サイボウズ式:「やりたいこと」がないインターン就活生が、やりたいことを探す話

仕事を選ぶために「やりたいこと」は欠かせない要素。やりたいことがない人が就活でやりたいことについて考えなければいけない時、どうしたら答えが見つかるのでしょうか。

「将来何がやりたいの?」

子どものころから繰り返し聞かれるこの質問にいつから答えられなくなったのだろう──。いつか見つかるはずと思っていたのに、答えは見つからないまま、気づけばもう就活生になっていました。

仕事を選ぶために「やりたいこと」は欠かせない要素です。しかし、誰もが「やりたいこと」を持っているわけではありません。

「やりたいことがない」人が、それでも就活の中で「やりたいこと」について考えなければいけない時、どうしたら答えが見つかるのでしょうか。悩む就活中のサイボウズ式インターン生が森一貴さんに疑問をぶつけました。

「やりたいこと」はないのが普通!

ゆきまーぬ:就職活動の中で「やりたいこと」を求められるのですが、正直私は「やりたいこと」がないんです。そのときに森さんのブログを拝見しました。

早速ですが、なぜ「やりたいこと」が見つからない人がいるのでしょうか?

森:僕は「やりたいこと」ってない方が普通だろうなと思っているんですよね。

ゆきまーぬ:えっ......?

左:森一貴さん。探究・創造型学習塾「ハルキャンパス」代表。東大卒業後、東京でコンサルタントとして働いた後、現在は福井県鯖江市に移住し、教育・コンサルティング事業を行う。自身のブログで「やりたいことなんかないけど、しあわせでいたい人の話」というエントリーを書いている。その内容によると、「やりたいことがない」人は意外に多いのだそう。右:悩める就活生、ゆきまーぬ。

森:そんな問題意識は強烈なトラウマをかかえていたり、被害をうけたりしたことがある人にしか生まれてこないと思うんです。

ゆきまーぬ:たしかに......。

森:僕も「やりたいこと」なんてないですよ。ブログにも書いたのですが、人間には「やりたいこと」タイプと「ありたいすがた」タイプという2つがあって、僕は「ありたいすがた」タイプなんです。

「やりたいこと」タイプは、やりたいことが先にある人たちで登山に近いイメージ。このタイプの人は、目標や理想に対して近づいていくことに対して幸せを感じ、自分と「やりたいこと」につながりがあるパターンが多い。対して「ありたいすがた」タイプの人たちは、「自分の幸せはこれ」というふんわりとした価値観を持っている。この価値観がどの程度満たされているかが幸せの基準になる。(画像は森さんのブログより)

森:世の中の人は、だいたい「ありたいすがた」タイプだと僕は思っています。

ゆきまーぬ:なぜ「やりたいことがない」のが普通なのに、就職活動などでは「やりたいこと」を求められるのでしょうか。

森:就活や仕事において、「あなたは世の中にどんな価値を提供するのですか」という視点で話をされますよね。そうなると「具体的に何をするのか」「やりたいことは何なのか」ということを落とし込む必要がでてくるのです。

さらに意思の疎通を円滑にするためには結論から話をすることが良しとされるので、「僕は〇〇がやりたい」と話をすることが求められてくるのだと思います。

ゆきまーぬ:「やりたいこと」を求められるのは、結論から言うのが好ましいとされているからなんですね。

森:それに「ありたいすがた」タイプの人たちにとって、「やりたいこと」は抽象的なものを具体化したものなんです。コミュニケーションをとるときに、「ありたいすがた」を伝えても成立しない。だからわかりやすく伝えるために、具体的な形に落とし込んだ「やりたいこと」が必要になってくるのだと思います。

ゆきまーぬ:ということは、「ありたいすがた」タイプの人も「やりたいこと」は必要なのですね......。

森:そうですね。「やりたいこと」は必要ですし、誰もが見つけられます

やりたいことがない人のための、やりたいことの見つけ方

ゆきまーぬ:私も自分自身のことを「ありたいすがた」タイプだと思っているんです。「やりたいこと」が必要なのもわかりました。でも、どうしたら見つけられるのでしょうか。

森:結構簡単なんですよ。「ありたいすがた」を言語化し、それを「やりたいこと」に落とし込めばいいのです。

まず、「ありたいすがた」については自分の過去の中に答えが眠っているんじゃないかと思っています。

ゆきまーぬ:過去の中......? 具体的にどうしたらよいのですか?

森:まずはテーマごとに書き出すという作業が必要です。今までの楽しかったこと、許せないこと、辛かったこと......それぞれを書き出します。ブレストなので、ひたすら書いて広げていきます。

ゆきまーぬ:時系列じゃなくてよいのですね。

森:はい。次にそれぞれのエピソードに対して深堀りをすること。例えば、僕は音楽のライブが好きなので「好き」を掘り下げてみます。でもただ「ライブに行く」ことだけが好きなわけじゃないし、実は特定のアーティストじゃなくてもいいということがわかってきます。

ゆきまーぬ:なるほど。

森:僕にとっては、その場にいる人たちが、アーティストを通じて一体になっていることが大事なんですよね。

そこまで落とし込むと、「偶然に出会った人々が一体になることが好きなんだ」という共通点がわかるんです。なので、細かい個人的な感情まで具体化してあげることが2段階目になります。

このようにエピソードの中から共通要素を取り出していったら、「ありたいすがた」が出てくると思います。

ゆきまーぬ:ここで出てきた「ありたいすがた」を「やりたいこと」に変換するにはどうしたらよいでしょうか?

森:僕は最終的に5つのキーワードに落とし込んでいます。

ゆきまーぬ:5つのキーワード?

森:例えば僕の場合は、「自由・余裕・可能性・好奇心・構造理解」。この5つが大事で、それを満たすものは何かを考えて「やりたいこと」を探しました。

ゆきまーぬ:「ありたいすがた」から具体的なキーワードに落とし込んで、そこから「やりたいこと」を探すんですね。

森:そうですね、そのやり方がいいかと思います。ただし、「自由」と掲げるだけではぼんやりしてしまいますよね。自分が掲げる「自由」とは何か、定義しておく必要もあります。

ゆきまーぬ:なるほど。そうすると、「やってみたいこと」が何個か生まれる気がします。その中からどうやって「やりたいこと」を選び出せばよいのでしょうか?

森:僕がやりたいことを決めるときの軸として持っていたのが、「Seeds(シーズ)」と「Needs(ニーズ)」と「Wants(ウォンツ)」です。世の中のマーケティングの用語とはWANTSの言葉の使い方が少し違いますが。聞いたこと、ありますか?

ゆきまーぬ:シーズとニーズとウォンツ? 初めて聞きました。

森:かんたんに言うと、シーズは「自分ができること」、ニーズは「世の中から求められていること」、ウォンツは「自分がやりたいかもしれないこと」。僕は、この視点を利用して「やりたいこと」を決めています。

ゆきまーぬ:ふむ、ふむ。

森:「世の中から求められていること」は「世の中に対して感じている、自分の問題意識」とも言い換えられるかもしれないですね。この3点で選ぶと、きれいに決まります。

ゆきまーぬ:なるほどー!

森:要するに、自分が単純にやりたいのではなく、こんな力もあるし、世の中も求めている。さらに自分も「やりたいかも」と思えるなら完璧ですよね。この方法なら自分を納得させることができるし、世の中にも価値を与えられる論理になっている。そういう選び方ができるといいんじゃないかな。

ゆきまーぬ:シーズ、ニーズ、ウォンツ。この3点セットが大事なんですね。サイボウズの「できること、やりたいこと、やるべきこと」の3つに似ています。

森:世の中の就活本には「自分の提供価値と企業が何を求めてるかを組み合わせることが大事」、と書かれているのですが、自分のやりたいことを含めて記載されていることがあまりなくて、そこが問題だなと思っているんですよね。

ゆきまーぬ:たしかにそうですね。私もつい、貢献できそうなことや、会社で必要とされそうなことばかり探してしまって、自分の気持ちには目がいってませんでした。

このように考えて、教育事業のお仕事を選ばれたのですね。森さんの「偶然に出会った人々が一体になること」というありたいすがたと教育とでは、どんな共通点があるのですか?

森:誰かが偶然、なにかを生み出していく可能性の場を自分でつくるのって最高に幸せだな、と思ったんです。教育というシーンだと、そのクラスにいる人たちは、偶然その場にいるわけですよね。

ゆきまーぬ:そうですね。

森:例えば、その場にいるみんなが考え、新しい可能性を生み出していく。僕の働きだけで、「気づきがあった」と言われる。新しい出会いや可能性を作ってあげられるのが、僕にとってのクラスと言う場なんです。

ゆきまーぬ:なるほど。「ありたいすがた」から「やりたいこと」はこうやって見つけ出すのですね。非常に参考になりました!

最後に「やりたいこと」がなくて困っている就活生に、メッセージをいただけますか。

森:ひとつめは、「やりたいこと」にとらわれるのではなく、あなたはどうなったら幸せですかということをきちんと考えてほしいですね。ふたつめは、問題意識で安易にやりたいことを決めないでほしいと思います。

ゆきまーぬ:本日はどうもありがとうございました。やりたいことを見つける目的がわかったので、まずは自分の過去をふりかえることから始めてみます!

就活生は、考えた

やりたいことかあ......。

考えてみたら、私は「自己分析」という就活ワードから逃げていただけだ。迫ってくる就職活動という現実を受け入れたくなかったから。

今までは好きなことをしていれば良かったし、それをだれかにわかってもらったり、説明したりする必要もなかった。

でも就活になったら、自分を志望動機や自己PRというパッケージに詰め込んで、ラッピングして売り出さなきゃいけない。そんなイメージがあった。

でも敬遠してた自己分析だって、「やりたいこと」を見つけるための手段なのかもしれない。じゃあ、やるしかないか。

森さんの取材後、私は「やりたいこと」を教えていただいた通りに考えてみた。

まず、過去をふりかえってみた。楽しかったことより、つらかったことの方が先に出てきた。

つらかったのは、留学したばかりのひとりぼっちだったとき。私のことを知らない人しかいない、だれも助けてくれない状況があんなにつらいなんて知らなかった。

でも、自分が動くことでだんだん友達ができた。毎晩同じメンバーで集まったり、実家に連れて行ってもらったり。そうすることで少しずつ距離が縮まっていく気がした。

最後寮を出るときには、何人かの友達が掃除を手伝いに来てくれた。あれはすごく嬉しかったなあ。

他にもミュージカルにでたときは楽しかった。ダンスをしたり歌ったりするのももちろんだけれど、どんな意見も受け入れてもらえる空間にいること、そんな空間を構成する一部であることも嬉しかった。

他にも、いくつか考えてみた。そうすると、森さんのおっしゃるとおり、共通点が見つかった。

たぶん、私は人と関わるのが好きなんだ。もう少し具体的に言うと、「時間をかけて、ゆっくり他人を理解し、信頼を深めていくこと」が私には大事なんだ。

私のありたいすがたって、もしかしたらこれかもしれない。

えーと、じゃあ次は「複数のキーワードにおとしこむ」のか。

それってつまり「私のありたいすがたを構成する要素は何か」考えるってことかな?

仲間・寛容・正直・余裕・適当......。

たくさんの言葉を並べてみたけど、しっくりきたのは

・受容(変化やメンバーの違いを受け入れながら進むこと)

・柔軟(苦手なことを好きになる、考えを変えることを恐れないこと)

・継続(持続する関係性を構築すること)

・信頼(信頼しあえる関係であること)

・背景理解(裏にあるものをくみとること、対象をよく知ること)

絶対これだ! って自信はないけど、納得感はある、かも。

次は「シーズ・ニーズ・ウォンツにあてはめ」てみた。

あれ? 埋めてはみたけど、やりたいこと、浮かんでこない。

......たぶん、私の知識が少なすぎるんだ。

世の中にはどんな仕事があって、人はなんのために働いているのか。

知らなきゃなにもできないんだ。

就活生は、(ようやく)動きだした

「ありたいすがた」は見えてきたけれど、具体的にどんな仕事があるのか全然知らない。それを知らなきゃ「やりたいこと」なんて見つからない。知識が必要だ。

そこから私はやっと動き始めることができた。サイボウズの社員さん、他の会社の方にも、たくさんの人のお話を聞いた。その中には、自分の想像と似た話も、全然違う話もあった。

今回、森さんのお話を聞いて、自分自身で考えてわかったのは、

・「やりたいこと」のとらえ方は人によって違うこと

・「やりたいこと」は自然にはうまれてこないこと

・なにをやりたいのか、やりたくないのか、言語化する努力が必要なこと

社会人の方とお話していると、ときにとてもうれしい言葉をいただける。

「誠実」「丁寧」。

そんな言葉で自分を形容してもらえるとは思いもしなかった。人から見た私と、自分から見た私って、こんなにちがうんだ。

そこからまた考えるヒントが見つかる。楽しい。

あたらしい人と出会えるのは、楽しい。

うかがった中で特に印象にのこった言葉がある。

やりたいことをみつけるということは

「過去の自分をふりかえり今の自分を知ることでこれからの自分を『決める』こと」

私はまだ「これからの自分を決め」られないでいる。

でもこれからも、すすんだり戻ったりしながら、やっぱりすすんでいきたい。

文:ミノシマタカコ/イラスト:山里 將樹

【関連記事】

2015-07-22-1437549096-3034502-cybozushikiLogo150.png

サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。

本記事は、2017年3月16日のサイボウズ式掲載記事「やりたいこと」がないインターン就活生が、やりたいことを探す話より転載しました。

注目記事