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2016年04月20日 15時20分 JST | 更新 2017年04月19日 18時12分 JST

途上国と同じレベルの精神科病院を変える

地元の住民であるタクシーの運転手にも知られておらず、社会の隅に追いやられている印象を強く持ちました。

山形県酒田市の精神科病院である山容病院の院長 小林和人先生は、2004年の半年間、自転車でシルクロード横断を実現させました。その間、中央アジアに位置するウズベキスタン内カラカルパクスタン自治共和国の精神科病院の見学をしました。そこで目の当たりにした状況が、日本の病院にもあることを知り......

2004年、自転車でのシルクロード横断にあたり、中央アジアの国・ウズベキスタンを通りました。その時、縁あって出会った海外青年協力隊の方から、「専門である小林先生に、ウズベキスタン内のカラカルパクスタン自治共和国の精神科医療状況を見て評価してもらいたい」という連絡があり、2つの病院を見学することになりました。

◆物資不足・知識不足 ウズベキスタンの医療状況

どちらの病院も都市部から離れ、バスやタクシーを乗り継いで向かいましたが、地元の住民であるタクシーの運転手にも知られておらず、社会の隅に追いやられている印象を強く持ちました。

カラカルパクスタン自治共和国の首都ヌクスから、北へ50キロのところに病院がありました。こちらの病床50床のほとんどが、統合失調症とてんかんの患者さんでした。ヌクスで急性期治療を終えた患者さんが紹介されてくるケースが多いようで、慢性期の患者さんが多数を占めていました。

統合失調症にはハロペリドール、クロザピンを使用していて、てんかんの治療薬はカルバマゼピンしかないとのことでした。見学中はベッド、シーツ、靴、拘束衣が足りないと何度も言われ、物資の不足を痛感しました。「医薬品が足りない時は、タシケント(ウズベキスタンの首都)から取り寄せる」と言っていましたが、説得力がありませんでした。

もう一方のヌクスから南に20キロの地点にあった病院は、高さ2m弱の塀に囲まれていました。病棟はかなり古くて汚く、あちこち改装中のため落ち着かない雰囲気でした。病床は合計250床、開放病棟、閉鎖病棟そして結核病棟で構成されていました。疾患は統合失調症が多数、そのほかにてんかん、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、認知症などとのことでした。

この病院には14名の医師が勤務していました。DSMやICDといった操作的診断基準は一切使っておらず、対応してくれた院長はそれすら知りませんでした。また、統合失調症の治療にはハロペリドールを使用していて、非定型抗精神病薬は使っていませんでした。

ただ、医師やスタッフが患者さんに愛情を持って接していることが、言葉が通じない私にも伝わってきて、それが強く印象に残りました。とても牧歌的で、患者と医療者が家族のような、そんな雰囲気でした。

医療者のマインドは、国の違いは関係なく同じでした。日本人がめったに訪れない地域でも、同じ気持ちを持った人たちが医療に従事していることを、この目で見ることができ、非常に感慨深く思ったものです。

それから4年後、山容病院に勤務し、自分が病院経営について考えるようになってから気付いたことがあります。

◆本質は同じ病院が、日本にも

日本にある病院であるにもかかわらずこの病院も、ウズベキスタンで見てきた病院と本質的にはあまり変わらないということでした。多剤併用でも減薬を試みることなく、長期方針が曖昧なまま対症療法に終始して長期入院をさせているという状態だったのです。

そんな状態を変えるために、病院の変革に取り組み始めました。

精神疾患の患者さんに「こんな病院には来たくない」と言われ治療が拒否される要素を一つでも多く取り除くために、塀で囲まれた古くて雨漏りがする病院の全面的な建て替えを2015年9月に終えました。また、長期入院患者に頼らない経営をしていくために、空き病床を出さないよう、313床から220床に減床しました。治療面では、最初に担当した開放病棟の患者さん55名全員の減薬に成功し、長期的にも一人も問題は起こっていませんので、今も引き続き同じ方針をとっています。

病院の建て替えを終えて半年経った現在、新規の入院患者数は月平均で30名、外来数が500名です。そして、初診者数が前年比で2.5倍に増えました。

【医師プロフィール】

小林 和人 精神科

医療法人山容会理事長

東京大学医学部卒業。同大学付属病院にて研修後、福島県郡山市の針生ヶ丘病院に就職。平成20年に山容病院に就職。平成23年同病院院長に就任、平成26年より現職

インタビュー「東大卒、30代で院長就任 地域に必要不可欠な病院を目指す精神科医の姿」

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