サイボウズ式:アラサー女子・美魔女・おばさん。フランス女性はどの「役割」も演じない──わたしが自分らしく生きられる理由

「子供を家で育てるのは、美徳でしょうか」
サイボウズ式

フランスでは若い女性よりも、年齢を重ねたマダムに男性は心ひかれる、という話をよく聞きます。では、この国には「アラサー女子・美魔女・おばさん」といった、年齢で女性を表現する言葉は存在するのでしょうか? また、フランス女性のように、周囲の目を気にせず、のびのびと生きるには、どんな信念や考え方を持てばいいのでしょうか。

由緒ある貴族の家に生まれ、フランスの歴史や文化人類学に造詣が深い、ジュヌヴィエーブ・ダンジャンスタンさん。元外交官夫人で海外在住歴が長く、国内外の女性の地位や生き方に通じるマダムです。現在はパリでマナースクールを主宰する彼女に、フランス女性の年齢に対する考え方、生き方について語ってもらいました。

フランス人は女性を年齢でカテゴリーわけをしない

木戸:日本には「アラサー女子、美魔女、おばさん」という女性を年齢でカテゴリーわけするような言葉があります。フランスにもそのような言葉はありますか?

ジュヌヴィエーヴ:いいえ、ありません。その言葉はどういう意味ですか?

木戸:たとえば「アラサー女子」は30歳前後の女性のことですが、そこには「もう若くない」、というニュアンスも含まれています。

ジュヌヴィエーヴ:信じられない!

木戸:「美魔女」は40代、50代になっても美しい女性です。「おばさん」は女性としての努力を怠った中年女性というような、軽蔑的なニュアンスで使われることもあります。

ジュヌヴィエーヴ:ますます信じられません!30歳でもう若くない、とか、40歳で美しい人が魔女だとか。

ジュヌヴィエーヴ・ダンジャンスタンさん。フランス・パリ在住。ソルボンヌ大学で文化人類学、考古学、文学を専攻。結婚後は外交官夫人としてアメリカ、アフリカ、アジアで政治家や文化人と交流。貴族の家庭に生まれ、子どものころから身につけたふるまいや、国際社会での経験を生かし、2008年に礼儀作法のレッスンを行うマナースクールEcole de la Courtoisie et du Protocoleを設立。日常生活や仕事でのマナーをまとめた著書「Le savoir-vivre est un jeu」(Librio社刊)も好評。
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ジュヌヴィエーヴ・ダンジャンスタンさん。フランス・パリ在住。ソルボンヌ大学で文化人類学、考古学、文学を専攻。結婚後は外交官夫人としてアメリカ、アフリカ、アジアで政治家や文化人と交流。貴族の家庭に生まれ、子どものころから身につけたふるまいや、国際社会での経験を生かし、2008年に礼儀作法のレッスンを行うマナースクールEcole de la Courtoisie et du Protocoleを設立。日常生活や仕事でのマナーをまとめた著書「Le savoir-vivre est un jeu」(Librio社刊)も好評。

木戸:日本は女性の若さに価値があり、年をとった女性の価値が低いとみなす傾向が昔からあります。フランスはどうでしょうか。

ジュヌヴィエーヴ:まったく違います。

木戸:そうなんですね。どうしてフランス人は女性の若さに価値を求めないのでしょうか?

ジュヌヴィエーヴ:学生のころ人類学を専攻し、まさにそのテーマを研究しました。その理由はヨーロッパの歴史や文化を知ることでわかってきますよ。

木戸:ぜひ、教えてください!

フランス女性が男性に尊敬される理由

ジュヌヴィエーヴ:まず時代は中世、ルネサンスにさかのぼります。

木戸:14〜16世紀にヨーロッパで起こった運動ですね。

ジュヌヴィエーヴ:ルネサンスは古代ギリシアやローマで育まれたヒューマニズムや個人主義をよみがえらせ、社会に新しい息吹を吹きこんだ運動です。

木戸:はい。

ジュヌヴィエーヴ:中世のキリスト教の考えは、人間は神の前では平等。でも共同体の一部として考えられ、個々の人権は大切にされなかったのです。

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木戸:個人の自由がなかったということですか?

ジュヌヴィエーヴ:そうですね。ルネサンス運動は人間性の解放を目指し、ひとりひとりの個性を重視したのですよ。

木戸:神中心の文化から、個人を重んじる文化へ転換したのですね。

ジュヌヴィエーヴ:中世の芸術作品には、サインがなくて作者不明のものが多いのです。個々の意識が芽ばえたルネサンス以降、芸術家がサインを残すようになりました。

木戸:なるほど。それでヨーロッパでは男性だけではなく、女性もひとりの人間としての意識が芽ばえたのですか?

木戸美由紀(きど・みゆき)さん。フランス・パリ在住ライター、コーディネイター。株式会社みゆき堂代表。出版社で編集業務に携わり、退職後2002年に渡仏。ソルボンヌ・フランス文明講座で語学をまなび、フリーランスとして活動。パリを拠点に各国で旅や食、文化をテーマに取材、執筆を重ねる。コーディネイトの分野はファッション撮影、雑誌取材、テレビ、広告など多岐にわたる。
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木戸美由紀(きど・みゆき)さん。フランス・パリ在住ライター、コーディネイター。株式会社みゆき堂代表。出版社で編集業務に携わり、退職後2002年に渡仏。ソルボンヌ・フランス文明講座で語学をまなび、フリーランスとして活動。パリを拠点に各国で旅や食、文化をテーマに取材、執筆を重ねる。コーディネイトの分野はファッション撮影、雑誌取材、テレビ、広告など多岐にわたる。

ジュヌヴィエーヴ:この時代に男女の平等を主張したフェミニストもいたのですよ。

木戸:そうなんですか!?

ジュヌヴィエーヴ:フランスで女性の力が強くなったのは、貴族社会の生活風習に変化がおとずれたからです。

木戸:どのような変化が?

ジュヌヴィエーヴ:貴族の男女は別々に生活をしていたのですが、中世になると女性も男性と一緒に狩りや音楽、詩の暗誦を楽しむようになりました。

木戸:はい。

ジュヌヴィエーヴ:また、見識が深い僧侶が「女性は次の時代に文化を伝えていく存在である」と主張し、女性は時とともに文化の中心人物になっていきました。

木戸:そうなんですね。

ジュヌヴィエーヴ:貴族の男性と女性が一緒に暮らすようになってから、女性に敬意を払うというのはとても大切なことになったのにはもう一つ理由があります。

木戸:どんな理由ですか。

ジュヌヴィエーヴ:男性はそれまで軍隊などで生活していたので、乱暴な振る舞いをすることも少なくありませんでした。そうした生活に慣れた男性たちにとって、女性というのは実に洗練された存在だったのです。

木戸:淑女がいてこそ、紳士になれる。男性が女性を大事にすることが、紳士的なふるまいである、という考えが生まれたのですね。

ジュヌヴィエーヴ:その通りです。これがフランスの男性が年齢にかかわらず、女性全般に敬意を払うことの理由のひとつです。

女性を輝かせるのは若さではなく「知性」

木戸:なぜフランスでは日本ほど、女性の年齢が重要視されないのですか?

ジュヌヴィエーヴ:フランス人が重要視するのは、その女性が魅力的かどうか。そして会話の内容です。

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木戸:女性の魅力は知性ではかられる。

ジュヌヴィエーヴ:そうですね。マクロン大統領夫人が人気なのは、どうしてかわかりますか?

木戸:ブリジット夫人は、大統領より25歳年上の、65歳。なぜでしょう。

ジュヌヴィエーヴ:そう、若くはありません。でも彼女はとても文化的で知性があり、マクロン大統領の人生に、影響を与えました。

木戸:学生時代の先生と生徒の関係だったとか。

ジュヌヴィエーヴ:知的な女性が魅力的だ、という考えは非常に貴族的です。政治に影響を与えてきたのも女性なのですよ。フランス革命を起こしたきっかけはサロン文化なんです。

木戸:貴族の女性が主催し、知識人を集めて音楽鑑賞や、情報交換を行ったという、サロン文化ですね。

ジュヌヴィエーヴ:貴族の女性は子供を産んでも、乳母や教育係がいたのでこうした知的活動を続けていけたのです。

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木戸:マクロン大統領当選後、日本では大統領夫妻の年齢差ばかりがクローズアップされていました。

ジュヌヴィエーヴ:フランスでは、女性は単なる出産の対象ではなく、ひとりの人間として尊重されます。だから、年齢は特に重視されません。伯母は85歳ですが知的で、魅力的。今も若い愛人がたくさんいますよ!

木戸:すごく素敵ですね。うらやましい!

不浄な存在?土俵にのぼれない女たち

ジュヌヴィエーヴ:「フランス人は女性を年齢でカテゴライズしない」という話に戻ります。

ある人を「20代だから、女性だから」など年齢や性別で判断するべきではないと思います。そのひと自身を見なくてはいけません。

木戸:年齢や性別ではない、と。

ジュヌヴィエーヴ:30代で老いが始まり、40代が魔女なら、マクロン夫人は大魔女ね(笑)

木戸:アラサー、美魔女など聞いてどう感じましたか。

ジュヌヴィエーヴ:乱暴な言葉だと感じ、ショックを受けました。それは神道の刷り込みなんじゃないかしら?

木戸:どういうことでしょうか?

ジュヌヴィエーヴ:神道は自然主義で、女性の役割は出産。その後は男性を中心に発展するというストーリーがたくさんあるでしょう。それは男性にとって都合のよい宗教のように思えます。

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木戸:神道も仏教もそうですが、どちらも女性は不浄、とみなされていますよね。

ジュヌヴィエーヴ:そうした考えを根本から変えるべきなんです。以前はキリスト教でも女性は不浄でしたが、プロテスタントの台頭で、人間は男女ともに平等である、という意識改革が起こりました。

木戸:そういえば最近、京都の大相撲春巡業で市長が土俵の上で倒れた際、看護師の女性が救命処置をするために土俵にのぼったんです。

ジュヌヴィエーヴ:土俵は神聖な場所と聞きますが。

木戸:はい。女性は不浄ですから、本来土俵には上がれない決まりです。

その女性が救命措置をしている間に、複数回にわたって「女性は土俵から下りてください」というアナウンスが流れて。そのことが日本中で論議をかもしています。

ジュヌヴィエーヴ:人命が大切なのか、伝統が大切なのか。市長さんは助かったのですか?

木戸:はい、助かりました。

ジュヌヴィエーヴ:それはよかったですね!

「美魔女」はほめ言葉なのか

木戸:「美魔女」という言葉についてどう思われますか? 日本では妙齢の女性が努力をして美を保っている、というほめ言葉です。

ジュヌヴィエーヴ:「魔女」という言葉が、ヨーロッパではいい意味ではないので......。先ほども言いましたが、女性の美は見ためではなく、知性、その会話力と深い関係があります。

木戸:女優でいえば、どのような方がフランスでは美しいとされますか?

ジュヌヴィエーヴ:カトリーヌ・ドヌーヴなどです。若くはありませんが、知的で、個性があり、語る内容が素晴らしいですよ。

木戸:女性を魅力的に見せるのは化粧や、服装ではないんですね。

ジュヌヴィエーヴ:化粧がうまくても魅力的ということにはなりません。夫が外交官だったこともあり、あらゆる国に住みましたが、フランス女性の会話力、文化的な姿勢はあらゆる国の男性に好まれました。

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木戸:たしかに、年を重ねた女性に対して、若い女性は知識や会話力が劣ることがありますよね。

ジュヌヴィエーヴ:そうですね、20代できれいなだけの女性よりも、セクシーで魅惑的ながら、教養もある。バランスがとれた女性が人気です。

木戸:会話力についてですが、日本ではストレートな表現や本音をズバズバ言うことは「きつい性格」だと思われてあまり好まれないことも多いです。

また、「自分のことを話すより、聞き役になったほうがモテる」と女性誌などには書かれているのをよく見かけます。

ジュヌヴィエーヴ:そうなんですね。フランスでは昔から男性と女性が対等に議論する文化がありますから、ストレートな表現で本音をたくさん話しても、だれも黙れとは言いませんよ(笑)。

働きたくない女たち、働けない女たち

ジュヌヴィエーヴ:日本では高学歴の女性が働かずに専業主婦になるケースがあると聞きますが、今もそうなのですか?

木戸:そうですね、変わってきてはいますが、たとえ女性が高学歴でも、男性が外で働いて女性は家を守るという保守的な考えのカップルはいます。

ジュヌヴィエーヴ:保守的すぎますね!保育園はたくさんありますか?

木戸:それが足りなくて......。働きたいお母さんが働けない状態です。いま日本で問題になっています。

ジュヌヴィエーヴ:保育園がなければ働く女性は子供がもてませんね。それは国家的な自殺行為といえます。200年、300年後にはもっと人口が少なくなり、日本という国がなくなりますよ。

木戸:日本ではまだ、人の手を借りずに、お母さんが子供を育てることが美徳とされている部分もあります。

ジュヌヴィエーヴ:フランスでは、もっと社会的な考え方ですね。子供は保育園にいった方が他人からいろいろなことを学びますし、社会に適応しやすい。お母さんだって子供とずっと家にこもっていたら、イライラしますよね。

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木戸:子供は外に預けて、お母さんも外に出たほうがいい、と。

ジュヌヴィエーヴ:はい。フランスでは、女性はたくさん働き、たくさん子供を産むことが推奨されています。ゼロ歳児を預けるのはあたりまえですし、保育園をたくさん作るなど、国もそのお手伝いをしているのですよ。

木戸:いい社会ですね。見習わなければ。

ジュヌヴィエーヴ:日本はまだ男性が強い社会ですよね。でも、男の人は怖がりなのですよ。女の人が自立して、自分のもとから子供といっしょに離れるのが怖いんじゃないでしょうか。

「子育ての意識改革と経済的な自立」が自分らしく生きる鍵

木戸:フランス女性のように、周りの目を気にせずにもっと自分らしく生きるためにはどうしたらいいと思いますか?

ジュヌヴィエーヴ:アメリカ人の女性は周囲の目を気にしないように見えますが、男性の気をひくことを考えているように思えます。

フランス女性はちがう。カップルは常に対等で、ひとりの時間は自分の好きなことだけします。男性の気をひくために、行動することはありません。

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木戸:それはすごい。フランス女性は男性のために尽くす、ということはしないのですね。

ジュヌヴィエーヴ:しません(笑)。話が少しそれましたが、日本の女性が自分らしく生きるためには、まず子育てについての考え方を改革してください。子供を家で育てるのは、美徳でしょうか。

高学歴なお母さんが、家事、買い物、テレビドラマを見ることで1日を終わらせたら、子供もがっかりです。

木戸:仕事と家事、育児の両立は大変ではないでしょうか。

ジュヌヴィエーヴ:大変ですが、仕事を終えて子供と会う喜びといったら! わたしが働きはじめたとき、お母さんが社会参加するのは誇らしい、と3人の子供が喜んでいましたよ。

木戸:働いて、女性が経済的に自立できるのもいいですね。

ジュヌヴィエーヴ:その通り。たとえば結婚する相手を間違えてしまったとき。女性が仕事をしていたら、夫と別れて間違いを正すことができます。逆に経済的な理由で別れられず、人生をあきらめるのは、とても辛いことです。

木戸:お母さんが働くにあたり、保育園は絶対に必要ですね。

ジュヌヴィエーヴ:いい保育園をたくさん作るよう、自治体や政府に強く働きかけてください。団体でデモ運動を起こしてもいい。女性が自分の人生を生きるために、保育園設立運動はとても大切なこと。日本のみなさんが一丸となり、いますぐ始めてほしいですね。

執筆・木戸美由紀/撮影・青木悠一/企画編集・永井友里奈

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年5月26日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。