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「iPodの成功後、会社を辞めた理由は......」元アップル日本法人社長が語る仕事の流儀

ライブドア創業者にして元アップル日本法人の社長、前刀禎明さん。日本におけるAppleブランドを復活させた後、退職。会社を立ち上げた。
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metaps(メタップス)が開催したグローバルキャリアイベントの様子をお届けします。ゲストとして登場したのは、ライブドア創業者にして元アップル日本法人の社長、前刀禎明さん。これまでのキャリアを振り返ると共に「過去のキャリア選択で何を重視したか」について語られました。

[プロフィール]リアルディア 代表取締役社長 前刀 禎明

ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLなどを経て、株式会社ライブドアを創業。

2004年、アップル米国本社マーケティング担当バイス・プレジデント(副社長) 兼 日本法人代表取締役に就任。日本独自のマーケティング手法で、 iPod miniを大ヒットに導く。「iPodの仕掛人」と呼ばれ、日本におけるAppleブランドを復活させて一躍脚光を浴びる。米国本社で行われるスティーブ・ジョブズ氏主催のエグゼクティブ・ミーティングに本社勤務以外の人間として初めて参加し、アップルの世界戦略の策定とマーケティングに大きく貢献した唯一の日本人としても知られる。

2007年、株式会社リアルディアを設立。創造的知性を磨くセルフ・イノベーション実践プログラムや五感ワークショップなどを提供。感性を豊かにして創造力と表現力を磨くアプリ「FACE」を開発。革新的なプラットフォームとして注目される。フジテレビ系列『めざましテレビ』のレギュラーコメンテーターも務めた。著書に『僕は、だれの真似もしない』(アスコム)、『人を感動させる仕事』(大和書房)、『心が動く伝え方』(KADOKAWA)がある。

キャリアを考える時、グローバルであることはもはや当たり前

metaps(メタップス)が開催したグローバルキャリアイベント、前半のセッションは前刀さんのプレゼンテーションからスタート。自身のキャリアを振り返りつつ、キャリアにおいて重視してきたポイント、そして来場者に熱いメッセージが贈られた。

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本日は「グローバルキャリア」というテーマではあるのですが、そもそもグローバルと言ってしまっていることがグローバルではない、と私は思っています。キャリアを考えるときにグローバルであることはもはや当たり前で、グローバル、グローバルと言っているのは世界中(の国々)を見ても少なく、そのうちのひとつが日本だと思います。

経営者は新入社員が入ってきた時など「弊社が目指すのは」と、よく話すことで「グローバリゼーション」「ダイバーシティー」「イノベーション」の3つが挙げられます。経営者のみなさんよくおっしゃるのですが、まともにできている企業は残念ながらあまりありません。

続いて、今日ここにいらっしゃっているみなさんの可能性についてもお話させてください。一枚の写真をご覧ください。

じつは双子なんですが、片方の子はプールに入っていて、ひとりの子はなかなか入ろうとしていません。「1、2、3」で「さあ、おいで!」と言っているのですが、カウント3の前に飛び込む子、もう一人の子はモジモジしていて飛び込まない子です。まさに尻込みをしている状態です。

この画像から何を伝えたいか。

いろいろなチャレンジがありますが、考えているだけで現状に甘んじてしまうか、自分の可能性を信じて挑戦するか。これによって大きく道が分かれてくる、ということをみなさんに考えてほしい。自分を解き放つということを、今日こういったイベントを機会にぜひともやっていただきたいと思っています。

クリエイティブになるためのシンプルな原則

私のバックグラウンドとしてはアップル、ディズニー、ソニーなどいろいろあるのですが、昨年末まで「めざましテレビ」に出演していました。「さきつぶ」というコーナーをやっていたのですが、最終回でこのような話をさせていただきました。

クリエイティブになるために、どうしたらいいか。シンプルな原則を3つ出したんですよね。それがこれです。

・「もんだ」をやめる

偉いおじさん、頭のカタイおじさんは「◯◯はこういうもんだ。だからお前は考えずにやれ」と言うことをよく言います。そういうことはやめたほうがいいです。前例や常識にはとらわれないということを、ぜひともみなさんやっていただきたい。

・子どもになる

子どもは本当に奇想天外、いろいろなことを考えてくれます。みなさんも好奇心をもって、自由に考えるということをやってほしいです。

・自分を信じる

さらに重要なのが、自分を信じるということ。せっかく子どものようにいろいろなことを考えたのに、人がちょっと違ったことを言うとそれに流されてしまう。特に最近はSNSがあり、人は何を考えているかすぐにわかってしまいます。自分の考えではなく、大勢の人が言っていることが自分の考えだと思ってしまうということがあるので「自分の考えに自信を持つ」ということをやってください。

Self-innovation&Challenge

「Reset&Restart」

これは私のキーワードです。まあ人生というものはいろいろなコトが起こるんですよね。波瀾万丈なんですけれども、浮き沈みは自分のなかのイメージとして右肩あがりです。

こう考えると、悪い時があっても「少し前よりもちょっといいかな」と気持ちがラクになります。歩んで来た道として、ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOL、そしてライブドアです。このライブドアは堀江貴文氏に譲渡する前、無料プロバイダ時代のライブドアです。そしてアップル。今はリアルディアという会社をやっています。

点と点をつないでいくようなキャリアを歩んできているのですが、まさにReset&Restart。その人生におけるキーワードとして持っているのが「Self-innovation&Challenge」です。まさに今日のテーマです。自己革新を続ける。

全ては過去です。自分にとって大切なことは今やっていること。そしてこれからやること。未来が大切だ、ということになります。

アップルをやめた理由は、スティーブ・ジョブズの会社だったから

少しだけアップルのことを話させてください。

アップルに入社するとき、最終面接がスティーブ・ジョブズでした。生のスティーブとは二度と会えないかもしれない。そこで「記念写真を撮らせてほしい」と頼んだら「ダメだ」と思いっきり断られました。「お前がアップルに入ったら撮らせてやる」と言われました。その直後、彼は人事責任者に「あいつを採る」と言っていたそうなので「どうせ入れるからまたチャンスがあるよ」と言ってくれたんだと思っています。

そしてアップルに入社して初めて出張に行った時のことです。アップルストアの総責任者、ロン・ジョンソンにアポイントをとっていたので彼の部屋まで行ったら先客がいました。時間を過ぎているのになかなか出てこない。ちょっと覗いたらスティーブなんですね

スティーブに「出て行け」とはさすがに言えず、部屋の前に立っていたら、スティーブが手招きをしてくれました。しばらく3人で話をした後、スティーブが「おれは部屋に帰るから、あとはお前ら二人で話せ」と。その瞬間、私はこう言いました。「スティーブちょっと待て、お前、俺と約束したじゃないか」と、ロン・ジョンソンにデジカメを渡して撮影できたのがこの一枚です。

普通、社員が「撮影をしてほしい」と言おうものならすぐに解雇です。そういった意味でも奇跡の一枚ですね。これは2004年、ちょうどiPod miniを発売した時です。発表時、銀座のアップルストアには1000名以上が並び、大ヒットとなりました。

この時、日本独自のマーケティングをやることができました。ポスターにiPod mini実物大のカードが貼ってあり、持って帰ってもいいよというもの。何が独自だったのか。カードの裏側にipod.com/pinkというようにピンク、グレー、シルバー、ブルー、ゴールド、それぞれ5つのURLが書いてあり、アクセスすると「iPod miniをどのようにコーディネートするのか?」がサイト上で表現されています。

「4ギガで、1000曲入ってどうのこうの...」と機能や性能を謳うのではなく、「どのように楽しむのか?」ということを想起できるアプローチです。世界でも日本が初めてだったのですが、スティーブも気に入って他国でも展開されました。

このiPod miniをきっかけにmomentum(推進力)をつくっていきました。新しくビジネスをつくるときに大事なのはmomentum(推進力)をつくること、そこに新たにdemand(需要)をつくることです。日本の企業はここで終わるところが多いんですけれど、demand(需要)で終わることなく、さらに強いdesire(欲求)をつくり出すことが新たに世の中にビジネスを構築していく時のポイントになるということです。

イノベーションとはこういうことです。「何がほしいかなんて見せられるまでわからない。だから自分がほしいものをつくればいいんだよ」そう言ったのはまさにiPhoneを発表した時のスティーブでした。

それまで「電話からテンキーをなくしてほしい」というニーズもなければ、調査レポートもありませんでした。まさに「どうだ、これがこれからの電話なんだ」と言い、スティーブは世の中を大きく変えていきました。

未来予測ではなく、未来創造。個人個人の未来も、自分がどうなるかを思い悩むよりも、自分で人生をつくっていくこと。そんなことを教えてくれたアップルをなぜやめたのか。シンプルに言うとスティーブの会社だったからです。自分の会社ではありませんでした。

起きたこと、すべては自分の責任である

自分の人生を考えたときに、いろいろなことが身に振りかかります。そんな時にはこう考えましょう。「起きたこと、すべては自分の責任である」決して他人、環境のせいにしない。全部が自分の責任であるからこそ、未来は自分次第であるということです。

今日、ここに来たみなさんは変わるきっかけを一つふたつ得ることになると思います。ぜひ自分の人生を好きになってください。そして昨日の自分よりも今日の自分、明日の自分へ。世界をぜひとも変えていってほしいですし、私もまだまだがんばっていきたいと思います。

短いプレゼンテーションでしたが、みなさんへのメッセージは、「明日の自分には、無限の可能性がある」ということです。ありがとうございました。

前刀氏&メタップス代表佐藤航陽氏による質疑応答

最後にメタップス代表佐藤航陽さんを交えて質疑応答が行われました。会場から寄せられたさまざまな質問と、お二人の回答をご紹介します。

― スタートアップをやる上で、難しいと感じることがあれば教えてください。

前刀氏:

これまで2社の起業を経験していますが、一番大きな違いは、前回ライブドアは最初から出資をしてもらったことです。今回は出資を受けていません。自己資本を中心にやっています。

誰しもにあてはまるわけではないですが、大きく出資を受けてしまうとオーナーシップはベンチャーキャピタル、株主が持つ傾向があります。海外のベンチャーキャピタルに出資をしてもらった時など、取締役会でぶつかった時に「我々が株主なんだから、我々の言うこと聞け」と、日本のことを知らないアメリカ人が言ったりするわけです。

これは私見です。ただ、やはり自分がやりたいことがある場合は、ある程度、自分たちに発言力があり、オーナーシップが取れるまでは、お金は外から入れない方針で今はやっています。オーナーシップを持てるかどうか。スタートアップを考えるなら考慮してもいいかもしれません。

佐藤氏:

私はひとつしか(会社を)やっていないので何とも言えないのですが、ただまあメタップスというプロダクトを開発する前に、イーファクターという名前で会社をやっていて、その時の経営方針と今は真逆なんですよね。実際には会社を二個つくったようなものかもしれません。

当時は自己資金だけでもの凄く小さく立ち上げて。で、自分たちで稼げる力をつけてきたあとに大きめの勝負をしました。テレアポにしても、プログラミングにしても、デザインにしても、基礎がわからないとメンバーにも教えられないですし、どっちがいいか意思決定もできません。基礎体力をつけるべきだと思い、起業して3年くらいは丁稚奉公じゃないですけど、自分自身でゼロから黒字できるところまではやりました。

― これまで何を重視してキャリアを築かれてきましたか。また価値観がどう変化してきましたか?

前刀氏:

自分が情熱を燃やして仕事ができるかどうか。僕はBtoCのビジネスが大好きなので、そこには固執しています。いろいろなキャリアを積んでいくとヘッドハンターから声がかかったりすることもあります。ある時、「BtoBに興味はないかもしれませんが、ベースの年俸で6000万円はカタイので...」と言われたことがありました。「いえいえお金の問題じゃないんです」と言って断わりました。それはなぜか。アップルにしても自分が大好きなブランドだったので、なんとか日本で立て直したいと情熱を燃やすことができました。人生の時間は限られているので、せっかく仕事をするなら情熱を燃やせること、打ち込めることをやったほうがいい。それが人生の選択をするときの基準です。

― もっとも失敗したと思うことがあれば教えてください。

前刀氏:

やはりライブドアの営業譲渡と民事再生です。たしかに世界最大のワールドコムが経営破綻をする(※)というのは日本でNTTがつぶれるような話なので、まさかという状態ではありました。

ただ、会社は存続してナンボというところがありますので、予見しながらリスクヘッジをしていかなければなりませんでした。それができなかった経営者としての未熟さがありました。

債権者のところに行くこともあったのですが、「自宅の住所を書いていけ」と凄まれ、とても怖い思いもしました。一方で、取引先から「前刀さんのところは誠意を持って今までよくやっていただきました。こういったこともあります。がんばってください」励ましのお言葉をいただきました。電話を切った瞬間にものすごい勢いで涙が溢れてきました。本当にありがたい言葉でした。その時、表向きにはがんばっていたつもりだったのですが、体が変調をきたすわけです。はじめて全身に湿疹が出て、ひどい状態でした。

でも、懲りない性格なので、こうやって今、新しいチャレンジをしています(笑)

(※)前刀氏が立ち上げたライブドアは当時、アメリカのベンチャーキャピタルより3000万ドルを調達。その後、経営が悪化し、堀江貴文が率いる株式会社オン・ザ・エッヂに営業譲渡された。当時のライブドアが手がけていたフリーISP(無料プロバイダ)のビジネスモデルはトラフィックを電話会社に運び、その通話料金におけるキックバックが収益源だった。最も大きなパートナーだったワールドコムが2002年に経営破綻。その影響を直接的に受ける形となった。前身のライブドアは解散し、前刀氏は当時の社員全員を再就職させた。その後、2004年にアップル米国本社マーケティング担当バイス・プレジデント兼日本法人代表取締役に就任した。

― ご自身を突き動かす意欲は何ですか?

前刀氏:

再チャレンジとはいえ、今はまだ小さなビジネスしかできていません。無限の可能性があるというメッセージを出しましたが、人生このままで終わったらおもしろくないと思っています。この瞬間に死んだらと思うと悔いが残る。まだまだ楽しいことにチャレンジしてやろうという気持ちが自分を突き動かしています。

また、人生においてムダな時間を過ごすのがもったいないので、「人生は短い」と思うようにしています。ウダウダと会社のグチを言うならさっさとやめちゃったほうがいい。バカな上司がいてもそういう人ってなかなかいなくなりません(笑)それなら自分で環境を変えたほうがいい。心を燃やせる、楽しめる選択をしたほうがいいので、人生は短いと思ったほうがいいです。老い先が短いということではありません。まだまだ生きます(笑)

― 今、社内ベンチャーでインドネシアでの事業立ち上げにチャレンジしています。そういった大きなチャレンジ、環境の変化を起こすときに、お二人が気をつけようと心がけていること、不安を払しょくするために行っていることがあれば教えてください。

佐藤氏:

まぁ死なないよねっていうのが一番ですかね。事業が失敗したとしても、命まではとられないので。現状でいう日本や東南アジアにおけるリスクって決まっていて、マイナスになるっていうことはそこまで大きなダメージではないので。むしろ歳をとってエネルギーが減っていって、もう何もやる気も起こらないということのほう怖かった。だからとりあえず前のめり、前に倒れるってことだけを考えていました。

逆にいうと他のことは考えないようにしていました。何がいつきて、どうなるか?っていうことは一旦やめておいて、「今のタイミングに集中しよう」ということを続けたら成果が出てきて。なるようになったという印象です。いろいろと考え過ぎてしまったてことリスクがこうあってコストがこうで...うんぬんかんぬんってあまりうまくかなったですね。不思議と。

前刀氏:

仮にその社内ベンチャーが失敗したとしましょう。そんな程度で会社はつぶれません。その失敗で会社がつぶせるくらいのプロジェクトを任されていたら、それはすごいことなので、会社のお金でチャレンジができるなら思いっきりやったほうがいいです。きっと失敗してもすべて自分の肥やしになります。恐れないほうがいい。

あとはベンチャー経営者に求められる資質のひとつのなかに「いい加減であること」があります。ある程度、いい加減じゃないとやってられないです。そういう経験があるからこそタフにもなれるし、チャレンジのときにも力になる。思いっきりやったらいいと思います。

― 最後に、キャリアの選択においてアドバイスがあればお願いします。

佐藤氏:

キャリアがないのでアドバイスがむずかしいですね(笑)ただ、リスクの扱い方は自分でも上手いと思っています。あれこれ頭で考えないほうがいい。やりたいことや情熱を燃やせると思ったら、そのタイミングで足を踏み出しているってことが一番だと思っています。

前刀氏:

あえて「グローバル」という言葉を使いますが、グローバルで通用する人材になりたいと思ったら、英語が上手になるといった誰でもできることではなく、自分の考えを持つということです。それを人に言えるようになること。そうすれば道は切り拓くことができます。人が何を言っているかはどうでもいいです。これがメッセージです。

[取材・文]エン・ジャパンCAREER HACK編集部

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