起業家に対して、お金の代わりに技術を投資するというTECHFUNDのSUNRISE Programとは? 「起業家をメジャーな職業にする!」と語る、彼らの問題意識と狙いに迫ります。
"技術"を投資するTECHFUND
大小問わずスタートアップの資金調達に関するニュースを頻繁に耳にするようになったいま、「スタートアップが"スタート"するために必要なビジネス戦略・開発などありとあらゆる技術を投資する」という取り組みを始めたのが技術投資集団TECHFUND。
資金調達のハードルがある程度下がり、起業環境が以前よりも間違いなく整いつつあるように思えるスタートアップ業界だが、「シードラウンドなど最初の資金調達に動く以前の、アイデアだけがあって一歩を踏み出せない起業家の卵はまだまだたくさんいる」と語るのは、前述したTECHFUND共同代表のぴいすけ氏。
「起業家をメジャーな職業にする!」というスローガンを掲げる同社は、どのような考えから「技術投資」というコンセプトに行き着いたのか? 彼らが実現したい未来像とは?
起業のハードルはまだまだ高すぎる
― 「お金のかわりに技術を投資する」というのは具体的にどういうことなのでしょうか?
ぴいすけ(TECHFUND CEO/CCO):
僕たちはSUNRISE Programという起業家や起業家予備軍の方を対象にしたプログラムを独自に開発しています。特徴は「トライアルラウンド」というシードラウンド以前のフェーズにフォーカスを当てていること。YCombinatorが行なっているシードアクセラレータープログラムを参考に、88日間という短期間でアイデアからプロトタイプの開発、VCからのシードラウンドの資金調達までを支援するというものです。
その対価として、一律5%のエクイティ(株式)をいただき、プログラムが終わった後も、株主・パートナーとして成長を支えていきます。TECHFUNDはお金の代わりに技術を投資するVCのようなものですね。
― プロトタイプの開発を行なうのはTECHFUND自身なんでしょうか?
ぴいすけ:
半分正解です。プロトタイプまではほぼTECHFUNDで作ってしまいますが、その後はプロトタイプを元に仮説検証をすると同時にリクルーティングのお手伝いもしています。そうして集まったスタートアップ側のチームを、TECHFUNDがリモートCTOとしてサポートする形でプロトタイプをプロダクトへと昇華させていきます。
TECHFUNDにはスタートアップに身を置いていたエンジニア、デザイナー、グロースハッカーなどが在籍していて、プログラムの中でそれぞれの得意分野を活かしスタートアップチームを強力にサポートしています。プログラムのゴールは個人投資家やVCからのシード資金の調達。そこまでTECHFUNDはハンズオンでスタートアップをサポートします。
エンジェル精神を持った、起業家とのパートナーシップ関係
― TECHFUNDの試みは国内外をみても、珍しい取り組みだと思います。
松山(TECHFUND CEO/CTO):
創業メンバーそれぞれの経験がTECHFUND構想のきっかけになっているんです。僕の場合は、ある旅系サービスでの経験でした。
そのサービスはユーザー同士で旅を企画してサイト上でユーザーを集め、一緒にその旅に行くと言う素晴らしいアイデアだったのですが、サービスの実現に向けて実行に移せていなかった。そんな時にTwitter経由で創業者と出会い、第1号エンジニアとして開発に携わったんです。プロダクトを開発したことで、メンバー集めやシード資金の調達にもつながりました。プロダクトの有無がスタートアップする大きな一歩になるんです。「最初の背中を押すだけで、見える世界が変わってくる」という経験がTECHFUNDの構想につながっています。
ぴいすけ:
僕は18歳の時に起業してから、広告業界やスタートアップ業界をずっとみてきたのですが、プロダクトがあること、メンバーにエンジニアがいること、会社化してるか、というのはものすごく高いハードルだと感じてきました。その壁を越えられない人たちは、実際に起業する人の数倍はいる。
彼らはどうするかというと、壁を超えるために資金調達しようとするんですけど、VCには「プロダクトはないの?」とつきかえされる。プロダクトをつくるためにエンジニアを採用しようとしても、エンジニアから「お金はあるの?」と言われ行き詰まる。八方ふさがりになった起業家は、結局スタートアップすることができずに意気消沈してしまうんですね。そこで、私たちが開発を行なうことでサービスができ、メンバーが集まり、資金が集まっていくべきだと考えました。
― 受託に出すという手段もありますよね。
ぴいすけ:
確かに僕たちがスタートアップ専門の受託屋になるというのも手段の一つとしてあり得たと思います。しかし、そうなると変な上下関係ができてしまうんですね。それにプロダクトに責任が持てないので、「納品」というフェーズで途切れてしまう。
松山:
例えば100万円の予算で100万円の仕事をするということになると、どうしても「上限」ができてしまうんです。株式をもらうという形にすることで、アイデアを持った起業家のパートナーとしてプロダクトの成長に責任を持とうと。そのため起業家がもし失敗してしまったとしても、僕たちは起業家に制作費を請求しません。エンジェル精神を持って開発をしています。
ミッションは起業家をヒーローにすること
― 既に応募がかなりきていると伺っています。ある程度、想定通りの方がいらっしゃってるんでしょうか?
高校生から50歳以上の方まで、毎日応募が来ている状況です。また、大企業からの引き合いやシードラウンド以降に投資を行なうVCからもコンタクトが増えていますね。
― 大企業から話が来るというのは少し意外です。
大企業の中でも新規事業を担当されている方が多いです。伺ったところによると、彼らが困っているのは起業できない人と同じでした。アイデアや事業計画は出来上がっていくのですが、いざ制作となるとプロトタイプさえ生み出せずに前に進めない、と。起業家人材は大企業にもいるわけですから、需要は幅広くあるようです。
― VCとのコネクション、協力体制もプログラムの成否を握っていますね。
そうですね。よく「VC(投資家)のリプレースなのか?」という質問をいただくのですが、僕たちはVCではできなかった技術支援に特化しています。VCはスタートアップを各フェーズで支援するという意味では同じ志を持っている仲間だと思っています。プログラムのコンセプトに共感してくださるVCも多くいらっしゃるので、起業家の方の可能性がどんどん広がるように、一層連携強化をはかっていきたいです。
― それでは最後に。TECHFUNDは「起業家をメジャーな職業にする!」という理念を掲げていますが、実現したい未来について教えてください。
僕たちはアイデアを形にすることで世の中を変えていく起業家をヒーローだと思っているんです。多くの人が憧れるような職業にしていきたい。たとえ1度起業に失敗したとしても、その経験はとても貴重なもので必ず自分のキャリアにプラスに働くと思います。
残念ながらいまは「起業≒リスクテイク」と過剰に捉えられがちです。まずはその敷居をSUNRISE Programによって下げ、スタートアップできる起業家を増やしていきたいと思っています。
僕たちの大きなビジョンはSUNRISE Program自体を僕たちのプロダクトとして成長させること。そしてオープン化することにより一気に起業家を増やしていく手助けをする。
起業家・スタートアップとVC・大企業などをつなげるプラットフォームのような存在になれればと思っています。
▽TECHFUND RECRUIT
[取材・文] 松尾彰大
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