タイミングがすべてハマった。大ヒット映画『君の名は。』チームの作品づくりとは

新海誠監督をはじめ、各界の精鋭が集まったこのチームはいかにして作り上げられたのか、またなぜ大ヒットにつながる作品作りができたのでしょうか。

2016年8月26日に公開され、12月現在もロングラン上映が続いている大ヒットアニメ映画『君の名は。』。12月6日には「千と千尋の神隠し」以来の興行収入200憶円超えとなり、再び話題になりました。

新海誠監督をはじめ、各界の精鋭が集まったこのチームはいかにして作り上げられたのか、またなぜ大ヒットにつながる作品作りができたのでしょうか。

今回はチームを代表して『君の名は。』エグゼクティブプロデューサー古澤佳寛さんにお話を伺いました。

授賞式でのチームの様子。真ん中がエグゼクティブプロデューサー古澤佳寛さん

さまざまな要素と思いを「詰め込んだ」作品

先日はベストチーム・オブ・ザ・イヤーの表彰式にお越しいただきありがとうございました。檀上のご挨拶で、細かいところにこだわって情報を詰め込んだと言われていましたね。

古澤:監督は、この作品を「思春期の人たちに投げたかった」と仰っていたんです。思春期の人たちは、まだ自分が好きなものが定まっていません。だからこそ、この作品に詰めた音楽、映像、ストーリーなどいろいろな要素の中から好きなものを選んでもらえるように、過剰に「詰め込んだ」ということを、舞台上で話したと思います。

携帯電話の音質までこだわられていますよね。三葉の携帯のほうがちょっと古い感じがしたり。

古澤:そこのディティールに関してもこだわっていますね。今は107分という尺ですが、当初ビデオコンテの段階では120分近くあったんです。そこから少しでもカットを減らして、お客さんに1秒たりとも退屈な時間を持たせないように詰めていきました。

監督は4回くらい見ても楽しめるように作っていると言っていました。1回では気づかないレベルのカットがたくさんあるんですよ。

でも、作り方としては、細かいところをやっていったというより、ストーリーと言う大きな部分に対して特に力を入れてやっていきました。

期待を裏切らず、でも予想は裏切る

最近は原作がある作品が多いですが、『君の名は。』はどういった進め方をされたのでしょうか。

古澤:最初に企画書と言う形で監督が、今の『君の名は。』に限りなく近い設計図が出され、ベースとなるプロットも書かれていました。そこから制作チームみんなで「監督の今までのいいところを全部入れていくような作品にしましょう」と進めていったんです。

過去の新海監督の作品では、例えば、『ほしのこえ』では時空、『言の葉の庭』では年の差と、何かしら「距離が隔たっている男女」という点に共感が持たれていました。ほかには映像的な美しさ、一番気持ちいいところでかけられる音楽などが、全部入っているようなものにしようとしたんです。

企画書段階で「今の作品に限りなく近い」とのことですが、最初はどんな話にしようというところから始まったのですか?

古澤:作品の最後に男女が出会う話にしたかったということで、そこから男女が入れ替わるというモチーフが生まれてきました。2011年の震災の影響もあり、今の日本人が持っている「あの頃に戻れたら」「誰かを救えたら」という思いも落とし込まれています。

なので、ボーイミーツガールでありながら、距離があったり時間がずれていたり。さらに災害から人を救いに行くので、お客さんの期待を裏切らず、ストーリー的には予想を裏切るようなものを作りました。

確かに最初に暗示されているのに、それでもドキドキしてしまいます。何度も見に行きたくなりますよね。

古澤:映画がヒットした時は、リピーターが重要になるんですよね。『千と千尋の神隠し』も『アナと雪の女王』もリピーターの方が多かったですし。メガヒットの法則として、1回見ただけで100%理解できないこと、「あそこ、どうだったの?」と思わせる、というのがあるのかもしれませんね。

押し付けず、こだわりを守るバランス

制作の過程で、古澤さんのほうから「こういう風にしてほしい」といったオーダーはあったんですか?

古澤:基本的に「こう直してください」ということはなかったですね。途中ビデオコンテを作る段階の会議では、「ここで感情を揺さぶるにはこうしたほうが......」といった、全体の構成部分で意見を言うことはありました。

あまりアレコレいう感じじゃなかったんですね。

古澤:今回、結局最後は監督が決めていたんです。私たちの意見は言いますが、やはりフィルムは監督のもの。プロデュースチームのスタイルとして押し付けないようにしていました。そうじゃない作り方も世の中にはあると思いますけど、いいところを活かして、監督のこだわりを守るというバランスが大事なのかなと思います。

古澤さんは、もともと押し付けないタイプなんですか。

古澤:どちらかというと、そうだと思いますね。人によっては意見を「聞きたくない」という監督もいるかもしれませんが、新海監督は43歳と言う年齢。聞く耳もあるし、抜群のバランス感覚を持っている方です。今回出会えたのは、タイミングとしてもよかったですね。

タイミングがうまくハマったチーム

今までのお仕事の中で『君の名は。』はどんなところが違っていましたか。

古澤:いろいろ新鮮な部分がありましたね。

映画を作るチームとして、この時しかできなかったチームでした。それは新海誠監督、キャラクターデザインの田中将賀、ジブリ作品に参加してきた安藤雅司、そして10周年という節目の年だったRADWINMPSと、非常にタイミングがうまくハマったと思います。

田中さんの持っている尖っているところを、ジブリで一般人に優しい作品を作ってきた安藤さんが、マイルドかつ豊かにしているというところでも、チームワークがうまくできているなと感じました。

制作チーム以外のところはどうでしたか?

古澤:売り手もいいチームだったと思いますね。

今回は放送局が製作委員会に入ったり有名原作があったり、といったヒットを約束されている作品ではありませんでした。それに公開時期も一番大きく公開される7月中旬ではなく、夏休み後半だったんです。

なにか宣伝で魔法のようなことをしたのかという質問もよく受けるのですが、そういったことは全くないんです。いいものを作って、早めにマスコミの方に見てもらって、面白いと思ったら取り上げてもらう。すごく純粋な形で広がっていきました。

SNSでも拡散もすごかったですよね。

古澤:今回は若い人に対して投げかけている映画ということもあり、4万人の試写を行いました。参加してくれた人たちが見た後、人に伝える、SNSに発信するというのところまでワンセットで行われたことで広まっていったのかなと思っています。作品の良さと、宣伝の狙いがバチッとハマったのが非常に良かったですね。

ただSNSで拡散したらいいな、とは思っていましたが、結果的には想定の10倍以上の大ヒットになりましたね。

若いメンバーで構成されたチーム

今回のチームは監督はじめ、若い世代のように感じたのですが、古澤さんとしても若いチームだったと思いますか?

古澤:そうですね、比較的若いメンバーでやらせてもらっていると思います。川村元気が37歳、私が38歳。宣伝チームの平均年齢は38、9歳くらいでした。若いという面では、お客さんの感覚に近いというところはあるかもしれません。

それに私の場合、2012年アニメチームの責任者になったのが34歳のときだったのですが、このときすでにビジネスやクリエイター探し、企画といったところで、ある程度責任を持った仕事をさせてもらえていたんです。

会社が若い人間にチャンスを与えつつ、責任をもって進めさせるという点がうまくいっているのかなと思っています。

34歳で責任者になるとは、若いほうですね。

古澤:会社によってはもっと年齢を重ねてからと言うところもあると思いますが、東宝はもの作りをする会社。ある程度はお客さんと感覚が近い方がいいのかなと。いくら自分が最先端を行っていると思っていても、いつかズレていってしまうので、私たちも若い人に対してバトンをつないでいかないといけない、という気持ちもありますね。

なにより私たちのアニメチームは、若いメンバーが中心。川村の場合、20代からヒットを飛ばしていることを考えると、キャリアを積むためには20代のうちに「これをやった」と言える方がいいのでは、と思っています。

とことんこだわった「リアルさ」

今回の映画は聖地巡礼も話題になりましたね。

古澤:新海監督は、ビル群にあたる光や雨のしずくの跳ね方、川に落ちたモミジがくるりと回る瞬間など、普段目に留めていないものの美しさを描くことに加え、自分の身の回りのことを描くことが多いんですよね。"アニメなのに非常にリアル感がある"という点が、その場所に行ってみたいと思わせるのにもつながっているのかなと思っています。

やはりリアルさには、かなりこだわっているんですね。

古澤:美術が非常に美しいという点は、監督の強みだと思うんですよね。

先日監督と中国に行ったのですが、監督は中国で色々な呼ばれ方をしているんです。その中のひとつに「ウォールペーパーモンスター」という呼び名があると言われました。これはどの場面においても、壁紙にできるようなカットが作れる。そういう怪人だという評価なんです。

海外でも美しさは胸に刺さるし、ずっと新海監督作品を見続けている人の中には、リアルさを非常に評価されている方も多いんです。

日本語の歌詞、日本語ならではの表現など、言葉がキーワードになっていることも多いのですが、海外の翻訳はどうされているんですか。

古澤:監督が細かく演出していて、携帯の文字とかテレビのニュースシーンとか、文字が絵的にもたくさん入っているんですよね。RADWINMPSの歌にもモノローグ的な意味合いもあり、セリフと歌の両方を聞かないと意味を埋めていけない作りになっているので、字幕にするとすごい文字量なんです。

だから、例えばフランスでは字幕が多すぎるからという現地の判断で歌詞は削ったりしています。そういった状況でも、台湾と香港では公開1週目に1位を取ったり、イギリスの権威ある雑誌の映画評で5つ星をいただいたり、海外でも評価してもらえています。ありがたいですね。

アニメは長期的なモノづくり

今回新海監督と組むにあたり、今までと違う規模に踏み切ることにプレッシャーはありましたか。

古澤:全然なかったですね。ここまでのヒットは予想していませんでしたが、監督の才能にはゆるぎないものがあったので、今回ちゃんと実績積んで、この次も一緒にやりたいと考えていました。

またアニメづくりは3年くらいかかるので、長期的な視点で物事を考えます。先を見据えたときに、興行収入的な視点ではなく、この作品ならお客さんに受け入れてもらえると思っていたのでプレッシャーはありませんでした。

今後の取り組みについてはどうでしょうか。

古澤:今後も新海監督とやっていきたいと思っていますし、お客さんの心に響くものを生み出していきたいですね。そのためにも、お客さんが観たいと思うものをつかむ感度をインプットする努力を絶え間なくしながら、企画をしなければと思います。トレンドに振り回されず、ぶれないものを生み出していきたいと思っています。

(執筆:ミノシマタカコ/撮影:橋本直己

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ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」は、職場での「成果を出すチームワーク」向上を目的に2008年から活動を開始し、 毎年「いいチーム(11/26)の日」に、その年に顕著な業績を残した優れたチームを表彰するアワード「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」を開催しています。 公式サイトでは「チーム」や「チームワーク」「リーダーシップ」に関する情報を発信しています。

本記事は、2016年12月14日の掲載記事タイミングがすべてハマった。大ヒット映画『君の名は。』チームの作品づくりとはより転載しました。

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