第0回として昨年9月に行われた「移住フェス」の第1回が開催されました。前回にも増して多くの来場者がサイボウズ本社に訪れ、満員御礼の大盛況となりました。今回も熱気に満ちたイベントの模様をお届けしたいと思います。
みんなが主役の「移住フェス」開幕!
今回も司会を務めるのは、ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会が主催した「社会を変えるチームを創造するフューチャーセッション」から生まれた「エリアル」チーム発起人の東 信史さん。「みんなで作り上げていくフェスにしたいので、ひとりひとりがたくさん話せるイベントにしたい」と開会の挨拶を述べ、いよいよ移住フェスのスタートです。
エリアルの東さん
まずは協力団体として参加した15の団体から挨拶がありました。
1.エリアル 2.NPO法人東北開墾 3.ヤマガタ未来ラボ 4.小布施若者会議 5.空村 6.FoundingBase 7.小豆島【アズキノイス】 8.京都移住計画(福岡移住計画) 9.石垣島 10.ココロココ 11.small design center 12.ランサーズ株式会社 13.BASE 14.Airbnb 15.Hitch me
次に、これらの中から興味を持った団体の方に直接話を聞く「オンライン&リアル交流」タイムがあり、みなさん自由に部屋を移動しながら、移住の先輩方と積極的に意見交換されていました。
京都移住計画のブース
空村プロジェクトのブース
トークセッション:"関係人口"について考えよう
「エリアル」の東さんがモデレーターとなり、「京都移住計画」の田村さん、「小布施若者会議」の大徳さん、「東北開墾」の高橋さんによるトークセッションが行われました。テーマは"関係人口"。昨年末のイケダハヤトさんによる記事がきっかけとなったそうです。
高橋:これまでの自治体の移住政策って、"定住促進"の話が多かったと思うのですが、これから日本の人口がどんどん減っていく中で、このまま奪い合いをしていていいのかなと。
今日も二地域居住とかいろんな話が出たと思うんですけど、完全な定住を求めなくても、3分の1とか5%でもぼくはいいと思っていて。そういう関わり方が、今後おもしろくなっていくんじゃないかなと思っています。
東:町役場の職員として入られている大徳さん、その辺りいかがですか?
大徳:小布施町は交流人口を増やすために、いろんな仕掛けをしているんですけど、役場の中にいて思うことは、交流人口を増やすのって、計画ができないことなんですよ。計画ができないことは、行政はできません。だからこそ外の若者の力が必要ですし、サポートしてくれる町民のみなさんの力がとても大事なんですね。
逆に言うと、町民のみなさんが支持してくれれば、なんでもできちゃう。小布施町役場職員は100人しかいないけど、町民は1万人いるからです。町民の皆さんを巻き込むのがすごく大事だし、若者を受け入れていただくことが重要になってきます。
行政だけではできないし、町民だけでもできないし、若者だけでもできない。だから地域の発展や活力のためには、交流を増やしていくことが求められると思います。
東:小布施には「第二町民」っていうのが、ありますよね?
大徳:これも交流の中から生まれたんですけど、小布施が好きになりすぎた人たちが、「日本小布施委員会(JOC)」っていう一般社団法人を立ち上げたんですね。東京と小布施の混成チームで運営しています。
小布施の食材を東京に持って行って、隔月でイベントをやっています。小布施に行ったことのない人が参加することで、町民との交流が生まれて、1回は行ってみたいねという話になる。そしてJOCの人たちがツアーを企画して、東京の人たちを小布施に連れてくる。
すべて彼らが勝手にやってくれてるんですけど、おかげで町民と行政との交流も生まれるし、小布施町としても公認していて支援しているので、JOCのモチベーションにもなるんですね。行政も自分たちがやることはおもしろくないと自覚しているので、やってくれるならサポートしますよという体制が、我々としてもできるんですよ。
奥から、「京都移住計画」の田村さん、「小布施若者会議」の大徳さん、「NPO法人東北開墾」の高橋さん
観光と定住の間にある"関係"づくり
東:ぼくは京都に移住したんですけど、移住する前は「京都は外の人は受け入れない」というイメージがあったんですけど、田村さんはその点について、どう思われますか?
田村:中の人を大事にするスタンスが、外から見ると壁が高く感じるというところがあるのかなと。実際に入ってしまうと、居心地のいいコミュニティがいたるところに存在しているんですけどね。
関係人口の話で言うと、"観光"と"移住・定住"の「間」が必要なのかなと感じていて。京都は観光地ですけど、そこで暮らす人たちとの関係はあまり生まれないまま帰られる方が多いんじゃないかなと思っているので、"観光"に"関係"というプラスαができると、また変わってくるのかなと思っています。
前に島根へ行って2泊させてもらったんですけど、単純な"観光"じゃないところを見てくると、第二町民のテンションまではならないものの、どこかの誰かに「あそこいいよ」ってなんとなく言えるくらいにはなっているんですよね。そういう人たちが増えて行くのが大事なのかなと思っています。
東:移住が好きな人たちは、いろんな土地へ行くと、「ここも好きで、住んでみたいな」と浮気心が生まれちゃうんじゃないかなと。危険ですよね?(笑)。高橋さん、東北は被災地支援も含めて行かれている方も多いから、関係人口はかなり多いんじゃないかなという印象があるんですけど、東北にける関係人口の作り方については、どう考えていますか?
高橋:確かに、被災地支援がベースにあるので、無理やりこじ開けられた感覚はあって、地元の方々もここ2〜3年で交流に楽しみを見出している方がすごく増えたなと感じますね。
一方で、田村さんの話にあった観光と定住の間の話は、東北開墾でも積極的に作っていきたいと思っていて。行く側・地域と関わりたい側の人たちの話を聞くと、「帰りたいけど帰れない」「帰る先の親戚付き合いがなくなっちゃってる」とか、そういう人たちの受け皿として、地方自治体が定住だけじゃなくて、もっと間口を広げた打ち出し方をした方が、もっとおもしろいのになと思っていますね。
ロシアには「ダーチャ」っていう別荘があるらしいんですけど、畑を耕しに週に1回郊外に行ったりするそうで。そういったような"第二の故郷"を持てる関係づくりが、今後求められるんじゃないかなと実感しています。
行政の移住政策って、それでいいの?
東:田村さんは行政の仕事を受けられていたりもしますが、行政の意向と田村さんの理想がぶつかることはありますか?
田村:ぶつかっていますね。観光の先に移住っていう絵が描けそうなのにもかかわらず、行政は縦割りなので、商・観光の部署と、移住・定住の部署がつながれないために、せっかくの機会を断っちゃってるようなことが往々にしてあるんですよ。
それと、県レベルの話でも、もったいないなと感じることがあって。京都は日本海側で福井や富山と隣接しているんですけど、移住に興味のある人が「日本海側の暮らしってどうなんだろう」くらいにふわっと気になったときに、ユーザー目線で見れば、明らかに「京都も福井も富山も見れて、それぞれどんな特徴があるんだろう」っていう切り口で知れたらいいじゃないですか。いきなりピンポイントで「富山の海に住みたい」とはならないですよ。それなのに、みんな奪い合いじゃないですけど、「うちんとこきてや!」みたいな状態で。
そうじゃない。移住計画って、ふわっとしているので、"ゆるやかさ"が必要なんですよね。今まさに富山や福井の県庁に、自治体の関係性を取っ払った中での取り組みをやりませんかっていう働きかけをしています。
東:大徳さんはこれについてどう思われますか?
大徳:県の移住セミナーは全然ターゲットが違うんですよね。集まってくる人は具体的に移住をしたい人たちなので。行政がやるメリットは、安心感があって、移住した時の補助金があったり、行政的なサポートや空き家の相談窓口として機能しているので。単純に役割が違う。そこは住み分けたままでいいのかなと思っています。
関係人口を増やすには、長期的な視点が必要
東:移住ってなかなか関心を持ってもらえるキーワードじゃないと思うんですけど、もう少しこういう人たちに届けられたらなと思うことはありますか?
田村:全国でとはならないかもしれないですけど、京都は大学の街と言われるくらい学生が多くて、京都市は10%が大学生なんですね。ぼくは大学の時に国内交換留学みたいな形で別府にいた時期があって、そういう田舎暮らしの原体験があると、将来的に仕事を求めて東京しか見れないんじゃなくて、地元や地域にも感度が立つ子が増えるんじゃないかなと。
東京に行きたければ行けばいいけど、"東京しかない"とならないような選択肢を作るっていうことが大事だと思うので、そういう学生時代の関係経験を増やす啓蒙はしていきたいなと思っています。
東:関係人口と選択肢の幅には、相関があるものですか?
田村:あると思いますね。まったくブラックボックスの知らない土地にエイヤー!と行くことはなかなかないと思うので、地域の名前を出した時に、パッと誰かの顔が思い浮かぶかどうかっていうのは、すごく大きいと思う。そんな関係を増やしておくのを学生の時にやっておいてもいいんじゃないかなと思っています。
大徳:そういう意味では、小布施は「小布施若者会議」という全国から250人若者を集めて参加費無料・宿泊費無料・食費無料のイベントをやっているんですけど、宿泊はホームステイ。あとは、全国から高校生を集めて、ハーバードの学生も20人つれてきて、一週間サマースクールもやっています。実施・企画は東京の学生。これだけの投資をしています。
外者に対して税金を使って、何の意味があるんですかとよく言われるんですけど、町長はこう言うんですね。「30年後にわかります。この貴重な若い時の小布施での体験は、一生記憶に残るはずだ。そこで関わった小布施町民の人たち、手伝ってくれた行政マン、協力してくれたお兄さんお姉さん。彼らが社会人になって力を蓄えた時に、きっと小布施町の力になってくれるはずだ。でも、それは5年後10年後の話であって、今すぐ成果を出せと言われても出せない。これらは未来につながる投資だというスタンスでやっている」って。
田村:回収期間はかなり長いんですね。京都の与謝野町での取り組みで「30歳の成人式」っていうのがあるんですけど、20歳で地元に戻って成人式をしても、袴を着て飲み会をして、終わりじゃないですか。でも30歳になったら、いろいろ蓄えているものもあって、できることも増えていて、したいこともあって...、もしかしたらお金も増えているかもしれない。そういう人たちが30歳の成人式という形で集まって、地域の課題と向き合うようなワークショップをするというプログラムです。そういうきっかけがポツポツあることが大事かなと思いますね。
最後に、締めの言葉
高橋:他の土地へ浮気したくなるって話が出たと思うんですけど、ぼくも前回の移住フェスでちょっと浮気心が出て、京都に行ったんですよ。そのときに田村さんとも会って、友達がたくさんできて、京都に移住してもいいかなと思ったりもして。そんな"浮気アリ"って環境をどんどん作っていくことで、横のつながりも濃くなってくると思うので、今後の地域活性においてはそれが大事なのかなと思っています。
大徳:私は東京と小布施で生活していますけど、妻はインドネシアでお米を作っていて、月に1回会えるか会えないかです。でもインドネシアは北九州の実家に帰るよりも近いんですよね。北九州に帰るには、東京で一泊しないといけないけど、インドネシアなら深夜便で行けちゃうんで。それくらい日本って狭いし、ちっちゃい。もう距離って概念は、取っ払っていいと思います。いろんなところに行けるような気持ちになれますよ。
田村:"浮気の関係"って、曖昧な関係だと思うんですね。曖昧さってすごく大事。「そっちでもいいよね」っていう感覚が許されると、二地域居住の話もそうですし、どんなことにおいても、もう少し生きやすくなるだろうなと思っていて。そういう自由な感じって、いいですよね。曖昧さは大事にしていきたいなと思っています。
東:ありがとうございました。
この後も引き続き、各地域、団体とのフリー交流タイム。日本各地の地域について「知りたい人」と「知ってもらいたい人」の貴重な出会いの場となりました。
幸せな移住、自らの生き方についてみんなで考える「移住フェス」、次回の開催もどうぞお楽しみに!
(執筆・写真:野本纏花)
この記事は、ベストチーム・オブ・ザ・イヤーの2月24日のこちらの記事から転載しました。