赤坂見附の悪夢 私の強制わいせつ被害体験【これでいいの20代?】

もう赤坂見附を離れたい、もうその人に二度と会いたくない、泣きながら神様に祈った
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私の本当の名前は鈴木綾ではない。

かっこいいペンネームを考えようと思ったけど、ごく普通のありふれた名前にした。

22歳の上京、シェアハウス暮らし、彼氏との関係、働く女性の話。この連載で紹介する話はすべて実話にもとづいている。

個人が特定されるのを避けるため、小説として書いた。

もしかしたら、あなたも同じような経験を目の当たりにしたかもしれない。

ありふれた女性の、ちょっと変わった人生経験を書いてみた。

◇◇◇

日本のおじさんたちはみんな「ゾンビ」だとようやくわかったけど、それでも仕事上で付き合わなければならない。

仕事で50歳くらいのとある国会議員の秘書に出会った。出会った当時私は仕事でよく永田町に行っていたけど、なぜかいつも彼にばったり会っていた。おじさんたちのことをちゃんとわかっていなかった新入社員の私は、無差別に様々な人と仲良くしようと思っていたので、この秘書に会うたびに丁寧に挨拶をして、少し立ち話をした。

会ってから数ヶ月が経った頃、この人と赤坂見附のカジュアルなイタリア料理屋さんで一緒に軽い食事をすることになった。私は政治に興味があったので政治を勉強するいいチャンスになると思って誘いを受けた。この男性は定期的に記者や官僚が集まるワイン会を開いていてそれもちょっと興味があった。

料理をつまみながら政治と彼のキャリアについて話を聞いた。小泉内閣のときに仕事で関わりがあった彼は小泉元総理を高く評価した。会話はそんなにつまらなくも面白くもなかったけど、私はお店の雰囲気がとても気に入ったので時間がすぐ経った。野菜のココットの味を今でも覚えている。

今思えば私はそのとき、危険信号に気づいていればよかった。例えば、「東京を案内してあげるよ。車あるし。きみ、車ないでしょ」と何回も彼に言われた。東京出身じゃない私に会うと必ずみんなが「案内してあげる」と言ってくれたから、そんなに変だと思わなかった。いつもと同じように「ありがとうございます。とてもうれしいです。最近はとても忙しいので、少し落ち着いてからにしましょう」と答えた。

それから2週間後、秘書からまた誘いがあった。

「知り合いと食事会をするけど、綾も来ない?」

誘われた日はちょうど空いていたからいいか、と思って招待を受けた。場所は赤坂見附のお店だった。

食事会当日、私は仕事が忙しくて、スタート時間の7時ちょうど過ぎにお店に着いた。お店のお姉さんについて奥の個室まで入った。薄暗い個室に、秘書を含め、おじさんが6人座っていた。

秘書がすぐ立ち上がった。

「綾さん!よく来てくれた!場所わかった?みんな、綾さんを紹介します」

みんなと名刺交換した。電通やキッコーマン、一流大手企業の人ばかり。

人は職歴がピカピカなほどつまらないというのはよくあるけど、その日の集まりも例外じゃなかった。社会勉強だ、東京のエリートとはどういう人かを見るチャンスだ、とポジティブに考えようとしたけど、おじさんたちと飲んだり食べたりしているうちにだんだんと気分が悪くなってきた。シモネタを聞かされ、彼氏いるのか、どんな人なのかと質問攻めにされ、どうせこの年齢だともう役員になるのは無理だろうと思わせる彼らと3時間も付き合わされた。

私はどうして断らなかったのか、とここで突っ込みたい読者がいるだろう。理由は簡単、仕事だから。何千回もこういう飲み会に参加しておじさんのつまらないジョークを聞いてあげたから得られた情報、ビジネスチャンスがたくさんあった。多くの働いている若い女性も似たような経験をしたことがたくさんあると思う。だけど、違う見方をすれば、おじさんたちが食事会に来る女性たちに求めているのはマジでソフト売春。日本の仕事環境って本当最悪。

赤坂見附のおじさんたちが喋り続けた。消費税、TPPが通ったらだれが困る、政治家のゴシップ。隣に座っていた秘書がだんだん馴れ馴れしくなった。

「東京を案内させて下さい。平日が忙しかったら週末はどう?空いているとき教えて。横浜は横浜。横浜はいいよ。横浜でいいお店知ってるよ。絶対ガイドブックに載ってない。絶対食べログに載ってない。綾ちゃんは美味しいもの食べたいでしょ?」

ようやく地獄の宴会が終わって、みんなと一緒に駅に向かった。赤坂の夜は賑やかだった。みんなはとても気分がよくなっていて、私が知らない古い歌を歌っていた。客引きが声をかけてきた。太いヒールを履いた女性がガールズバーのちらしを配っていた。コンビニの前はゴミで溢れていた。秘書がずっと私についていて、私の肩に片手を回そうとした。

気がつくと突然、宴会の他の参加者がいなくなっていて、秘書と私しか駅前に残っていなかった。

「もう一軒行こうよー」と秘書が私の腕を引っ張った。

手を離そうとした。秘書に壁に押し付けられて、無理やりにキスされて胸を触られた。通ってる人がみんな見てたのに、私が大きな声でやめてやめてと叫んでいたのに、誰も助けてくれようとしなかった。

その時の赤坂見附は地獄だった。逃げようとしたけど彼が私のワンピースを引っ張っていた。首と口に彼の腐ってるよだれが感じられて気持ち悪すぎて、もう恥ずかしかった、もう死にたかった、必死にあがいてようやく逃げられた。

檻から開放されたうさぎみたいに青山通りを走った。走って走って、走った。怖かったし、恥ずかしかったし、息ができなかったけど、走った。汚れた肌から飛び出そうになったぐらい早く走っていた。

初めての給料で新宿のルミネで買ったマークジェイコブスの黒いパンプスで全速力で走った。招待を受けた私が本当に馬鹿だった、もう赤坂見附を離れたい、もうその人に二度と会いたくない、泣きながら神様に祈った、いや、マークジェイコブスに祈った。マークジェイコブス早く帰りたい、帰るまでこの靴がもつようにお願いします、神様、お願い、マークジェイコブス、お願い。

歩道がまた賑やかになってきた。若者がコンビニのビニール袋をぶら下げて笑っていた。タクシーがクラクションを鳴らした。--------渋谷にもう着いていたんだ。走るペースを落とした。

渋谷のネオンが眩しく光っていた。山手線のアナウンスが聞こえてきた。交差点を渡る人波に揉まれながら、私はまだ静かに泣いていた。

かばんの中を手探りして、携帯を出してその当時付き合っていた太郎にかけた。

「太郎、太郎、今日の人、最悪だった、触られたしもう誰も助けようとしてくれなかった、赤坂見附の駅でね、もう逃げた。逃げたよ...」

「綾ちゃん、大丈夫?何があった?教えて。大丈夫?」

「逃げたからもう大丈夫。渋谷にきた。足が痛い」

私が泣き続けた。

「大丈夫。綾はもうちょっと気をつければよかったね。もうちょっと気をつけましょう。」と彼が優しい声で言った。

「もうちょっと気をつけましょう-----」と聞いた瞬間、目が覚めた。

太郎に「やつをぶっ殺す」と言って欲しかった。私の周りに誰も超えられない壁を立てて欲しかった。綾には絶対嫌な思いをさせない、と言って欲しかった。だけど、気をつけましょう? 気をつければいい? それって、今回起きたことは私の責任なの?

だけど、そこで「気をつけましょう」と言った彼に反論をしてもきっと理解してくれないだろう、と思った。

「うん、太郎のいうとおり。あたしはもっと気をつけなきゃ。」と答えた。

電話を切って携帯を握りしめたままフォーエバー21の看板を見上げた。目の前のツタヤの看板が輝いていた。広告のローラが笑っていた。何億もの超新星爆発に圧倒されていた感じがした。

映画の中で宇宙船がドッキングするシーン、見たことある? まずは宇宙船と宇宙船がドックの入り口を合わせる。そしてドッキングを完成させるため最後に電動ネジが入って完全にドッキングをするんだ。

その夜、宇宙船太郎と宇宙船私の間のネジが外れた。いや、私がネジを外した、と思った。それまでお互いまだ繋がってはいたけど、でも、私が離れようと思えばいつでもできたはず。そういうことだったんだ、と。

ネジの外れた2人が、宇宙に浮かび続けた。