BLOG
2018年10月25日 16時35分 JST | 更新 2018年10月25日 16時35分 JST

介護現場の医療課題を解決するサービスとは

介護現場のスタッフと現役医師を気軽にチャットでつなぎ、介護現場での医療的な困りごとを解決する「ドクターメイト」。

青柳直樹さん

青柳直樹先生は研修医時代に感じた課題を解決すべく、介護現場と現役医師のコミュニケーション不足を解消するサービスを始めました。医師として事業を始めるまでの葛藤や、今後の展望を伺いました。

◆介護現場と医師のコミュニケーション不足

―今、どのようなことに取り組んでいるのか教えていただけますか?

私は介護現場のスタッフと現役医師を気軽にチャットでつなぎ、介護現場での医療的な困りごとを解決するサービスを始めました。会社名は、医師と「メイト=仲間」という意味を込めて、ドクターメイトと名付けました。

2018年4月から本格的に活動を始めていて、現在は介護施設でサービスの試験運用をさせてもらっています。介護士一人ひとりがドクターメイトに登録するのではなく、施設ごとに導入してもらう形態です。6月までは試験運用で、7月からは実際に施設のベッド数に合わせて月額利用料が変動する形で本格始動します。

―なぜ、介護現場からの相談に乗るチャットサービスを始めたのですか?

臨床で感じた課題が原点です。私は大学を卒業後、内科の研修を中心に回っていましたが、臨床現場に出てみると、自分の想像を遥かに超える高齢化を目の当たりにしました。80代、90代の患者さんが多く、70代の患者さんを診ると若いと感じます。

ご高齢の患者さんに対して医師がすることは、完全に治すというよりもその方にとっての通常の日常レベルまで回復させて、あとはご本人とご家族に納得してもらってご自宅や介護施設への退院をセットアップして帰すこと。これがメインでした。うまく退院させることができればいいですが、スムーズにいかないこともしばしば経験しました。

このような現状の中で「なんでうまくいかないケースがあるのだろう」と違和感を抱いたのです。そんな違和感の中で、治療結果が目に見えて分かり、目で見えるからこそ自分の治療にごまかしの効かない皮膚に興味を持ち、その中でも手術を専門に行う皮膚外科に進むことにしました。

皮膚外科最初の1年間は、皮膚がんの手術をすることが多く、もともと感じていた違和感を思い出すことはありませんでしたが、皮膚外科2年目に、市中病院の皮膚科に務め始めたら、内科の時に見てきた状況と全く同じ状況が広がっていました。数ヶ月かけて褥瘡を治してご自宅や施設に帰したのに、また1周間程度で褥瘡を作って帰ってきてしまう――。「なんでこんなことになってしまうんだろう」と本当に歯がゆい思いをしました。

まずはその原因が知りたくて、介護士が参加する勉強会などに参加するようにしました。介護現場のことを聞いてみると、介護現場での医療サポートが十分でない様子が分かってきたのです。

施設に嘱託医はいますが、自分のクリニックを持っている場合も多く、施設に来るのは週に1回だけ、何か聞きたいことがあっても日中の診療中は電話をかけても出てくれない、精神科や皮膚科などマイナー科のことになると、分からないから病院に行ってと言われてしまう。医師とのコミュニケーションが十分に取れないという声を数多く聞いたのです。同時に、医療的な問題を抱えた高齢者が入居してくることを、介護従事者の方たちが不安に思っていることも分かってきたのです。それで、介護従事者と医師をつなぐサービスを始めようと決めたのです。

◆介護現場の医療課題を解決し、介護現場をハッピーに

―それで介護従事者の方たちが現役医師に気軽に相談できるサービスを始めたのですね。

当初は、今と違うサービスを考えていたんです。介護現場と医師のコミュニケーションの改善という点では変わりありませんが、介護施設のスタッフが夜間困ったときに医師に相談できるサービスにしようと思っていたんです。

ところが、それを始めてみたら全然相談が来なくて――。介護従事者にヒアリングを重ねてみると、夜間医療的に困ったことが発生したら、施設ごとに対処法のマニュアルができているのでそれに沿って対応するので、チャットでわざわざ相談しないということが分かってきました。そして緊急時よりもむしろ、日常的に困っていることや疑問に思っていることを聞きたいという意見があったんです。それで、今のサービスへと変更しました。

―事業を始めるにあたって、臨床現場を離れることに葛藤はありませんでしたか?

今考えると不思議ですが、違和感を感じていた頃には病院で働くことしか頭になくて、他のキャリアを選択するなんて思いつきもしませんでした。ところがある時、若手の医師向けに皮膚疾患のレクチャーの依頼があって引き受けたら、その勉強会を運営している少し上の先輩たちが事業を始めようとしていました。それを見て「医師もこういうことをやっていいんだ」と気付いたのです。

2018年4月からは事業に本腰を入れるため、臨床を週1.5日にしています。ただ最初は介護施設を訪問するために日中外を歩いている時、罪悪感のようなものがありました。晴れ渡った日に白衣を着ないで外を歩いていると「診療をしないで何やってるんだろう......」と逆に気分が落ち込んでいましたね。慣れるまでにはしばらくかかりました(笑)。

―サービスを広めていくにあたって、現在の課題はどのようなところにありますか?

私一人でやっていくのには限界があるので、介護に対して想いや課題感のある医師が仲間になってくれて一緒に事業を進めていきたいと考えているのですが、医師の中に介護に対して想いや課題感を持っている人が必ずしも多くないことです。ただし、信念を持って続けていればいつか同じような想いを持った医師に出会えるかなと思っているので、今は信じて続けるのみですね。

―サービスを広げていくことで、どのようなことを実現したいですか?

病院で過ごす高齢者が最期の時を幸せに過ごせているかというと、必ずしもそうではありません。一方で、私が見てきた中では、介護施設にいる高齢者の多くが楽しそうに過ごしていました。高齢者が人生の最終段階であっても可能な限り自分の好きなことをしながら楽しく過ごす――。それをサポートしていく医療をもっと形作っていきたい。病院に来る前に防ぐべき重症化を防ぎ、現在ご高齢の方々はもちろん、自分の家族や自分自身も最後まで自分らしく過ごすことができ、そして介護従事者もハッピーになれるような、そんな未来にしていきたいですね。

●関連記事

高齢者が幸せに暮らせる社会にするために

健康で幸せに暮らすための医療のあり方を明らかにしたい

医師同士がオンラインで相談し合える医療

●医師プロフィール

青柳 直樹 皮膚科 ドクターメイト株式会社

1988年千葉県生まれ。2013年千葉大学医学部を卒業、千葉市立青葉病院にて初期研修修了。2016年頃から介護現場の医療相談を受ける活動を開始、2018年4月にドクターメイト株式会社代表取締役として活動を本格化、現在に至る。