【カレーや寿司も⁉】宇宙飛行士・野口聡一さんに聞く「おいしい宇宙食事情」

日本人宇宙飛行士の場合はJAXAが認証している「宇宙日本食」を持っていくことが多いようです。

日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動を実施したJAXA宇宙飛行士、野口聡一さん。長い宇宙空間での生活の中でも欠かすことができないのが、毎日の食事。何を食べているの?美味しいの?と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。野口さんが宇宙の食にまつわるエピソードをお話くださいました。

食べてみたくなる!各国オリジナルの宇宙食

宇宙食は基本的にはクルー共通のメニューなのですが、品数を限って自国特有の宇宙食を持っていくことができます。日本人宇宙飛行士の場合はJAXAが認証している「宇宙日本食」を持っていくことが多いようです。スペースラムもそのひとつで、私が一番好きな宇宙食です。

スペースラムとは、宇宙ラーメンのこと。スペースシャトルでの初飛行の時に宇宙に持っていきました。日清食品の創業者、故安藤百福さんの協力により、宇宙でも美味しく食べれられるインスタントラーメンを開発してもらいました。無重力でもちゃんと調理できてスープが飛び散らない、素晴らしい出来栄えでした。アメリカ人のクルーにも好評でしたよ。

(C)JAXA

(スペース・ラム。無重力環境に適応するため、スープにはとろみが付いていて飛び散らないようになっています。船内の給湯温度である70℃のお湯で湯戻しが可能。味はしょうゆ・みそ・カレー・とんこつの4種類で、野口さんがリクエストしたのだそう)

ほかの宇宙日本食にはカレーライスや寿司などがあります。我々日本人宇宙飛行士だけでなく、外国人宇宙飛行士にも人気があるんですよ。世界的にも有名ですからね。「僕のステーキと交換してくれ」などと物々交換?を頼まれることもありました(笑)

海外の宇宙食では、ヨーロッパ宇宙機関が提供した「牛タンの赤ワイン煮込み」があり、こんなメニューがあるのか!と驚きました。フランス料理の有名シェフとコラボしたスペシャルメニューだったそうです。

宇宙ステーションで料理をする

意外かも知れませんが、宇宙ステーションには電子レンジがありません。調理としてできることは水やお湯を入れることと、80℃前後で素手で触っても大丈夫な程度のヒーターで、少し温めることだけです。また鍋、包丁、まな板といった調理器具も一切ありません

私が長期宇宙滞在中に手巻き寿司を作ったときは、まな板の代わりにクリアファイルを、包丁の代わりにハサミを使いました。あ、もちろんハサミは消毒しましたよ(笑)。

JAXA

(こちらは野口さんが船内でタコス(!)を作る様子。トルティーヤに野菜とオムレツを挟んでいます)

宇宙食は栄養価に優れていることや、長期保存できること、飛び散らないようにするといった条件がどうしても多くなります。ですが、食事は単に栄養素が足りてるかどうかではなく、精神的な安静効果も重要だなと気付かされました。私も宇宙での生活中、サラダや新鮮な野菜が恋しくなりました。

宇宙食は日進月歩で進化している!

最後に1つ、驚くようなエピソードをご紹介します。人類が宇宙に挑戦を始めた1960年代は、宇宙食といえばチューブに入った流動食だけでした。人体が無重力でも食事ができるかわからなかったからです。

でも、ある時アメリカ人の宇宙飛行士がサンドウィッチをこっそり宇宙服のポケットに隠し持って、宇宙空間に到達してから仲間と分け合って食べたそうです。しかしながら味はともかく長時間ポケットの中に入れていたのでパンが乾ききっており、宇宙船の中にパンくずがたくさん飛び散って大変だったそうです。

宇宙食は日進月歩で進化しています。メニューは多様化、多国籍化してきていますし、宇宙生活に必要な栄養素を盛り込んだ機能性食品も数多く考案されています。これまで課題だった生鮮食品も、今後の技術開発で宇宙に持っていくことができると思います。やがて宇宙ステーションや月面基地で本格的な調理が可能になるでしょう

その頃には「宇宙クックブック」が欠かせないかも知れませんね。皆さんも「宇宙で作ってみたい料理のレシピ」を考えて、ぜひ挑戦してみてください!

(C)JAXA/NASA

(ジョンソン宇宙センターのNASAスペースフードラボにて、実際に宇宙食を試食している野口さん。日々開発・改良が重ねられています)

編集部より

最新の宇宙食事情、いかがでしたか?

フリーズドライのものをそのまま食べるというイメージが強かったので、手巻き寿司やタコスのように、複数の食材を組み合わせて料理していることに驚きました!これは確かに、宇宙クックブックが必要になる時代が近そうです。

今は夏休み真っ盛りですが、夏休みといえば自由研究やイベントで、宇宙に関心が高まる時期。今食べられている宇宙食や、自分が宇宙で作ってみたいレシピを自由研究のテーマにしてみるのもいいかもしれませんね!

野口聡一さん

JAXA

JAXA 宇宙飛行士。1965年横浜市生まれ。2005年、日本人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)で船外活動を実施。2009年、日本人として初めてソユーズ宇宙船のレフトシーター(船長補佐)に任命。2019年末から約半年間、ISSに長期滞在する予定。日本人としては最年長54歳での挑戦となる。

取材協力・画像提供