サイボウズ式:「一億総活躍社会」の実現には「主夫」の広がりが不可欠

今、「主夫ブーム」が来ています! 最近、いろんなメディアで「主夫」の話題がにぎわっていますね。

(写真左)村上誠、「秘密結社 主夫の友」"総統"。9歳・3歳の男児を育てる兼業主夫。職種はデザイナー。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事。 (写真中央)白河桃子、少子化ジャーナリスト。「秘密結社 主夫の友」顧問。ふだんは女子大生に「専業主婦のリスク」を説く立場ですが「主夫」の活躍には大賛成! (写真右)青野慶久、サイボウズ代表取締役社長。頭のなかにコテコテの昭和を残しつつも、育休を取得したり時短勤務を実践したりするハイブリッド仕様。3児の父。

政府が"2020年に女性管理職3割"を目標として掲げるならば、これに対応して"男性の3割を主夫"にしようではないか! そんな野望を抱く「秘密結社 主夫の友」(NPO法人ファザーリング・ジャパン)が、男性の家事育児参画に貢献した人に授与する「主夫の友アワード」を創設。 記念すべき初回受賞者は、放送作家の鈴木おさむさん(著名人部門)、エッセイスト&タレントの小島慶子さん(女性部門)LIONソフランCM「主夫、はじめました。」(広告部門)、サイボウズ・青野慶久社長(企業人部門)の4方に決定しました。

2015年10月に行われた授賞式では、受賞者の青野社長、「秘密結社 主夫の友」総統・村上誠さん、同結社の顧問を務める白河桃子さん(ジャーナリスト)が、これからの社会における「主夫」の重要性について、熱く語り合いました。

子どもが半減=「市場が半減する」ということ!

村上:今、「主夫ブーム」が来ています! 最近、いろんなメディアで「主夫」の話題がにぎわっていますね。

白河:多様なライフスタイルが広がってきた証ですね。

村上:青野さんは、会社を経営される側として、「主夫をやりたい」っていう社員が出てきたらどうですか?

青野:大歓迎です。けっこう、やりたい人はいるんじゃないですかね。

白河:青野さんの会社は、すごく柔軟な働き方を採用されているんですよね。社員が働き方を選ぶことができる。「子どもが生まれたから、ワーク重視からライフ重視に変更する」といったことも可能なんですよね?

青野:可能です。最長で1年半、育児休暇をとった男性社員もいますよ。わたし自身も育休をとっていますし、今年の1月には第3子が生まれたので、半年間ほど時短勤務で16時に退社していました。上の子2人の保育園の送り迎えがあったので。

白河:社長がそんなふうだと、社員の人も育休や時短をとりやすいでしょうね。

青野:ですね。それまでは時短勤務の女性って、申し訳なさそう~に帰っていたんです。「みんなに迷惑かけて、すいません!」みたいな感じで。 でもいまは社長がこうですから、「あ、あれでいいんだ」っていうふうになりました(笑)。

授賞式において副賞のエプロンに喜ぶサイボウズの青野社長。「今日はパパごはんデーなので3時間後にはこのエプロンをつけて焼肉丼をつくります」と宣言。以前は食に興味がなかったが毎週木曜日は家族のために夕食をつくっている

白河:でも、青野さん、最初からこういうふうではいらっしゃらなかったとか。お1人目の育休のときは、辛かったんですって?

青野:辛かったですよ! こんな、いま偉そうに前でしゃべっていますけれど、僕の頭の中、無茶苦茶「昭和」ですからね。30分もかけて子どもに離乳食を食べさせながら、「なんでオレ、こんなことやってるんだろう?」と思いましたから。

同時に、「あぁ、これは女性1人に押し付けるものじゃないだろう」とも思った。子育ては、子どもの命がかかってますからね。どっちが重要な仕事かっていったら、そりゃこっちだろう、と。

白河:少子化についても、思うところがおありだったとか?

青野:第2次ベビーブームだった僕らの世代と比べると、今って子どもの数が半分近く減っているわけですよ。そうしたら当然のこと、これから市場も半分になるということです。 いま、経営者が一番考えないといけないのは、「ちゃんと市場を維持していくこと」なんです。つまり、子どもを育てていく人を支援すること。これをしないと、経営なんて言ってる場合じゃないよ、と気付きました。

白河:なるほど。今回、少子化大綱に初めて、「企業にいる男の人の働き方が変わらなければいけない」という文言が入ったんですけれど、やはり政府のなかでもそういった理解が進んできたのでしょうね。

笑いをとるつもりだった、動画「パパにしかできないこと」

広告部門において主夫の友アワードを授賞したライオンの「ソフラン」CM。授賞時に放映中のシリーズ第3弾は、西島秀俊さん扮する主人公が「主夫、がんばっています」と娘をお泊り保育に送り出す様子が描かれている。

村上:今回「広告部門」で受賞したソフランCM「主夫はじめました。」です。これじつは、現在放映しているのがシリーズ第3弾で、もう3年も続いているんです。そんなに前から「主夫」に目をつけていたライオンさんは、先見の明がありました。

このCM、わたしもずっと見ているんですが、西島さん扮する主夫がだんだん成長しているんです。最初はなかなかママ友の輪に入れなかったり、洗濯の仕方がわからなかったりしていたのが、いまはもう、がっつり家事をやる存在になっている。

村上:そしてこちらは、2014年末にサイボウズがつくった「大丈夫」という、働くママに寄り添う動画です。これは本当に、大評判だったんですよね。「ママの気持ちがわかる!」って共感して泣くお母さんが続出しました。

青野:この動画は今まで130万回以上再生されています。その後、これに字幕がつけられた台湾版も人気になったそうで、それも台湾で100万回以上再生されています。いまはアメリカで話題になっていて、かなり大きな広告賞もいただきました。アメリカでも、30万回以上再生されています。

村上:ところが、こちらの第2弾は......。

白河:こちらは、なぜ炎上しちゃったんですか?(笑)

青野:第1弾がすごくワーキングマザーのみなさんの共感を得るものだったので、第2弾は「あれを超えるものが出る!」と期待が高まっていたんですね。そうしたら今度は、ナメた男(同僚)が出てきたもんだから、「ごぅらぁ~」と怒りを買ったと(笑)。 第2弾をつくっていたのは第1弾が公開される前で、あんなにヒットするなんて思ってもみませんでした。

村上:こちらの動画では、ママが一生懸命に、働きながら子育てをするんですよね。夜、子どもが泣いているのを起きてあやしたり、ミルクをあげたり、仕事から帰って急いでご飯をつくったりする。そこに「これはママにしかできないことなの」っていうナレーションが入ったのが、怒りを買ったポイントではないかと?

青野:そう、これを見ていくと、「ママにしかできないこと」なんて一個もないんですよ。こちらとしては、そこで「全部、パパにもできるやんけ!」と笑ってほしかったんですけど。ところが、「どれもパパでできるわ、ボケ!!」という怒りの方向にいってしまった(苦笑)。

村上:なるほど、笑いながらつっこまれるはずだったのが、そうではなく、本気で怒りながらつっこまれる結果になってしまったと......。それにしても、「子育ては父親にもできるよ、授乳以外ならなんでもできるよ」っていう声が、世の中でこれだけ大きなものになってきたことに、僕はけっこう感慨がありました。

みんなもっと「主夫」を名乗ろう

村上:ところで、「働くママ」って当たり前に「ワーキングマザー」とか「兼業主婦」って呼ばれますよね。でも一方で、働きながら家事育児をやっているお父さんのことを「ワーキングファザー」とか「兼業主夫」という呼び方をすることは、まずありません。

でも時代はいま、共働きが増え、お父さんもお母さんも、育児・家事をシェアする方向になっているわけです。そうしたらもっと、「兼業主夫」を名乗るお父さんが増えてもいいんじゃないですかね。「ぼくは"兼業主夫"だよ」と、みんながふつうにいえる社会になったらいいんじゃないかなと。

白河:「秘密結社 主夫の友」の中でも、いろんなタイプの主夫の方がいらっしゃるんですよね。自分の主夫度を「30%くらい」とおっしゃる方もいれば、「100%です!」という方までいる。でも度合いは関係なくて、「名乗ったときが主夫」なんですよね。自覚があれば誰でも「主夫」という。

ちなみに、村上さんが主夫を楽しんでいる秘訣ってなんですか?

村上:「自分がどうみられるか」を気にするのではなく、子どもといっしょに過ごしたり、パートナーのためにご飯をつくったりしている時間を喜びと感じられる、というところでしょうか。そういうのって、家族のなかで、男女関係なくあると思うんですよね。

時代は今まさに「主夫」を求めている

村上:今回、著名人部門で受賞した鈴木おさむさんですが、なぜ彼が育休をとったかというと、奥さん(お笑いトリオ「森三中」の大島美幸さん)が出産でお仕事を休んでいる状態なので、復帰するときに、夫である自分がアシストできるといいなと思った、とコメントされていました。

これって「内助の功」の逆バージョンですよね。昔の話ではよく、夫の立身出世のためにバックアップするいい妻=「内助の功」ってありましたけれど、これと同じかなと。

白河:逆・内助の功ですね(笑)。

村上:それから今ちょうど「一億総活躍社会」といって、女性の活躍推進ということを国がやっていますが、やっぱり女性がばりばり働くためには、支える人もいないとやってけないんじゃないかと。つまり、男性の家事育児参画がないと、女性が子育てや家事をやりながら、さらに働く、ということになってしまうわけで、それはもう無理だと思うわけです。

白河:そこは、両輪で進んでいかないと難しいですよね。

村上:だから、そのためにもやっぱり、主夫を増やさなくちゃいけないなと。また、先ほどの動画「パパにしかできないこと」にもありましたけれど、妻を輝かせること、妻をエンパワーメントすることって、やっぱり夫にしかできないんじゃないかと思うんですよ。妻がバリバリ働けるように、家で癒して、また送り出す。そういう側に、夫がなることが、女性活躍にもつながるのではないかと。

白河:わたしが以前インタビューした主夫の方の奥さんは、「うちに帰ったら5秒で癒される」っておっしゃっていました。いい台詞ですよね(笑)。ぜひ、みなさんもそういうふうに、なっていただければなと。

村上:最後にひとこと、青野さんからコメントをいただけますか。

青野:「主夫」って、じつはいま、日本の問題を解決する大きなキーだと思っています。 今回、安部総理が、「新3本の矢」という方針を打ち出しました。1つめは「GDP600兆円」。まぁ気持ちはわかる(笑)。2つめが「出生率を1.8倍に戻します」、これもうまさに、主夫を広げられるかどうかですよね。そしてもう1つが、「介護離職をゼロにしよう」ということ。これも「主夫」の考え方が広がらない限り、難しいです。「男性が大黒柱じゃないといけない」っていう幻想にとらわれている限り、実現し得ないことです。

つまり、この「主夫」という考え方が、いま国レベルで求められている、ということだと思います。

村上:ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、いままさに、主夫の時代が来ようとしています。わたしたち「秘密結社 主夫の友」は、これからもいろんなアクションを起こしてまいりますので、これからもどうかご期待ください!

文:大塚玲子 撮影:内田明人 編集:渡辺清美

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本記事は、2015年11月27日のサイボウズ式掲載記事「男性が大黒柱じゃないと」は幻想──介護離職ゼロも出生率1.8も「主夫」化がカギ」より転載しました。

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