よし、勉強しよう! そう思い立っても、なかなか続けられないものだ。英語、プログラミング、デザイン...どうすれば楽しく学び続けられる?そのヒントを探すため、勉強嫌いな子どもたちの目が輝く塾『a.school』を訪問。そこでは「紙」でプログラミングを学習するなど、奇想天外な授業が繰り広げられていた。
プログラミングなのに、アナログで学ぶ!?
彼らの授業を受けると、勉強嫌いな子どもたちの目が輝く。
a.school(エイスクール)の代表 岩田拓真さんと、研究開発者の星功基さんの授業は、一風変わったものばかり。たとえば、プログラミングの授業ではPCを一切使わない。じゃんけんゲームやオルゴールづくり、チャートコミックなど、ゲームや工作がメイン。プログラミングにとって大切な論理的思考力、問題解決のプロセスなどを楽しく身につけていく。
授業がはじまると静まりかえる教室。子どもたちは黙々と「オリジナルの物語」をチャートを用いて描きはじめた。完成した作品を話す子どもたちの表情は生き生きと輝き、個性溢れるストーリーの展開にみんなで大爆笑。一見、プログラミングとは無関係にもみえるが、チャートというアナログのプログラミング言語を理解し、ストーリーを組み立てることは、自らゴールを描き、展開をつくる上で役立つのだとか。
どうしてこんなに楽しく学ぶことができる?そもそも「学び」の本質って?
楽しそう、やってみたい!彼らの「学び方」には、心の内側から湧き上がる好奇心を呼び起こす、そのきっかけづくりのヒントにあふれていた。Web業界ではたらく人たち、新しく後輩を教えることになった人はもちろん、学び続ける全ての人たちに、学びをワクワクするものに変える方法をご紹介したい。
「おもしろい」「楽しい」と感じる瞬間を逃さない
a.schoolの研究開発スタッフ、星功基さん
― 授業を見学させていただいて、子どもたちの生き生きした表情がとても印象的でした。大人になっても、勉強に「楽しさ」を見出すのに苦労するのですが、子どもたちの「楽しい」を引き出すために、どんなことを心がけていますか?
星:
子どもたちは自分自身で、なにに夢中になって取り組んでいるのか、なかなか気づけない部分もあるので、僕らはできるだけ「ここすごいいいと思うよ」とか、「それ、おもしろいね」とか、素直に感じたことを声かけするようにしています。その声かけひとつでも、子どもたちも自分はこれが好きかも、と思えるきっかけにもなります。
岩田:
子どもたち一人ひとりとじっくり向き合うために、生徒4名に対して1名の大学生メンターを配置しています。僕たちファシリテーター(講師)は授業全体の場づくりをしていて、メンターには生徒一人ひとりをどう伸ばしていけるかをそれぞれの目線で見てもらっています。
メンターは、プログラミングのプロではないので、必ずしも生徒たちのスキルを上げるために適切なアドバイスや紹介をできるとは限りません。スキルよりも内面。この子はこういうところに火がついたかもしれないとか、最近こういうところ伸びてきているかもしれないとか、1人ひとりのことを常に観察しています。
僕たちファシリテーターや大学生メンターから「こうしてみたらいいんじゃない?」ってガツガツいくわけではないんです。あくまでも普段の会話を重ねて、ちょっと聞いたほうがいいかなって思うときにこちらから声をかけるようにしていますね。
a.schoolの代表、岩田拓真さん
― 会話を重ねていくなかで、本人のモチベーションの源を辿っていく。きっとどんなプロジェクトでも、誰かと一緒に進めるときに大切にしたいスタンスですね。
星:
a.schoolでは、いろいろな体験を用意しているけれど、それだけでは子どもたちって夢中になれないと思うんです。その子自身が自分の心をノックしてはじめて、本当に好きなもの、面白いと思うものに対してアクションが起こせます。興味や関心をドライブに学びを生み出せるように、子どもたちのことを見守りながら、そのトリガーを一緒に探っています。
岩田:
きっと誰でも「これが好き」と思うものが必ずあって。ただ、そういう感覚に蓋をしてしまって分らなくなってしまっているんです。
a.schoolに集まっている子たちには、学校の授業が面白くないと感じている子や、不登校の子、勉強が苦手な子、一般的な塾とかに行っても楽しめなかった子など、さまざま。ここでこういうふうに言ったら変だと思われそうとか、いまみんなはこうしているから合わせておいたほうがいいかなとか、まわりを気にして自分の気持ちをストレートに出せない子もいます。
自分でプロジェクトを進める活動的な子や海外志向の子たちもいるので、授業設計や流れはもちろんのこと、メンバーのチームビルディングがとても重要だと思っています。誰もがどんなアイデアでも発言してもいいんだっていう安心感を大切にして、何十にも重なってしまった子どもたちの心の蓋をひとつひとつはずしていく場所になれたらと思っています。
岩田:
ある中学2年生(当時)の女の子はa.schoolに来たばかりの頃、学校の勉強についていけないことにすごくコンプレックスを感じていました。もともとアニメが好きな子だったんですけど、みんなに「面白いね」、「すごいね!」ってリアクションを貰うことで自信に繋がっていったんです。現在は声優を目指しながら、勉強も両立できる学校へと進学しました。
最近は生徒の人数が増えてきたこともあって、彼女のように変化を遂げた先輩の生徒が、他の生徒たちにポジティブな影響を与えることもあります。僕らが直接声をかけるよりも早いし効果が高いんですよね。「彼らみたいに表現していいんだ」っていう空気感が場としてできてきました。これからも良い循環を連鎖していきたいですね。
「知識」はすぐに役立つけれど、「おもしろい」には出会えない
― PCを使わずにプログラミングを教えるって、とても斬新ですよね。
星:
プログラミング的な「ものの見方や考え方」を身につけてほしいと思っています。なので、プログラミングそのものを、すぐに「おもしろい」と思えなくてもいいんです。この授業で培った考え方が、いつか学校の点数や進路に結びつくかもしれないし、スポーツだったり、恋愛関係かもしれない。ものの見方や考え方が、その子なりの「おもしろい」に出会う可能性を広げてくれると信じています。
― 私自身、何かを学ぼうとするとき、何を勉強するのか、どうしたら身につくのか勉強方法自体に目を向けてしまいがちです。でも、重要なのは、基本となる「考え方」を身につけることである、と。
岩田:
なにもこれはプログラミングに限ったことではありません。知識はすぐに役立つかもしれませんが、そこからの振れ幅ってすごく狭いものだと思っていて。
プログラミングでいうと、コードを書くとか、デザインをするとか、アプリをつくるとか、そういった特定の知識やスキルはプロダクトやサービスをつくる上で完結するものですよね。一方で、その土台となるプログラミング的なものの見方や考え方は、もっとたくさんの可能性を秘めていて、自分の好きなことと組み合わせたときに、思いもよらない発見ができます。
「教わる」ではなく、自分たちで「学びをつくる」
― 子どもたちへの教え方のお話でしたが、大人たちが誰かに教えたり、自分で学びを得ていくときにもすごく参考になるお話でした。最後に、お二人の考える、理想の「学び場」ってなんですか?
星:
「夢中になれる場」ですね。それは、子どもたちにとっても大人にとっても大切な存在のように思います。そのことを教えてくれたのは、ピタゴラスイッチなど本当に面白い作品の数々を生み出ている佐藤雅彦先生でした。
先生がSFCで教鞭をとっていたときに、僕はちょうど学生で先生の研究室に所属していて。あるとき、佐藤先生が研究室の黒板に「study」と書きはじめ、語源の「studious」には、「夢中になる」という意味が込められている、とお話して下さいました。
「ピタゴラ装置」を制作していたNHKの104スタジオは、まさに自分にとって一番夢中になっていた場所であり、人生で最も学びになった場所だったんです。なので、いかに「studious」の状態をつくれるか、これからも挑戦していきたいですね。
岩田:
ひとりひとりの可能性を見つめ、内面から湧き上がる好奇心から学びが引き起こされる、「ラボ」のような場所を思い描いています。何が好きなのかひとりひとり違いますし、もちろん変化や成長の仕方も全然違って。a.schoolで出会う子どもたちを見ていて、全員本当におもしろいんです。だから、もっと「学び」って多様でいいし、ひとりひとりが楽しめるものにしたい。
時代的にも、だんだん個の時代に入ってきていますし、「教わる」のではなくて、自分たちで「学びをつくっていく」ことが求められているのかもしれません。星さんは「スタジオ」と表現して、僕はそれを「ラボ」と呼んでいるけれど、重なるところがたくさんあると思っています。
得意なことも、好きなモノも全然違うなかで、ひとりひとりが興味あることを突き詰めて、ぶつけあったりして高めていく。たくさんの思考実験を繰り返す、そんなラボのような場所をどんどん増やしていきたいです。
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