サイボウズ式:「振り返り」は批判大会ではない

実態とかい離した計画をたててしまったり、コミュニケーションのやり方がまずくて無駄に時間を食ってしまうなど、多かれ少なかれチームでの仕事には失敗がともないます。

【サイボウズ式編集部より】

この「ブロガーズ・コラム」は、著名ブロガーをサイボウズ外部から招いて、チームワークに関するコラムを執筆いただいています。今回は日野瑛太郎さんによる「チームで仕事をする際の振り返り」について。

チームで長く仕事をしていれば、失敗の1つや2つは必ずするものです。

実態とかい離した計画をたててしまったり、コミュニケーションのやり方がまずくて無駄に時間を食ってしまうなど、多かれ少なかれチームでの仕事には失敗がともないます。すべてが計画どおりに進み、最後までトラブル1つ発生せずに終わるプロジェクトなどまずありません。

ですので、チームが何らかの失敗を犯すこと自体を嘆いてもあまり意味がありません。人間は失敗をする生き物です。チームが人間によって構成されている以上、一切失敗をしないチームをつくろうなどとは考えるべきではありません。

もっとも、「同じ失敗を繰り返す」チームは最悪です。失敗をすることは、ある意味では経験を積むということでもあります。失敗をしても、そのことから教訓を得ることができればチームは経験値を獲得し、レベルアップしていくことができると言えるでしょう。一方で、同じ失敗を繰り返すということは、過去の失敗から何も学んではいないということです。それでは、いつまでたっても強いチームにはなれません。

では、どうすれば過去の失敗から学び、「同じ失敗を繰り返さない」チームを作ることができるのでしょうか。今日はこのテーマについて考えてみたいと思います。

過去から目をそむけるな

プロジェクトが終了した時の解放感はとてつもないものです。

プロジェクト終了の感慨に浸っていると、ついついつらかったことも「頑張った思い出」へと変化してしまいます。納期を守るためにプロジェクトの終盤に残業・休日出勤をしたことも、コミュニケーションの手違いで仕事に手戻りが生じてしまったことも、上層部の鶴の一声に右往左往させられたことも、全部「過去のこと」になってしまうのです。

「まあまあ、とりあえずは無事に終わったんだから、嫌なことは忘れようよ」

と思ってしまう気持ちもとてもよくわかるんですが、ここで過去から目をそむけてしまってはチームは強くなりません。人生には、振り返らないほうがよいこともたくさんあるとは思いますが、チームにとっては振り返らないほうがよいことなどはないのです。

プロジェクトが終了したら(理想的には、プロジェクトの要所要所で)、チームは必ず「振り返り」の時間を設けるべきです。そうやって過去の傷を丹念に検討していくことで、チームは経験値を獲得しレベルアップしていくことができます。

「振り返り」の進め方

「振り返り」を行う際には、定番ですが「KPT」というフレームワークを使うのがおすすめです。

KPTとはKeep, Problem, Tryの略で、それぞれ「Keep=よかったこと」、「Problem=問題点」、「Try=次に試すこと」に対応しています。

振り返りの方法はもちろんこれ以外にもあるのでチームで好きな方法を選択すればよいのですが、このフレームワークが優れているのは最終的に振り返った内容が「Try」という形で次に取るアクションまで落ちることです。

まずはKeepとProblemを洗い出し、それらをチーム全員で共有したうえでTryを考えます。Tryは、可能な限り具体的なアクションに落とさなければなりません。たとえば、「残業・休日出勤が多くなってしまった」というProblemに対して、「残業・休日出勤をしないように気をつける」というTryを挙げてもそれは言葉の裏返しにすぎず意味がありません。

この場合であれば、Problemである「残業・休日出勤が多くなってしまった」理由をさらに深く考えることが大事です。たとえば、時間の使い方を振り返った結果「会議の時間が長く、それで作業時間が圧迫されて残業・休日出勤が増えてしまった」というところまで原因が分析できれば、これに基づいて「会議を改善する」ためのTryを考えることができます。具体的には、「会議の脱線を防ぐために、議事録をみんなで見ながら会議をする」「トピックに関係がない人は会議の場から退場する」などがありえるでしょう。

最初の振り返りで策定された「Try」は、次にまた振り返りを行う際に、具体的に達成できたかどうかが判定されます。このような改善のプロセスを回し続けることで、チームは着実に強くなることができます。

「振り返り」は批判大会ではない

なお、一番やってはいけないのは「振り返り」を批判大会にしてしまうことです。

「振り返り」の目的はあくまで同じ失敗を繰り返さない強いチームを作ることであって個人を吊るし上げることではありません。世の中には批判が大好きな人もいるようですが、攻撃の矛先をチームメンバー個人に向けるようなことは避けなければなりません。あくまで行うべきは「建設的」な話し合いです。どんよりとした、重い空気の中で行うような「振り返り」はよい「振り返り」ではありません。お菓子でも食べながら、リラックスした気分で行うのがよいでしょう。

「振り返る」時間を大切に

僕の会社員時代にも、プロジェクトの要所要所でチームで何度か「振り返り」が行われました。これらの「振り返り」はとても有意義だったのですが、プロジェクトが終盤に近づくにつれ時間の捻出が難しくなり、途中からほとんど「振り返り」が行われなくなってしまったという経験があります。

たしかに、目の前の仕事で手一杯になってしまうと「振り返り」どころではなくなってしまう気持ちはわかります。「後ろを向いている暇があったら、少しでも前に進め」という空気が形成されてしまうのかもしれません。

しかし、これは非常にもったいないことです。「振り返り」をしないということは、チームの改善の機会を奪うということでもあります。一見「振り返り」はプロジェクトの進捗そのものに寄与しない非効率な作業のようにも見えますが、長い目で見れば確実にチームの仕事を効率的なものに変える力があるのです。

チームを強くしたいと思うなら、「振り返る」時間を大切にしましょう。過去を捨ててはいけません。過去と向き合うチームだけが、先に進み続けることができるのです。

(サイボウズ式 2014年6月30日の掲載記事「「振り返り」は批判大会ではない」より転載しました)

イラスト:マツナガエイコ

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