サイボウズ式:ティール組織って何? 誤解されがちなポイントは?──第一人者 嘉村賢州さんに聞いてみた

始まりは、誰も幸せじゃない経済社会に対する「違和感」から
サイボウズ式
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Valda Nogueira/Especial para o HuffPost Brasil

ティール組織──。「次世代の組織モデル」として注目を集めています。

サイボウズの代表取締役社長・青野慶久も、ティール組織に関心を寄せる一人です。「100人100通りの働き方」をはじめとした、多様な個性を生かしたチームワークで会社経営を考える中、ティール組織はそのヒントを教えてくれます。

果たしてサイボウズはティール組織なのか? サイボウズの組織の特徴は? ティールの第一人者である嘉村賢州さんをゲストに迎え、サイボウズ式社内勉強会を実施しました。

1回目の本記事は、ティール組織の概要について嘉村さんの講演内容をお届けします。

始まりは、誰も幸せじゃない経済社会に対する「違和感」から

嘉村:嘉村です。本日はよろしくお願いします。次の青野さんとの対談に必要な認識のすり合わせのため、「ティール組織とは何か」「どうすれば、組織はティールに変革できるか」など、誤解されやすいポイントを中心に説明します。

『ティール組織』 (フレデリック・ラルー著/英治出版)。原書である『Reinventing Organizations』は2014年に出版。日本では2018年1月に出版された。
『ティール組織』 (フレデリック・ラルー著/英治出版)。原書である『Reinventing Organizations』は2014年に出版。日本では2018年1月に出版された。
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嘉村:「どんなにすばらしいビジョンを持って経営していても、トップも従業員もまったく幸せに見えない。アンケートをとっても、はっきり数字に表れる」

著者である元マッキンゼー・コンサルタントのラルーは、CEO向けエグゼクティブコーチングをする中で、こんな疑問を抱くようになります。

経済成長はできていても、誰も幸せじゃない経済社会に対する違和感。そこから彼の探究がスタートしました。

嘉村賢州(かむら・けんしゅう)1981年生まれ。兵庫県出身。京都大学農学部卒業。IT企業の営業経験後、 NPO法人 場とつながりラボhome's viを立ち上げる。人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。
嘉村賢州(かむら・けんしゅう)1981年生まれ。兵庫県出身。京都大学農学部卒業。IT企業の営業経験後、 NPO法人 場とつながりラボhome's viを立ち上げる。人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。
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嘉村:大学のアカデミックな研究やビジネス的リサーチでは、ビジネス雑誌などで"業績トップ100"に名を連ねる企業を研究し、新しい潮流を探り出す手法がスタンダードです。

ところが、ラルーは従来の手法を採用しませんでした。

企業の知名度にかかわらず、一人ひとりが輝いて働き、クライアントに圧倒的に支持される組織を情報収集し、各社の特徴を調べました。

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嘉村:そこで、まったく見たことがないような組織を発見しました。しかも1社ではなく複数です。

各社、組織規模も業種も違えば、お互いに情報交換をするわけでもない。そもそも存在さえ知らない。それなのに、組織運営が酷似している。その共通点をまとめたのものが、ティール組織です。

ティール組織とは何か。1つ目のポイントは時代によって変わってきた「組織」の歴史。2つ目は、ティール組織に共通する3つの特徴です。

「組織」は歴史とともに進化する

嘉村:まずは歴史について説明します。ティール組織では、時代とともに進化する組織形態を、色に例えています。

●力による支配、原始的組織「レッド」

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嘉村:力と恐怖による強力な上下関係です。興味関心は常に「自己の利益」。自分たちが欲しいものは「すぐに手に入れたい」と、短期的な視点に基づき行動する組織が誕生しました。

●身分による厳格なヒエラルキーが存在「アンバー(こはく色)」

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嘉村:指揮命令系統ができ、業務プロセスが開発されたことで、ピラミッド建設などの長期事業が可能になりました。

●早い成長スピードが求められる「オレンジ」

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嘉村:軍事競争の加速により、誕生した組織形態です。時間当たりの労働者の生産量を測るような、科学的マネジメントを主軸にして運営されます。

数々の経営テクニックが生まれる中で、最も大きな発明とされているのが、能力による実力主義です。身分に関係なく「頑張れば上に行ける」と、労働者が競い合い、飛躍的に組織が拡大しました。

しかし、「能力とモチベーションがある人は頑張れても、組織の下の階層ではモチベーションが上がらない」「承認プロセスが多層的で、上層部に現場の意見が届きにくい」といった問題が起こります。

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嘉村:オレンジ組織のメタファーは「機械」です。仕事が細分化され、人も機械の一部として考えます。

例えば、業務システムへのデータ入力なら、延々と入力作業をするだけ。それで職場人生を終えることもありえます。実は、その業務をしている人は、子ども好きかもしれないし、絵を描くのが好きかもしれない。でも、そういうことは一切考慮されません。

そして人生の終わりに、「機能」で雇われてきたことに対して、「本当は、こういう人生を送りたかったのに」と虚無におちいる。この組織がもたらす成果は、社会的には数々の偉業を達成していますが、個人が幸せを感じにくい。それがオレンジの特徴です。

そこで現れたのが、「グリーン」でした。

●多様性を尊重する「グリーン」

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嘉村:「成長・拡大」や「利益の追求」だけを目的とせず、もっと多様性を重視し、働く社員を尊重します。「このサービスを世の中に出すことは、本当に必要なのか」など、CSR的な観点を持つ組織形態です。

社員を「従業員」ではなく、キャストやパートナー、メンバーと呼ぶのも特徴です。彼らにとっていっしょに働く人は家族であり、仲間だという意識が強くあるからです。

物事を決めるときには、承認プロセスではなく対話を重視し、合宿やワークショップが好まれます。一人ひとりの社員が主体的に参画できるので、やりがいを感じやすいのも特徴です。

中途半端な多様性は「ぬるく」なりがち

嘉村:一見よいところばかりのグリーンですが、問題点もあります。

1番の問題は「船頭多くして船山に上る」状態になりやすいこと。多様なアイデアが出ても、対話に時間をとられ、なかなか物事が決められません。

24時間365日事業アイデアや改善点を考えている社長からすると、ワークショップで出てくるアイデアは「詰めが甘い」「ぬるい」と感じがちです。せっかく対話が起こったとしても、最終的にはトップの"ちゃぶ台返し"が起こり、両者間に溝が生じやすくなります。

また、仲間意識を持ちすぎるため、厳しい意見や突飛な意見を言いづらくなりやすいです。多様性を尊重して生まれたはずの組織で、多様な意見が言いにくくなる。そんな矛盾が生じてしまいます

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嘉村:そこで生まれたのが、これまでの組織形態とはまったく違う形態の「ティール(青緑)」です。

「小さなスタートアップ企業だからできるんでしょ」は大きな誤解

嘉村:ティール組織では、一人ひとりが意思決定できます。雇用契約を超えた信頼で結びつく、まるで生命体のような組織形態です。指揮命令系統もありません。

「小さなスタートアップ企業だから、そういう組織形態が成り立つんでしょ」。そう思う人もいるかもしれませんが、『ティール組織』に取り上げられている企業の社員数は、数百名から数万人規模。社員数4万人の電力会社もあります。

食品加工メーカーや自動車部品メーカー、ITコンサルティング、学校、訪問介護など、さまざまな業種でティール的な試みが実行されています。

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Valda Nogueira/Especial para o HuffPost Brasil

嘉村:誤解されがちなのですが、ティール組織のすべてが、同じような組織運営をしているわけではありません。「この要素があればティールだ」と断定もできません。

一見、まったく違う組織形態ですが、ティール組織を丁寧にリサーチしていくと3つの共通点が見えてきます。「セルフマネジメント(自主経営)」「ホールネス(全体性)」「エボリューショナリー・パーポス(存在目的)」です。

セルフマネジメントは、自由に意思決定できる裁量を持つこと

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1.セルフマネジメント(自主経営)

嘉村:ティール組織でいうセルフマネジメントとは、ヒエラルキーの意識を手放し、一人ひとりが自由に意思決定できる裁量を持つことです。誤解されがちですが、「自分を律することができる」という意味ではありません。

例えば、「何かを購入する」「プロジェクトに予算をつける」「人を雇う」。このすべてを自由に意思決定します。給料の金額を社員一人ひとりが自己決定しているケースもあります。

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嘉村:ただし、ティール組織では意思決定の手段に承認プロセスやコンセンサス(会議による意思決定)を使うよりも「アドバイスプロセス」を使うことが多いです。意思決定の際に「専門性の高い人や影響が出そうな人にアドバイスを求める」ことが定められています。

アドバイスを求められた人は、必ず真摯に対応しなければなりません。

さまざまなアドバイスを真剣に考えた上で、最終的な意思決定は自らの判断で下します。

ティール組織におけるセルフマネジメントは、社員同士の信頼や情報の透明性が担保されることで実現できるシステムなのです。

2.ホールネス(全体性)

嘉村:ホールネスは、「人間そのもの、全部を生かす」こと です。オレンジ組織のような、「システム入力だけで人生を終えるのは、あまりにももったいない」「合理的・理論的であることがすべてではない」ということですね。

合理的ではなくても、感情が動くところにビジネスのヒントがある。不安を覚えるものには、リスクが潜んでいる。こんな可能性を考えます。

これまでは排除されてきた感情的、直感的、理性的、精神的なもの、自分の深い内側にある自我、男性性や女性性。これらも、人として本来はすべて重要でしょう。

いまの仕事には関係がなくても、誰でも特殊な技能や才能を持っているかもしれません。それらを押し殺しているほうが、組織にとって大きな損失です

すべてをありのままにさらけ出しているほうが、人は本来の力をより発揮できる。オフィスに入るときに、わざわざ"武装"しないで済む安心安全な状態が「ホールネス」なのです。

3.エボリューショナリー・パーポス(存在目的)

嘉村:ティール組織では、「存在目的」が最も重視されます。メンバーが「この組織は何を実現するために存在するのか」「何のためにこの職場にいるのか」を常に探求している状態です。

存在目的の実現のためなら、ときに事業内容を大胆に変更したり、競合他社と合併したりすることもあります。

組織のあり方さえ、ダイナミックに変わるということです。

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ELIZABETH RUIZ /CUARTOSCURO.COM

嘉村:そのため、ティール的な組織では中長期の事業計画をたてる意味を持たなくなるわけです。

直近で起こりうる複数パターンの未来予測が役立つこともありますが、今の時代は不安定で不確定要素が多いです。当たるかどうかわからない見通しを、膨大な手間とコストをかけて立てるのは、もはや無意味です

その分、お互いの意見や日々の動向を密に共有する必要が出てくるため、定期的なミーティングなど意見交換の文化が発展します。すると、メンバー全員が自分のかかわる事業の全体像を把握でき、各自の意思決定もスムーズになるのです。

さて、ティール組織の概要がわかったところで、ここからが社内勉強会の本題です。第2回では、嘉村さんと青野の対談をお届けします。ティール組織への変革はそもそも必要なのか、これからのサイボウズの組織を考えるヒントを探ります。(次回に続く)

「うーん、サイボウズには、まだ足りていないところもあるな」
「うーん、サイボウズには、まだ足りていないところもあるな」
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構成:玉寄麻衣/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:二條七海 /企画:森信一郎

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年10月10日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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