あらためて問う「教育委員会とは?」~「教育委員に情報提供しない事務局」問題

29年度に全国の小・中・高等学校で把握したいじめ、不登校ともに、過去最多となったことを文部科学省が発表しました。

昨29年度に全国の小・中・高等学校で把握したいじめ、不登校ともに、過去最多となったことを文部科学省が発表しました。

平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/10/1410392.htm

今から7年前の2011年、滋賀県大津市の中学校で発生した「大津市中2いじめ自殺事件」では、当初学校側がいじめはなかったとして隠蔽や責任逃れをしていました。その後、学校がいじめ行為についての情報を学校全体で共有し、有効な対策を取っていなかったとし、学校組織が有効に機能していなかった責任が問われました。さらには、教育委員会、特に教育委員会事務局の対応が不適切で、教育委員会は、地域住民からの信頼を大きく損ないました。また、この問題は数多く報道され、全国に「教育委員会ってなんなの?」という疑問を抱かせる契機となり、国は、教育委員会制度を改正し、教育委員会の審議を活性化できるようにしました。

しかし、いじめも含む様々な問題への対応について、学校や教育委員会の対応が問題視される事案がなくなっていない現状があります。

そこで今回は...そもそも「教育委員会制度」とはどういうものなのか? いじめ問題に限らず、その役割は果たされているのか? あらためて取り上げてみたいと思います。

教育委員会制度の特性(文部科学省)
教育委員会制度の特性(文部科学省)
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文部科学省:教育委員会制度について http://www.mext.go.jp/a_menu/chihou/05071301.htm

ご覧の通り、教育委員会制度では、上記の3つの特性が発揮されなければならないのです。特に3つめの「住民による意思決定(レイマンコントロール)」の仕組みが機能しているかどうかが極めて重要です。これがないと、教育委員会は地域住民から隔離された「密室」となってしまいます。

文部科学省の元事務次官であった前川喜平さんは、在任中に、映画「みんなの学校」の舞台となった大阪市立大空小学校の当時の校長・木村泰子さんから「学校は誰のものですか?」と質問された時に「地域住民のものです」と即答されたそうです。

学校は地域の核になるものです。広く地域住民の意向を反映した教育行政の実現にむけ、教育長、教育委員たちは密室でなく、住民に開かれた場での議論の下、合議制で決定していくことが不可欠です。それができなければ、教育委員会の意味が問われる大きな問題です。

文部科学省は、教育委員会の「問題点」と「問題点の要因として考えられるもの」として以下のように整理しています。

1.指摘されている問題点

  • 教育委員会は,事務局の提出する案を追認するだけで,実質的な意思決定を行っていない。
  • 教育委員会が地域住民の意向を十分に反映したものとなっておらず,教員など教育関係者の意向に沿って教育行政を行う傾向が強い。
  • 地域住民にとって,教育委員会はどのような役割を持っているのか,どのような活動を行っているのかが余り認知されていない。地域住民との接点がなく,住民から遠い存在となっている。
  • 国や都道府県の示す方向性に沿うことに集中し,それぞれの地域の実情に応じて施策を行う志向が必ずしも強くない。
  • 学校は,設置者である市町村ではなく,国や都道府県の方針を重視する傾向が強い。また,教職員の市町村に対する帰属意識が弱い。

問題点の要因として考えられるもの

教育委員会の組織・運営

  • 現在の教育委員会制度は,自治体の種類や規模等にかかわらずほぼ一律であり,地域の実情に応じた工夫ができない。
  • 教育委員会の意思決定の機会が,月1回程度,短時間開かれる会議のみであり,十分な議論がなされておらず,適時迅速な意思決定を行うことができない。
  • 教育委員に対して事務局から十分な情報が提供されない。また,教育委員が,学校など所管機関についての情報を得ていない。
  • 教育委員の人選に首長や議会が関心を持たない場合,適材が得られない。
  • 教育委員が職務を遂行する上で地域住民と接する機会が少なく,また委員会の広報活動や会議の公開も十分でない。

文部科学省:2.教育委員会の在り方 1 教育委員会制度の現状と課題 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1382466.htm

文京区でも、教育委員会定例会が開催されても、教育委員会事務局が提出する案を追認するだけというようにしか見えないということもあります。その背景には、教育委員に対して、事務局から十分な情報提供がなされておらず、教育委員が現状の施策に子どもや保護者がどう感じているのか、「実態を知らず、質疑ができない」ということがあるからだと思えてなりません。

地域住民の意向を反映できていないのも、同様の要因があります。

ある教育委員は、所属する教育委員会事務局から「個人的に住民と面会しないでほしい」と言われているそうです。住民が教育委員に学校等の実情を直接話したくても、その機会が奪われている現状があります。

文京区教育委員会では、住民から出された教育委員会への陳情について、「教育長においてその取扱いを検討し、その結果を付して委員に速やかに配布すること」と規定されています。

かつて、教育委員会に提出された陳情書の取り扱いをどのようにするか、教育委員会定例会で審議した際に、坪井節子教育委員が、上がってきた陳情が事務職レベルで処理されることを懸念し、次のように発言されています。

私どもが想定するに、陳情という形で一般の区民の方から出てくる場合に考えられるのは、学校においての何らかの対応についての疑問、不満、多くは教育委員会に対しての不満、不安、疑問、そうしたものが上げられてくるのだろうと思っております。もちろん、教育行政についてこういう形にしてほしいという前向きの陳情もあるけれども、いじめに対するこの対応についてはいかがなものかということで陳情が上がってくるということは十分考えられると思います。

しかも、例えば大津市の事件で、教育委員会に対する非常に大きな責任の追及がありました。これは、拝見している限り、どちらかというと、教育委員会という非常勤の委員会よりは、事務局の対応のまずさに対しての疑問や不安が大きかったと私は認識しています。したがって、そうした陳情が教育長のレベルで処理を決定するということになりますと、私ども非常勤の教育委員は、区民からどのような不安や疑問があったかということについて、それすら知る機会がなくなるという思いがあります。教育委員会に対してさまざまな陳情が行われているけれども、事務局のレベルで、これは陳情として取り上げる必要がないと判断されたとする。それが区民にとってみたら、教育委員会に対する苦情申立てかもわからないにもかかわらず、事務局で、これは必要ないと判断されたということになりますと、教育委員会は区民の苦情申立てについて何ら対応しないという形の批判が教育委員会に対して行われる。大津市と同じようなことが起きやしないかという不安があるわけです。

したがいまして、陳情に関して、教育長が取扱いに関してご判断いただくことは、事務上必要かと思いますが、よほど教育行政と全く関係ない陳情が教育委員会になされている、ほかの部署になされるべきであったということであれば別ですが、教育行政に関することで陳情がなされている以上、教育委員会にできるだけ公開されるべきだと思うのです。

「教育委員会定例会議事録・H26年5月13日より」

上記議事録の通り、坪井委員の意見があり、その後陳情書の取り扱いを規定したにもかかわらず、地域住民から提出された「陳情」について事務局レベルで処理をして、教育委員の「知る機会」を奪っている事実が発覚しました。

教育委員会事務局は、陳情があることを教育委員に一切知らせることなく、事務局で処理していたのです。その具体的事例のひとつが、下記に貼付した「根津・千駄木地域の中学校への特別支援学級設置に関する要望」です。

*①
*①

陳情書P2
陳情書P2

*②
*②

陳情書P4
陳情書P4

陳情書P5
陳情書P5

もう一度書きますが、上記の回答に至るまで、教育委員会事務局は、陳情があることを教育委員に一切知らせることもなく、教育委員会で合議することもなく、事務局で処理していたのです。

なぜ、そのようなことを行ったのか?

決算委員会で、前田くにひろ議員が指摘したところ、教育委員会事務局は、「教育長宛に出されただけで教育委員の名前はなかったので、教育委員会に出された陳情ではないと判断したので教育長が回答した」といった答弁をしています。

陳情ではない? ご覧ください。①にあるように「『陳情』がありましたので報告します」と書かれています。②には、「『陳情』について別紙のとおり、回答・報告します」と書かれています。つまり、「陳情」なのです。

教育委員会として規定した「陳情の取扱い」に沿って処理をすれば、当然、教育委員会定例会で、教育委員に対して、陳情書と、陳情書に対しての教育長の意見、つまり「回答案」を配布し、合議制である委員会で審議し、委員会で決定するものでなければなりません。

ちなみに、文京区議会に対しての陳情は「●●議長」宛に出してもらうことになっていますし、区議会が国や都に出す要望書、意見書等も、宛名は、所管の長宛に出します。

「教育長」宛であって、「教育委員会に宛てた陳情とは判断しなかった」というのは通常では通用しないことです。

いまだに、教育委員のみなさんは、教育委員会に出された陳情を読んだこともなく、回答されていることすらも知らない可能性が高いのです。

ここで、前半に紹介した、文科省が整理した『教育委員会の「問題点」と「問題点の要因として考えられるもの」』を思い返してみてください。

「教育委員会が地域住民の意向を十分に反映したものとなっていない」問題と、その要因のひとつとして「教育委員に対して事務局から十分な情報が提供されない」こと。

そっくりそのまま文京区教育委員会の問題としても当てはまっていませんか?

つまり、文科省も憂慮している教育委員会の問題点を、そのまま抱えているのが今の文京区教育委員会であると言っても過言ではないのです。他の自治体にもあり得ることだと思います。

ちなみにこの陳情書を公開したのは、具体的事例として、教育委員会事務局の不適切な取扱いを指摘するためだけではありません。

結果的に不利益を被って、今なお苦しんでおられるのは、当事者である児童たちとその保護者の方々です。

「地域から離れた特別支援学級ではなく、自宅近くの中学校に進学させたいので、特別支援学級を新設してほしい」。それは、当たり前の願いです。けして贅沢な願いではありません。

そうした当たり前の願いを文京区教育委員会は、「新設できない理由」が何一つないにも関わらず、対応しません。

この対応が理不尽である客観的な根拠については、前回のブログで詳しく書きましたので是非ご一読ください。 http://a-kaizu.net/blog/archives/834

つまり、この何としても理解しがたい理不尽な文京区教育委員会の対応を調べていったら、実は、教育委員会にも諮られておらず、教育委員にも知らされず、回答されていた、というずさんな事実が浮かび上がってきたわけです。

文科省は、「教育委員会制度の今日における意義・役割」の「教育に求められる要件」の中で、次のように明記しています。

地域住民の意向の反映

教育は,地域住民にとって身近で関心の高い行政分野であり,また,特定の見方や教育理論の過度の重視など偏りが生じないようにする必要があることから,専門家のみが担うのではなく,広く地域住民の意向を踏まえて行われることが必要である。

「広く地域住民の意向を踏まえて行われる」ためにも、陳情等の制度があり、多様な属性・知見を有した教育委員が任命されているわけです。また、「合議制」により、様々な意見や立場を集約した中立的な意思決定を行うのが教育委員会です。

今回指摘した、文京区教育委員会の対応は、この原理原則にまったく沿っておらず、その意義・役割を果たしていない上に、機能不全に陥って形骸化しているとさえ感じます。

結果として損なわれているのは「子どもたちの最善の利益」です。

みなさんはどう思われますか?

先に上げた、「住民による意思決定(レイマンコントロール)」の立て直しのためにも、地域住民のみなさんのチェックと意見が重要です。

是非、ご意見をお聞かせください。

議会として引き続き、丁寧にチェックをし、改善を求めていきます。

陳情書
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