女性起業家は新生ミャンマーで何を想うのか①

女性を経済的にサポートすることは、世界を変えるはず。

2016年3月18日〜19日、ミャンマー商務省貿易トレーニング機関の会議室には、ミャンマー国内で活躍する30人ほどの女性社会起業家たちが集まった。

昨年11月8日に行われた総選挙で、当時野党であったアウン・サン・スー・チー党首の国民民主連盟(NLD)が勝利したことを受けて、新政権の体制づくりが進んでいるミャンマー。軍の政治支配が続いた後、約半世紀ぶりに文民政権が誕生するという大きな節目を迎えるミャンマーで、社会的インパクトも目指して事業を構築する女性起業家たちは何を思うのだろうか。

©Akiko Terai for AWSEN

シリアルアントレプレナーとして化粧品販売から旅行業、ハンドクラフトなど多種にわたる事業を展開し、起業家たちを支援するNGOも創設しているチチさん。今回のイベントを取り仕切った。

女性を経済的にサポートすることは、世界を変えるはず

30人ほどの女性たちが集まったのは、「アジア女性社会起業家ネットワーク会議ミャンマーワークショップ」。ヤンゴン在住の起業家以外にも、ネピドー管区、パゴー管区、カチン州、モン州など遠方から参加した起業家たちもいた。

ミャンマー商務省貿易トレーニング機関の会議室にて行われたワークショップでは、「ミャンマーにおける女性社会起業家の実情と課題」「ミャンマーの女性社会起業家のためのよりよい環境づくり」「女性起業家の支援体制」「手工芸品・織物マーケティングについて」と題したセッションが設けられた。

このワークショップは、アジア女性社会起業家ネットワーク(以下、AWSEN)が2015年からバンコクで開催している国際会議に参加した女性起業家らが中心となり、バンコクでの学びの共有とともに、ミャンマーの女性起業家たちの課題意識やノウハウ共有を行うことを目的として開催された。

ミャンマー政府が2014年に発表したデータによると、ミャンマーの人口は約5000万人を越え、近年の経済成長は8.5% 。ASEANにおける次の大きなマーケットとして期待が高まる国でもある。また、近年の政治・経済改革により、欧米諸国による経済制裁が解除され(米国は2012年11月、EUは2013年4月に経済制裁を解除)、外資の投入による急激な経済成長も見込まれている。

一方で、ミャンマー国内には少数民族も含めると100を越える民族が存在していると言われ、急激な経済成長の中で、多様な民族や文化をどのように守りながら経済成長を進めていくのか、想定される貧困格差にどのように対応するのかということは、女性起業家たちが直面する1つの社会課題とも言える。

「女性を経済的にサポートすることは、 世界を変えるはずです。自分が強くないと、 家族もコミュニティを助けることもできません」と話すのは、2015年9月に日本で開催された新興女性企業家フォーラムに参加したキン・ティモーさんだ。彼女は、今回開催されたワークショップでも会議をリードする存在だ。

ミャンマーの女性社会起業家たちの作る商品

新政権への期待

女性社会起業家たちの活動は、近年始まったものではない。今回のワークショップ開催の取りまとめをしてきたチチ・ニェンさんは、次のように話す。

「多くの女性たちが、これまでも様々な社会課題に取り組んできました。障害者や女性に関わる問題や、教育や雇用機会の提供、文化や環境の保護などに対して、イノベーティブなビジネスの方法論を用いた取り組みが進んでいます」。

一方で、こうした女性たちの取組みは、ミャンマー国内でもあまり知られてこなかった。また、「社会起業家」という概念は、ミャンマーではまだまだ新しい概念であり、認知されていないのが現状である。2013年のブリティッシュ・カウンシルの報告書によると、社会的事業を「非政府組織(NGO)」や「協会(Association)」の形態で、インフォーマルに行っている組織が多く、彼らは自らの行っていることを社会企業という認識をしていない。加えて、これまでNGOとしての登記が難しかったことから、登記法人すらも持たずに活動してきた組織も見受けられるのが現状である。

ミャンマーのワークショップでの様子

こうした中で、2日間にわたり行われたワークショップにはミャンマー商務省の職員も立寄り、「ミャンマー国内で、社会課題解決のためのソーシャルビジネスが展開されていることを始めて知った」などという声も聞かれた。

行政能力に対して不安の声も聞かれる新政権。民主化が進む一方で、女性たちのこれまで営んできた社会課題解決を目的とする事業が認知され、政府によるサポートが開始されることへの期待と必要性は高まっている。先述のチチさんはこう話す。

「新政権が、女性社会起業家に対する支援を提供してくれることに期待しています。ミャンマーでは、女性社会起業家が今後更に大きな役割を担っていくだろうと信じています」。

(文・アジア女性社会起業家ネットワーク・一般社団法人 re:terra 渡邉さやか)

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