アルペンスキー・シッティング界の熾烈な競争――世界のトップであり続けるために

冬季パラリンピックの種目でもあるアルペンスキーの日本最高峰の大会「IPC公認 2015ジャパンパラ」が、3月21日から4日間にわたって、長野県白馬村の白馬八方尾根スキー場で行われた。

冬季パラリンピックの種目でもあるアルペンスキーの日本最高峰の大会「IPC公認 2015ジャパンパラ」が、3月21日から4日間にわたって、長野県白馬村の白馬八方尾根スキー場で行われた。パラリンピックで行われるのはスタンディング(立位)、シッティング(座位)、ヴィジュアリーインペーアド(視覚障がい)の3つのカテゴリーだが、ジャパンパラではそのほか、D(聴覚障がい)、ID(知的障がい)が加わり、5つのカテゴリー別に競技が行われた。そのうち、今回は世界トップの技術を誇るメンバーが揃うシッティングに注目した。

近年、冬季オリンピックでは日本人選手が世界との距離を埋めることができずに苦しんでいるアルペンスキーだが、実はパラリンピックでは、何人ものメダリストを輩出している注目競技だ。2014年ソチパラリンピックでは、狩野亮が滑降で日本人初となる金メダルを獲得。さらにスーパー大回転では2010年バンクーバーに続く連覇を達成した。また、鈴木猛史は回転で金、滑降で銅と2つのメダルを獲得。日本チームのキャプテンである森井大輝もスーパー大回転で銀メダルを手にした。実はこの3人がソチで狙っていたのが「日本人表彰台独占」。それは決して"夢物語"などではなく、十分に手応えを感じての"宣言"だった。結果的には、次の2018年平昌までお預けとなったが、いかに彼らの実力が世界の中でも高いかがわかるだろう。

今シーズンも、彼らは好成績を収めている。W杯では鈴木が総合優勝、そして最も得意とする種目別の回転でもタイトルを獲得。狩野も種目別の滑降で総合ランキング1位に輝いた。さらに2年に一度行われる世界選手権では鈴木が回転で金メダル、森井が滑降、回転、大回転で3つの銅メダルを獲得した。

オールラウンダーのベテラン森井に追随するかのように、技術を磨いてきた狩野と鈴木は、それぞれの持ち味を発揮。高速系を得意とする狩野に対し、鈴木は技術系である回転の"スペシャリスト"と呼ばれている。タイプの異なる3人が揃うシッティング男子チームは歴代最強と言っても過言ではない。

その3人の滑りが揃って国内で唯一見ることができるのが、日本最高峰のジャパンパラである。今大会も3人の熾烈な争いが繰り広げられ、見応えのあるレースが続いた。

初日に行われた大回転では、鈴木が優勝を飾り、0.76秒差で森井が2位となった。鈴木は表彰台で「ジャパラでは久しぶり!」とトレードマークの笑顔を惜しみなく振りまいた。

その表彰台に姿が見えなかったのは狩野だ。1本目で失敗し、途中棄権となったのだ。その悔しさを晴らすかのように2日目の回転では、攻めの滑りで森井と優勝争いを演じ、2本目では森井を1秒26上回る好タイムを出した。しかし、2本合計タイムで0.09秒及ばず、森井に軍配が上がった。

3日目のスーパーコンビでは、1本目のスーパー大回転でトップに立った森井を、狩野が回転で逆転し、今大会初優勝した。一方、前日の回転で優勝は堅いと思われていた鈴木は、1本目のゴール手前でコースアウト。まさかの途中棄権という結果となった。しかし、鈴木は3日目のスーパーコンビ(スーパー大回転、回転)では、回転でトップの好タイムをたたき出し、宣言通りの「リベンジ」を果たすかたちとなった。

そして最終日に行われたスーパー大回転では、高速系を得意とする狩野が本領を発揮して優勝。森井が2位に入り、オールラウンダーらしく、安定した滑りを見せ、すべての種目でメダル(金1、銀3)を獲得した。

一方、彼ら3人に触発されるかのように、著しい成長を見せ、今最も勢いを感じさせているのが、女子の村岡桃佳、18歳だ。今大会でも4冠を達成し、女子の第一人者である大日方邦子からエースの座を継承した姿を見せた。

今大会でシーズンを終えたアルペンチームだが、ゆっくりと休んでいる暇はない。オフ期間中は翌シーズンに向けて大事な準備期間だからだ。肢体不自由のシッティングでは、「チェアスキー」と呼ばれるマシンを使用する。1本のスキー板に、ヒザの役割を果たすサスペンションが装着されたフレームを付け、その上に各選手の体に合わせたかたちのシートを載せ、そこに座るかたちで滑る。両手には「アウトリガー」という用具を持つ。これは「ストック」同様にターン時などでの操作に使用されるものだが、ストックと異なるのは、面状で雪面をとらえることができるようになっており、よりバランスがとりやすくなっている点である。このマシンの改良が毎年行われ、いかに自分にとって最良の状態に仕上げることができるかが、翌シーズンの成績を左右する。

ソチ前までは、日本のマシンは世界で最も進んでいると言われ、アドバンテージとなっていた。ところが、海外チームも日本のマシンを使用するようになり、さらにそれぞれに合った改良が進むことで、森井によれば「今や日本のアドバンテージはない」状況となっている。今シーズンはそのことを強く感じたシーズンであり、鈴木、狩野を含めた3人からしばしば聞かれたのは「このままではダメ。さらなる改良が必要」という危機意識だった。

このオフ、海外チームもさらなる改良を進めることは間違いない。果たして、日本は再びアドバンテージを生み出し、技術面でのレベルアップにつなげられるマシンをつくることができるのか。来シーズンの勝負は、もう始まっているのだ。

【取材・文/斎藤寿子、写真/伊澤佑美(DIGITAL BOARD)】

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