日本食でも「ハラル」を。今、試される「おもてなしの心」。

"ハラル"とはイスラムの教えに基づいた「健全な食べ物」全般を意味するアラビア語ですが、いったいどんな食べ物なのでしょう。

昨今話題となっている"ハラルフード"。先日、上智大学内でハラルフードのお弁当が発売されるなど、耳にする機会が多くなりました。"ハラル"とはイスラムの教えに基づいた「健全な食べ物」全般を意味するアラビア語ですが、いったいどんな食べ物なのでしょう。

ハラルフードにいち早く着目し、外国人観光客が多い渋谷で、ハラルフードを提供する創作和食店「HANASAKAJI‐SAN」のオーナー・小山数雄(こやま かずお)さんにお話を伺いました。

日本食でもハラル可能

-ハラルフードを提供しようと思ったきっかけはなんですか?

4年ほど前、ハラル牛を販売している会社の社長からお誘いいただいたのがきっかけです。イスラムの方々は、日本に旅行に来てもハラルフードを提供している店舗が少ないために外食できず、母国で販売しているハラル対応のカップ麺をわざわざ日本に持ってきているような状況でした。

せっかくの日本への旅行が食事面で楽しめないのは残念だと思い、そのような状況を変えたいという思いから日本食のハラルフードを提供することにしました。ハラルフードというのは、なにもイスラム料理のことを指すのではありません。イスラム教の作法にならっていれば、日本食であってもハラルフードを提供することはできるのです。日本食のハラルフードがあればもっと海外の方に日本を楽しんでもらえると思い、2014年4月には「ローカルハラルレストラン認証」を日本で初めて取得しました。今では、海外のお客様にもより安心して食べていただくことができています。

『ハラルフード』とは

ハラルフードとは、魚や野菜、穀類の他、イスラム教徒によって処理がなされているなどイスラム教の作法に従って処理された牛肉や鶏肉などのことを指す。作法から逸脱した形で処理された肉や、豚肉、アルコールは禁じられている。またイスラム教で禁じられている食材を含む調味料も口にすることができない。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、増加が期待されるイスラム圏からの旅行者に向け、ハラル認証を受けた飲食店や商品数を充実させていくことが急務となっている。

-反応はいかがですか。

はじめの頃は一カ月に一回程度しか提供する機会がなかったのですが、「ローカルハラルレストラン認証」を取得してからは海外からの団体のお客様にご利用していただくなど、提供の機会は非常に増えています。

お店のFacebookを立ち上げたところ、一週間で約32万人のイスラム圏の方が見てくださり、コメントを残してくださいました。ニーズの大きさを実感すると同時に、反響の大きさに驚いてもいます。

しゃぶしゃぶ人気

-ハラルメニューの開発の経緯を教えてください。

最初は、ハラル牛をメイン食材として、日本食の代名詞であるしゃぶしゃぶとすき焼きを提供していましたが、海外の方はお肉を生卵につけて食べる習慣がないようで、次第にしゃぶしゃぶがメインとなりました。煮物よりも人気の高いサラダをセットに入れたり、肉以外のハラルフードとして、天ぷらをハラルメニュー化したり、「ハラルフードの日本食」という前提条件を守りつつ、満足していただけるよう、お客様の意見を取り入れながら工夫しています。今の一番人気は「ハラル御膳 しゃぶしゃぶ付き」(しゃぶしゃぶ、天ぷら、お刺し身、焼き魚など)です。

また、企業の方が海外のお客様用の接待に使っていただく機会も増えたので、接待用のコースも作るなど、さまざまな需要に対応しています。

-ハラルフードを提供する上で大変なことはなんですか?

多くの「決まり」があることです。ハラルフードは、専用食器を用意する必要がありますし、食器の置き場所も他の食器と明確に分ける必要があります。また、醤油などの調味料も全てハラル対応のものでなくてはなりません。

でも、こうした決まりも全て、お客様の「安心」のためだと思っているので苦ではありません。日本ではハラルフードを提供している店がまだまだ少ないので、イスラム教の方が"食べられる・食べられない"ということを気にせず、安心しておいしく食べられる場所を提供することが重要だと感じています。

おもてなしの心が大切

-今後、日本でハラルフードは広がるでしょうか?

かつてマレーシアのお客様から、「日本はどうしてこんなにハラルフードのお店が少ないのか? 先進国としてありえない」と厳しい意見をいただいたことがあります。2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催も控えているので、ハラルフードを提供する店舗を増やしていくことは、日本にとって必須だと思っています。

ハラルフードを提供する上で大切なのは、とどのつまり「おもてなしの心」なのではないでしょうか。単純にハラルのルールを守って料理を出す、というだけでは十分ではなく、イスラム教の方々がどうしたらおいしく食べられるかを考えるまでが、今後の対応として必要なのだと思います。例えば弊店では、お客様の出身国を伺い、その国の味の好みに応じて料理を若干辛くするなどの工夫もしています。また、前述のとおり、メニュー内容もお客様のご要望に応じて変化させてきました。世界中からいらっしゃるさまざまなバックグラウンドのお客様のことを思い、細やかな心遣いを念頭に置けば、ハラルフードという選択肢は徐々に広がるのではないでしょうか。日本が、世界に誇る「おもてなしの国」になるように、おいしいハラルフードの日本食で私も協力したいと思います。

創作和食 HANASAKAJI-SAN 渋谷桜丘店

(取材・文:ノッシー・ハセガワ)

(2015年5月14日「週刊?!イザワの目」より転載)

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