サイボウズ式:「会社=人生」になるほど生きづらい──仕事人間のためのコミュニティ参加ステップ

日本各地のコミュニティに飛び込み、地道な活動を続けてきた山崎さんに、ビジネスパーソンがコミュニティに関わる具体的なステップ、仕事人間にならないこと、便利な人生ではなく、豊かな人生を選ぶことのすすめについて伺いました。

仕事を続けながら、地域のコミュニティ活動にどう関わればいいのか──。こう疑問に思い、なかなか最初の一歩を踏み出せない方も多いのではないでしょうか。前回に引き続き、お話を聞いたstudio-Lの山崎亮さんは「段階的に参加することが重要だ」と話します。

日本各地のコミュニティに飛び込み、地道な活動を続けてきた山崎さんに、ビジネスパーソンがコミュニティに関わる具体的なステップ、仕事人間にならないこと、便利な人生ではなく、豊かな人生を選ぶことのすすめについて伺いました。

「スペイン料理が大好き」だけでもOK、まずは職場近くのコミュニティを探せ

小沼:はじめてコミュニティに入るビジネスマンは、どのように始めたらよいでしょうか?

山崎:まずは平日に職場の近くで始めてみるといいでしょう。職場以外の人達と何か活動を起こすことがポイントですね。会社の近くで趣味の団体に入ってみて、要領が分かったら自分で団体を立ち上げてみるんです。その次は自宅近くの地域のコミュニティに入ってみて、また新しく立ち上げてみるなど、コミュニティ活動をつなげていくといいですね。

小沼:いきなり地域のコミュニティに参加するのは難しいのでしょうか?

山崎:結婚していない、またはお子さんがいない若手の場合は、少し難しいと思います。地域にかかわるきっかけがなかなかないんですよね。

子供が生まれると幼稚園ぐらいから地域の付き合いが増えたり、小学校でも6年間の間に何かの役が回ってきたりするので、それをきっかけに地域とかかわりができるんですけど。そのきっかけがない若手の場合は、会社の近くから始めてみるのがいいと思いますね。

小沼:なるほど。若手の社会人は段階的にコミュニティに関わる必要があるんですね。

山崎:そうなんです。職場の近くからだと気軽に参加することができそうですよね。仕事が18時くらいに終わったから、その後に「何かやろうよ」って話になるかもしれないですよ。

いきなり活動を始めなくても、職場の近くで「スペイン料理だけは大好き」というようなメンバーが集まって食べ歩くことでもいいんです。まずは職場の近くの人達と一緒に、何かコミュニティを見つけて、そこに入っていくのがおすすめです。

山崎亮さん。studio-L代表、東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)、慶應義塾大学特別招聘教授。主な著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社)』『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』『まちの幸福論(NHK出版)』などがある

山崎:そういう所にいくつか入っていると、そのうち自分の趣味にあった活動をしたくなってくるだろうと思います。そうなったら「一緒にやりませんか」と言って2、3人ぐらいで面白い活動を会社の外でやってみるといいですね。地元や自分の住んでいる地域のコミュニティに入るのはそれからでしょうね。

小沼:自分の住む地域ではどのようなコミュニティに参加したほうがいいのでしょうか? 職場付近のモノとはまた雰囲気が違うように感じます。

山崎:職場の近くだとどうしても同世代が多くなってしまうので、地域のコミュニティではなるべく世代間を結ぶような会に参加した方が良いでしょうね。それは地域の活力を継続・継承していく意味でもすごく大事ですし、いざという時の助け合いにもつながっていきます

比較的高齢の方と若手をつなぐような活躍の場に入り続けていた方が、自分たちが誰かを助ける、誰かのためになることもできます。40年後自分たちが助けてもらう立場になったときにサポートしてもらうこともできますから。

50%の人はいま勤める会社がなくなる?「会社=人生」は避けよう

小沼:会社によっては仲のいいコミュニティや部活があったりしますよね。それでも社外のコミュニティに関わった方がいいのでしょうか?

山崎:なるべくなら会社の枠を出た方がいいと思います。社外の方がいいのは、会社でやっていることが「ほぼイコール、ニアリーイコール人生」にならないからなんです。「会社=人生」になると辛いんですよね。悩みがあったり失敗したりすると、極端な例でいうと自殺のきっかけにもなってしまいます。

自分の世界がほとんど会社だけになっているので、会社で何か失敗をすることがイコール世界から自分が非難されていることになってしまいますからね。

小沼:たしかに何も頼れるものがないというのは辛いですね...

山崎:そうなってしまう前に、自分の世界をいったん相対化して「こんな生き方や、あんな生き方もあるんだな」と自分の会社や働き方を見直すと、かなり冷静にいろんなことが判断できるようになるんです。会社で嫌なことがあったり、何か失敗をしたとしても、こっちの生き方があるというオプションを考えながら暮らしていけるようになると思うんです。

一見、会社へのロイヤリティが下がるように見えますが、逆に上がると思います。この会社しかないと思うのは、縛りつけて働かされているようなものなので、実はロイヤリティが上がっているように見えて、生産性は伸びないだろうと思うんですよね。

小沼:意外です! 会社員の関心が会社よりも他の活動に向いてしまうのではないでしょうか?

山崎:いや、トータルでみるとむしろ、コミュニティに参加しているほうが会社への貢献度は高くなると思います。いろんなことを経験している人達の方がアイデアをフィードバックしたり、サラッと話しを流すことができます。生産性を自分の中で上げやすくなっているんですよね。見せかけのロイヤリティを上げようとする必要はありません。

今の時代、企業の平均の寿命が23.5年と言われていますよね。25歳から65歳まで働くとして、半分ぐらいの人達は自分の勤める会社が無くなるかもしれないわけです。そうなった時、会社イコール人生、社会・世界になっていると危険です。そういう意味でも会社以外の人達とつながるきっかけをどう作っていくかが大事ですね。

数百万の年収を捨てても、生活の質が上がった理由

小沼:コミュニティ活動に関わるにあたって何か弊害はあるんでしょうか。

山崎:人によってはありますね。僕の場合は給料が下がりました。それまで数百万もらってたのが、独立した時は実質20万円くらいに下がりました。2年目になると100万円を超えて、3、4、5年目と少しずつ増やすことができました。

studio-Lのみなさん 撮影者:生田公二様

山崎:でもお金が少なかったとしても、仕事の道楽化というのはありがたいもので、やっていることが楽しくてしょうがないんです。「とりあえず餓死しなければいいや」って思える。それは大きいでしょうね。

小沼:生活の質は確実にあがっていますね。

山崎:あがりますね。ただ嫁さんと生まれたばかりの長男がいたので、内心不安でしたね。こんな金にならなさそうな仕事で独立して大丈夫なのかって。親からも「こんなんで食っていけるわけない」って言われましたから。それでも生活の質という点でみるとかなり充実していましたね。

小沼:お金を稼ぐことも大事ですけど、それ以上に生活の質を重視する若い人たちも増えていますよね。コミュニティ活動に参加することが、その質を上げるのにも貢献しているように感じます。

山崎:お金をたくさん稼ぐよりも、その方が近道なんですよね。「遠回りしない幸福論」とよく言うんですけど。年間に2000万のお金をもらって、そのうち1500万円くらいを生活の質を高めるために、ブランド品や旅行に使うという生き方も悪くないんですけどね。

それを年間500万円もらえればいい、だけどその500万円を稼ぐ以外は、意気投合する人たちと出会って、くだらないかもしれないけど、自分たちが満足できる活動をやり続けている。そうすると、車やブランド品を買い、海外旅行に行くよりも充実しているかもしれないですよね。

便利な人生と豊かな人生、死ぬときに後悔しないのはどっち?

小沼:コミュニティに参加するために働き方を変える必要あるのでしょうか?

山崎:理想を言えば、変えた方がいい。もう既に働き方に柔軟な企業もかなりたくさんありますが、一般的にはまだコミュニティに参加しにくい状況にあるだろうと思います。「働き方を変えるか、生き方を変えるか」という問題でもあるかもしれませんね。

小沼:山崎さんも働き方と生き方のどちらを変えたのですか?

山崎:僕は生き方を変えました。設計事務所に6年勤めたんですが、設計事務所で朝10時から終電ギリギリの時間まで働いていたんです。そういう働き方していると、コミュニティ活動に参加しようと思った時、自分が使える時間は夜中の1時半から朝5時までなんですよ。

僕はその時間を使って、生活スタジオというのを立ち上げて、メールでみんなと話し合いながら、休みの時は現場で集まって、「何か一緒にやろうぜ」ということをしていました。そのあと3時間寝て、会社に行くというのは若気の至りでしたが、かなり充実していました。

小沼:なかなかハードな生活ですね。(笑)

山崎:朝方までドラクエしてしまう気持ちですよね。半分寝ながらでもAボタン押さなきゃみたいな(笑)。そんな状態でも本当に楽しかったんです。会社の仕事でもないし、誰にもお金を貰っていないんですけど、面白いメンバーが13人も集まっていたので、彼らとずっと話し合っていましたね。

山崎:僕の場合は生活の方を変えて、働き方は変えなかったんです。余暇の部分をどう使っていくのかという変え方も、ある程度コミュニティと付き合っていこうと思えば大事ですが、ワークライフバランスをとるために働き方を変える必要もあるでしょうね。

小沼:充実したコミュニティ活動をする場合は、生活や仕事を犠牲にする必要があるんですね。

山崎:そうですね。ただ、一生懸命やらないと出てこない楽しさがあることも事実なんですよね。一生懸命している時って、結構辛かったり苦しかったりするんですけど、それはやっぱり楽しさと一緒にあるものですから。

僕は仕事の道楽家を真剣に考えて、一歩でも楽しい仕事に変えてくための努力をしました。ワークライフバランスというよりは、もうワークイズライフにしていけたらいいなと思っています。

そうなると、寿命や健康、リスクヘッジ、楽しさの話などをたくさん蓄えることになるので、大げさに言えば人生が豊かになるんです。豊かさというのは良いことばかりではなくて、ちょっと腹が立つこと、ちょっと面倒くさいことも含めて豊かな人生ですよね。

小沼:コミュニティ活動に参加しようとしている人たちに一言お願いします。

山崎: 便利な人生を望む人には、コミュニティ活動をおすすめしません。地域のコミュニティ活動にはうっとうしさやしがらみがついて回るので。便利な方向だけで生きていこうと思うのなら、面倒なものをなくしたいですよね。僕達が最後に病院で息を引き取る時に「ああ便利な人生だった」って言って死にたいか、「ああ豊かな人生だった」って言って死にたいかは各自の判断です。

僕はやっぱり「便利な人生だった」って思いながら、この世から去っていきたくはないです。「豊かな人生」にしていこうと思って、「面倒くさいな」と思うことにも対峙しながら、その分、楽しいと思えることを大きく感じるようにしています。

(取材:小沼悟、撮影:橋本直己

仕事人間ほどコミュニティ活動?:

(サイボウズ式 2015年3月25日の掲載記事「「会社=人生」になるほど生きづらい──仕事人間のためのコミュニティ参加ステップ」より転載しました)