文京区教育委員会による「障害児・家庭いじめ」と言える客観的な理由~「地域の学校に特別支援学級を設置して」請願を固辞

「障害」は子どもの中にあるのではなく教育委員会の側にある

◆ いじめの定義は?

いじめとは、

自分より弱い者に対して、一方的に身体的・心理的攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの

と定義されています。

地域の学校への入学を希望している児童がいます...障害の有無にかかわらず当たり前に保障されるべきことです。

子どもが地域の学校に通えるような環境を、できない理由がないにもかかわらず整備しない教育委員会があるとすれば、それは教育委員会による、子ども・家庭へのいじめだと私は思います。

◆ 障害者権利条約や文京区のインクルーシブ教育推進の方針に照らしても?

地域から離れた特別支援学級ではなく、自宅近くの中学校に進学させたいので、特別支援学級を新設してほしい」。それは、当たり前の願いです。けして贅沢な願いではありません。

そうした当たり前の願いを文京区教育委員会は、「新設できない理由」が何一つないにも関わらず、対応しません

日本が批准している 障害者権利条約「第24条 教育」の中では

「生活する地域社会において」「効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること」ができる権利

が明記されています。

つまり、地域の中学校に、子どもに必要な特別支援学級を開設してほしいという要望は、わがままではなく、当たり前に保障されている権利であり、自治体は応じなければならないことです。

文京区教育委員会は、区内の6年生少なくとも2名の児童が、来年4月根津・千駄木地域の中学校に特別支援学級を必要としているニーズがあることを把握しています。それでも、学校環境を整備しません。

予算、教室の確保、教員の確保、地域等からの反対、といった特別支援学級の開設に向けてハードルとなる問題は、一切ないのです。

むしろ地域からは、障害の有無にかかわらず誰にも居場所があるまちづくりを推進している観点から、特別支援学級が地元の中学に開設されることを願い、要望書を区に出されているほどです。

文京区が推進している「すべての子どもができるだけ同じ場で共に学び共に育つ"インクルーシブ教育"」に照らしても、対応しない理由はありません

◆ 文科省の「特別支援教育の在り方」からもアウト

ましてや、文部科学省は特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告の中で、次のように示しています。

通級による指導、特別支援学級、特別支援学校の設置は、子ども一人一人の学習権を保障する観点から多様な学びの場の確保のための「基礎的環境整備」として行われているものである。

「障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325887.htm

特別な措置ではなく、「基礎」なのです。

◆ 「障害」は子どもの中にあるのではなく教育委員会の側にある

保護者の方たちは「開設できない理由がない」のに、当たり前の願いが聞き入れられないことで、相当な苦痛を感じています。障害のない子を育てる中であれば、地域の学校に通えないなど意識することもなく、体験しなくても良い困難を教育委員会から強いられていることに怒りと深い悲しみを抱いています

障害のある子を育てることの大変さが、子どもの中にあるのではなく、教育委員会が「障害」となり心労を伴う子育てとなる典型です。

障害者権利条約に基づいて速やかに対応すべきところ、文京区教育委員会が、障害のある子どもや家庭に深刻な苦痛を与えている現状は、私が、まさに教育委員会による「いじめ」と言っても過言ではないと苦言を呈さざるを得ない客観的状況が揃っているのです。

◆ 区議会を軽視する教育委員会

文京区議会は、昨年2月、文京区根津・千駄木地区にお住いの障害のあるお子さんの保護者等の方々から提出された、「根津・千駄木地域の中学校への特別支援学級設置に関する請願」を審議し、障害者権利条約、障害者差別解消法の理念からも当然のことであるとして、本会議で採択しています。

教育委員会は、議会の採択は重く受け止めるとし、当事者の切実な要望を知りながらも、それでも頑なに動きません。

今年度4月に開設できたにもかかわらず見送りました。しかも、来年4月の開設もしません

以下は、先週から始まった9月議会で萬立幹夫議員、渡辺まさし議員が、根津・千駄木地域の中学校に特別支援学級を開設する重要性について質問したことへの教育長答弁の要旨です。

<教育長答弁>

中学校の特別支援学級については、現在、地域バランスに配慮し3校に設置しております。この間、各校2学級編成、教育3名配置を維持してまいりましたが、近年の在籍者数は増加傾向にはなく、本年4月の新入生が0となった学校もある状況です。

こうしたことから、新たな特別支援学級の設置については、平成31年4月の中学校特別支援学級への入学状況及び、学級数や教員配置数の変動も踏まえ、入学する生徒や保護者、地域の方々の意見を伺いながら、平成32年度に向けて、引き続き検討してまいります。

◆ 障害児だけ差別する学校整備方針

上記の答弁に見られる「地域バランスに配慮し」とはいったいなんでしょうか?

「地理的なバランスを考慮し、文京区全域の中でおおむねどこからでも通える3校に設置している」と、解釈する方もいらっしゃるかも知れません。しかし、これはおかしなことです。障害がない子どもであれば、誰もが地域の学校に通えるのに、なぜ、障害があることで「バランス」を持ち出され地域の学校に通うことができないのでしょうか。

そもそも文京区では、区内10校の区立中学校を自由に選択できる自由選択制となっています。

教育委員会は、中学校の通常学級は各学年3学級を目指していますが実際には単学級もあり、全校生徒が「54人~331人(5月1日現在)」と、学校によって大きく偏っています。それでも3学級にするために地域バランス(地理的バランス)に配慮して統廃合することはありません。つまり、障害のない子どもたちには「バランス」という言葉は使わないのです。

全校生徒が54人の小規模校でも、331人の大規模校でも、ともに維持して行く方針であるのならば、新入生がゼロになった地域の特別支援学級もあるから、根津・千駄木地域に特別支援学級を開設しなくて良いという理由は矛盾しています。根津・千駄木地域に開設してほしいというニーズに対する答えになっていないのです。

いっぽうで文京区の小学校は自由選択制ではなく学区域制です。

これについて文京区教育委員会は、住居で定められている通学区域外の他の公立小学校への入学を希望する家庭に対して、地域の学校に入学しないと「多くの点で児童に好ましくない影響がある」として、以下のように説明しています。

地域の学校に入学しないと「多くの点で児童に好ましくない影響がある」

  • 通学距離が長くなり、通学時間もかかり、児童の負担となる
  • 現在の交通事情から、通学途上の危険性が大きく、事故が起きた際に問題が複雑化する
  • 地震などの災害時に、家庭まで安全に帰宅できるか問題がある
  • 近所の友だちとの交流や地元の行事等への参加が希薄になる
  • 日常のことで、学校と家庭、地域の連携が不十分になる

これらに照らして考えると、障害のある子どもが地域外の小中学校に通うケースについても、障害があるがゆえに、通学途上の危険性はさらに大きく、災害時のこともより心配になります。地域共生社会の構築のためにも、障害のある子が地元の行事等へ参加し、日常的に地域の一員としてかかわっていくことはとても大切なことです。

ところが、文京区教育委員会にかぎりませんが、「障害のある子どもは、地域の学校に通えなくて当たりまえ。それが、障害のある子を育てる家庭の宿命(さだめ)です。」といった風潮さえあります。これもある意味、障害のある家庭に対しての社会からのいじめに映ります。

本来は、地域の小中学校すべてに特別支援学級を設置し、特別支援学級を選択しても地域の学校に通える環境を整備すべきです。

◆ 教育基本法と矛盾する教育委員会の差別意識

文京区教育委員会は、教育基本法に定められている教育の機会均等からも、地域の学校で「その能力に応じる教育を受ける機会」を与えるためにも、本来であれば来年4月に開設すべきことを、実は、わかっているように感じます。

<教育基本法>

第3条 (教育の機会均等) すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

ではなぜ、かたくなに、文京区教育委員会が開設に踏み切らないのか?

不思議でなりませんでした。

そこには、差別的な考え方がベースにあることが見えて来ました。

教育委員会は、「保護者や地域から特別支援学級を開設して欲しいという要望をすんなり受けて設置し続けたら全校につくらなくてはいけなくなる」「そんなことになったら大変だ」という心配をもっていました。全校設置にならないように「要望を無視する」「先延ばしにする」という選択をしてきています。教育委員会にいる職員は、こんな仕事の仕方に胸を張れるのでしょうか。

議員の一部には、教育委員会のそうした心配に「確かに大変だ」「やすやすと開設できないのを見せていかなくてはいけない」と賛同する人たちが残念ながらいます。自分が、障害者権利条約等で守られている権利を侵害していること、障害の有無で差別していることに気が付いていないのです。

改めて書きますが、障害の有無にかかわらず、基本的に地域で教育を受けられるように環境を整備するのは教育委員会の重要な仕事です。

「ニーズ通りに開設などしていたら、全校に配置を求められることになり。大変なことになる」という差別的な考えで、「来年の4月には地域の中学の特別支援学級に進学したい」という目の前にあるニーズを無視し、地域以外の特別支援学級か、地域の通常学級かの二者択一を迫る対応は、障害のある子、家庭に対してのいじめという以外に何があるでしょうか。

◆ 2年前に公立小中学校の100%に特別支援学級を設置完了した横浜市

公立小中学校に特別支援学級を100%設置することを2年前に完了した自治体があります。横浜市です。

一人でも特別支援学級の開設を望む子ども・家庭がいれば新設してきた結果、2年前には小学校340校・中学校145校のすべてに特別支援学級を設置完了しています。

なぜ、横浜市教育委員会が100%設置できたのか、取材しました。

保護者から就学の相談を受けた折に、地域から離れた特別支援学校ではなく『地域の学校がいい』のではないかとアドバイスすることがあり、すすめる限りは地域の学校に特別支援学級を設置し、地域で学べる環境を整備するのは、教育行政として当たり前の努めです。

また、保護者が特別支援学校ではなく地域の学校に通わせたいという思いを最大限に尊重していく上でも、特別支援学級を設置し選択肢を増やすのは自然の流れです。障害児家庭のニーズを大切にしてきたら100%設置となりました。

このように「当たり前」「自然な流れ」とおっしゃる横浜市教育委員会のお話をお聞きして、ますます文京区教育委員会への不信がつのります。

同じ地方自治体なのに、どうしてこうも違うのでしょうか?

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地域の学校に通いたい。地域とのつながりの中で子どもに育ってほしい。

繰り返しになりますが、こうした願いはしごく当たり前のことで、誰もそれを阻害してはならないのです。

ましてや、共生社会を担っていく子どもたちを育てていくべき教育委員会が、「今」目の前にあるニーズに対して「やらない理由」を上げ連ねることに時間を注ぐような不毛な労力をかけているのは、「いじめ」や「差別」を自ら犯していることに等しく、自己の存在意義を自ら否定しているようなものであり、速やかに来年4月の開設を目指すべきなのは明らかです。

"文の京"を教育日本一に」と掲げて2007年に初当選した成澤区長は、近年ではSDGs(持続可能な開発目標)を重視して「誰も排除せず置き去りにしない」理念を大切にされています。

このままでは、「文京区は掛け声だけのパフォーマンス」と見られてしまいます。区長には、ぜひ強いリーダーシップをもって、地域の学校に特別支援学級開設の要望があれば速やかに設置を進めていただきたいと切に願います。

Photo AC

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