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2015年12月18日 18時16分 JST | 更新 2016年12月17日 19時12分 JST

患者さんの「困難さ」をベースに考える

病気をベースに考えるのではなく、「これを使えば患者さんの困り事が解決するかもしれない」というときに紹介するわけです。主眼は患者さんにあります。

眼科医であり産業医でもある三宅琢先生は、さまざまな企業で産業医の仕事をしながら、目が見えない方のためにアップルストアや各地の講習会でiPadの活用法を紹介し、広めています。このような取り組みを行うなかで、大切に考えていることをお伺いしました。

―iPadに注目されたのはなぜですか?

大きな理由の一つは、iPadが視覚障害者向けの機器ではないという点です。iPadは最新モデルが出るたびに注目を集めるような人気の機器で、多くの人が使っています。目の不自由な方がiPadを使っていて設定や使い方に迷ったり、機器の調子が悪くなったりしたときに、「このiPadちょっと見てもらえる?」と、隣にいる人に気軽に頼むことができるのは、iPadが一般に普及した端末だからです。これが視覚障害者の方しか持たないようなものだったら、そうはいきません。多くの人に広げていくのも難しいでしょう。

また、見た目の良さもあります。iPadは一般の人が日常で使っているものなので、視覚障害者専用の機器とは違い、外出先でも人の視線を気にすることなく使えます。

私があえて医療とは一見何の関係もないiPadを広めているのには、このような理由があるのです。今後さらに、視覚障害者がiPadを活用する価値を一般化していきたいと思っています。

―視覚障害者のための取り組みを進める立場から、眼科医の先生に伝えたいことはありますか?

こういう活動をしていると、眼科医の先生から「どんな患者さんにも役に立つお薦めのアプリを教えてほしい」と言われることがあります。けれども病院の先生方は、診療だけでも忙しい状態です。患者さんとゆっくり話をしてその人に合ったアプリを考え、その使い方を教える時間をつくるのは、難しいのではないかと思います。

目の不自由な方にiPadやそのアプリを勧める人が医療者である必要はありません。普通の人でも構わないのです。アップルストアの店員や近所の友人、遊びに来た孫などが、「こんな便利なものもあるよ」と教えてあげる。そういう姿が、本来必要とされているケアの形だと思います。

―患者さんにアプリを勧めるときは、どのようなことに気をつければよいでしょうか?

患者さんにアプリを勧めるのは、患者さん本人がそれを必要だと思ったときです。つまり、「こういうことがしたいから、こういうものがほしい」というニーズが出てきたときに初めてアプリを紹介します。医師が「これを使いなさい」と勧めるわけではありません。病気をベースに考えるのではなく、「これを使えば患者さんの困り事が解決するかもしれない」というときに紹介するわけです。

主眼は患者さんにあります。「どんな人にも役立つアプリ」という考え方では、そもそも患者さん主体になっていません。患者さんのニーズや困難さに関係なく一律にiPadを勧めれば、ミスマッチが生じて、「iPadなんか役に立たない」という人が出てきてしまう可能性もあります。これは最悪な事態です。

この辺りは、医療とは異なるところかもしれません。医療は本人の希望とは関係なく薬を処方しますが、それはその病気にその薬を使うことが治療に必要だからです。けれども、私の活動が対象にしているのは病気ではなく社会です。病名ではなく、「ニーズ」「不便さ」「困難さ」をベースに考えるのが産業医の仕事なのです。

―産業医として「困難さ」をベースに問題を解消した例には、どのようなものがありますか?

以前、ある社員が末期がんだと分かり、対応に苦慮している人事担当者がいました。そういう相談を受けると、私はまず本人に、何に困っているかを聞くんです。すると、「業務で困っていることがあるわけではないけれど、抗がん剤治療をすると髪の毛が抜けるから、その時だけ帽子の着用を認めてほしい」というようなことを言う。「それなら、会社でおしゃれな帽子を買ってもらいましょう」と。その人にとっては、がんになったこと自体よりも、副作用の脱毛が気になることのほうが問題だったわけですね。本当の「ニーズ」「不便さ」「困難さ」は、そこにあったのです。

視覚障害者の方に向けて行っている活動でも、このように「困難さ」をベースに考え、それを解消していくことが大切だと思っています。

(聞き手・文 / 木村 恵理)

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【医師プロフィール】 三宅 琢 眼科・産業医

2005年東京医科大学を卒業後、東京医科大学八王子医療センターで初期研修を行う。2007年東京医科大学眼科学教室入局。2012年東京医科大学眼科兼任助教。永田眼科クリニックに勤務する傍ら、Gift Handsの代表となる。同年東京医科大学大学院修了。日本アルコン株式会社他の嘱託産業医を務める。2013年三井ホーム株式会社、佐川急便ホールディングス他嘱託産業医。2014年より株式会社ファーストリテイリングの本部産業医、東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学特任研究員。同年、株式会社 Studio Gift Handsを設立し、代表取締役に就任。眼科医・産業医として、視覚障害者向けの情報サイトを運営し、グッズの開発やアプリ紹介を行う。病院・福祉施設等では、視覚障害者ケアに関するiPad導入のコンサルティングも行っている。また、全国のアップルストアや盲学校などで行っているiPad活用法の講演は、分かりやすいと定評がある。

医学博士、日本医師会認定産業医、日本眼科学会眼科専門医、産業衛生専攻医、メンタルヘルス法務主任者、ヘルスケアコンサルタント、iOSアクセシビリティコンサルタント

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