PRESENTED BY エン・ジャパン

働きながら雑誌を作って見えてきた「働くこと、生きること」――WYP(ワイプ)プロジェクト

働くって何だろう?――こんな疑問と向き合うべく、働く"合間"に雑誌をつくった若者達がいる。それがWYP(ワイプ)プロジェクトのメンバーだ。趣味でもないMy Projectは彼らに何をもたらしたか。
MOTOKO

働くって何だろう?――こんな疑問と向き合うべく、働く"合間"に雑誌をつくった若者達がいる。それがWYP(ワイプ)プロジェクトのメンバーだ。「働く」をテーマに、創刊号ではインドの若者を取材。0.5号では日本で働く20代を取り上げた。仕事でもない、趣味でもないMy Projectは彼らに何をもたらしたか。

■ 社会人1年目。漠然とある「このままでいいのか」という不安

働くこと、生きること、これからの世の中のことを考えてみたい。そんな取り組みから生まれたリトルプレス(自費出版)が『WORLD YOUTH PRODUCTS』(WYP/ワイプ)だ。

出版したのは1987年生まれの若者たち。会社で働きながら休日などに取材・執筆を行なった。

「雑誌をつくる人間が、面白い生活、面白い体験をしないと面白い雑誌はつくれない」、そんな考えから、主要メンバー3名はシェアハウスでの生活をスタート。約2年で創刊号を発行した(さらにその1年後には0.5号を発行している)。

彼らがリトルプレスを作り始めたのは、社会人1年目。

編集長の川口瞬さんは、当時をこう振り返った。

「決して仕事がつまらないわけではありません。残業も少なく、生活も安定していた。仲間にも恵まれた。ただ、漠然と"このまま過ごしていいのか"と不安がありました。この環境に甘えて、数十年間ここにいてしまうのではないか」

社会人1年目で、社外の[My Project]を行なう。こういった活動について皆さんはどう感じるだろう。「羨ましい」「休みにやるならいい」「新人のうちは仕事に集中すべき」「キャリアを考える上で大事」、色々な意見がある。批判的な人もいるかもしれない。

そして、彼らは「働きながら雑誌をつくった」先に何を見つけたのか。

シェアハウス生活に終止符を打ち、会社を辞め、海外へと飛び出す―それが彼らの決めた道だ。20代が抱える等身大の葛藤、そして決断を通じて、私たち自身も「働くこと」「生きること」のヒントを探れないか。そんな思いを胸に秘め、編集長の川口瞬さんと、編集担当の鈴木祥成さんにお話を伺った。

■ 働くこと、生きることを考えるための「雑誌づくり」

― まず伺いたいのが、『WORLD YOUTH PRODUCTS』(以下:WYP)は、お二人にとってどんな活動か?ということです。仕事でも、趣味でもないですよね。

2013年8月に渋谷ヒカリエ「働く"合間"に雑誌をつくる展」取材の様子

川口:はじめた頃は「やりたいことを見つけるための手段」という感じでした。そこから3年間やってみて、世の中にはいろいろな生き方があって、果てしなく世界は広がっている、と気がつくことができました。今ではライフワークというか、自分のやりたいことをやれる場所だと思っています。

鈴木:私は電機メーカーで法人営業をしていたのですが、その仕事では出会えない雑誌関係の人、本屋関係の人、取材したインドの人、日本のいろんな若者...たくさんの人と出会うことができて。その出会いの中から自分のやりたいことや、どう生きたいか、まだ答えは出ていませんが、考えが深まったと感じています。

― もし会社での仕事がすごく楽しかったり、そこに出会いや刺激がたくさんあったりしたら、こういった活動はしていなかったのでしょうか?

鈴木:その可能性はあると思います。ただ、そうでなかったからWYPがあって、たくさんの人と出会えた。そうポジティブに捉えていますね。

川口:多分、会社で得られる面白さとWYPで得られる面白さは種類の違うもので。会社でも面白いことはたくさんありますが、ゼロから自分たちだけでつくる面白さは得られません。だから、会社が楽しくても、何かしらこういう活動はしていたと思います。

― WYPの活動は、ご自身が進む道にどう影響しましたか?

川口:創刊号でインドを特集したのですが、その取材で「海外に出たい」という気持ちがより一層強くなりました。海外で働くことに対する抵抗感も無くなり、「当たり前」という感覚がわかった。ここが一番大きかったですね。

■ 日本の大企業で働く方が危ない

― お二人とも勤めていた会社を退職されたそうですが、今後はどのような道に進まれるか、具体的には決まっているのでしょうか?

インドのダイアモンド工場にて。働く若者たちを取材した

川口:私はフィリピンに語学留学をして、海外でも働けるようになっておきたいと思っています。すごく尊敬していた予備校の先生に言われて、今でも頭に残っている言葉があるのですが、「30年後、40年後を見据えて生きなさい」と。

鈴木:若いうちに海外に出て、いろいろと苦労して、国際競争力のようなものは身につけておきたい。ここは川口と同じですね。

日本の大企業で働いた方が安定している...という考えもあるかもしれませんが、逆に危ないというのが私が持つ危機意識でもあります。海外から人材が入ってきて、日本人は仕事を失っていくのではないか。ここはわりと現実味のある話だと思っています。

あとは、個人的に、海外で働いて、海外で暮らす、そういった生活を単純にやってみたい(笑)。会社を辞めて、フランスの大学院をいくつか受験しており、今は結果待ちの状態ですね。どこも受からなければ、デンマークでの就業を検討しているところです。

― 勝手なイメージですが、年配の方からすると「自分が行きたい道に進み、やりたいことを仕事に」といった考えは「甘っちょろい」と言われそうな気も...。退職時はどうだったのでしょう。

川口:そう言われる覚悟はあったのですが、意外とみんな「いいね」と言ってくれて。中には「俺も若かったらやってみたい」といった反応もありました。

鈴木:私の場合は、割りと逆ですね。「仕事を辞めて海外に行く」と話したら「思っている以上に大変だぞ」と。最終的には理解をしてもらえたので、本当にありがたいのですが、多少意識に差はあったかもしれません。

■ 仕事を遊びにしたい

― 川口さんがWYPを始めたきっかけとして「漠然と"このまま過ごしていいのか"不安があった」と伺いました。鈴木さんは川口さんから「WYPをやろう」と誘われた時、どう感じましたか?

ユニークな取り組みとして「取材記事」を展示し、展示の閲覧者たちが自由にコメントを記事に書き込めるようにした(そのコメントも同時に印刷され、雑誌の一部となっている)

鈴木:私がいた会社はすごく忙しくて、ある意味で大変だったからこその満足感はありました。ただ、会社以外の人と会うたびに「仕事をこなして満足する生活でいいのか」と。でも、何をすれば良いかわからない。そんなモヤモヤがあった頃、川口からWYPの誘いがあったんです。だからすぐに一緒にやろう、と。

― それぞれ不満があったわけではなく、ある意味で「仕事」に満足はしていたんですね。でも、同時にどこか不安もある。ご自身のなかで「仕事をこういう役割にしたい」といった理想はありますか?

川口:誤解を恐れずにいうと、学生の頃から「仕事を遊びにしたい」という思いがありました。かといって就活の時は、自分が何をしたいかよくわからない。だから、会社に入って働いて探してみよう、という気持ちがありました。

鈴木:ちょっとストイックかもしれませんが、私にとって仕事は「自分を高めるもの」という認識ですね。好きなことにせよ、嫌なことにせよ、仕事は大変なもので。ただ、子どもみたいに漠然と「凄いことを成し遂げたい」という思いがある。そのためには自分を高めなきゃいけない。抽象的ですが、そういったものかもしれません。

― 最近だと「自己成長」だったり、「やりたいことを仕事に」という考えは一般化してきたと感じています。少し上の世代だと「四の五の言わずに働く」「やりたくないことをやってこそ仕事」という考えも根強い気がして。

WYPの他メンバーたち(左から近藤さん、鼈宮谷さん、中村さん)

川口:大きい流れで言うと、バブルの時はおそらく「仕事」は楽しいものだったのではないでしょうか。働けば働くほど稼げて、遊ぶこともできた。でも、そこから20年くらい日本経済が停滞した。それだったら、経済成長よりも「自分が好きなことをやったほうがいい」という考えは自然と生まれたのかもしれません。

鈴木:今は「仕事」は人によって捉え方がさまざまですよね。自分のなかで「仕事」をどう位置づけるか?選択の幅が広がったのかもしれません。肌感覚としても「やりたいことを仕事にする」という若い人は増えた気がします。

― たとえば、新卒学生から「就職か...やりたい事か...道を迷っている」と相談されたらどうしますか。「一度は会社で働いてみた方がいい」とおすすめしますか?

川口:私は大手プロバイダー企業で働いていたのですが、すぐにでもやりたいことはやっていいと思う派です。もちろん、会社に入っても学べることはたくさんあるので無駄なことは全然ないと思います。でも、結局やりたいことをやるためにも様々なハードルがあって、それを乗り越えていくために力を付けていったほうがより効率的だと思うからです。

鈴木:私も川口と同じですね。この前、ちょうど大学生から同じような質問をされて。「内定した会社を蹴って、海外に行く。僕の選択は間違っていなかったのでしょうか」と聞かれたんです。

正解は決めるのは本人だと思いますが、私自身は、正直それでいいと思いました。日本の会社で働いて得るものももちろんありますが、20代前半という数年間はすごい貴重。どんどんやりたいことに向かった方がいいと思います。

― 20代は「ゆとり世代」と言われたり、「安定志向」といわれたり、ネガティブに見られることもあります。ただ、皆さんの話を聞いたり、WYPを読んだりすると、言葉は良くないですが「捨てたもんじゃない」というか、むしろ希望が持てると感じていて。

川口:WYPの0.5号で、日本で働く20代を取材したのですが、本当に面白い人がたくさんいるんだと改めて気がつくことができました。多分、どの世代でもそうだと思うんですけど、内向きな人はいて。でも、当然外向きな人もたくさんいる...。何だろうな、あとは鈴木さんに譲ります(笑)

鈴木:急に振られても(笑)。...そうですね、日本の若者9人にインタビューしたのですが、その9人を選んだポイントって「将来、何かを一緒にやりたいと思える人」だったんです。彼らと話すとすごくワクワクできて。色々なことがやれそうだし、できたら面白いなって。それこそWYP0.5号の「あとがき」に書かれていますが、「何でもできる」「何にでもなれる」という気持ちを久しぶりに思い出した、ここはすごくあると思います。

― 大切にしたいものを大切にしながら生きていける、それができる時代でもありますよね。多くの20代が元気をもらえたと思います。本日はありがとうございました!

[取材・文]白石 勝也

【関連記事】

注目記事