「議会の常識は、世間の常識とは違う」と断言した古参の港区議 東京に生まれた地方議会「報道の空白」とは?

大手メディアがひしめく東京では、地方議会の「報道の空白」があった?
猪谷千香

東京都港区議会で、若手を中心とした区議10人が自民党に次ぐ第二会派新会を結成したことに端を発した騒動を取材した。

【港区議会問題の記事】

正直言えば、首都であり、国際的都市であるはずの東京のお膝元で起きたこととは思えなかった。そこで交わされていた議論は、言論の府に求められるべき質を保持していたと、私には断言できない。どうしてこのようなことが起きてしまったのか。その取材を通じて考えたことを記してみたい。

■「どれぐらいの扱いにしますか?」と聞いてきた新聞記者

港区議会の取材現場で、ある全国紙の記者が突然、「(このニュースを)どれくらいの扱いにしますか?」と聞いてきたことがあった。その記者と面識はない。どうやら、私をどこかの全国紙の記者だと勘違いしたようだった。やや面食らったものの、取材現場では他社の記者と雑談レベルでそういった話をすることはあるから、その時は気に留めなかった。しかし、本当に驚かされたのは、新会派を批判し続けている自民党の区議団に、複数の新聞記者による囲み取材がスタートしてからだった。

今回、新会派結成のきっかけになったのは、2014年7月、当時の井筒宣弘議長が議員に対して出した、「議員のマスコミ等への対応について」という通達だ。この通達では、新聞、雑誌、テレビなどの取材があった際には「慎重に対応し」、「議会全体に影響を及ぼす場合」があるために、議長への内容報告を求めるというもの。

ある女性議員が受けたマスメディアの取材がきっかけとなり、未然にトラブルを防ぐために出された通達とのことだが、異例であることは間違いない。実際、この通達をある政党の国会議員に伝えたところ、「国会ではありえない」と驚いていた。そんな通達を出せば、言論統制とも受け取られかねず、他党やメディアからの批判を免れないからだ。

新聞記者たちの質問も、この通達について集中した。先述した記者は自民党区議団の幹部に、「この通達は内部文書なんですよね? もう効力はないわけですよね?」と確認を繰り返していた。幹部自身から「内部文書」という言葉が発せられたことは一度もないのに、である。

それは、公共性の低い組織内の文書であり、問題視する必要はない、大きなニュースではないという自身の判断の裏を取ろうとしているようにみえた。私に「どれぐらいの扱いにしますか?」と聞いてきたのも、他社にとっても大したニュースではないだろうという確認だったのかもしれない。

■東京にひしめく全国紙の取材は国政中心

この問題を取材し、丁寧に報じた他の新聞記者たちの名誉のために言えば、こうした態度の新聞記者は1人だけだった。しかし、「うちは紙面にするのは厳しい」と別の新聞記者が話していたのも聞いている。つまり、全国紙記者にとって、港区議会の問題は「ニュースではない」と判断してしまいかねないことが、現実に取材現場で起きていた。

記者がこうした態度で臨めば当然、取材を受ける側の気が緩んでも不思議ではない。自民党区議団の控室で、ある区議が「皆さんに来ていただくような、大した話ではないんですよ」と記者たちに笑いながら話していた。果たして、本当にそうなのだろうか?

東京には全国紙の本社があり、所属する記者も多いが、政治といえばどうしても国政の取材が中心となっている。区議会や市議会は、選挙や大きな不祥事の報道だけになりがちだ。他の地方では、地方紙が地方議会を手厚く報道するが、大手メディアがひしめく東京のお膝元では、「報道の空白」が生まれてしまっているのだ。それは、全国紙の都内版を開いてみれば、一目瞭然である。

国政が大事ではないとはもちろん、言わない。ただ、読者にとって、有権者にとって、待機児童や教育、福祉、ゴミ、図書館といった公共施設など、日々の暮らしに直結する政策が決まる場は、区議会や市議会にほかならない。最も身近な議会のニュースにも関わらず、アクセスできないことは、残念な状況だろう。今回の港区議会の問題は、少なくとも港区民にとって、自分が投票した区議が当選後にどのようなふるまいをしているのか、議会は健全に運営されているのかを知ることのできる、大事なニュースなのだ。

この問題を、友人の新聞記者たちに投げかけたことがある。彼らはこうした「報道の空白」を招いてしまったことを反省する一方、議会取材は拘束時間も長いために、継続的な取材が難しい現状を歯痒い思いとともに吐露していた。人手があるはずの大手メディアでさえこの状況なのだから、取材の陣容が薄いネットメディアやフリーのジャーナリストは到底、手が回らないのだ。

■あなたの町の議会は大丈夫?

では、なかなか全国紙の目が行き届かない場合はどうしたらよいのか。重要になるのは、議員自身によるネットやメディアでの発信だ。FacebookやTwitter、ブログ、書籍など、自分の活動を広く区民に報告する手段は今、いくらでもある。こうしたツールを用いて、発信することは、自身を選んでくれた有権者への説明責任にもつながる。

この新会派騒動の発端の一つには、2013年12月の臨時会で当時の井筒議長(自民)による発言があった。井筒前議長は、「最近、インターネットや出版物において、自分の議会活動の成果を過度に主張することが見受けられますが、このようなことは厳に慎まなければなりません」と「訓戒」を述べているが、時代に逆行している発言ではないだろうか。

また、新会派のある議員はこの騒動の最中、既存会派の古議員からこう言われたという。

「議会の常識と世間の常識は違うんだよ。勉強したほうがいい」

もしも、「議会の常識」と「世間の常識」が違うのだとしたら、「世間の常識」を勉強するべきなのは、議員の方なのではないだろうか? 彼らの言うところの世間の人々とは有権者であり、有権者の代表として議員が選ばれているはずなのだから。首長や行政と対峙すべき議会が、議会内でのパワーゲームに明け暮れているとしたら、それは有権者の本意ではないだろう。

今回の港区議会の問題は、他の地方議会の議員たちにも、波紋を投げかけた。

これは、決して小さくもないし、他人事ではないニュースなのだ。あなたの暮らす町の議会は大丈夫ですか?

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