テレビはネットに負けるのか?――「めざましテレビ」チーム200人を率いるリーダーの挑戦

1998年に「めざましテレビ」に配属された角谷さん。2007年7月に5代目のチーフプロデューサーに就任して以来、どのようにチームをまとめ、番組作りの現場を活性化させてきたのでしょうか。

朝の情報番組は、テレビ各局が激しい視聴率競争を繰り広げる「激戦区」。その中で、フジテレビの朝の人気情報番組「めざましテレビ」 (毎週月曜~金曜 午前5:25~8:00放送)は、放送開始から21年目を迎える長寿番組でありながら、トップランナーとして走り続けています。

番組づくりを率いるのがチーフプロデューサーの角谷公英さんです。報道やドラマの現場を経て、1998年に「めざましテレビ」に配属された角谷さん。2007年7月に5代目のチーフプロデューサーに就任して以来、どのようにチームをまとめ、番組作りの現場を活性化させてきたのでしょうか。パワフルな改革の根底には

インターネットの台頭によって、「テレビが終わるかもしれない」という強烈な危機感があるようです。

「じゃんけん」を武器にネットと勝負

―インターネットによって、好きな時に好きな情報、音楽、動画が見られるようになりました。ネットではなく、テレビに視聴者を引き付けるのは難しいのではないでしょうか。

角谷: やはりネットの台頭って大きいですね。「テレビはこのままいくと終わるな」ってずっと思っていました。情報が早い上に、ネットに接続できるスマートフォンやタブレットなどデバイスがここ5年くらいで一気に増えた。だから、ネットでできないことをするために、足腰の強い集団にしないといけない。でも、やっぱりみんなテレビにあぐらをかきたがるんですよね、かきたがるけど、そうやっていたら絶対この先持ちません。

デバイスが増えたのとハードディスクの容量がどんどんあがっていき、録画してしまって、今見なきゃいけないソフト、番組というのが少なくなった。「めざましテレビ」でも録画して見ている人がいるんですよ。だから、「めざましじゃんけん」を生み出したんです。じゃんけんは、その時間に生で見ないと絶対に駄目。お陰様で視聴率はあがりましたけどね。

「めざましテレビ」チーフプロデューサーの角谷公英さん

―データ放送システムを使う「めざましじゃんけん」は、視聴者が特定の時間に、テレビの前に座って、画面の向こう側の出演者とリモコンでじゃんけんができるシンプルな遊びですよね。発想がユニークですよね。

角谷: 地デジが始まって3年目くらいだったかな。結局地デジって、始まった頃は、ほとんど使っていなかったんです。そこで、ちょうど僕が、視聴者の方が住んでいる地域の天気予報や交通情報を画面に表示するシステムを開発しているときに、じゃんけんができないかなと思いついたんです。

当初は技術的にすごく大変で、視聴者からのクレームが一日1,000件にのぼり、色んな人に「やめろ」って半年以上も言われ続けました。でも、その課題を一つずつ改修した結果「社長賞」をいただいた。その時に社長から「やめなかったのがえらい」って言われたのを覚えています。

やっぱりクレームが可視化されてきて、テレビ局って弱くなってきたんですよね。ちょっと何かあると「荒れた」となる。クレーム自体は昔からあるんだけど、見えやすくなったからビビってしまうのでしょう。

―1,000件も苦情が寄せられたら、やめても不思議じゃないと思うのですが。

角谷: 最初の反響があったときに「勝ったな」と実は思ったんです。逆にいえば、「めざましじゃんけん」をこんなに見てくれているんだな、と。炎上したということは感情が入っているということであり、みんな「じゃんけんをやろう!」と思っているのがわかったんです。逆の見方をすることで、プラスに考えられた。

アプリ開発している人って偉いなと思います。バグをちょいちょい改修していきますよね。でもテレビの場合、一概には言えないですが、1クール(=3ヶ月)の中で、企画内容を1回改修するくらいで、ほかには何もやらない、あるいは、続ければ面白い企画であっても、1クールでやめようって言う人もいます。でも、僕はすぐアップデートして変えます。アプリと一緒で、うまくいかなかったら変えていけばよくなる。それを「めざましじゃんけん」でもやったんです。

データ放送での「めざましじゃんけん」画面

横串のチーム編成――財産は社内にある

―「めざましじゃんけん」の誕生の裏にはそんなことがあったのですね。

角谷: あと、クレーム対応にあたるために社内の縦割りを壊したチームを作ったんですよ。

角谷 技術系の部署には、今まで会ったこともない人たちがいっぱいいて、最初は「そんなの協力できねえよ」みたいなところから始まって(笑)。さらに視聴者と直接向き合う視聴者総合センターのチームも加わって毎週会議をやったんです。このクレームにどう対応すればいいのか、あるいはこのクレームを解消するにはという話をしました。それで、技術さんから「これが原因じゃないんですか」という話があがったり...。そういうことをやって、ハード面とソフト面をチェックしていく。まあ、それまで局内では見たことのない会議でしたね。

―今までやったことのない横断的なチーム編成だった?

角谷: 夏のイベントとかは全社挙げて行いますけど、1つのコンテンツを作るのに、別々の部署の人が一同に集まるチームはなかったのではないでしょうか。

僕は、そういう横の連携は重要視していますね。例えば、「めざましテレビ」主催の「めざましライブ」 は最初から、イベントを担当する事業局の人たちと一緒に作っています。昔は「番組は番組の人」、「事業は事業局の人」っていう発想がずっとあって、一緒に組むどころか、対立していました。でも、番組をつくる人と事業局の担当者がゼロからイベントを作ると、うまくいったときの波及効果というのはかなり大きいんですよ。

一緒にやってみると、社内に財産あるなって、いっぱいあるのになんでこれを使わないんだろうって気づくことができますね。

どうしてライバル番組を抜くことができたのか

角谷さんがチーフプロデューサーになられてから、「めざましテレビ」はライバルの「ズームイン!! SUPER」を追い抜いて、朝の情報番組で視聴率のトップになりました。

角谷最初にその番組を抜いたのが、2009年だったと記憶しています。就任して真っ先にメーリングリストでスタッフ全員と番組の情報を共有するシステムを作ろうと思って、そのシステムがうまく回り始めて番組での連携が取れるようになった頃、その番組が終わったんですよ。向こうは、30年くらい続いていたお化け番組ですから、絶対かなわないだろうなって思っていたんですけど、終わったんですよね。

―メーリングリストが、ライバルに勝つ武器だったのでしょうか。

角谷: メーリングリストを始めた当初は、メールでスタッフに連絡するということ自体が少なかったですね。それまでは、僕の前任者もですが、チーフプロデューサーって怖い存在だったんです。オンエア後に会社に来て「どうなっているんだー!」って怒るけど、そこには担当者がいない(笑)。泊まり明けで帰っちゃっていますから。そういうことをさんざん聞かされて、「自分の意見や考えをスタッフに届けるには、メーリングリストを使えばいいんじゃないか」と思って使ったのが一番大きかったですね。

それに「チーフプロデューサーがこんなこと言っていたよ」と、2~3人が間に入って、結果として断片的に全然違う話が伝わるようだったら、僕が番組を見てメールで夕方ぐらいに全員に送ろうと思ったんです。直接意見が伝わりますよね。当時は今ほどスマホを使っている人も少なかったんですけど、24時間動いているスタッフが会社のPCでオンエア前にちょっとチェックすれば、「昨日こういうことが起きたんだな」というのがわかることを目指しました。

そのメーリングリストのことは、「めざメー」と言っているんですけど、放送が終わった後の反省会で出た意見や、番組モニターのスタッフの感想などその日の放送に関することをすべて書いて共有しています。

―角谷さんも意見やアドバイスを「赤入れ」して配信していらっしゃるんですね。

角谷:今は、1行2行くらいでしょうか。急に書き出す日はありますけど。

昔はね、死ぬほど書いていて、真っ赤でした(笑)。今はどうしてもこれはやっちゃいけないとか、そういう表現まずいよとか、あるいはそういう表現は「めざましテレビ」のブランディングとしていいよなど、少しは書いていますね。

―200人のスタッフに向けて書く上で意識していることはなんでしょうか。

角谷:スタッフに向けて「こういう言葉で書いたほうが伝わるんじゃないかな」ということは常に考えています。きつく批判するのではなくて、例えば「やっちゃいけないよねー」という語尾にするとか。

メールを出すことによって、ブランドづくりの考えを共有しているんです。情報番組ってナレーションや映像の作り方、世の中の切り取り方が大事になってきますよね。取り上げるネタはどこも同じだとしても、切り取り方が「めざまし」らしいというのがブランドでしょうか。そしてそのブランドのイメージを共有するために必要なのが言葉だと思います。

―「めざメー」には、その日のオンエアを、テレビ局ではなく家で見たスタッフの感想も盛り込まれているというのが面白いです。

角谷: 番組をモニターするスタッフも、以前は会社で見ていたんですけど、テレビ局だと、全テレビ局が映るからザッピングできるし、あんまり意味がない。あとは、以前はオンエアに対する評価、フィードバックって野ざらしになっていたんです。プロデューサーが「いい」っていえば「いい番組だ」という属人的な番組の作り方をしていたんですね。

今では、番組を家で見たスタッフが、「きょうはここが分かりやすい」「わかりづらい」などと感想を書いて「めざメー」で送られてきます。これが非常に大事で、フィードバックがスピーディーに行われないと番組って成長しないですよね。サービス業なので、見ている人にわかってもらえないと駄目。チーフプロデューサーである僕よりもお客様がどうみているかということのほうが大事です。

―感想だけではなく、番組で取り上げるネタについてもメールで全スタッフに情報が行き届くようにしているとか。

角谷:「料理通信」というメールを配信しています。これは「料理会議」といって、昼にスタッフが集まって番組で取り上げるネタを話し合っているんですが、そこで出た企画案や情報などをまとめたものです。

やっぱり僕らの場合、明日のネタを今日決める、あるいは来週すぐに特集を組むという世界ですから、時々スタッフ同士でネタがかぶったりする。それを振り分けなくてはいけないけど、大切なネタをお互いに見せないようにするというのが伝統的にあるんですよ。だけどそうやっているうちに放送のスピードが失われる場合がある。

特にネットが台頭してきて先に情報があがってしまう中、ネットより前に情報を出さないとシェアされて、みんなに広まってしまいますからね。

―感想だけではなく、番組で取り上げるネタについてもメールで全スタッフに情報が行き届くようにしているとか。

角谷:「料理通信」というメールを配信しています。これは「料理会議」といって、昼にスタッフが集まって番組で取り上げるネタを話し合っているんですが、そこで出た企画案や情報などをまとめたものです。

やっぱり僕らの場合、明日のネタを今日決める、あるいは来週すぐに特集を組むという世界ですから、時々スタッフ同士でネタがかぶったりする。それを振り分けなくてはいけないけど、大切なネタをお互いに見せないようにするというのが伝統的にあるんですよ。だけどそうやっているうちに放送のスピードが失われる場合がある。

特にネットが台頭してきて先に情報があがってしまう中、ネットより前に情報を出さないとシェアされて、みんなに広まってしまいますからね。

ネタをコーナーごとに振り分ける「料理会議」の様子

「データ+職人芸」の仕組みを導入したい

―次はどこをめざすのでしょうか。

角谷: スタッフもどんどん入れ替わっていて、早いときは月単位で変わることもあれば、長いスタッフは放送開始当時の20年前からという人もいます。そうした中で、やっぱり先ほども話したような、メーリングリストなどの共通ツールがあると、スタッフに浸透しやすい。「めざましテレビ」のブランディングってこういうことなんだよって教え続けなきゃいけないですし、まだまだやらなきゃいけないことがいっぱいあります。

スーパーのレジのPOSシステムから、テレビ業界は学ぶことが多いです。POSシステムは、店で商品が売れるたびに在庫情報が瞬時に記録され、マーケティングや在庫管理、追加の商品発注に使われますよね。

テレビには仕事を管理したり、改善のために生かしたりするための指標があまりなくて、ただ単にプロデューサーが「こんなことをやりたい!」という勘だけで今までやってきた。たしかに勘も必要ですし、経験に裏付けされた直感もある。だけど、現代社会は、勘だけで生きていけないくらいの情報量と速さが求められます。具体的にはこれからですが、テレビの仕事をうまくデータ化して、さらに人間的な職人芸も生かせるシステムを開発したいと思っています。

(取材・執筆:山口亜祐子/撮影:橋本直己 /企画編集:椋田亜砂美)

(この記事は2014年ベストチーム・オブ・ザ・イヤー「テレビはネットに負けるのか?――「めざましテレビ」チーム200人を率いるリーダーの挑戦 」より転載しました。)

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