サイボウズ式:都心で働く独身アラフォー女が受けるプレッシャーは低い部類!?──ジェーン・スー×田中俊之、"男と女の気になること"を語る

作詞家にしてコラムニスト、ラジオ人気パーソナリティのジェーン・スーさんと、「男性学」を研究する田中俊之先生(武蔵大学助教)の対談・第4弾。"モテ"を深堀りした前回に続き、今回は、おふたりが最近気になる「男のここがヤバイ」「女のここが心配」という点についてです。

作詞家にしてコラムニスト、ラジオ人気パーソナリティのジェーン・スーさんと、「男性学」を研究する田中俊之先生(武蔵大学助教)の対談・第4弾。

"モテ"を深堀りした前回に続き、今回は、おふたりが最近気になる「男のここがヤバイ」「女のここが心配」という点についてです。

暴力をふるう男のプライドの低さ

田中:最近ぼくが男性について気になるのが、車内トラブルや駅員さんに暴力を振るう人のことなんです。

暴力をふるう人にとって、相手が倒れるのが気持ちいいんだと思うんですね。そういうことで憂さ晴らしをしようという人が、一定数生まれている状況って、ぼくはちょっとこわいなーと思っていて。

ジェーン:歪んでますよね。

ある意味、プライドの低さというんでしょうか。肩がぶつかったくらいのことで「なんだコラ」となってしまう。そんなことで損なわれてしまうようなプライド。お互い余裕をもって「すみません」で済むような話が、すぐぶん殴る、とかになっちゃう。

田中:要するに、「へんな見栄」ですよね。なめられたくない、みたいな。どうも、そういうのを「カッコいい」と思っているみたいですね、そういう人たちは。男性学を研究する立場としては、「それって恥ずかしいんだよ」ということを教えてあげないといけないのかな、っていうのを思っているんですけど。

ジェーン:「カッコいい」っていうか、「男っぽい」ということですよね、わかりやすくいうと。力って、いちばん性差をはっきり出せるところだから。

田中:そうですね。最悪なのは、女性に対するDV(家庭内暴力)です。勝てる暴力なわけですから。DVの加害者って、すごく自分を正当化するんですよ。ぼくも加害者と話をしたことがあるんですけど、「男は男性ホルモンがあるから」とか「殴るっていう感覚の気持ちよさが忘れられない」とか......、最悪だなぁって思います。

ジェーン:瞬間で決着がつく勝負だから、すごく麻薬的な、常習性があるんでしょうね。

田中:そう思いますね。いやな話だなぁ。

お母さんの承認がないと結婚できない!?

ジェーン:わたしが女の子たちのことでいちばん気になってるのは「でもやっぱり、お母さんが」という人がすっごく多いことなんです。先生も前に(対談その1)、「親に認められないと」という人が多いっていう話をされてましたけれど

田中:女の子はとくに「母親」ですかねー。

ジェーン:30ちょっとぐらいの女性たちと話していると、「お母さんが、あの人だとダメだっていうから、別れた」とか「いや~、いまの人は、お母さんには紹介できないんだよね」みたいな、「お母さんのハンコがないと結婚ができない」という声を、たくさん聞くんですね。真面目で、恵まれた環境の人ほど、それを言う。

田中:うん、うん。

ジェーン:でも、親はいつか死ぬし、自分の人生を主体的に生きてかないと、最終的には自分にシワ寄せが来るよっていう...。それを、どうやったら伝えられるのかな? というのは、大きな課題ですね。

田中:ぼくも、どうやってブレイクスルーすればいいかは分からないですけれど、その課題はすごく感じます。就職にしても、結婚にしても、結局「お母さんが」って話になる。

ジェーン:むかしは「夫のマザコン」が問題になっていましたけど、いまは「女子のマザコン」のほうがよっぽど大きいと思う。でも、親をだいじにしているって、世間から白い目で見られることはまずないですからね。むしろ「いいお嬢さんだね」って言われる。

田中:「善行」とされていますからね。

ジェーン:でも、話を聞いていると、「えっ!? キミの母親、人格の境界線みたいものが、あいまいだろ」というような話はけっこう多いので......。

ここ数年、そういう親の問題が語られるようになってはきましたけど、他人事だと思っている人も、まだ多いんですよね。そこを、どうしたものかと。

「あなたがそれでいいなら、いい」

ジェーン:ちなみにわたしは、24歳のとき、母が死んじゃったんですね。だから、そこから先、母からのプレッシャーはまるでなかったんです。

田中:母が闘病していたときに、ほぼ遺言的な感じで「(私がいなくなることが原因で)仕事はやめるな」と言ったんですよ。「言われなくても、やめませんっ!」という感じだったんですけど(笑)。母も父も「あなたがそれでいいなら、いい」という方針の人だったので、すごくラッキーでした。

それでいまこのジェーンさんがあるわけですから、よかったですよね

ジェーン:いや~~、「仕上がりがこれか!」って感じではあるんですけど(笑)。 ただ、そういう「お母さんが眉をしかめるとできない」っていう人が、大人になってもけっこう多いのに、びっくりしました。これ、ほんとに、どうしたらいいんですかね?

田中:それこそ、「仕上がりはこれだよ」って、ジェーンさんが手本を見せるのもいいんじゃないですか。「一般に推奨される道を通らなくても大丈夫ですよ」という証拠を見せる。

学校行って、会社行って、結婚してという、その一本道を進んで行かないと大変なことになるよという「脅し」が多いじゃないですか。「フリーターになると、生涯賃金いくらだよ」とか、「結婚しないと、孤独死が」とかね。その脅しが、若者によく効いているんだと思うんです。

ジェーン:脅し、ありますね。

田中:その脅しに屈しなくてもいいということを見せていく必要もあるのかなという気はしますね。

30代後半独身男性への「なんで結婚しないの!?」プレッシャー

田中:あと男性の問題で、いまはわりと年収が低いとかそういうことばかり取り上げられやすいんですけど、そうじゃない男性にも、やっぱり圧力はあるんですよね。

たとえば、独身で30代後半の、ある雑誌記者の男性なんですけど、その人は年収がすごく高いんです。ただ、結婚する気はあまりない。そうすると「年収が高くて、異性愛者で、35過ぎているのに、なんで結婚しないの!?」というプレッシャーがすごいらしく。そこを誰にも聞いてもらえなくて苦しいと言っていました。

ジェーン:ああー。「持たざる者」は声をあげる権利があるとされているけど、「持てる者」が何かしらの声をあげることは、ものすごくはばかられるところがありますよね。

田中:そうなんです。一般に「恵まれているじゃん」と思われるポジションの人が抱えている問題は、社会問題として議論されにくいんですよね。

ジェーン:そうなんですよ、ほんとに。この本(『私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな』(ポプラ社))に関しても、たま~にですけど、「どうせ、都市部に住んでいる恵まれている女の話でしょ」みたいな批判もありますし。

わたし以前ブログで、東京で生まれ育った者の内なる思いについて書いたんです(※「東京生まれ東京育ちが地方出身者から授かる恩恵と浴びる毒」)。これはけっこう批判の的になったのですが、一方で「よく言ってくれた!」という熱烈な声は、ブログのコメント欄以上にTwitterのダイレクトメッセージとか、Facebookのメッセージで言ってくるんですね。

田中:ああ、他人からは見えないところで、伝えてくるっていう。

ジェーン:見えるとこには、あまり書いてこないんです。やっぱり、東京で生まれ育ったというのは、一般にはすごく恵まれたこととされているから、文句を言っちゃいけないとされているんですよね。

仕事も家庭も趣味も「そこそこ」を求める同調圧力

ジェーン:最近は、男の人の「イクメン・プレッシャー」も大変ですよね。けっこう遅くまで働いて、休みの日は子ども連れて公園に行ったりして、よくやっているね!って。もちろん、楽しいんだとは思うんですけれど。

でも「イクメンして当たり前」みたいなのは、またちょっと違うよねと思ったりして......。負荷が、すごく増えてるじゃないですか。減るところがないままだと。

田中:そういう意味でいうと、ぼくらより、いまの大学生世代は、さらに大変ですよね。真面目なので、全部こなそうとしすぎちゃう。だから、それがうまくいかなくなったときにキツイ。

ジェーン:「全方位そこそこ」みたいな同調圧力が、けっこうありますよね。多くを望むわけではないんだけど、でも「家庭をちゃんとかえりみる」「そこそこの趣味がある」「仕事もそこそこ楽しんでやる」みたいに、あっちもこっちも求められる。

もう「24時間働けますか」(※)とは言わないけど、いまはタスクが増えたぶん、けっこうきついだろうな~と思います。

※1980年代に流行した、栄養ドリンク「リゲイン」の広告キャッチフレーズ。時任三郎が24時間活躍するビジネスマンを演じたTVCMが話題になった。

都会で働く独身アラフォー女はプレッシャーが低め?

ジェーン:そういうのに比べると、わたしたちみたいな、都心で働いている、独身の40くらいの女が、いまの社会で生きていくうえで受けるプレッシャーなんて、低い部類に入りますよね~(申し訳なさげに)。

田中:もしそうなら、「ここは、プレシャーがかからないんだよ」ともっとアピールしていいんじゃないですか?

ジェーン:いや~! そんなことアピールすると、殺されそうじゃないですか!(笑)。

田中:いや、「こういう居心地のいい地帯があるんだよ」という話は、もっとしていいと思うんです。

世間からは「そこは行きたくないよね」とか「居心地悪いんじゃないの?」と思われているところが、「じつは全然みんなが思っているようなところじゃないよ」と。イメージを壊すのは、必要だと思うんです。

同じような境遇で、救われる方がいるかもしれないですよ。

次回に続く

文:大塚玲子、撮影:橋本直己、編集:渡辺清美

★お知らせ★ ジェーン・スーさんの新刊『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)が2014/7/24に発売開始となりました。こちらの動画でジェーン・スーさんが本の紹介をしています。