一目置かれるチームになりたい!──世界最大のソーラーカーレースに挑む学生だけのチーム

今秋、オーストラリアで開催される世界最大のソーラーカーレース「ワールド・ソーラー・チャレンジ」で優勝を目指す、工学院大学ソーラーカープロジェクト。チーム設立以来、驚異のスピードで成長し輝かしい好成績を残し続けるチームの秘訣とは?

今秋、オーストラリアで開催される世界最大のソーラーカーレース「ワールド・ソーラー・チャレンジ(WSC)」で優勝を目指す、工学院大学ソーラーカープロジェクト。世界中の強豪が集まる同大会に挑むのは、約80名の大学生を中心に構成されたプロジェクトチームだ。チーム設立以来、驚異のスピードで成長し、輝かしい好成績を残し続けるチームの秘訣とは?

大きな期待を背負うプロジェクトチーム

38年あるソーラーカーの歴史の中で、工学院大学にソーラーカープロジェクトが生まれたのは、2009年のことだった。別の大学で過去2回ソーラーカーの世界大会に出場経験のあった濱根洋人准教授の着任をきっかけに、チームが発足する。そこからわずか2年後の2011年に国内大会準優勝、2012年には国内大会優勝という快挙を遂げた。

「我々ほど短期間で優勝したチームは、ほかにありませんよ」(濱根准教授:トップ写真中央)

昨年国内優勝したマシン。現在は秋の世界大会のために新しいマシンを製作中だ

学生主体のプロジェクトだからといって、甘えは許されない。常に世界大会の優勝を見据え、貪欲に勝ちを求め続ける。

その理由のひとつは、多数の企業から多額の出資を受けているから。ソーラーカー1台を製作するには、数千万円もの大金が必要となるが、学校からの補助は出ないため、学生が企画書を作り、一社一社アプローチして、集めなければならない。

「今回、援助金と、残りは部品や素材提供という形の2通りで協賛いただいています。例えばボディを削る特殊な機械が学内にないため、TEIJINグループのGHクラフトさんの工場の装置を借りて製作するなどといったご協力です。少しのミスで数千万円が水の泡になってしまうので、『報連相できない奴はダメ・ケツから予定を組め・報連相、レスを早く』と掲げてやっているんですけど、それでも毎日何かしらのハプニングは起きていますね」(濱根准教授)

プロジェクトに関わることで見えてくる「自分」

高度な専門知識が求められるソーラーカー作り。ボディ設計や図面作りなど、要の部分は企業のプロが手がけるチームもある中、工学院大学ではすべてを学生が行っている。

プロジェクトは組織立って行われており、かつすべてが学生運営だ

チームには、ソーラーカーとは無縁の建築学部の学生や、基礎教養しか学んでいない1・2年生も多数いる中で、「電気班」「空力班」「財務班」「広報班」といった形で組織が作られ、明確に役割分担が決められている。全体をまとめるのが、リーダーで大学院2年生の佐藤さんだ。

学部生を総代で卒業した佐藤さんは、勉強はできたものの、チームでの活動とは無縁で引っ込み思案な性格だったのだという。

プロジェクトに携わるようになって3年が経ち、次第に周りを引っ張っていく存在へと成長したと周りの学生も認めるようになった。まったく性格が変わったと評されることに対し、そういう環境に置かれて自然にそうなったので、あまり自覚はないと話す佐藤さん。

プロジェクトリーダーの佐藤陽紀さん

「自分のことだけでよかった学部生の頃とは違い、人と話しながら全体の状況を確認するようになりました。結構、叱られたりもするので、自分の長所や短所がはっきりとわかるようになってきた。自分の役割はしっかりと果たしながら、苦手なところは人に任せるという、判断力はついてきたのかなと思います」と少し照れながらも自信をのぞかせた。

「一言も話さなくても、部品を作らせるとすごい子もいる。みんなそれぞれ特徴があるから、持ち味を大事にして、そのまま伸びてくれればいいと思っています。佐藤だって、今から体育会系になるのは無理。お笑いタレントみたいなのがいっぱいいても、うるさくてしょうがないでしょ(笑)」(濱根准教授)

個々の成長欲求を満たすことで強いチームを作る

男子学生ばかりのチームに、勇気を出して飛び込んだのが、機械システム工学科2年生の玉田さん。

「私は電気班に所属しているんですけど、少しでも先輩に追いつきたいと、車の本を読んだり、機械の設計をしている父親に聞いたりして、知識を入れようと努力しています」と目を輝かせる。

目指す世界大会は、6日間かけて3000kmの距離を走り、オーストラリアを縦断する過酷なレース。砂漠の中を走るため、外気温は42℃にも達し、サウナの中で運転し続けるようなものだという。夕方17時になると、カンガルーが飛んできて危険なので、レースは中断。自炊をしてテントを張ったら、満天の星空に包まれながら朝を迎える。

そんな憧れのオーストラリアに行けるのは、80人のうち選ばれた15人だけ。技術面や体力面など総合的に判断されるというが、玉田さんが現地に行けるかどうかは、まだ定かではない。

「すごく行きたいですけど、もし行けなかったとしても、まだ2年生で学ばないといけないことがたくさんあるので、しっかり学びながら、過程に参加していきたいと思っています。あと、女の子でもできるんだよって、伝えていけたらいいなと思っています」と玉田さんは話す。

同じ2年生の田中さんは、最初は部品や単語が全然わからない状態で、自分が役立てているのか悩んでいたというが、先輩に役立ちたいと思う気持ちから、自分で調べる癖がついてきたのだそう。

「各班のリーダーは毎日集まっていますが、定期的に大きな教室を借りて全員で集まっています。工程表で毎日何をやるかが決まっているので、それ通りに動きながら、クラウドを使って各班の議事録を共有したり。メールのやり取りもみんなが見られるようにしています」(佐藤さん)

「あとは、各班の上級生が毎週講習会をみっちりやって、個別に動いてくれているんです。だから一年生でも図面を描けたり、プロと同じソフトを使えるようになったりする。優勝という明確な目標があるのも、大きいでしょうね」(濱根准教授)

この日も取材の傍らでは、納期に間に合わせるべく機体の修正が行われていた

世界大会優勝でソーラーカー旋風を巻きおこせ

同チームでは、今回、これまで挑んできた1人乗りのチャレンレジャークラスではなく、2人乗り以上のクルーザークラスで世界大会に臨む。

「ソーラーカーって、38年間まったく同じ形なんですよ。空気抵抗を減らすために、薄い機体に寝転がって乗るスタイル。でも、我々は最初から一般車と同じように座って運転できるようにして、実用性や安全性を大切にした『機能美』にこだわっています。今回のクルーザークラスへのチャレンジで、もっと一般の人に "こういうソーラーカーの形があるんだ"と知ってもらいたいと思っています。」(濱根准教授)

「その分、重さを軽減するために、既製品をまったく入れずに、すべて自分たちで作ったりしていて。際立っておもしろい車になっているはずなんです。世界の有名大学が集まるこのレースで、高い技術を見せつけながらダントツ優勝することで、一目置かれるようなチームになりたい。老若男女みんなに『ソーラーカーって、カッコイイ!』と思ってもらえたら、最高ですね」(佐藤さん)

ワールド・ソーラー・チャレンジ 2015の開催は10月18日〜25日。どんな走りを見せてくれるのか、とても楽しみだ。

(執筆:野本纏花/撮影:橋本直己

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