風疹の流行は終息するのか?

次の大流行が起きる前に、免疫の無い人に、速やかにワクチン接種を受けさせ、集団免疫として必要な85%の接種率を実現するしかない。個人の自発性に期待していては、実現不可能である。私は、予防接種法における臨時接種として、接種義務を課す形での実施が必要と考えている。もちろん、費用は公費とすべきだ。少子化が問題となり、対策に躍起になっている国が風疹を野放しにしているとは、まったくの片手落ちだ。少子化対策費用として考えれば良い。

昨年来の大流行は、ピークを迎えつつあるようだ。

タイトル:風疹累積報告数

出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査

週ごとの新規発病者数が減少しており、終息に向かうかに見える。

タイトル:風疹週別報告数

出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査

ただ、2012年の週別風疹報告数に注目して欲しい。第44週を底に、増加が始まっている。したがって、今年の流行も、このまま終息するという保障はない。

風疹の流行は数年おきに繰り返しているため、免疫のない人がのこれば、数年後に同様の悲劇は繰り返される。

では、免疫のない人はどのくらいいるのだろうか?

風疹は、妊娠中に感染すると胎児に感染し、流産するか、先天性風疹症候群(CRS)という先天性奇形を生じる。そのため、日本では、妊娠出産前の女性にワクチン接種をすれば、CRSは防げると考え、女子中学生に1回集団接種を開始した。これが1977年8月である。しかし、CRS患者の発生は続いた。何故なら、風疹は主に幼児が感染するため、中学生に免疫をつけても流行は止められないからだ。そして、たまに妊婦に感染するからだ。その後、中学生時に男女に接種する方式に変わったが、個別接種となり、接種率が低下した。そして、幼児期に1回接種に移行し、現在の幼児期に2回接種する方式に落ち着いた。制度の頻繁な変更に加え、個別接種になり接種率が低下したことで、免疫を有しない人が沢山いる。

対照的に、米国では1969年から、幼児期の男女を対象に風疹ワクチン接種をおこない、効果不十分とみるや、未接種の成人にも接種を拡大し、2004年に風疹を根絶している。

タイトル:日本における風疹ワクチン接種対象者の変遷

さて、では日本には風疹の免疫がない人はどのくらいいるのだろう?800万人ほど、との推計がある(http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/dj2771.html)。ただし、誰に免疫がないのか、がわからないのである。風疹に罹患した人の調査を見ても、接種歴が不明の方が多い。母子手帳もすでに紛失しているだろうし、幼児期ならいざ知らず、中学生時の予防接種歴を母子手帳に記録している率は高くない。下図に示すとおり、風疹患者での接種歴調査でも、不明の人(バーの紫色の部分)のほうが断然多い。

タイトル:年齢別風疹累積報告数とワクチン接種回数

出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査

米国では、風疹の予防接種記録が2回以上あるか、抗体価検査で免疫が証明されている人、以外は免疫が無いものとして扱う。そのルールに基づくなら、日本では23歳以上の男女とも、免疫は無い。なにしろ、その年代の人は、接種を受けているとしても1回だけだからだ。上図にて、ワクチンを2回接種している人の風疹発症が少ないことからも、接種歴が1回だけでは不十分であることが理解いただけるだろう。

今回のような悲劇を繰り返さないためには、次の大流行が起きる前に、免疫の無い人に、速やかにワクチン接種を受けさせ、集団免疫として必要な85%の接種率を実現するしかない。個人の自発性に期待していては、実現不可能である。私は、予防接種法における臨時接種として、接種義務を課す形での実施が必要と考えている。もちろん、費用は公費とすべきだ。少子化が問題となり、対策に躍起になっている国が風疹を野放しにしているとは、まったくの片手落ちだ。少子化対策費用として考えれば良い。

厚生労働省は7月10日の厚生科学審議会部会において、今年度内を目処に風疹の予防指針を策定、予防や流行防止の中長期的な対策を行うことを決定している。どのような対策をおこなうのかが注目される。

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