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2015年10月10日 11時39分 JST | 更新 2016年10月08日 14時12分 JST

サイボウズ式:岡田武史さん、今治のサッカークラブ経営で地方創生が本当にできるんですか?

「地方創生ではなく『地方創発』を」。そう語る岡田さんが描く地域の未来とは何か。

サッカー日本代表の監督を2度務め、ワールドカップ出場へ導くなど、日本サッカー界をけん引してきた岡田武史さん。2014年11月に活躍の場を四国地域リーグ「FC今治」に移し、オーナーとして活動をスタートしています。

欧州には、地域から生まれ、100年以上の歴史を持つクラブチームが多数存在しています。Jリーグは欧州のサッカーリーグほどの歴史を持っていませんが、日本のサッカーも少しずつ、クラブが地域に根ざしていくことの大切さが語られはじめています。

日本では「地方創生」という言葉で、地域に関する取り組みに注目が集まりつつあります。「地方創生ではなく『地方創発』を」──。そう語る岡田さんが描く地域の未来とは何か。「cybozu.com カンファレンス 2015」(11月20日に大阪で開催)講演に先立ち、サイボウズ 代表取締役社長の青野慶久がヒントを探ります。

地方創生への葛藤、「生き残りを掛けた競争」と割り切れるか

青野:FC今治、破竹の連勝中ですね! チームを強くしたその先に、どんなことを考えておられるのでしょうか?

岡田:サッカーのことだけを考えるのであれば、ただチームが強くなればいいんでしょうね。ただ、チームの土台である今治という街が廃れてしまったら、チームではいられなくなってしまう。

チームがこの先存続していくためには、地域とのかかわりを持ち、街が存続していくことが必要です。

青野:チームが街の存続に貢献するのは簡単でないように思います。どんな条件が必要だと考えておられますか?

岡田:まず、今治の人たちに認められ、愛され、支持されることが大きなポイントでしょうね。ただ、今治のような人口が16万5000人の都市では、それだけではダメなんです。

岡田武史さん。1956年生まれ。大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学でア式蹴球部所属。大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。 引退後は、クラブチームコーチを 務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグの札幌や横浜での監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、2010年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、2014年11月、四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる

青野:チームが地域に愛されることに加えて、ほかの要素も必要と。

岡田:土台としてチームが地域に愛されることは必要です。それだけではなく、チームをきっかけに外から人とお金が入ってくる状態を作っていくことができないと、街がにぎわっていかず、縮小スパイラルに入っていってしまいます。ただ、これが難しい。

青野:難しいとおっしゃる理由は?

岡田:葛藤があるんですよ。外部からお金や人が入ってくるということは、その分だけどこかのお金や人が減るかもしれないということです。僕達は、生き残りをかけた競争をしなければならない。そのことを割り切れるかどうか。

だからといって、東京からただ有名な人や優秀な人を呼べばいいわけじゃない。地方創生をなんのためにやるのか、その裏にある哲学や、共通の認識がないといけません。そうしないとみんながついてこないですから。

今の社会は、つながりをなくす進み方をしていないか?

青野:FC今治のオーナーに就任されたと聞いて、FC今治は強くなるんだろうなと考えていました。お話を伺っていると、それだけではないんですね。

岡田:FC今治の企業理念は『次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。』です。サッカーチームを運営する組織がなんでこんな理念を掲げているんだと疑問をもたれることもしばしばあります。

青野:サッカーだけではなく広い視点で社会をとらえている言葉ですね。

岡田:これは僕の思い入れから作った言葉です。自分にも3人の子どもがいて、子どもたちに一体どんな社会を残すのかをよく考えます。

僕たちは戦後の高度経済成長期を生きてきました。これから子どもたちが迎える時代は、年金破綻、少子高齢化、隣国との緊張関係、環境問題など、課題が山積みです。

本来、生き物とは命を次の世代へとつないでいくもの。それなのに、僕らの社会がやろうとしていることは、つながりをなくす一方なんじゃないかと思ってね。

青野:次世代のために何かを残そうというお考えは、いつごろから持たれるようになったんですか?

サイボウズ社長の青野慶久。1971年愛媛県生まれ。大阪大学工学部卒業後、松下電工株式会社を経て、1997年、愛媛県松山市でサイボウズ株式会社を設立、取締役副社長に就任。2005年より現職

岡田:孫が生まれてからですね。ライフネット生命保険 会長の出口 治明さんも同じような考えをされていて、出口さんはお孫さんが生まれてからそういったことを考えるようになったそうです。

青野:「次世代」が大きなキーワードですね。挑戦の場に東京ではなく、あえて今治を選ばれたのはなぜだったのですか?

岡田:最初、今治という地を選んだのに、深い理由はありませんでした。クラブを選ぶときに考えたのが、1から作れるかどうか。僕らの発想からすると、根本から仕組みを作り直さないといけなくなります。これまでやってきたことを手放すのはなかなか人間には難しい。

それだったら、10年かかってでも1からできる場所を探しているときに思い浮かんだのがFC今治だったんです。

今治を選んだのは「正解」、16万5000人の地域だからこそ1つになれる

青野:実際に今治で活動するようになってから、何か発見はありましたでしょうか?

岡田:今治での活動は「すごい正解だったな」と思いますね。まずは大きさがちょうどいい。16万5千人という人口サイズには、一体になれる感覚があります。

今治には、高校が6つしかないんですよ。中学校が12校、少年団も20ほど。サッカーのピラミッドを作っていくために必要なところを、全部足で回ることができるんです。

青野:数が多すぎると全部を回ることはできないですからね。

岡田:ええ。あとは今治にはスタジアムがありません。前からあるとそのスタジアムを使わないといけませんが、これから作るのであれば思い通りのものを作れます。

青野:1からスタジアムを作れるとなると、色々アイデアが膨らみそうですね。どんなスタジアムをイメージされているんですか?

岡田:今考えているのは、新しいスタジアムを複合型にして、トレーニング施設や治療院もある場所です。そこではデータの収集やバーチャルでの健康管理を可能にします。

年に1回「今治詣で」をしてもらうんです。全国から健康をチェックするために今治に来てもらい、今治を観光して帰ってもらう。健康とスポーツをテーマにしたまちづくりをしながら、年に1度は人が回ってくるような場所にできないか、なんてことを考えています。

青野:面白い! 素敵なアイデアだと思います。

岡田:医療問題は根本的な改革が必要です。膨れ上がる医療費を下げていくためには、市民が健康にならないといけない。そのためには、生涯スポーツが良い。ドイツなどは早くから生涯スポーツの振興に力を入れています。

青野:健康促進を重視する流れは、会社組織でも同様ですね。Googleでは社食でご飯を無料で食べられるようになっていて、食べるもののレコメンドや食べたものを記録し、社員の健康管理をしてくれるそうです。

実はここにお金をかけたほうが社員の集中力が上がって、投資対効果が良いということがわかってきた。街にとっても健康に力を入れていったほうが長期的には良い結果がでるんでしょうね。

街も会社も同じ、目先ではなく長期の利益を考えて行動できるか

岡田:街にしても会社にしても、長期的に物事をとらえるという覚悟が必要なんだと思います。

ただ、日本では大企業で働いている人たちの平均年齢は50代になるなど、年齢層が上がっています。その中で、長期的に物事を見てアクションしていくことは難しい。

目先の利益だけを追求するのではなく、長期的に利益を考えて行動できる企業が日本に増えれば、日本から世界を変えていけると思っています。原丈人さんの『公益資本主義』を読んでいても、これからそういう時代が来る気がしますね。

青野:『公益資本主義』については、アントレプレナー・イニシアティブ決起集会で登壇した際にお話しをさせてもらいました

街も会社も、何かを変えていこうと思ったら、時間をかけないといけないということを知らなくてはいけないと思います。短期で利益を求めてはいけない。

岡田:ええ。

青野:ただ、すぐには変わらないことがわかった上で、長期でコミットするのはかなりの覚悟がいるのではないですか? 岡田さんにご登壇いただく「cybozu.com カンファレンス 2015」のメインテーマである「変える覚悟、変わる覚悟。」にならい、お聞きしたいことがあります。どうやって今治にコミットする覚悟を決めたのでしょう?

岡田:軽い気持ちで行ったら戻るに戻れなくなった、というのが実際のところですね。

青野:持ち前のフットワークの軽さで今治に行ってみたら、帰るに帰れなくなったと(笑)

岡田:そうなりますね(笑)。ただ口では次世代のために、子どもたちのためにとえらそうなことを言って、自分はのんびりと暮らすということへの後ろめたさはありました。

青野:今治を選んだのは、そうした後ろめたさを払拭するためでもあったんですね。長期的な利益を考えた活動はどう考えているのでしょうか?

岡田:昔の日本企業は、今ほど短期的な利益を追いかけてなかったと思うんです。自分の世代で結果がでなくても、次の世代で結果がでればいい。そんな仕事をする人が、今はいなくなりすぎたと思うんですよね。自分の世代での手柄ばかりを考えてしまいがちで。

僕は幸い、今のところ食うに困っているわけではないから、こんな生き様を見せるのもいいかと思っています。

青野:フットワークの軽さこそ、重要な責任を引き受けるのには必要なことかもしれないですね。

夢はビジブル、ポジティブに妄想、小さな成功を積み重ねる

岡田:乗せられやすい性格なんです。加えて、ポジティブなことばかり考える妄想家で。それも関係しているかもしれませんね。具体的な妄想をすることが多くて。

青野:ビジョンというくらいですから、夢は「ビジブル」であることが重要ですよね。目に見えるものになれば共有できる、そして共感できる。

岡田さんが具体的に妄想されることで、他の人がその妄想に共感しやすくなっているんだと思います。

岡田:今治についても色々な妄想をしているんですよ。たとえば、色々なスポーツ選手に来てもらって、みんなジャージを着て街中を歩くようになる。ジャージを着ている人はバスにタダで乗れて、街のあちこちへと移動できるようにする。

街のあちこちに若者があふれて、おじいちゃんおばあちゃんがそういう若い人たちのためにご飯を作る、そんな妄想をしています。

青野:振り切った発想は、大きな都市だとできない小さな都市ならではだと思います。大きなビジョンを描いて、そのビジョンをビジブルなものにしていくために、小さな成功が必要だと思います。

岡田さんが今治で小さな成功だなと感じられたことはありますか?

岡田:チームが強くなっていることはもちろんですが、小さな成功といえば、幼稚園の巡回指導を無償で始めたことがあります。コーチたちが自ら提案してきたことで、地域にチームを認知してもらう活動です。

サッカーチームは、認知され、愛され、チケットを買ってもらい、また試合に来てもらうというステップを踏んでいく必要があります。その最初の一歩のための活動です。これが大反響で。

青野:それはすごいですね。

岡田:いろんな幼稚園から来てほしいと言われて、街中で親御さんからも感謝の言葉を言ってもらったりしています。

青野:ほかにはありましたか?

岡田:地域の若い人たちが試合を盛り上げようと、自分たちで屋台村を作ってくれたんです。地域の非営利団体が自主的に申請して許可をとって活動してくれて。劇的に地域の人たちが認めてくれるようになってきているように感じています。

地域の盛り上がり、人モノの流入、理念──3つのバランスに見る地方創生の夢

青野:地域の人たちとのつながりが少しずつ強くなってきているんですね。地方創生を成功させる最大のポイントは何になると思われますか?

岡田:地域の盛り上がり、外部からのお金や人の流入、そして共感できる理念。この3つのバランスをとることじゃないでしょうか。今治の人だけで盛り上がっていてもダメだし、東京からスポンサーを引っ張ってくるだけでもダメ。

プロチームを運営することだけを考えれば、ビッグスポンサーを引っ張ってくるのが楽です。ただ、この活動はそれだけだとうまくいかないんですよね。

青野:内部と外部のバランス、共感してもらう理念が重要だと。

岡田:そうですね。プロサッカーチームがあれば、地方創生が成功するかというとそういうわけじゃない。僕が夢や理念を語っているうちに、優秀な人たちが集まってきてくれたというものです。

幼稚園の巡回指導のように、理念に共感して集まって来てくれている人たちは、自分で考えて自分で動いてくれる。だから強いんです。

この理念が大事なところなので、スタジアムやサッカーチームの根底にあるものを、もっと伝えていかないといけないと感じていますね。

執筆:モリ ジュンヤ、写真:尾木 司

サイボウズ式編集部からのお知らせ:

2015年11月に開催する「cybozu.com カンファレンス 2015」。基調講演ではサイボウズ 青野慶久が「変える覚悟、変わる覚悟。」を、11月20日の大阪会場の特別講演では、岡田武史さんが「世界と日本、そして地方におけるチーム運営・人材育成の違いとは」というテーマで話します。カンファレンスの無料お申込みはこちらのページから。

(サイボウズ式 2015年10月8日の掲載記事「岡田武史さん、今治のサッカークラブ経営で地方創生が本当にできるんですか?」より転載しました)