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2015年12月07日 05時24分 JST | 更新 2016年12月03日 14時12分 JST

サイボウズ式:「人に迷惑をかけない」なんて綺麗事でしかない──乙武さんと多様性を掘り下げる

「乙武洋匡さんこそ、日本でもっとも深く多様性について語れる人ではないか」と、サイボウズ代表取締役社長 青野慶久たっての希望で対談が実現した。

作家、教育者、保育園経営者、コメンテーター、スポーツライター、そして3人のお子さんの父親と、多彩な活躍をされる乙武洋匡さん。その発言にはくっきりとした生の哲学が表れ、それを包むようなユーモアと、どんな人をも受容する優しさが印象的だ。

そんな乙武さんこそ「日本でもっとも深く多様性について語れる人ではないか」と、サイボウズ代表取締役社長 青野慶久が対談を熱望。お互いに一瞬も話題が途切れることのない、新しい視点と気づきで満載の時間となった。多様性を支持する2人が考える、多様性の低いムラ社会・日本に足りない発想とは......?

ムラ社会・日本に多様性を根づかせるには?

青野:サイボウズの社員が増えるにつれ、「成長」とか「誠実」とかさまざまな行動指針を掲げてやってきたのですが、だんだん違和感が大きくなってきました。そして1個残ったのが「多様性」です。結局、「みんなが楽しい会社」を目指しても、一人ひとりの「楽しい」は違う。そこで、「多様性」を会社の最高の善にしたらどうなるのだろうかと考えています。 

多様性について調べてみるとたいてい乙武さんが出てくるんです。宮本エリアナさんとの記事をみてすごいなと。いま「日本でもっとも深く多様性について語れるのは乙武さんではないか」と思い、ぜひ多様性をテーマに乙武さんとお話したいと思いました。

乙武:日本という国にいかに多様性をもたらすかは、私も強く関心を持っているトピックです。 2020年のオリンピック・パラリンピック開催を前に、東京という街をどうするか。さまざまな都市のランキングでは、安全性や経済では、東京は世界トップクラスです。でも著しく低いのは多様性です。それは他者への寛容さが先進国の中では低いということでもあります。

「東京を世界一に」というスローガンを本当に実現するのなら、多様性をどう根付かせていくかが肝要だと思うのです。私もそれをどう手伝えるかなと。

乙武洋匡。1976年生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。2014年4月には、地域密着を目指すゴミ拾いNPO「グリーンバード新宿」を立ち上げ、代表に就任する。2015年4月より政策研究大学院大学の修士課程にて公共政策を学ぶ。三児の父。

青野:なぜ多様性が低いのでしょう?

乙武:ムラ社会の影響は大きいですよね。コミュニティの中を均質にしたいという圧力が働く。均質さから外れると村八分だと。 

確かにいろんな人種がミックスされている国に比べれば、日本は人種の面では多様とはいえない。とはいえ一人一人が本当は違う人間のはずなのに、同じでなければならないという前提で、みな自分をぐっと押し殺し、周りと同じ形になろうとする。結果的にそれが社会の活力をそいでしまっている。無理があるんですよね。

青野:大変共感します。私が小学生のころ、制服のカッターシャツが汗を吸わない生地だったんです。もっと汗を吸うのがいいだろうと親が別のを買ってきて、それを着て学校に行っていたのですが、「みんなと違う」ことが嫌でした。どうしてだろうと思うんですよ。着心地ははるかにいいのに、なぜあの「みんなと違う」ことが嫌だったのかと。

乙武:幼いころの集団生活で、みんなと違うと排除・攻撃されるということを学習してしまうんですよね。自分自身がそういう目に遭ったり、またそういう子を見てきたりするうちに、みんなと同じなら攻撃されないという防衛本能が自然のうちに刷り込まれていく。

たとえ突出した能力があってもその特性を押し殺して、周りと同じふりをしなければならない社会は、一人ひとりの個性が発揮されません。社会を良くする活力とは逆ベクトルになってしまいます。

異分子は組織にない魅力をもたらす財産

青野:私が新卒で就職したメーカーは女性採用が少なくて、いま考えるとそれは明らかに採用差別だったんですよね。男性も30くらいになると結婚、40で課長、50に部長に出世だとか、みんな同じ人生が大量生産されていて「気持ち悪いな」と感じました。

乙武:はははは(笑)

青野:そんな環境で新しいアイデアやユニークな商品が生まれるはずがないですよ。結局、一人一人自由な方がもっと楽しいし生産性も上がるのではないかと思うんです。

乙武:学校でも企業でも組織のなかに異分子がいると管理するうえで非効率的な存在だと思われがちです。一元管理したいがゆえ障壁になる存在と捉えられてしまうのですが、異分子とは、その組織にないアイデアや魅力をもたらしてくれる財産だととらえられるといいと思うんですよ。

青野慶久。1971年生まれ。サイボウズ株式会社代表取締役社長。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、 松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役に就任(現任)。 社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。

青野:なるほど。ただ、多様性を単なるカオスで終わらせないためにはビジョンが必要だと思います。 多様とはバラバラなんだから、コミュニケーションは当然面倒くさくなります。嘘があるとややこしいので公明正大であろう、自立しようということを伝えています。 

みんな求めるものは違うんだから、例えば社宅などを一律に与えるのではなく、欲しいものがあればみんないってくださいということです。「嘘をつかずに公明正大である」と「自分で欲しいものを主張できる」この二つがあればいいのではないかと、サイボウズでは実験しているんです。

乙武:なるほど、素晴らしい取り組みですね。

小さいニーズに卓球のようにガンガン返す

乙武:霞が関で「ゆう活」という早い時間から勤務する試験的取り組みが行われましたが、あれも微妙だなと思うんですよね。ワーク・ライフバランスを考えての施策なんでしょうけれども、けっこうワーキングマザーには不評だと聞きます。 

早い時間から保育所へ子どもを預けるのがかえって大変なんだということですよね。そういう事情を知らない人が施策を立てているのかなと。私の知人もヒーヒーいっています。でも、よかれと思って"一斉に"始まるわけです。 

先ほどの話で言うと、大企業が「社宅を与えれば満足でしょ?」というのと似ていますよね。「ゆう活」も、こうすれば夕方、自由に使えて満足でしょ? という一方的な押し付けが空回りしている。良かれと思って、逆に人々の首を絞めているケースもある。違いのある人がどうやったら働きやすいのか、個人個人にどれだけ柔軟に対応できるかが重要なんですよね。

青野:そうすると個々人のニーズを掘り起こすプロセス自体が大事になってきますね。個別の小さいニーズにまるで卓球のようにガンガン返していくイメージですね。

乙武:そういう意味で、インターネットに大きな可能性を感じています。アナログの世界で、一人一人個別のニーズに対応するのは大変だったのですが、コンピュータには、その非効率を最小限にできる可能性があります。モバイルワークが可能なのはインターネットが登場したからですし。なぜこれだけ設備環境が整ったのに社会全体としてなかなか変わらないのか不思議なくらいです。

青野:18年間ソフトウェアを提供して気づいたのは、ツールを渡しただけでは変わらないということです。結局使う人が変わらないと、ツールが置き換わるだけで本質的には変わらない。

乙武:物理的なものだけでなく、マインドも変わらないといけない。だから青野さんと小室淑恵さん(株式会社ワーク・ライフバランス代表)がセットで動いたら最強だと思うんですよね。小室さんが働き方を提示して、青野さんがそれを可能にするツールを提供する。ベストパートナーだと思うんですよ。結局、「社員が見えないところで仕事なんかするはずがない」といった固定概念が改善されないと、この問題はなかなか進まない。

青野:ツールとマインドは両輪ですね。サイボウズのカンファレンスでも小室さんに登壇していただき「ツールを入れただけでは駄目よ」ってガンガン言ってもらっています。

自分の苦手を認めてもらえれば居場所ができる

青野:以前、社員のママさんが大変そうだから会社に保育園をつくろうと私から提案したことがあるのですが、都心に向かう満員電車にどうやって子どもを乗せるんですかと社員に止められたんです。

乙武:青野さんは止められた。でも、都庁内には都知事の鶴の一声で保育所をつくることが決定された。満員電車に乗せるのかという問題は同じですよね。結局、これもトップが現場の声を聞いているのかという問題につながってくる。

青野:首長の発言は重いようですね。そこは、上の人の言ったことをひっくり返す力をみんなが持てばいいんですよね。国立競技場もそうですね。多くの人が批判してひっくり返りましたね。あれも危なかったですね。

乙武:ルールってもちろん大事なものですし、ルールがないと物事は進んでいかない。でも、日本人はルールを神聖化しすぎるゆえに多様性が進まない部分もあるのではないかと思うのです。大多数の人はそのルールに則ると、うまくいく。でも、少数の人はそのルールに適応できない。その際、全く例外を認めないとなると、その少数の人々はそのコミュニティのなかで力を発揮できなくなってしまう。それなら、ある程度はルールに弾力性を持たせたほうがいいでしょう、という。

青野:そうですね。

乙武:私が教員をしていた時代(乙武さんは2007年から3年間、小学校教諭として勤務)、発達障害のお子さんがいらっしゃったんです。日本の教育では、一般的には先生から意見を求められたら挙手、当てられたら立ち上がって......というルールがありますが、発達障害のそのお子さんはルールを守れず、思ったことをその場で発言します。当然ルールに則れば、彼に発言権はないことになるし、「挙手をしようね」とルールに従うよう求めることになります。 

でも、彼が授業の内容に興味を示してくれるなんて、絶好のチャンスなんです。そこで「発言のルールを」などと言い出せば、彼の興味はしぼみ、それどころかいつものようにキレてしまい、教室のなかで暴れだしかねない。そんな彼にも、厳密にルールを適用することが本当に必要なのか。周囲との兼ね合いなど考えると、本当に難しい問題なんです。

青野:難しいですね。

乙武:難しいでしょ? 多くの教師は、ほかの子への説明が難しいから、その子にもルールを守らせることにしちゃうんですよ。でも、私は彼の"不規則発言"を受け入れた。  

ほかの子どもたちには、こう説明したんです。「みんな一人一人それぞれ苦手なことってあるよね」と。忘れ物したり、ドッジボールが好きすぎて授業に遅れたり、漢字や給食が苦手な子もいる。「その子は思ったことがすぐ口に出てしまうんだよ。直す努力も必要だけど、みんなにも頑張ってもなかなか克服できないことってあるよね」と。納得する子もいれば、しない子もいました。それが正しかったのかどうか、今もわからないですけれど。

青野:自分の苦手を詰められるのが怖いというのが、人間の性(さが)だと思うんです。でも自分の苦手を認めてもらえれば、居場所ができますよね。

乙武:日本では、子育てにおいて「迷惑をかけないように」と教えられて育つ子が多いですよね。インドは真逆らしくて、他人に迷惑をかけないなんてあるわけがないのだから、他人の迷惑に寛容であれと教えるのだそうです。どちらが豊かでしなやかな社会かなと考えたときに、私は後者じゃないかと思うのです。 

ひとに迷惑をかけない社会では、自分の未熟さや弱さを自分で克服していくしかなく、誰かの弱点をカバーする発想にならない。

青野:僕なんてみんなにとって迷惑以外の何ものでもないですよ。 僕が何か言い出しても、ほとんど自分でできないからみんなに迷惑がかかる。補完関係がなければ企業は成立しません。人間みな、デコボコはありますよね、お互いに。

ジグソーパズルのように凸凹を組み合わる

乙武:教員時代、まさにデコボコを理想にしていたんです。ジグソーパズルのようなクラスを目指していて。一つひとつはいびつなピースに見えても、うまく凸凹を組み合わせてつなぎ合わせていくと一枚の美しい絵や写真になる、というイメージで。みんなが同じ均質なピースになる必要はないんですよ。

青野:同じ形になるために労力を費やすくらいなら、ほかの人の足りない部分を補う方がよほどいいですもんね。

乙武:そうです。私の場合は、そういう考え方ができるようになったのはこういう障害があったからですね。トイレや風呂など、生活の根源的なレベルで必ず誰かの助けを必要とするわけですから、迷惑をかけずに生きることができないわけです。 

「迷惑をかけない」なんて綺麗事でしかない。じゃあ、自分が助けられている以上、自分は別の局面で他者を助けられないかと考えるようになるんですね。それが私の多様性の根源的な部分、ベースなんです。 私と比べると、ほかの人の「苦手」って私よりも見えにくいものだから、なんとかごまかせてしまう。だから、みんな隠したり必死に埋めようと労力を費やすんですよね。

青野:なるほどです。私は高校生に講演したことがあるのですが、「大人になったら全部自分でやる必要はないんだよ」と伝えました。会社に入ると仕事を割り振って働く。それが上手だと重宝される、と。自分の力をわきまえて、他者の力を上手に借り、みんなを巻き込んで何かを成し遂げる。そんな感覚が、若い世代にも育つといいですね。

後編に続く

文:河崎環 写真:谷川真紀子 編集:渡辺清美

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本記事は、2015年12月2日のサイボウズ式掲載記事「人に迷惑をかけない」なんて綺麗事でしかない──乙武さんと多様性を掘り下げるより転載しました。