Studio, Tom Armitage and Gyorgyi Galik)

ナンバリングされた電柱の下で、携帯から「hello[at]lamppost.tokyo」宛に「こんにちは 東京」とメッセージを送るとメールのやりとりが始まる。やりとりはかなり続く。いったいどんな仕掛け? 英国ブリストルでも話題のプロジェクト。詳細

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六本木演舞場(ろくほんもくやまいば)Vol.3

近藤良平さんを音頭取りに、アートナイト恒例の盆踊り。深夜3時に異様なまでのノリのよさで、熱く静かに盛り上がる。参加者はみな笑顔。詳細

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六本木が「目的地」になるために

六本木アートナイトが目指す理想像は、「東京の内外、日本国内外から六本木を訪れる人々の"主要なデスティネーション(目的地)"になり得るような、文化的な質と価値を創造すること」だという。2020年の東京オリンピック・パラリンピックが実現することで、この理想像も一気に現実味を帯びてきた。

そうなると、アートナイトの次なる挑戦は、日常的・恒常的にその目標を達成していくことである。つまり、東京を訪れる人々にとって六本木を「外すことのできない目的地」とするためには、アートナイト本番以外の、「363日間の日常の六本木」と、どう向き合っていくかが大事になってくるだろう。

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「願いのクリスタル花火」(チームラボ)

スマホで好きな花火を選び、願いを込めながら投げ込むと、光のクリスタルでできた立体花火があがる。詳細

既に多数の美術館やギャラリー、ホールなどが集積して、文化資源には事欠かない六本木のことだから、あと5年のうちに、きっとおもしろい動きがどんどん生まれてくるに違いない。

ちょっとだけ欲をいえば、地元の多様な文化資源とアートナイトとのコラボレーションが進むことにも期待している。さらに六本木らしい価値が創造されていくように思えるのだ。もともと港区は、地域に根差した文化活動がかなり盛んな土地だ。「六本木音頭」「六本木小唄」など、地域で伝承されてきたご当地盆踊りもある。店舗が互いにつながって地域を活性化しようと、約20年前からエリア一体で開催されてきた音楽イベントもある。国際交流団体や大使館の多さも、六本木の地域文化特性だ。こうした日常の六本木をよく知る団体との連携も、六本木アートナイトをより豊かにしてくれるのではないだろうか。アートナイト恒例の近藤良平さんの盆踊りと、六本木のご当地盆踊り継承団体がコラボしたら、かなりおもしろいだろうなと妄想は広がるのだった。

アートナイトのあけぼの

いったいどれだけの人が日の出の時間まで残るのかな?と思っていたが、クロージングイベントの会場には、朝の4時半にはすでに大勢の人が集まってきていた。その数ざっと2,000人くらいだろうか。アーティスティックディレクターの日比野克彦さんは、「ここ数年で最も多い」としきりに驚いていた。

コアタイムが終了する【日の出】の4 時56 分は、クロージングイベントで東京藝術大学の田上碧さんが独唱をしているさなかに迎えた。思っていたよりも普通に、日の出の瞬間が過ぎていった。

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取材を終えるころ、あたりはすっかり明るくなっていた。

「春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際 少し明かりて 紫だちたる雲の細くたなびきたる」─清少納言の1000年前と、春のあけぼのは少しも変わらぬ風情。ただ、六本木のアケボノは、山々ではなくて、そびえ立つビル群の際が、だんだんと白くまぶしく光っていった。

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「六本木アートナイト2015」概要

ウェブサイト:http://www.roppongiartnight.com/2015/

開催日:2015年4月25日(土)10:00~4月26日(日)18:00

 ※コアタイム 4月25日(土)18:22【日没】~4月26日(日)4:56【日の出】

開催場所:六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館、 21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館、六本木商店街、その他六本木地区の協力施設や公共スペース

入場料:無料 (一部のプログラムおよび美術館企画展は有料)

主催:東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、六本木アートナイト実行委員会 (国立新美術館、サントリー美術館、東京ミッドタウン、21_21 DESIGN SIGHT、森美術館、森ビル、六本木商店街振興組合。五十音順)

共催:港区

写真:鈴木穣蔵

ブログ取材・文:若林朋子

(2015年6月11日アーツカウンシル東京ブログ「見聞日常」より転載)