サイボウズ式:実は日本的!? ブルーボトルコーヒーの「街に長く根付く」海外展開の流儀

ブルーボトルコーヒーが、海外初進出となる日本1号店「ブルーボトルコーヒー清澄白河ロースタリー&カフェ」を2月6日、清澄白河にオープンします。

サードウェーブコーヒーの先駆けとして知られる米国生まれの「ブルーボトルコーヒー」。創業者のジェームス・フリーマン氏が「本当に美味しいコーヒーを作りたい」との思いから、2002年に自宅ガレージで焙煎をはじめ、今やサンフランシスコやLA、NYなど米国内で16店舗を展開するまでに。

そのブルーボトルコーヒーが、海外初進出となる日本1号店「ブルーボトルコーヒー清澄白河ロースタリー&カフェ」を2月6日、清澄白河にオープンします。日本での出店・運営を手がけるのはブルーボトルコーヒージャパン合同会社。文化の違いや物理的距離のあるアメリカチームと連携しながら「サンフランシスコの風を感じられるようなカフェをつくりたい」と準備を進めています。

海外拠点と日本拠点が上手くコミュニケーションを図りながら、事業を進めていくのは決して簡単なことではないはず。それを可能にするチーム術とは? アメリカチームと日本チームとの橋渡し役を務める、同社ビジネスオペレーションズマネージャー・井川沙紀さんに話を聞きました。

目指すは「おばあちゃんの家」、ブルーボトルは日本的?

椋田:ブルーボトルコーヒーにとって初となる海外進出ですが、なぜ日本を選んだのですか?

井川:創業者のジェームスが日本を愛していて、日本に進出することを夢見ていたからです。ジェームスは日本の喫茶店にインスパイアされ、2002年にブルーボトルコーヒーを創業しました。彼なりに日本の喫茶店のいい部分や楽しい部分を抽出して作ったお店なのです。

今回の日本出店は、ブルーボトルコーヒーにとって全く新しいマーケットでありながら、事業のルーツである場所。ここでの経験や発見をアメリカに持ち帰りたいという狙いもあるようです。

ビジネスオペレーションズマネージャー・井川沙紀さん

椋田:日本がルーツとは驚きました! 同じブルーボトルコーヒーでも展開する地域によって、さまざまな違いがあるのですか?

井川:基本的にローカルソースにこだわっています。その土地土地のいいものをビジネスに取り入れていく、というスタンスです。ジェームスはよく「その土地を意識しなさい」「その街に長く根づくことを考えなさい」と言います。

ただ、クオリティ面でいいものがあれば、どんどん取り入れていきたいという思いはあります。例えばラッピングなどは日本のほうが優れている部分もあるので、アメリカでも同じものを使うのもありだね、と話しています。また、日本で使用予定のカップも、アメリカでも使おうかと検討されています。

椋田:カップが全店舗で統一されているわけではないのですね。

井川:たとえばサンフランシスコはヒースセラミックス製のカップを使っていますが、NYも日本もそれぞれ別のメーカーのものです。また、一般的なコーヒーチェーンだとロゴや形は決まっていますが、ブルーボトルコーヒーは店によってロゴの位置が異なっています。でも内装に使う素材に統一感があったり、お花が飾られていたりなど、どことなく共通した点はあって「ブルーボトルコーヒーらしさ」が出ています。言語化しづらいところではありますが。

椋田:「言葉にできないものを大切にする」のはとても日本的だと感じます。

井川:ジェームスが大事にするコーヒーショップのあり方、佇まいがそれに近いのだと思います。彼から「お客さまには"おばあちゃんの家に来た感覚"を感じてほしい」と言われたとき、はじめは日本のおばあちゃんの家をイメージしてしまい、「田舎にある畳の家? うーん。。。」と考え込んでしまいました(笑)。

でも、その言葉をブレイクダウンしていくと、ほっとできる雰囲気がありながらも、大声では騒げない心地よい緊張感のある場所を目指しているのかなと。その両輪がバランスよく入ったコーヒー店を目指しているのだと思います。

椋田:その先にはどのような思いが込められているのでしょうか?

井川:ジェームスはコーヒーが本当に大好きで、自分が飲みたいと思うコーヒーを作り続けています。ブルーボトルコーヒーも「お店はコーヒーを楽しむ空間」として作っているからこそ、それ以外の要素をできる限り排除しています。

全体的にデザインがシンプルだったり、カップにロゴが入っていなかったりするのは、彼が「コーヒーを楽しむこととブランドの宣伝は関係ない」と考えているためです。根底には、お客さまにはコーヒーと向き合ってほしい、という真摯な思いがあるのです。

採用倍率は68.8倍、新社員に理念を伝えるには

椋田:日本進出はいつ頃から決まっていましたか?

井川:およそ一年半前でしょうか。その頃からアメリカチームのメンバーが来日して、物件を探し始め、最終的に清澄白河への出店が決まったのは一年ほど前です。

椋田:組織形態は合同会社とのことですが、これには理由があるのでしょうか?

井川:海外ブランドが日本展開するとき、ライセンス契約をして日本企業に依頼するケースが多いです。米ブルーボトルコーヒーの100%小会社で、ブルーボトルコーヒージャパン合同会社として、日本の店舗を運営する私たちはレアケースかもしれません。そのぶんお金も手間もかかりますが、ジェームスの「すべて自分たちでやりたい」という思いが何よりも強かったのです。

店舗があるのは清澄白河の閑静な住宅街。元々工場だったという建物が雰囲気を漂わせている。

椋田:現在、何名のスタッフさんが集まっていますか?

井川:今は20名ほどで半分がバリスタです。ほかにもキッチンスタッフ、バイヤー、焙煎士などがいます。

椋田:経験者が多いイメージがありますが、どんな方が応募してくるのでしょうか?

井川:もともとブルーボトルコーヒーのファンだった、というコーヒー業界出身の方が目立ちました。アメリカの店舗もそういったケースが多いですね。一方で、コーヒービジネス未経験ながらも、コーヒーショップを開業する夢を持つ方もいらっしゃいますね。人数でいうと、バリスタ8名に対し550名の応募をいただきました。

椋田:多様な役割やバッググラウンドを持って集まったメンバーに対し、創業者の思いや会社の理念をどのような形で共有していますか?

井川:ブルーボトルコーヒーには理念などをまとめたものはありません。ただ、アメリカでは新入社員に渡すオリエンテーションパッケージが用意されているので、それをベースにして新メンバーに理念を説明しています。また、年始にはジェームスに「動画を撮って送ってほしい」と依頼して、日本のメンバーに思いを伝える話をしてもらいました。

椋田:トップであるジェームスさんと一般社員との間でもコミュニケーションの機会は持たれているのでしょうか?

井川:ジェームス自身も気さくな性格なので、犬の散歩ついでに各ショップにふらりと立ち寄ってはコーヒーを飲んでいったり、社員と一緒にお茶を飲みに出かけたりしています。日本を訪れた際も「新しいカフェに連れて行ってほしいんだけど」と言われることもあります(笑)。

海外チーム連携は至難の業? ブルーボトル流 意識のすり合わせ

椋田:社内での会議はどれくらいの頻度で行われていますか?

井川:日本チーム限定の全体会議、アメリカチームを含めた全体会議、アメリカチームの各部門担当者との会議がありますが、すべて週1回行い、進捗共有や課題共有、事務手続などについて話しています。午前中はほぼ会議で埋まっています。

椋田:会議ではどのようなツールを使っていますか?

井川:Google+ハングアウトを使って、ドキュメントをシェアしながら進めることが多いです。各地を飛び回っているメンバーとも一斉につながり合えるようなツールを選んでいます。

椋田:海外と日本とではビジネスの進め方や商慣習が違います。海外チームと仕事をするうえで、大変だと感じるのはどのようなことですか?

井川:一つの承認を得るにも、なぜそれをする必要があるのか、背景を説明しなければならないことでしょうか。たとえば日本で新店がオープンすると、行列ができるのはあたりまえ。それに合わせたオペレーションに変えていきたいと伝えなくてはいけません

椋田:アメリカと日本では状況が違うので、すんなり理解してもらうのは難しそうですね。

井川:はい。でも、彼らが知らない日本独特の事情を丁寧に、時にユーモアを交えながら伝えることで、楽しく理解してもらえるといいなと思っています。例えば、お店に長蛇の列ができている動画のURLを共有して「日本の行列は本当にスゴいんだよ!」と説明したり(笑)。

人事についても同じです。アメリカだと皆Webから応募しますが、日本では履歴書を送るのもまだまだスタンダード。なので「日本には履歴書文化があって、そのほうが応募者に対してフレンドリーなんだよ」と伝えたり、数10cmにもなった履歴書の束を写真に撮って共有したりと、カルチャーの違いを、実感を持って理解してもらえるように、コミュニケーションしています。

椋田:最後に、海外チームと日本チームとでプロジェクトを進めるにあたり、普段から心がけていることを教えてください。

井川:お互いの違いを理解することでしょうか。たとえば、向こうの就業規則をもらって単にローカライズするのではダメだと思います。国ごとに法律も違うので、考え方のベースは何なのか、お互いに何を「軸」とするのか、どこからどこまでは任せてもらえるのかなど、丁寧に意識をすり合わせることを心がけています。

チームメンバーの変化

井川さんにお話を伺った後、カフェ内を案内してもらいました。清澄白河ではカフェコーナーの数倍の広さのロースタリー(焙煎所)が併設されています。

室内にある焙煎機

アメリカのショップと同じく、毎日そこで豆が焙煎され、焙煎後48時間以内の新鮮な豆を販売します。カフェコーナーに隣接した部屋では、ロースタリーを併設する全店舗で行われる「カッピング」と呼ばれる作業がスタッフ全員で行われていました。

椋田:カッピングでは具体的に何をするのでしょうか?

井川:焙煎した豆を人の嗅覚と味覚で確認するのがカッピングです。焙煎の情報はすべてシステマティックに管理されていて、毎日この情報が更新されています。

椋田:オープン後、カッピングは早朝に行う予定ですか?

井川:日にもよりますが、日中に行います。毎日の営業時間中にするので、お客さまもカッピングの様子を見ることができますよ。パブリックカッピングも将来的にはやっていきたいです。

カッピングの合間のお時間をいただき、リテールマネージャーの宮崎さんとクオリティコントロールマネージャーのケビンさんにも話を聞いてみました。

リテールマネージャーの宮崎さん

椋田:カッピングのトレーニングでは、どのように力をつけていくのでしょうか?

宮崎:自分が普段食べているものによって、味覚の捉え方は変わってきます。10人いれば10通りある、ということです。そのため味の表現に正解も不正解もありません。感じた味を言葉で表現することが大事です。カッピングでは皆でテイスティングして、各自の意見を聞きながら「こんな表現もあるのか」と理解し、その人自身の引き出しに加えることで、力がついていきます。

椋田:トレーニングを始めてから、チームメンバーはどう変わってきましたか?

宮崎:12月中旬から毎日トレーニングを繰り返すなかで、ブルーボトルコーヒーが基準とする美味しいコーヒーを責任を持って提供するよう、メンバー全員が成長していると思います。また、日本人はアメリカ人と比べて、自分の意見を主張しない傾向がありますが、清澄白河のメンバーは味覚に関して自分の意見を持つようになりました。そこも大きく変わってきたポイントだと思います。

クオリティコントロールマネージャーのケビンさん

椋田:もうすぐオープンです。日本での展開に期待していることは何ですか?

ケビン:とても楽しみな反面、すこし不安もあります。ただ、美味しいコーヒーを作る機材は揃っていますし、チーム内でもワクワク感が高まってきているので、心配はないかなと思っています。ぜひコーヒーを楽しみに来てください。

ブルーボトルコーヒー 清澄白河店 フォトレポート

2Fのオフィスに併設されたキッチン

オープンにはみなさんが迎えてくれるでしょう!

文:池田園子、撮影:橋本直己、聞き手:椋田亜砂美、編集:小沼悟

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