くまモンの野望?!ゆるキャラ人気のその先へ。 育ての親、成尾雅貴氏に聞く。熊本県が描く、100年後の未来。

なぜくまモンは、いち"ゆるキャラ"を超えられたのでしょう。くまモンの成功の秘密は、未来を描く力にこそあるのでは? そう考え、くまモンの「育ての親」の一人と言われる、熊本県庁 商工観光労働部 観光経済交流局 くまもとブランド推進課の課長、成尾雅貴氏に、くまモンが"未来"に向けてどんな夢を描いているのか、その展望を聞きました。

日本で知らない人はいないといっても過言ではないほどの人気ぶりを見せる、くまモン。

たくさんの企業とコラボレーションしてオリジナル商品を開発・展開し、県産品の販路拡大や産業振興に寄与しています。しかし今では、誕生当初の目的である、熊本県のPRを超えた存在感すら確立しつつあります。なぜくまモンは、いち"ゆるキャラ"を超えられたのでしょう。

成功の秘密や、人気になるまでの下積み時代を紹介する特集は、これまでも数多く組まれましたが、くまモンの"未来"に関する特集はありませんでした。くまモンの成功の秘密は、未来を描く力にこそあるのでは? そう考え、くまモンの「育ての親」の一人と言われる、熊本県庁 商工観光労働部 観光経済交流局 くまもとブランド推進課の課長、成尾雅貴氏に、くまモンが"未来"に向けてどんな夢を描いているのか、その展望を聞きました。

   熊本県庁 商工観光労働部 観光経済交流局 くまもとブランド推進課 課長 成尾雅貴氏

―くまモンの活動は非常に精力的というか積極的ですね。いろんなことにチャレンジしている印象です。

成尾氏:サプライズをモットーとするくまモンですから、常に新しいことにチャレンジしていかないと、くまモンらしくないですよね。

―くまモンらしい活動をするための、活動指針のようなものはあるのですか?

成尾氏:最近では、"サプライズ"を含む「3つのS」をキーワードにしています。一つ目がSurprise(サプライズ)、二つ目がStory(ストーリー)、三つ目がShare(シェア)です。

"サプライズ"とは、予想もしなかったような「ハッピーなびっくり」をプレゼントすること。ですから、イベントであっても、企業とコラボレーション商品の開発であっても、常にファンの方やお客様に楽しんでもらえる、喜んでもらえることを意識しています。

"ストーリー"は、なぜその活動をやるのか、その背景や意味をしっかり組み立てて行うということです。熊本を意識しつつも、ファンの方やお客様が、共感したり納得するようなエピソードがそこにあれば、口コミやメディアで自然と波及していきます。"シェア"は、日本流で言うと「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」みたいなことです。主に商品開発の際に当てはまるかもしれませんが、一緒に商品を開発した企業さんにとっても、熊本にとっても、それを手にしたファンの方やお客様にとってもハッピーになる、みたいなことですね。

―くまモンは昨年、ハリウッド進出も果たしていますが、これからは世界での活動も視野に入れていますか?

成尾氏:これまでも、くまモンは世界のいろいろなところに行っています。アジアが中心だったのですが、2013年にはドイツ・フランス・イギリスのヨーロッパ3カ国歴訪の旅がかないました。海外でもくまモンは大人気で、ノンバーバルな魅力というか、きっとあの動きが人を魅了するんでしょうね。機敏ではあるけれど、どこか垢抜けなくて。あ、本人が聞いたら怒るかもしれません...。

くまモンには、世界中で愛されているミッキーマウスやハローキティのように、息長く、100年後も愛されるキャラクターになってほしいんです。熊本の人が世界を旅して、日本の熊本から来たと話した時に、「あぁ、くまモンで有名な熊本ね」って言ってもらえるくらい、世界中の人にくまモンを知ってもらいたいと思っています。ミッキーやハローキティはあくまで夢の国の住人ですが、くまモンにはリアルな故郷があります。それが大きな強みだと思うんですよね。

―世界中の人がくまモンを知る、それは大きな夢ですね。

成尾氏:もう少し近い将来のことをお話しすると、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。そうすると世界中から東京に人がやってくるわけです。東京に来たついでに、きっと世界の古都、京都にはみなさん行くだろうと思います。

でも、もう一カ所くらい、日本の地方都市も見てみたいな、となった時に、熊本に来ていただきたいんです。東京、京都の次でいい。でも3番目に熊本を選んでほしいと思っています。あと今の夢は、星に名前をつけることです。星って見つけた人に命名権があるんですよね。もちろん名前は「くまモン星」。くまモンには星にまでなってほしいなと思います。

―壮大ですね。

成尾氏:かなわないと思いますか? でも、こういう話をしていると、どこかで話が舞い込む時がくるんですよ。これは無理だよね、という考えはまったくありません。時々、くまモンの生みの親である小山薫堂さんと、くまモンについて話をするのですが、去年、日本人がノーベル物理学賞をとった時に、「くまモンが目指すならノーベル平和賞ですかね」とお話ししたら、「いいですね~」と言ってくださったんです。「なにバカなこと言ってんの」と否定するんじゃないんですよ。これはまぁ、笑い話かもしれないですが、でも3~4年前に、くまモンにそれは無理だろうと笑われていたことが、今、実現してるんです。

楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史さんの言葉に、「月に行こうという目標があったから、アポロは月に行けた。飛行機を改良した結果、月に行けたわけではない」というのがあるのですが、そういうことだと思うんです。だから私も、くまモンが世界で活躍、と大風呂敷を広げたいと思っています。

―くまモンもまだまだ進化する、ということですね。

成尾氏:これまでもそうですが、くまモンの進化というか成長の裏には、本人の自助努力もあります。本人自身が、どうやったら周りを喜ばせることができるかを考え、とても意識しているのです。私たちがマニュアルを作っているのではありません。例えば、よくお話しするのが、後ろを向いていて、くるりと上半身だけ振り返るポーズ。あれは、体育館のような広い場所で、子どもたちが去っていくくまモンに声をかけながら見送っている時に生まれました。

体育館の出口までは距離があるので、途中でくまモンが「聞こえているよ!」という感じで、くるりと振り返ったところ、わっと歓声が上がり、それから、この振り返りポーズが定番になったのです。このように多くのイベントに参加していく中で、みなさんが何をしたら喜んでくれるかを強く意識していくことで、どんどんくまモンが成長していったのです。

   イベントで、今やお馴染みとなった「振り返りポーズ」を決めるくまモン

―「第2のくまモン」になりたいと思っている、地方自治体のゆるキャラはたくさんいると思います。なにかアドバイスはありますか?

成尾氏:私たちは特別なことはやっていないんですよ。私たちは縁があった小山薫堂さんの書籍の教えを実践しただけです。物まねに過ぎない。でもやってみたら思いのほか効果が出たので、これはいいなと思い、その足を止めずにいろいろ新しいことにも挑戦してみました。目先の利益じゃなくて、みなさんにハッピーを感じてもらうための仕掛けづくりですよね。

扉を開けて踏み出してみたら、こういう世界が見えちゃった。これはもう後戻りできないですよね。こんな楽しいことはないですから。世の中には企画やマーケティングのノウハウ本はたくさんありますよね、読んでおしまいにするのはもったいない。実践してこその企画だと今は思っています。

―夢はまだまだ広がりますね。

成尾氏:そうですね。次回はくまモンもゲストじゃなくて、紅白歌合戦のメインステージに立って歌わないとですね(笑)。

―ありがとうございました。

(原稿:アイシ、マー)

(2015年2月12日「週刊?!イザワの目」より転載)

注目記事