「焼き肉食べながら女性の尻をツンツン」 そんな"ちょいワルジジ" には正直ドン引きします

牛肉の部位を説明するのに乗じて、女性の体を「ツンツン」できる。そんな『ちょいワルジジ』を、“かっこいい”シニア世代の理想像として提案するなんて、絶対にやめてほしい。

「ちょいワルオヤジ」の生みの親として知られる編集者の岸田一郎さんが、シニア向けライフスタイル雑誌『GG』を6月24日に創刊する

中年向け男性ファッション誌『LEON』の編集長を務めた岸田さんは、「ちょいワル」といった男性の新しいライフスタイルの潮流を作ってきた人物だ。『GG』では「金は遺すな、自分で使え」というコンセプトのもと、50〜60代の男性向けのファッショングッズやライフスタイルなどを提案していくという。

これから日本が本格的な高齢化社会を迎える中、シニア世代が起業やNPO支援をするなど、「アクティブ」であることは良いことだと思う。しかし、NEWSポストセブンに掲載された岸田さんのインタビューには、“引いて”しまった。

■“美術館で薀蓄” ”お尻をツンツン”がシニアの理想像?

創刊号の表紙イメージ

6月10日に掲載されたインタビュー記事『「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ』で岸田さんは、創刊号の特集「きっかけは美術館」を紹介するとともに、ひとりで美術館に訪れる女性へのアプローチの仕方などを以下のように教示している。

まずは行きたい美術館の、そのときに公開されている作品や画家に関する蘊蓄を頭に叩き込んでおくこと。

熱心に鑑賞している女性がいたら、さりげなく「この画家は長い不遇時代があったんですよ」などと、ガイドのように次々と知識を披露する。そんな「アートジジ」になりきれば、自然と会話が生まれます。美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が訪れていることが多いので、特に狙い目です。

「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ - NEWSポストセブンより 2017/06/10 16:00)

ここまでは“場違いなナンパ師”の範囲内で収まるかもしれない。岸田さんのインタビューで最も疑問に感じたのは、焼き肉を女性と食べに行ったことを想定し、次のように発言したことだ。

牛肉の部位を覚えておくのもかなり効果的。たとえば一緒に焼き肉を食べに行ったとき「ミスジってどこ?」と聞かれたら、「キミだったらこの辺かな」と肩の後ろあたりをツンツン。「イチボは?」と聞かれたらしめたもの。お尻をツンツンできますから(笑い)。

「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ - NEWSポストセブンより 2017/06/10 16:00)

牛肉の部位を説明するのに乗じて、女性の体を「ツンツン」できる。このくだりで引いてしまった。そんな『ちょいワルジジ』を、“かっこいい”シニア世代の理想像として提案するなんて、絶対にやめてほしいと思った。

■『お尻をツンツンできる』という表現は、アウトなのか?

女性への差別や性暴力などの防止に取り組む「ちゃぶ台女子アクション」の大澤祥子さんによると、日本は「ボディタッチ」を単なるコミュニケーションの一環とみなす風潮がある。欧米ではセクハラの基準となることも、仕事場で「フレンドリーな会話」などと片付けられたり、「減るもんじゃないんだから」と軽視されることがある。岸田氏の発言からも、そんな風潮がみてとれる。

「同意なく体を触られると女性は不愉快に感じますし、尊厳を傷つけられます。そういったセクハラまがいの性的な触り方を、コミュニケーションの一貫として軽々しく伝えるということに問題を感じます。女性を性的な客体として扱い、性暴力を助長するような発言でもあると捉えられます」(大澤祥子さん)

ネットが普及した現代は、多様な読者がいつでも情報にアクセスできる時代だ。誰でも見ることができるネット上にこのような記事が掲載されることには、いささか危うさを感じる。

しかし、岸田さんの提唱する理想の『ちょいワルジジ』は、雑誌の固有読者に向けたメッセージという一面もある。

この記事を読んだ見解を弁護士の緑川由香さんに聞くと、「価値観の多様性を認めることが、自由な発言を制限する方向に働くことに対しては慎重でいたい」とのコメントを寄せてくれた。表現の自由を守るためには、言論を封じるという手段ではなく、議論を進めていくことが大事だという。

「表現の自由は憲法が保障する重要な人権です。受け手に不快感を与えないように表現に配慮するという作法は大切だと思いますが、他方において、異なる価値観を持つ人の意見表明自体を封じようとするのではなく、価値観が異なる人たちが自由に意見を述べ合い、議論をするなかで、相互理解が進んで行くことが重要だと思います」(緑川由香さん)

■美術館関係者「女性には安心して来ていただきたい」

この記事をめぐっては、『ボディタッチ』のくだりの他にも、美術館をナンパ場所の「狙い目」として勧める発言にも違和感があった。

もちろん美術館がコミュニケーションの場になることもある。例えば、東京都写真美術館が6月に学生から大人まで参加できるワークショップを実施するなど、参加者同士の交流が生まれるイベントを開催する美術館も多い。

しかし、美術館を「知的女子や不思議ちゃん系女子が多い」場所として、「狙い目」のナンパ場所と位置づけることは、美術館を好きな女性はもちろん、男性にとっても残念に感じられるのではないだろうか。

今回の岸田さんのインタビューについて、美術館関係者に見解を聞くと、「実情とはかけ離れている気がします」と語ってくれた。この関係者が勤める美術館では、これまでに「しつこいナンパ行為」によってトラブルが起きたという事例はないという。

「監視員がいる中で、しつこいナンパ・声がけをするといった目立った行動はできないと思います。明らかに女性が嫌がっていたりすると、監視員がしっかり声をかけるようにしています。監視員はしっかり見ているので、怪しい行動をしている人をちゃんと見ていますから。例えば、写真を撮影しているのに、カメラが美術作品ではなく客を向いているなど様子がおかしかったら、注視するようにしていますので、女性には安心して来ていただきたいなと思います」(美術館関係者)

本来アート作品を楽しむ場であるべき美術館に対して、「出会いの場」としてフォーカスを当てること。そして、その場のノリに応じたボディタッチを“たいしたことではない”ととらわれかねないニュアンスで、モテのテクニックとして吹聴すること。リアリティーに欠いており、今の時代にそぐわないシニア男性の理想像のように見えるが、『GG』のターゲット層である50〜60代の男性たちはどう感じるのだろうか。

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