えっ、小学生に商売を?──千葉市 熊谷市長×サイボウズ 青野社長のキャリア教育論

「チバラボ」(千葉市ビジネス支援センター)で開催された第3回地域クラウド交流会より電気通信会社社員、イクメン社長を自称する青野慶久との対談を届けます。

右が千葉市の熊谷俊人市長。地域クラウド交流会には幅広い世代の起業家や起業支援者が参加した。

「チバラボ」(千葉市ビジネス支援センター)で開催された第3回地域クラウド交流会より電気通信会社社員、千葉市議会議員を経て31歳のとき史上最年少で市長となり現在2期目を務める熊谷俊人氏と26歳でサイボウズを設立しイクメン社長を自称する青野慶久との対談を届けます。「育児」と「地方創生」を扱った前編に続き、後編では「起業」と「キャリア教育」を語り合います。

住民のニーズを拾う起業家がでれば街はハッピーになる

青野:千葉は、起業環境としてはいかがですか?

熊谷:よく福岡市長が「福岡が起業率1位」といいますが、見るデータによっては千葉市が1位なんですよ。

青野:えー! すごい。

熊谷:意外と起業する人が多いのが千葉市なんです。もっと増やしていかないといけないし、増やすだけではなく持続し、成長できるようにしていくのが極めて重要です。

青野:私、愛媛県出身なので愛媛県からよく相談を受けるんです。サイボウズみたいなベンチャー企業をどんどん愛媛から出すにはどうしたらいいかと聞かれるんですが、「無理や」という話です。

3年で上場して「グローバルにいくぞ」というような会社はそんなにはでないから、それを出そうとして投資をしても投資対効果は悪い。だから地場に根付く会社をどんどんつくらないと。

サイボウズみたいな企業なんてちょっと育ったらどっかにいってしまうんですよ。地元で雇用するとも限らないし、地元の人だけを対象にしたサービスでもないです。地元の人がハッピーになるには遠いのですよね。

地元に根付いてくれる起業家ならば、育てれば育てるほどその街が便利になってハッピーになる。どちらかというとそういった起業を狙っていくほうがいいのではないかと思うのです。

熊谷:おっしゃるとおりですね。一発大きなものを狙うよりは小さくても多くの事業家がいるほうが活気に満ちると思うんですよね。街として活性化します。

青野:住人が困っているちょっとしたニーズ、それを拾ってくれる起業家がでれば間違いなくそこはハッピーになる。それが連鎖して起こっていけば至れり尽くせりの街ができる。

大企業で働くより起業したほうがはるかに幸せ

熊谷:そのためには、商売が身近な街でないといけないんですよ。日本は家業をしている人が減ってきましたから商売に無縁になってしまっているんです。商売のタネが転がっていれば優秀な商人が出る。

いま日本は起業しやすい状況です。行政が起業を支援するよりは、起業したい人をつくるほうがよほど大事じゃないかと思うんです。

我々もインキュベーション施設をつくっていますが、そんなのなくてもやる人はやります。1円で株式会社ができますから。

青野:起業の敷居がすごく下がっていますものね。それこそITの値段も下がっていますから、ホームページも非常に安く作れます。情報発信もSNSがありますから、いろいろな人を引っ張ってこられる。後はやりたいというマインドさえできれば、すぐ乗り越えていけます。

私がもしもう一回20歳に戻ったら、たぶん起業しますね。もともとはパナソニックに入ったんですよ。やっぱり大企業に入ったほうが安定して給料もええかなと思って。あれは勘違いでしたね。

起業したほうが気持ちよく働けて、好きな人を幸せにする仕事をして、好きな分だけ稼げる。そっちのほうがはるかに幸せですよね。なんか東京の大企業がダメな感じな気がしてきました。

熊谷:私の知り合いの起業家が言っていたのは、よく学校や大学では、ベンチャーの授業でしっかり戦略をもてというが、あれが間違いなんだと。まず起業しろと。戦略を立てないとダメだ的なことをいうから起業のマインドがなくなってきてしまうのだけど。

青野:共感します。MBAってあるじゃないですか。あれね、当たり前のことばかり書いてあるんです。大企業のケーススタディばかりだし。自分でやってみて学ぶほうがはるかに多い。

熊谷:まず原則商売をやろうと。やれない理由があるときに、いったんサラリーマンになる。そういう思考回路も大事なのではないかなと。子どものときから、起業体験をするのが大事です。

千葉市では、千葉大学や東京情報大学の地元で、毎年、小学生に起業塾というのをやっているんですよ。

青野:えっ。小学生に商売を? すごいですね。

熊谷:目指す方向は、「千葉市はやたら子どもが銭勘定にうるさい」というところです。

しかし、少なくとも千葉市の先生は銭とか大嫌いでやりたがらないんですよ。 ある小学校の講演会で児童に市長はいくら給与をもらっているのかと聞かれたんですよ。

とりあえず丸めて100万円もらっていると答えました。「ワーッ」となるわけですよ。大金だから。市長はそれだけ働くのかと、なんとなくわかったと。そのあと感想文をくれたんです。「先生はいくらもらっているのか聞いたら月300円です」と。「市長とは雲泥の差ですね」と。

違うクラスの子もそうなのですよ。たぶん先生同士で示し合わせて「300円と回答しよう」ということになったと思うのです。これはキャリア教育としては最悪ですよ。

一番最初に知っている働く大人が300円しかもらっていないっておかしいですよね。働くのが嫌になるじゃないですか。

青野:夢がないですね。

熊谷:もちろん発達段階においてどこまでリアルをいうかということもあるとは思いますが、「働くということは素晴らしいことだ」ということを教えていかないと。

お金の理想的な流れを学べるキャリア教育を

青野:私もITベンチャーを立ち上げたのですが、やってみて思うのはお金って「流れ」なんですよね。

いっぱい稼いで僕のところに置いておいてもしょうがなくて、次に誰に託すか。託して託して、くるくる回っていくと、なんかみんなハッピーになる。

シリコンバレーもまさにぐるぐる回っているんですよね。

「金をいっぱいもらったから悪い」という価値観だと、何の循環も生まれない。お金はいっぱい稼いで回すべきです。

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久

熊谷:金は天下の回り物ですからね。

青野:どこに回すかが大事なんです。

僕が高級外車を買って、別荘を買ってとなると、うまく回ってない気がする。いっぱい稼いで、本当にお金が必要な人のところにいっぱい回す。これがお金の理想的な流れという価値観に変わればと。

熊谷:全部の責任を学校教育におくつもりは全くないのですが、あれだけキャリア教育といわれるわりには、先生方は働くというのと真逆の価値観で知らず知らずのうちに子どもと接してしまっている。

彼らは、末端の仕事をさせるんですよ。文房具やで窓口に立たせる。これってなんの意味かわからないんですよ。もっと帳簿を見せないといけない。

ほうきで玄関をはかせて「キャリア教育をやっています」というんですが、それは本質的に違います。 丁稚奉公なんですよね。

青野:世の中に価値を生むことは何か? なにをすると喜んでもらえるのか?

熊谷:なぜお金をもらえるのか? それが価値と受け止める人がいるからなんですよね。 その構図が理解できなければ、いくら社会で働く体験をさせたところで違いますよね。

先生も校外で副業を

青野:先生も副業したらいいですね。サイボウズは副業OKなんです。

熊谷:素晴らしい。

青野:サイボウズで3日、2日は別の職場という人もいます。5日分の情報をもってきてくれるんでサイボウズにもありがたいんです。

熊谷:いいじゃないですか。

青野:先生も週に1回は外で働くとかね(笑)。

熊谷:ほんと大事ですよ。先生も社会の仕組みもわかるか、わからなくてもどう伝えるか意識してもらうだけで全然違うんですよ。

いまの問題点は、商業科や工業科など普通科以外のところに全然いかないんですよ。

工業高校は100%の就職率なんですよ。でも志望する人は少ない。働くイメージをもてない。とりあえず普通科に行って、とりあえず大学にいって。

青野:東京の大企業にいって「ワーイ」となる。勘違いやぞって。

教育現場で恋愛も教えたほうがいい

青野:私、教育のところでいうと、なんで教えてくれなかったのかということが2つあります。一つはお金の話なんですよ。お金って流したら便利になるよということ。

もう一つは恋愛なんですよ。ほんと女心がわかればね。我が家はもっとスムーズにいきますよ。教育の現場で恋愛って語りにくいというのがあるのかもしれませんが、積極的に教えたほうがいいし、そこにビジネスチャンスがあるんじゃないかと思うんです。

熊谷:不妊治療に補助を出している立場からすると深刻です。結婚が35歳くらいになると、 出産が体力的にしにくくなっちゃうんですね。最終的には本人の選択ですが、いろんなところで教えてもらえるといいですね。

青野:本当にそうですね。大変学びがあるお話を聞きました。教育やお金のところにはビジネスチャンスがあると思います。皆さんもぜひ頑張ってください。

文:渡辺清美 撮影:大橋宏充

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