丸の内を歩く東京ガールたちよ、新しい美学を考えよう【これでいいの20代】

東京ガールは暗黙のルールを守ってる

私の本当の名前は鈴木綾ではない。

かっこいいペンネームを考えようと思ったけど、ごく普通のありふれた名前にした。

22歳の上京、シェアハウス暮らし、彼氏との関係、働く女性の話、この連載小説で紹介する話はすべて実話に基づいている。

もしかしたら、あなたも同じような経験を目の当たりにしたかもしれない。

ありふれた女の子の、ちょっと変わった人生経験を書いてみた。

◇◇◇

お昼の時間は気分転換のために机を離れて丸の内を散歩した。東京駅周辺のおしゃれ街角をうろうろしていたら、丸の内OLたちのまるで人形のような洗練された美しさに感動する。髪の毛は一本も乱れていない。メイクが濃すぎずナチュラルだった。お昼にオフィスを出かけるときにDean and Delucaのお財布とハンカチが入るような小さなカバンを持ち歩いていた。どうやってあんなに完成されているのか。

私の会社の輝いてる女性先輩たちに注目し、その「なぜか」を探った。

わかったことは、東京ガールは暗黙のルールを守ってる。例えば:

会社で用をたすときに必ず音消しボタンを押さないとダメ。

飲み会で唐揚げにレモンを絞るときは飛び散らないように片手を添えないとダメ。

真夏の日にも女性はストッキングを履かないとダメ。

合コンでハイボールやいわゆる「男性っぽい」飲み物を頼んじゃダメ。

メイクをしないとダメ。

この輝いてる女性たちのカバンの中を見るとわかる。充電器、バラの香りのする汗ふきシート、グロス3色、お水、折り畳み傘、ハンカチ、鏡、消毒ジェル、何があっても準備万端だ。子供の時から東京ガールは小さなカバンを持ち歩く。小さい頃から訓練されてるのだ。

こういう小さなルールや細かさを積み重ねると完璧な「東京ガール」ができる。

彼女たちと比べると、見た目に無頓着で重いカバンを持つのが嫌いな私はまるで「マイ・フェア・レディ」の主人公の粗野な花売り娘イライザ・ドゥーリトルのようだった。

例えば、よくワンピースの上にジャケットを着ていたが、朝着替えたときにワンピースのファスナーを一番上まで上げるのをいつも忘れていた。仕事の後にジャケットを脱いだとき、電車の中やラーメン屋さんで周囲の人たちに大きな背中を見せてしまっていた。いつも優しいおばあちゃんに呼び止められて、「背中空いていますよ」とファスナーを留めてくれた。

洗濯バサミの事件もあった。毎朝、一階の洗面台で顔を洗うときに隣の洗濯機の上に置いてあった洗濯バサミで髪の毛を留めていた。ある日、洗濯バサミで留めたまま大事なお客さんとの打ち合わせに行ってしまった。 打ち合わせが終わったら頭に手を触れて気づいた。洗濯バサミを外すのを忘れた...。

友達のSくんにその話をしたら、

「綾ちゃんはおしゃれだから、周りの人たちは洗濯バサミをアバンギャルドな髪飾りに見えたかもしれない」と言った。

うん、ポジティブに考えよう。

その日からシェアメイトたちが毎朝私の見た目をチェックしてくれた。洗濯バサミがないか。ブラジャーが透けてないか。ストッキングが破れていないか。

少しずつ「東京ガール」になるためのコツを覚えたが、一つ絶対妥協しなかったことがあった。メイクだ。

東京の人はきれい、かわいい、と褒めながらなんでメイクしないの、と私のすっぴんを不思議がる人も多い。 付き合っていた太郎にも、「綾はかわいいけど、メイクしたらもっとかわいくなる」とコメントされた。「やり方わかんないし、興味ない」と答えたら、早速新宿伊勢丹に連れて行かれてメイクを3万円分買わされた。太郎は「すごい!きれい!綾きれい!」と喜んでいたけど、私は同じように感動できなかった。

東京ガールはメイクをしているから完成度が高いのはわかるけど、彼氏と寝るときどうしているの?セックスをする前に顔を洗うの?それとも朝、彼が起きる前にそっと気づかれないようにつけまつ毛とメイクを直す?彼女のすっぴん顔を見る彼って驚かない?ほら、24時間すっぴんな私はそういうことを心配しなくてもいい。

メイクはしないけど、肌にめちゃくちゃお金を使っていたから、なんでメイクをしないのと言われると余計ムカついた。日焼け止めクリームを毎日塗った。クレンジングはちゃんとしたところで買った。目元にラ・メールのクリームを使った。年に4回ぐらいフェイシャルもしてもらった。

今どういう風にメイクするかよりも、長期的に体をどういう風に大事にすればいいかを考えるべきだと思う。

いかにして美と上品な物腰のルールに従うか、それが丸の内、東京のキラキラガールズの美学。そんな理想論に基づいた美学に勝てるのは実に簡単だ。理想の真似さえすればいい。真似ばかりすると、自分の中の欠点を否定しなければいけない。

しかし、完璧でないところが実は一番美しい。

東京ガールたちよ、

新しい美学を考えよう。

一人一人の個性を大事にする

雨が降っても傘をささない

決まりのない不完全な美学。

たったひとつの条件がある。

ありのままの自分でいること。

そんな美しさで東京の夜の道を眩しく彩ってみせよう。