期待値コントロールの技術

周囲の評価を上げたいなら、実はちょっとしたコツを抑えておけば十分です。

サイボウズ式編集部より:著名ブロガーをサイボウズ外部から招いて、チームワークに関するコラムを執筆いただく「ブロガーズ・コラム」。今回は、日野瑛太郎さんによる「社内評価を上げ、チームでビジネスを成功に導く期待値の考え方」について。

「自分としては精一杯頑張っているつもりなのだけど、会社ではあまり評価されていない」という悩みを聞くことがあります。

仕事の成果はあくまで結果で測るものなので、「頑張っている」という姿勢だけでは評価されないのはある意味では当然です。

ただ、そうは言っても努力が報われないことが続くと、モチベーションはだだ下がりでしょう。マジメな人の場合、評価が低いのは自分の努力が足りないからだということで、もっともっと頑張らなければならないと思うかもしれません。そうやって消耗して燃え尽きてしまった人たちを僕は何人か知っています。

社内での評価を上げるために必要なことは、多くの場合「頑張る」ことではありません。周囲の評価を上げたいなら、実はちょっとしたコツを抑えておけば十分です。ポイントとなるのは「期待値コントロール」です。今回はこのテーマについて少し考えてみたいと思います。

会社員の「評価」はどうやって行われるのか

まずは前提として、社員の「評価」がどうやって行われているかについて考えてみましょう。

社員評価のやり方は、会社によってさまざまです。期初にミッションを上司と合意しその到達度で評価する形式を取る会社もあれば、360度評価のように上司に限らず広く同僚からの意見を募ってそれを評価に反映させる会社もあります。どの会社も、できるだけ公平で客観的な評価がなされる評価方法を模索してはいますが、完璧な公平を実現するのは不可能なので、実際には不満も多いのが現実です。

どんな評価制度を取った場合でも、会社員の評価には他人からの「印象」が強く反映されます。上司や同僚から「あいつは仕事ができる」「あの人に任せておけば大丈夫だ」と思われている人は高評価になりますし、「あの人はミスが多い」「仕事のやり方に問題がある」などと思われている人は低評価になるものです。

周囲からの印象がいい人が低評価になることは普通ないですし、逆に印象の悪い人が高評価になることもありません。

かなりひねくれた見方をすれば、会社で採用されている評価制度はあくまで「印象」に基づく評価を正当化するための後付けの説明だとも言えます。それはさすがに言い過ぎにしても、会社員の評価の大部分を上司や同僚からの「印象」が占めていることは否定できないでしょう。

社内での評価を上げたいのであれば、まずは上司や同僚に「この人はしっかりとした仕事をする」というような「いい印象」を抱いてもらうことが重要になります。

社員の印象はほとんど「期待値」に対してどうだったかで決まる

では、上司や同僚からの「いい印象」はどのようにして形成されるのでしょうか。ここで登場するのが、前述の「期待値」という考え方です。

ざっくり言ってしまえば、「いい印象」は上司や同僚の期待値を上回った時に生じます。逆に、上司や同僚の期待値を下回る成果しか出せないと「悪い印象」が生じることになります。こうやって文章にしてみるとあたりまえのようにに思えますが、この単純な原理を理解していないため損をしている人はたくさんいます。

たとえば、どんな仕事を振られても決して断ることなく「やります」と答えてしまう人。どんな難題にもできないと言わない姿勢は一見周囲によい印象を与えるようにも見えますが、「やります」と言っておきながら実際にはできなかったとなればそれは相手の期待値を下回ることになるので、印象は悪くなり評価は下がります。自分としては精一杯頑張っているのに報われない、という人は大体このパターンです。

また、他人から見てあまり重要だと思われていないところで仕事のクオリティを高めようとしている人も、期待値という観点では損をしています。誰からも期待されていない仕事を精一杯やったところで、周囲の評価は上がりません。そういう仕事にばかり時間をかけて、その分ほかの重要な仕事で周囲の期待を下回ったりすると「仕事ができない人」という烙印を押されることになります。

このように、周りからの評価があまり高くない人は、期待値を下回ってしまうことが自然と多くなっているはずです。この状況を脱するためには、方法は大きく二つあります。成果を上げるか、期待値を下げるかです。多くの人は成果を上げるところにばかり注力しますが、実はそれ以上に期待値をコントロールして、不当に期待値を上げすぎないことが正当な評価を得るためには重要になります。

期待値コントロールを適切に行うための具体的な行動指針

期待値を適正値にコントロールするためには、たとえば以下のような点に気をつけて日々の仕事をするとよいでしょう。

(1) できないことは絶対にできると言わない

まずひとつ目は、できないことは絶対にできると言わないことです。1度「できます」と言ったものを、後になってから「できませんでした」と言うのは期待値コントロールという観点では最悪の行動になります。

上司や同僚から仕事を受ける際に、少しでもできないリスクがあるのであれば、引き受ける時点でしっかりそのリスクを伝え、相手の期待値を適正な値に下げておくべきです。できないことはしっかりできないと伝え、そのかわりできると言ったことについては確実に達成するようにすると、周囲からの信頼は上がります。

なんとなく徹夜したらできるかも?ぐらいの確度で仕事を受けるなどもってのほかです。徹夜を考える前に、スケジュールを伸ばさない限りできない可能性があることを相手に理解してもらうべきでしょう。

(2) 苦手な仕事はなるべく引き受けない

2つ目は、苦手な仕事はなるべく引き受けないことです。苦手な仕事を引き受けてしまうと、期待値を下回るリスクは上がります。時には苦手な仕事も引き受けなければならないことはありますが、仕事にとりかかる前になんとか回避できないか模索してみるとよいでしょう。

僕自身は、苦手な仕事が手もとに来てしまった場合は、よく同僚に「仕事の交換」を持ちかけていました。得意分野は人によって違うので、これでうまく行ったことが何度もあります。得意な人が得意なものをやるように仕事を配分したほうがチーム全体の生産スピードも上がるので、チームワークという意味でもこれはおすすめです。

(3) 仕事を始める前には、必ず現実的なゴールを設定し合意する

3つ目は、仕事を始める前には、必ず現実的なゴールを設定し合意することです。

つねに周囲の期待値を上回り続けていると、徐々に上司や同僚の期待は加熱していきます。あまりにも期待が加熱しすぎると、非現実的な目標を設定され、結局達成できず評価されないという残念な事態がやってきます。

そうならないためにも、仕事を始める前にはどのレベルのアウトプットを出すべきなのか、事前に合意をするべきです。その際には、現実的なラインに収めることが大切です。「◯◯さんならできるでしょう」と言われても、現実的ではないと思ったなら合意してはいけません。あとで地獄を見るのは自分だからです。

期待値コントロールはビジネスの基本でもある

今回は社内評価という観点で「期待値コントロール」について考えてみましたが、実はこの「期待値コントロール」の技術は、営業などでも非常に重要になります。

顧客満足度は、結局のところどれだけ顧客の期待値を上回るサービスを提供できたかにかかっています。サービスの価値を上げることはもちろん重要ですが、それと同じぐらい期待値を適正値にコントロールすることも大切です。たまに「営業ができないことをできると言ってしまったがために、案件が炎上して現場のエンジニアが死んだ」といった話を聞くことがありますが、これは結局、期待値コントロールに失敗しているわけです。

期待値コントロールの技術を身に付けることは、社内評価を上げるというだけでなく、ビジネスを成功に導くことにもつながります。そういう意味では、なかなか奥深い技術でもあります。習得することができれば、かなり強力な武器になるでしょう。ぜひ、習得にチャレンジしてみてください。

イラスト:マツナガエイコ

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サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。

本記事は、2016年4月27日のサイボウズ式掲載記事期待値コントロールの技術より転載しました。

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