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2015年04月06日 17時05分 JST | 更新 2015年06月05日 18時12分 JST

【第2回】海外の薬物対策で採用される「ハーム・リダクション」

諸外国の中には、薬物に対し、真正面から撲滅を目指して徹底抗戦するのではなく、カナダ、オランダ、ニュージーランドなどのように、「ハーム・リダクション」という考え方に則り、ある種の共棲を目指す国もある。

新著『危険ドラッグ 半グレの闇稼業』(角川新書)では、海外の「危険ドラッグ」についても章を割いている。(国際的には、NPS、New Psychoactive Substances:新精神作用物質という呼称が一般的である)

諸外国の中には、薬物に対し、真正面から撲滅を目指して徹底抗戦するのではなく、カナダ、オランダ、ニュージーランドなどのように、「ハーム・リダクション」という考え方に則り、ある種の共棲を目指す国もある。

ハーム・リダクションとは、たとえば注射の使い回しなどの行為が原因となる健康被害を、その行為をなくしたりすることで予防し、軽減することを意味する。

ハーム・リダクションの主眼は薬物の取り締まりにはなく、人体への悪影響を軽減化することにある。

例えば、カナダのバンクーバー市には「インサイト」という公営施設があり、そこでは清潔な注射針、シリンジ(注射筒、いわゆるポンプ)、酒精綿などが調えられ、医師も待機する。薬物使用者はここで違法薬物を含めて安全に体内摂取できるという。

薬物依存症の者は短期、急激に薬物使用を打ち切ることはできない、強制的にも止めさせられない、であるなら、せめて使用に際して安全性を向上させ、死亡やHIV感染、オーバードース(過剰摂取)などの事故を減少させたいと願う。

行政がしっかり管理できる施設にのみ一定条件下でソフトドラッグ販売を許可し、ソフトドラッグ市場とハードドラッグ市場を完全に分離し、ハードドラッグが入ってこないようにソフトドラッグ市場を限定して厳格に管理した方が薬物による害は少なくなるという考えである。

(参考:http://edition.cnn.com/2013/04/11/world/americas/wus-canada-drug-safe-havenhttp://powerless.cocolog-nifty.com/alcoholic/2013/04/post-d021.htmlにて上記の記事の日本語の要約も紹介されている)

新著ではこのハーム・リダクションの提唱者であり、薬物問題の第一人者であるウォダック教授の講演に参加し、そこで直接聞いた話も紹介している。日本ではなかなか紹介されない興味深い議論であり、特に医療的な方面で薬物問題に関心がある方はぜひ目を通していただきたい。

壊滅する流通網

しかしながら、日本社会には諸外国ほど薬物は浸透していない。国立精神・神経センター精神保健研究所「薬物使用に関する全国調査」によれば、2013年、日本人の違法薬物生涯経験率は有機溶剤1.9%、大麻1.1%、覚せい剤0.5%、脱法ドラッグ0.4%、MDMA0.3%、コカイン0.1%にすぎない。

これに対して諸外国の違法薬物生涯経験率はアメリカ40%、イギリス31%、ドイツ25%、フランス23%、イタリア22%、オランダ21%、スウェーデン14%と、日本とは一ケタ違う。日本は世界的に見て薬物対策が成功している国といえる。

危険ドラッグに対しても、2014年下半期以降、対策は急激に進んでいる。

一時期「安全」「合法」「手軽」という印象を持たれていた危険ドラッグは、警察、厚労省麻薬取締部などの公的機関の尽力により、そのイメージを払拭している。特に危険ドラッグを扱う販売店は東京では0軒(深夜営業の店は2軒、2015年2月現在)など、店頭販売はほぼ不可能になった。ネットでも堂々と販売しているサイトはなくなり、決して簡単に手に入るものではなくなっている。

そして、「指定物質」(薬事法で定められた有害性が疑われる化学物質)、それと類似するものと疑われる化学物質の輸入を食い止める水際対策も進んでおり、関連する法律も早ければ今月施行される。

そして報道によれば、15都府県が独自に危険ドラッグ条例を制定し、さらに9道県が制定準備中という。厚労省が旧薬事法などで種々の規制を加えている中で屋上屋を架す思いもするが、都道府県もそれだけ危険ドラッグ対策に本腰を入れていることを示したいわけだろう。

危険ドラッグ販売店への立ち入り検査を間近に見せてもらう機会を得たとき、麻取関係者は「日本は世界で初めて危険ドラッグに勝利する国になるのではないか、という予感がある」と漏らしていた。

「俺たちは法に触れないものを売りたいだけ」と話す半グレが中心の製造・販売業者たちの中で、危険ドラッグに拘泥する人間は少数であり、危険ドラッグを見限る日も決して絵空事ではないだろう。だが、危険ドラッグを撲滅しようとも、危険ドラッグに関わるような人間たちはその後も存在しつづける。そして、彼らがさしたる悪意もなく行ったことが、社会に深い傷跡を残していくのである。