サイボウズ式:働く母は子どもに悪影響を与えるの?──男性学×がん、離婚、小1の壁を乗り越え働く母たち

「子どもを預けて仕事をすることが、子どもにどう影響するのか?」は、育児も仕事も頑張りたい人にとって気になるところではないでしょうか?

左から武蔵大学 社会学部社会学科助教 田中俊之先生、マーケティングプロデューサー 村山らむねさん、シンガーソングライター 松田陽子さん

「子どもを預けて仕事をすることが、子どもにどう影響するのか?」は、育児も仕事も頑張りたい人にとって気になるところではないでしょうか? 育児で仕事を中断した女性の就業を支援する「主婦インターンシップ」の事務局を務める日本財団は、「働く母と子ども~子どもに悪影響ってあるの?」をテーマにトークライブを開催。大企業やベンチャー勤務を経て「小1の壁」に当たり起業したマーケティングプロデューサーの村山らむねさん、がんや離婚、うつ病を乗り越えシンガーソングライターとして活躍する松田陽子さん、男性学の視点から働き方について提言している武蔵大学社会学部助教の田中俊之先生が登壇しました。三人の語らいより「悪影響を与えるかどうかといった理屈ではない」といった本音や、限られた子どもとの時間をどう過ごすかについてのヒントを お届けします。

働きながらの子育ては男性の問題でもある

田中:武蔵大学の田中です。男性学をやっています。女性が働きながら子育てをするときに、女性だけの問題と考えても解決しません。男性の働き方の問題でもあると思うのです。男性が長時間労働をしながら育児も家事もやってくださいというのも辛いのではないでしょうか。

今日は女性ばかりですが、受けて立ちますのでよろしくお願いします。

村山:村山らむねと申します。私は男女雇用機会均等法3年生で、89年に東芝に入社しました。31歳で出産し、1年の育休を経て職場に戻ったのですけれど、席がなかったんです。「今日からなんだね!」って課長さんが慌てて席をつくってくれたことがけっこう衝撃でした。

復帰して1年後、「保育園に子どもを預けてやる仕事かな?」と疑問に思っていたところ、ネットベンチャーに誘われ、そこで4年間仕事をしました。

ベンチャーなので子育てしながら働くのは、本当に大変でした。保育園に迎えにいくので早く帰らせてもらうのですが、子どもが寝てから朝の4時ごろまで仕事をしていました。

夫が保育園に連れていったのをなんとなく感じながら起きて仕事に行く。一輪車でジャグリングしているような感じです。とにかく前に進むしかない4年間でした。

子どもが小学1年になるとまさに「小1の壁」にあたり、会社員であることをやめ起業しました。

自由に仕事をしようと思い起業したのですが、やっぱり仕事が楽しくなってしまって、仕事にのめり込むようにして10年間いままで駆け足できました。

今、娘は高校2年生です。どうやって娘と離れていくかというのが最大の課題です。「ママ、ママ」って求められていたのは遠い過去です。求められていた時期は本当に幸せな日々だったのだなとつくづく思います。

今日は先輩ママとして説教臭くならないように気をつけたいと思います。

松田陽子さん:関西外国語大学卒業。イベント制作会社勤務を経て1996年渡米、ニューヨーク、ブロードウェイにてシンガーとしてレギュラー出演。出産後、がん、離婚・うつ病を乗り越え、シンガーソングライター・セミナー講師・MCとして活躍。株式会社 One Planet、NPO法人selfを設立。国連UNHCR協会 広報委員。難民支援や児童虐待防止、子宮頚がん検診啓発など、さまざまな活動を展開。著書に『生きてるだけで価値がある』(サンマーク出版)がある。

松田:松田陽子です。シンガーソングライターです。大阪から来ました。私は27歳のときに結婚をして29歳のときに娘を産みました。娘が1歳半になったときに、たまたま行った検診でがんがみつかりました。

「子宮を全摘出しないといけない。リンパや他の内蔵に転移しているかもしれない。あなたの生きる確率は半々です」といわれました。

結婚生活や育児でとても楽しいはずの時期が、死に直面した過酷な日々となったのです。

子宮をとり子どもを産めない身体になりました。専業主婦でこれからもやっていくのだろうと思っていたのですが、精神的な病気にもなり、生きているのが辛く寝たきりになってしまうこともありました。

いちばん支えてもらいたかった夫とは、すれ違ってしまい離婚しました。

シングルマザーとなって母の元に戻りました。母とは今はとても仲良くやっているのですが、以前は関係がよくありませんでした。幼年期は、母も手をあげるDV環境で育ちました。お互いに愛情表現の仕方がわからないままでいたのです。

しかし、娘を産み育てたことで、母親の思いがわかるようになってきました。かつてはギクシャクしていましたが、娘を守ろうという共通の目標もありとてもいい関係です。

なかなかディープな話かもしれませんが、なんでも答えますので、よろしくお願いします。

田中:これからは新しい家族像を考えていかないといけない時代ですね。シングルマザーやシングルファザー、主婦の男性版・主夫もいます。いろんな家庭環境であっても、ポジティブに生きていけるということを伝えていければいいですね。

働くお母さんは子どもに悪影響を与えちゃうの?

田中:さて、今日のテーマは、「働くお母さんは子どもに悪影響を与えちゃうの?」です。

日本で専業主婦が最も多かったのは1975年です。僕が生まれた年です。子どものころは「鍵っ子」という言葉がありました。お母さんが働いているお子さんは「寂しい思いをしているのではないか?」「悪影響があるんじゃないか?」という印象になっているのだと思いますが、実際にお二人は働いていてどうですか?

村山:小さいころ娘に「寂しかった?」ときくと「寂しかった」といいました。でも、子どもに寂しい思いをさせるのも一種の栄養だと思います。人間って寂しいじゃないですか。

働くお母さんが悪影響かといったら、あらゆるお母さんが、子どもになんらかの悪影響を及ぼしています。ずっと専業主婦で子どもといても悪影響を与える場合もあります。働いていることに関わらず、母親は子どもに対してなんらかの悪影響を与えていると思い、謙虚にあるべきではないかなと思うのです。

村山らむねさん: 慶応大学卒業。89年東芝入社。95年に個人ホームページ「らむね的通販生活」立ち上げ、96年に初の著書を出版。セミナー講師、雑誌へのコラム執筆、TV出演などが相次ぎ、電子商取引に関わる委員などを歴任。株式会社イーライフを経て2004年に有限会社スタイルビズ設立。ワーキングマザースタイルというサイトを運営している。日経MJや日経DUALで連載中。

松田:私は娘が3歳の頃、専業主婦でしたが離婚しました。がんがいつ再発するかもわかりませんし、精神安定剤も飲んでいましたが、夫がいなくなったので働かないといけません。

30代半ばで、パソコンも使えないし、資格もない。病気だし、いつ死ぬかわからない。仕事もない。仕事を探そうとアルバイト情報誌をみても、最後のページまで合うものがなく、そのときは絶望的でしたね。

振り返ってみると、大学を出てスカウトされて歌の仕事をやってきました。でも、再び歌の仕事といってもいきなりは食べられません。

「司会や通訳もできます。なんでもできます」といって、事務所に所属できなかったので、友達やいろんな人に手当たり次第に会わせてもらっていました。家に帰ってバターンと倒れて「今日も仕事が見つからなかった」と泣く日々でした。

よくあんな状況で頑張れたなと思います。お母さんが病気で寝たり起きたりしている。それでも頑張ろうとしているというのは、娘には伝わるんですよね。

3歳、4歳で本当は寂しいのでしょうけれど、「ママ、頑張っておいで」って、目に涙を溜めて言っていましたね。それで十分でした。悪影響やらなんやら理屈の問題ではないのではないかと思います。

田中:今の話を聞くと、働くっていうのも、無理して雇われて働かなくてもいいのかなと思いますよね。フリーは、実際に大変だと思うのですが、やれると言ってやれるようになるということもありますよね。働くことに一歩踏み出すというのが重要だと思いました。

上手に離れていって子育ては完成

田中:小さい頃から人に子どもを預けることで悪影響があるのではと思ってしまう方もいると思うのですが、一人の人だけでなく、いろんな人と触れ合いができるのも、けっこういいのではとも思います。

田中俊之さん:武蔵大学大学院博士課程修了博士(社会学)。学習院大学「身体表象文化学」プロジェクトPD研究員、武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師を経て、2013年度より武蔵大学社会学部助教。専門は男性学・キャリア教育論。著書に『男性学の新展開』(青弓社)がある。

村山:うちの子は1歳と1週間で保育園に預けていたので、周りのお友達もお母さんが働いているのが当たり前だったんですよね。

だから彼女は小学校に入って衝撃を受けました。家にお母さんがいる友達がいる。その子たちと遊びたいけれど、学童に行かないといけないので一緒には遊べない。お母さんがいる子たちは、家でおやつを食べ友達と遊べる。

学童組と家に帰る組とが分かれるんですよね。違いがあることを知り、寂しさのレベルが上がったというのはありましたね。

松田:私は、以前、歌手の仕事をしていたのですが、子どもを生んで辞めていました。専業主婦に向いていると思いましたし、本当に我が子が可愛くて可愛くて。

ボイストレーニングの先生をやってくれとか、スカパーで英会話の先生の役で出てくれという仕事で保育所に預けたことがありましたが、預けるのは嫌だったんです。「子どもが泣いているのと違うか? 先生はちゃんとやってくれている?」と思って早めにいって覗いていました。

子どもを預けるって子どもにも過酷ですが、お母さんも引き裂かれるほど辛いのだということを覚えています。

田中:我が子って、可愛いいんですかね?

松田:めっちゃ、可愛いです。これからは子離れが必要になってくると村山さんはおっしゃっていましたよね?

村山:上手に離れていって子育ては完成だと思うんですよ。親の力が必要にならなくなることが。

どうしても手をかけたくなってしまうし、何かしてあげたくなっちゃうけれど、それをぐっとこらえます。中学生ぐらいからは自分でやらせたり、家族というチームに貢献させたりしています。お友達や彼氏と遊びにいくことも、心から賛成ではないですが、まあいいんじゃないと認めています。

今度は、夫と向き合っていかないといけない。土曜日などは夫と2人きりにならないといけない。もう地獄です(笑)。ゴルフの練習とか一人だけの世界にいってくれるとほっとします。これから夫婦として過ごす時間が長くなるので、それが課題になってきますね。

田中:子どもが育ってしまうと「意外と他人だな」「この人なんだろう?」って思われることがあるようですね。熟年離婚も多いです。夫から誘われて迷惑だという話は耳に挟みます。私は男なのでけっこう辛いです。

一緒にいる時間を大切にしなければいけなかった

村山:子どもってよくギフト、神様からの託されものだといいますよね。15年間や20年間を託されている。だからこそ一緒にいる時間を大切にしなければいけなかったのかなとつくづく思いますね。それを祖末にしていなかったかなという後悔は非常にあります。

けれど、働いていたから祖末にしたという気持ちは私の中にはそんなにないです。働いている姿を見せてきたのも、彼女にとって悪くはないのではないかと一応は思っています。

松田:専業主婦でもイライラして、暗い顔で子どもにあたっている人もいますよね。絶対あかん。お母さんが太陽のように明るくて、「人生楽しいわ」という姿をみせてはじめて子どもは「うわー、将来って楽しみ」と思えるんですよね。

私も日本全国行かせてもらうので何日間か家を離れるときもあります。出張中は、長電話で彼女なりにいろいろ話してくれるんですね。

帰ってきたら、片付けなどやらないといけないことがあります。ですが、娘が「ママ、ママ」と呼ぶんですよ。「目をみて。ちゃんと」と。家事をしながら、背中でコミュニケーションできていると思っていたのですけれど、それは間違いでした。

「ママ、人に『愛の3原則』(温かい肉声、笑顔、スキンシップ)やいうてるやん。家でもちゃんとしいや」って。人間って動物ですから、目を合わせてコミュニケーションすれば、働くママも心の対話ができると思います。

田中:時間の長さではないんですよね。

松田:心の深さです。

頼れるものは頼ったほうがいい

田中:松田さんはご実家ということですが、頼れるものは頼ったほうがいいと思うんですよね。

村山:使える手はなんでも使うといいですね。親でも旦那さんでも、旦那さんのご両親の手でも。夕飯を作ってくれるお手伝いさんを頼むなどお金で解決するのもまっとうだと思います。

子育てしながら働くのは、なかなか難しいです。非常事態であるわけです。なるべく自分がラクでいられるようにするということをコンセプトにしたらいいと思います。

松田:村山さんは、お皿を洗った事が無いそうですね?

村山:私、家事がほんと嫌いで、なかでも嫌いなのが皿洗いなんです。結婚してから、たぶん夫が海外出張のとき以外はしません。

田中:いいと思うんですよね。無理しないで頼れるところは頼ればいいし、飾らないのが大事ですね。

松田:私、この10年、子宮頸がんで生きるか死ぬかでしたが、去年なんて脳腫瘍にもなったんですよ。悪性ではなかったんですけれど。目の裏の腫瘍をとって。視野障害もあり、難病にも指定されて、「一生この薬飲まないとあかん」といわれたんですけれど、今は奇跡的に乗り越えて幸せになっています。

お母さんも、若いとか関係なく、いつ病気になるかはわからない。いつ人生が終わってしまうかもわからないのですよ。

だから、子どもが小さいから子どもと一緒にいてあげる。その選択もありだと思うんです。自分がいつ死に直面しても後悔しないという自分のビジョンは、もっていたほうがいいと思います。

子どもは、お母さんがシングルだろうが病気だろうが、一緒に乗り越えていこうとしてくれます。小学生の娘も、私が入院中は枕をもって電車に乗って会いに来てくれたり、お粥を食べさせてくれたりしました。お母さんの闇を見ている子のほうが、ええ子に育つんちゃうかと私は思いますね。

子どもをとおして人の輪が広がる

田中:子育てで、自分が成長したことや発見したことはありますか?

松田:「育児は育自」という言葉がありますが、よういうたと思います。私、娘が産まれなかったら、鼻持ちならない女になっていたと思うのです。母との関係もぎくしゃくしたままだったかもしれません。

田中:自分がその立場になって、わかることがありますよね。

村山:親の視点で、初めてわかることがあるんですよね。 立派になったとか成長したというより、とにかく変わってしまいました。さなぎが蝶になるように変態したというか。視野がすごく狭くなって、逆に遠い将来まで見るようになりました。

松田:子どもをとおして、とても友達が増えました。とくに病気になったり、仕事をするようになったりして、人に頼らざるをえなくなりましたね。「ごめん。夜ご飯食べさせたって」とかもあるんですよ。頼ると向こうも頼りやすくなります。私ができることをさせてもらいます。子どもを通しての広がりは半端ありません。心のつながりができ、めっちゃええですよ。

村山:本当にそうですね。こどもをとおして人の輪が広がります。それが子どもにも返っていくと思うのです。ぜひ皆さんもお友達をつくっていってくださいね。